Fate/Grand Order ■■特異点 魔海狂想都市ルルイエ 作:クトゥルフ時計
どこかで、何かが、蠢いている。
それは生命の胎動というにはあまりにも悍ましく、脈動というにはあまりにも禍々しい。蛆や蛇蝎の
それは、
それは、傍目には普通の人型のように見えた。
しかし、それは人型をしていたとしても、決して通常の存在とは言えなかった。
かたや全身に亀裂が走る者。獣の口のように、あらゆる皮膚に黒いじぐざぐとした線が往来し、その狭間から無数の眼球が覗いている。
かたや全身に何の変化もない者。亀裂も眼球も何一つ存在しない。そう、
〈そろそろ諦めたらどうだ? あなただって疲れたでしょう。もう抵抗するのはめんどくせぇからやめろよカス〉
それは気怠げな男性のようでありながら、慇懃な女性のようであり、粗暴な青年であった。
いくつもの声が重なっているようで、それぞれが独立しているようで、そのどれでもない人でなしの囁き。頭の中に直接語りかけているようであるのに、鼓膜はきちんと震えている。震えている、気がする。果たしてそれが空気を介した音波なのかすらわからない。しかしそれは、紛れもなく、不愉快なほどに、声として届いていた。
〈たしかに君を呼んだのは僕ではあるがね。テメェは大人しく楔になっておけばよかったものを。ここまで抵抗されると興醒めというものよ。どうか儂のために大人しくはしてくれんかの?〉
それは
移り変わる声の波形と安定しない一人称。それは作ったものなのか、それとも元からそうなのか。この場にいる誰にもそれを推し量ることはできない。
────断る。お前なんかのために何かしてやるもんか。
亀裂の入った人型の男は、よく見れば手足を何かに繋がれていた。
それはおよそ哺乳類とはかけ離れた容姿の物体であった。のたうつように拍動する体表と、それを覆う妖しく輝く粘性の液体。地球の生物で例えるならば
しかしそれとて正確と言えない。形だけは似ているかもしれないが、その触手を構成するのは鮮やかなタンパク質ではない。
人だ。
無数の小さな人々だ。
絶叫し苦悶するような表情の、数えるのも馬鹿らしくなるほどの、人々の姿だ。
声はあげない。悲鳴はない。しかし、絶えず蠢いている。拍動のように見えたのは、これらが苦痛に悶える集合の結果だった。
〈強情だな。どうしてですか? 俺の言う通りにしておけば、あなた様は何もしなくていいというのに〉
────友達がいるからね。
〈友達……ああ、あの医者のことか。そうかそうか、たしかにお前らは親友だったな。しかし厄介ですね。あなた方は
────何もかも、お前の思い通りに行くと思わない方がいい。
拘束されているというのに、男は気丈であった。その双眸──全身に覗く眼球ではなく、人間本来の二つの瞳──には、未だ何かを待ち望んでいるような、諦めない人間特有の輝きが
────せいぜい暗躍するといいさ。彼がその程度で止められない男であることは、わたしが一番よく知っている。
〈強情というよりも、無闇に強気なだけか、貴様は。もうルルイエは浮上している。汝とて、そうして振舞ってはいるが、もう
────さあ、それはどうだろう。彼はいつも妙に運が良かったからね。もしかしたら、意図せずしてこの地に
男はