Fate/Grand Order ■■特異点 魔海狂想都市ルルイエ   作:クトゥルフ時計

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 まじでごめんなさい二年も開けるつもりはなかったんです。


第三幕 「異界」

『……くん!立香君!聞こえてるかい!?』

「ドクター!」

 

 キャスターがこの場所の名前を告げたすぐ後、突如通信が復活した。慌ただしく叫ぶロマンの声を聞き、立香の心に少しの安心が生まれた。

 

『びっくりしたよもう……。そこにレイシフトした途端通信は切れるし、君たちの側にサーヴァントの反応が二つ現れたと思ったら一つ消えるし。とりあえず状況説明を願えるかな』

 

 はあ、とロマンが息をつく。立香は要望の通りこれまであったことを告げようとした。

 

「ああはい、それは……」

「ほう、面白そうなものがあるな」

 

 しかし、そのとき立香の声を遮ったもの。それは立香の横に並び立ち、興味深そうに通信を聞いていたキャスターだった。

 

「未来の魔術師も妙な機器を使う。与えられた知識によれば、それは通信と呼ばれるものだったか」

『……ええっと、貴方は?』

 

 突然介入して捲したてるキャスターに、ロマンが懐疑的な声音で問う。無理もない。誰だって、未知の反応には警戒を示すのが常だろう。

 

 キャスターもそれをわかっているのか、それともただ気にしていないだけか。特に気を悪くした様子もなく、自身の身の上を告げる。

 

「サーヴァント、キャスター。真名は秘匿中だ。怪しむのも尤もだし、心からの()()はできないだろうが、()()はしてくれていい。仮契約だが、今はこのマスターのサーヴァントとなった。以後、よろしく」

 

 怪しい。

 

 キャスターの言葉を聞いたロマンが真っ先に抱いた感想はそれだった。真名を隠し、研究者然とした白衣を靡かせた灰色の男。立香とマシュを助けてくれたという事実が、ロマンにそれを口にさせることを阻ませる。

 

 悪いサーヴァントではない。はず。多分。きっと。

 

「どうしたんだ、急に黙り込んで。優男だとは思っていたが、まさか同性相手に尻込みするほど肝が小さいわけではないだろう」

『失礼だなキミは!?』

 

 前言撤回。彼はやはり過去の方々と同じ(サーヴァント)だ。

 

 ロマンもこれまで見てきた特異点で散々なことを言われてきたが、どうやらキャスターも例に漏れないということらしい。ロマンは通信越しにわかるほどに肩を落とし、

 

『と、こんなことしてる暇はないんだった。君たちに伝えなくちゃいけないことがある』

 

 顔を引き締めて立香たちにそう告げた。反射的に彼らの中に緊張が走る。

 

『君たちがレイシフトした直後、カルデアからいくつかのサーヴァントが消失した。恐らくそちらに召喚されているはずだ。気をつけてほしい』

 

 その時、立香たちの脳裡に過ぎったのは先程のエリザベートの姿。狂い、叫び、目に付いたもの全てを壊すだけの機構と化した魔嬢。

 

 立香たちに関する記憶があったことから考えて、彼女は野良ではなく、カルデアから消失したサーヴァントの一騎だったのだろう。それは既に答えが出ている。

 

 問題はその〝状態〟だ。エリザベート・バートリーとは反英雄。即ち正しい形の英雄ではなく、悪として歴史に刻まれた者だ。正しい精神性を持ち合わせていないと後々の人々に定義されれば、或は精神汚染を付与されて顕現してもなんらおかしくはない。

 

 が、()()()()()。先の戦闘においてのエリザベートの在り方は、まるで狂人のそれだ。バーサーカーとは少しばかり色味が違うが、狂化スキルが付与されていると見て差し支えない。それも後天的に、だ。

 

 立香はそれをロマンに伝えた。ロマンは顎に手を当て、考え唸る。

 

『そうか……。カルデアから消失したサーヴァントの中には、確かに彼女もいた。もしかしたら、そちらに召喚されたサーヴァントには何らかの異常が発生するのかもしれない』

 

「異常……」

 

 立香は隣に立つキャスターに目を向けた。ロマンの仮説が本当だとすれば、彼にも何かしらの異常が発生しているのだろうか。それにしては、やけに理性的に過ぎるような気もする。

 

「どうかしたか、マスター?」

 

 視線に気づいたのか、キャスターが立香を見返した。なんでもないよ、と立香は微笑み目を逸らす。

 

 やはり理性があるように見える。だが、断言できない。

 

 キャスターの瞳の奥に燃える狂気が、それを物語っている。彼はマトモなものではないのだと。

 

 混乱する思考を引き戻したのは、立香を挟みキャスターとは反対側に立つマシュの言葉だった。

 

「ドクター、こちらに召喚されたサーヴァントの名前はわかりますか? それがわかれば、ある程度は対処しやすいかと」

『それもそうだね。今把握できてる分だけでも伝えるよ。

 まずは四人。シェイクスピア、アンデルセン、ジャック・ザ・リッパー、ナーサリー・ライム。カルデア内で暴れてたサーヴァント達だ。それで全員ではないけれど。エリザベートもそちらで確認されたらしいしね』

「はい。ということは、他にもこちらに呼ばれているサーヴァントがいてもおかしくはない、ということですね」

 

 それはつまり、誰が立香たちの前に立ち塞がってもおかしくないということ。カルデアから呼ばれているのなら味方となってほしいものだが、エリザベートの様子を見る限りその望みは薄いのかもしれない。

 

 カルデア内で暴れていた四人についてもそうだ。彼らは明らかに正気ではなかった。あの状態で接触することになるなら、戦闘は避けられない。

 

『他にも、ジ────』

 

 ザザ、と。その言葉を最後に、空中にロマンの姿を映していたホログラムは空気に溶けるように掻き消えた。通信の不調か、それとも別の要因か。この特異点では、どうやら外界とのコンタクトは限りなく困難らしい。

 

 だがわかったこともある。通信が繋がったということは、カルデアにてロマンが担当する立香の存在証明は滞りなく行われているということだ。少なくとも、この特異点で立香という存在が消滅してしまう、という展開だけは免れることができたのだと理解して、ほっと立香は一息ついた。

 

 そして、その懸念が解決した立香には、先の通信の中でのロマンの発言に気を回す余裕が生まれた。

 

 そも、ロマンが立香に連絡してきたということは、カルデアでの災厄はひと段落ついたということを示唆している。いつもは意気揚々と通信に乱入してくるダ・ヴィンチが今回はいなかったということで、未だ彼女が目覚めていないことは確定的だが、それでもロマンの向こう側から破壊音や悲鳴が聞こえてこなかったのは確かだ。そこだけは安心していいだろう。

 

 そして、何故カルデアに一時(いっとき)の平穏が訪れたかと言えば────その全てがこちら側、キャスターの言に従えば〝ルルイエ〟に召喚されているからに他ならない。

 

 即ち、この大洋の城で戦う上で衝突は避けられないだろうということだ。

 

 しかし、立香は一人ではない。マシュもしばらく動き回ってこの地での足遣いのコツを掴んできたようだし、限りなく怪しいがキャスターもいる。狂乱したサーヴァント相手にどこまで戦えるかは不明だが、先のエリザベートとの一戦を見るに、キャスターとは思えない身体能力を保持していることは明らかだ。

 

 〝信頼〟ではなく〝信用〟。従者(サーヴァント)として頼るのは不安があっても、道具(サーヴァント)として用いるなら支障はないと、キャスターは言うのだろうか。

 

「ねえ、キャスター」

「なにかね」

()()()()()()()

「……」

 

 問うてみる。返答は沈黙。死人のように濁った瞳が立香を射抜く。磯臭い纏わりつくような風が肌を撫でた。

 

 果たしてどれほどの間そうしていただろうか。暫しの沈黙の後、キャスターは堪え切れなくなったかのように、

 

「……ははっ、ははは、あはははははは!」

「えぇっ!? ちょっと、何がおかしいのさ!?」

 

 空を仰いで大笑いを響かせた。その表情はさながら愉快なものを見た子供のように綻んでいた。

 

「いやいやすまない、まさかこんな私に真っ直ぐ向き合おうとするような物好きが()()いたとは思ってなくてね。ははは、なるほど、君は相当奇特なマスターのようだ」

「えっ、何、褒められてるのこれ?」

「褒めているとも。少なくとも、今の問いで私の身の振り方は決まったんだ」

 

 そう言って、キャスターは立香に向き直る。ふざけた様子は一切ない。真意の掴めない彼の言動の中で、これが初めて見せた〝本気〟なのだと立香は悟った。

 

「サーヴァント、キャスター。二度目の生をマスターのために使うと誓おう。私は君の友でもなく、隣人でもなく、愛すべき者でもないが────この命に代えても、君を死なせないと、ここに宣言する」

 

 さあ、契約だ。

 

 キャスターの言葉から、暗にそう言われているのだと立香は感じた。令呪に熱がこもる。霊力のパスが繋がっていく感覚が伸びる。

 

 これにて、一時的な契約ではあるが、正式にキャスターは立香のサーヴァントとなった。一度令呪に目を写し、もう一度キャスターを見てみれば、先程の紳士然とした態度はどこへ行ったのか、薄い笑みを貼り付けたどこからどう見ても不審者な彼が戻ってきていた。

 

「さあ、晴れて私も野良じゃなくなったことだし。マスター、次のサーヴァントを探しに行こうか。できれば私と気が合う、友好的で強くて私の仕事を全てやってくれるような偉丈夫がいればいいなぁ」

「あのー、キャスター? まるで戦うつもりなんてないみたいに聞こえるんだけど」

「そりゃそうさ。だって私はキャスターだよ? 前線に立つようなタイプじゃないだろ」

「さっきの自分の動き見てから言ってくれる!?」

「はは、そんなの知らないね」

 

 もしかしたら信じたのは間違いだったかもしれない。一瞬立香の頭に過ったその言葉を、とある疑問がかき消した。

 

「というか、次のサーヴァントって言っても、大丈夫なの? 全員エリちゃんみたいに発狂してるんじゃ……」

「その理屈でいけば、私がこうして君の味方になったことの説明がつかないだろう。というか、私にとってはあの狂乱状態に陥ってる彼女の方こそ理解できない。して、マシュ君。君は先のエリザベート・バートリーの発言を覚えているかな」

 

 突然話題の矛先を向けられたマシュは、ほんの少し慌てて、

 

「えっと、たしか……そうです、彼女の発言の中には何回か〝アイツ〟と出てきました。結局誰のことを言っているのかはわかりませんでしたが」

「その通り。私の推測では、その〝アイツ〟という人物が何か握っていると考えている」

「それに、エリザベートさんは〝偽物〟とも言っていました」

「彼女が〝偽物〟と判断したということは、その正体不明の何者かはエリザベート・バートリーの知り合いに化けていた、ということになるだろう。エリザベートは〝偽物〟に対し、知り合い、即ち〝本物〟だと思って近づいた」

「でもそうではなかった。だからエリちゃんはあんな状態になっちゃったって、そう言いたいの?」

 

 キャスターとマシュの推理を聞いていた立香が口を挟む。キャスターは肯定しながらも、瞳を伏せて首を振る。

 

「そうだが、少し違う。そも、ただ知り合いに化けた奴がいただけであんな疑心暗鬼になるはずがない。サーヴァントの中には自分の姿を紛らわす宝具やスキルを持った者だってたくさんいるだろう。だったら別の要因があったと考えるべきだ」

「たとえば、どんな?」

「他人を恐慌状態に陥らせる、そういうスキルか、あるいは宝具を持っている。幸か不幸か、と言っても十割不幸寄りなんだけど、このルルイエ────ひいては()()()()()()()()()()()()()()()()()。見るだけで廃人だとか狂人になるような姿をした奴ばっかりでね」

 

 キャスターは朗々と語る。彼の言にも一理あるのは確かだ。ロビンフッドやジャック・ザ・リッパーなどのように、自身の姿を隠す、隠匿するというモノは、数は多くないにしろ存在している。誰かに完璧に変装するほど高度なものはさほど多くはないだろうが、それでもただそれだけのことでサーヴァントが正気を失うとは考えにくい。

 

 であれば、キャスターの言う〝原典〟にその理由があると見做していいだろう。

 

「原典って言い方をするってことは、キャスターは本か何かの登場人物なの?」

「そうだとも。とはいえ、歴史はそれほど深くないがね。二十世紀前半に成立した、完全に人の手のみによって一から創作された神話体系────一人の夢見る男が生み出し、人々の間に伝播した恐怖小説群」

 

 ────通称、クトゥルフ神話。

 

 聞かされたその名前に、立香は僅かながら聞き覚えがあった。

 

 詳しく知っているわけではない。本当に、ほんの僅かに名前だけ知っている程度だ。そういえばそんな神話の話を聞いたことがあるかもしれない。なんか昔テレビでちょっとだけ見たような。学校の友達がそんな本を持っていたっけ。そのくらいの曖昧な記憶でしかない。

 

 しかし、それでも思い出したことが一つだけあった。自身の召喚したサーヴァントの一体、ジル・ド・レェのことだ。魚のように浮き上がった目の奇怪な男が持つあの魔導書、人の皮で装丁された悍ましい書物は、たしか異界の怪物を無尽蔵に召喚し使役する宝具だったはずだ。

 

 かつて、彼は立香に向かい語ったことがある。自身の持つ宝具の詳細、そのルーツたる神話について。

 

 ────これは異界より現世(うつしよ)へと使い魔を召喚するモノ。存在自体が涜神に値する、全ての生命への冒涜です。

 

 ────我が友、プレラーティでさえ薬を用いて意識を飛ばさなければ向き合えなかった正真正銘の異物。原典(オリジナル)は別に存在するらしく、私の持つものは写本の写本らしいのですが……その威力は貴方も知っての通りでしょう。

 

 ────ええ、そう、()()()()()です。この世界にあれらは本来存在しません。何せこの世界においては神秘も薄れきったここ百年の間で発展した神話がルーツなのですから。そんなもの、我らの生きた時代だろうとあるはずがないのです。

 

 ────ですから、どうか覚えておいてください。もしもそんな常識はずれの怪物と相対することになったとすれば、それは間違いなく次元を、世界を超えてやってきた、理の向こう側の住人であるのだと。

 

「その顔。どうやら、覚えがあるみたいだ」

 

 立香の表情から何を読み取ったのか。キャスターは薄く笑って、つま先で床を叩く。

 

「まあ、つまりそういうことだ。この世界とは決して交わらない、次元の向こう側。神を愚弄する神が蔓延る混沌の宇宙。奴らはそこからやってきた。無論、この城も」

「まさか、ここで通信が通じにくいのって……」

「次元がねじ狂っているからだね。この城そのものが大規模な結界のようになっている。君らがここを探知できたことからして、外部から確認することは可能なようだし、()()()()()()()()()は通信も僅かに繋がるようだが……まあそれは今はいい」

 

 濁りきった()を伏せて、キャスターは思案する。何を考えているのか、立香にその真意は図れない。

 

 顎に手を当て、一度唸り、二度唸り、三度溜息をついたところで、やっと決心が固まったように、キャスターは瞼を上げた。

 

「ちょうどいい。この地について少しばかり語ったところで、今回の黒幕の名前でも教えてあげようか」

 

 え? と立香は間抜けな声を漏らした。

 

 まだこの特異点に来てから数時間と経っていない。探索すらマトモに出来ていない状態なのに、黒幕の名前はわかっているというキャスターの言葉に少し驚いてしまった。というかなんで知ってるの、と聞き返せば、キャスターはどうということはないと言いたげな表情(カオ)で、

 

「ただの人間として描かれたしがない医者だが、しかし私とて彼らクトゥルフ神話の神性と起源を同じくする被創作物だ。当然、君らよりもこの一件についての背景や知識は詳しいつもりだが」

「でも、そんな簡単にわかるものなの?」

「わかるとも。何せ、()()()()()()()()()()を進んでするような奴は、()の神話の中でも数少ない。これまで得られた情報さえあれば簡単に黒幕を絞り込める」

 

 細かく説明するために、キャスターは指を一本立てた。

 

「まず、何故エリザベート・バートリーが()ばれたかだ。聞きたいんだが、エリザベート・バートリーというサーヴァントは、ここにいたハロウィンチックな彼女だけかい?」

「いや、他にもいる。というか、あのハロエリちゃんのオリジナルになったエリちゃんがちゃんといる」

「そうか。ならば何故、その中でハロウィンの彼女が選ばれたかについて考えよう。理由は単純、彼女がジャック・オー・ランタンを従えていたからだ」

 

 さも当然のようにジャック・オー・ランタンの名を口にするキャスター。しかし、立香の頭には疑問符が浮かぶばかりだ。何故そこでカボチャたち(ジャック・オー・ランタン)が関わってくるのだろうか。クトゥルフ神話とそれらの間に繋がりを見出せない。

 

 キャスターもそのような反応をされることは予想済みだったのだろう。特に気分を害した様子もなく、説明を続けた。

 

「神話においてはありふれたことではあるが、神々は化身を取ることがあるだろう。それはクトゥルフ神話の邪神たちに関しても例外ではない。その中に一体、ジャック・オー・ランタンを化身として持つ奴がいる。恐らくはその(えにし)で彼女は引き寄せられたんだろう」

「なんだか、随分俗世的な化身だね」

「それはそうだ。何せ、その神は決まった姿を持たない。どんな姿にもなれる、そういう神格だ。俗世的だろうと、その姿になると決めたからにはそうなっている」

 

 厄介なことではあるがな。キャスターはそう続けた。

 

 立香はここで思い至る。エリザベートの狂乱の原因、彼女の言葉に出てきた〝アイツ〟という何者か。もしや、それこそが────

 

「……エリちゃんを狂わせたのも、その黒幕自身?」

「正解だ。彼女が信を置く何者かに変身し、欺いたのは間違いなくヤツだろうさ」

 

 何者にもなれる────そのような神格ならば、サーヴァント一人欺くのは容易いだろう。

 

 無論、本来そのようなことは困難を極める。サーヴァントとして現界した以上、人並み以上の肉体的スペックを与えられているものであるし、特別な瞳や勘にまつわるスキルを保持した歴戦の猛者であれば、小手先の変装など瞬く間に見破られる。

 

 が、それは〝本来〟の話。理の向こう側、それも〝神〟と定義されているものであれば────たかが一人のサーヴァントを出し抜く程度は訳ないのだろう。

 

 ここに来て、立香は心の底から湧き出るような悪寒を感じた。それは身体中の穴という穴から這い出で、背中、腹、腕、足、毛先の一本に至るまでざわざわと撫で回していく。全身を鳥肌が覆った。

 

 そんなのが相手など、それでは、()()()()()()────

 

「……そろそろ、ヤツの名前を伝えておこうか」

 

 キャスターの言葉にハッと意識を引き戻される。立香はすぐに、今すべきことは悪寒に身を震わすことではないのだと気を引き締める。

 

 白衣の彼は空を見上げ、どことも知れない遠くを見つめる。一秒、二秒、三秒、四秒。たっぷり五秒ほど、狂い咲いたような満点の星空を眺めた後、瞳を立香へと向けた。

 

「〝這い寄る混沌〟、〝無貌の神〟と呼ばれるモノ。人と共に時代の中に在りながら、決して人に寄り添うことはなかったモノ。欺瞞と悪辣を振り撒き、常に何かを愚弄しながら、あらゆる営みを嘲笑う最悪の神性。

 ────名を、ニャルラトホテプ。それが、この事件の黒幕だ」

 

 ────いいかい、マスター。これから私の言うことを、決して忘れてはならないよ。

 

 キャスターは息を吸い、これ以上ないほど真剣な表情(カオ)で立香を見つめる。そして、彼が先程感じた悪寒の正体────その恐怖の真相を、詳らかに口にした。

 

()()()()()()()()()()()()()()




 い つ も の

 お ま た せ

 ま た お ま え か
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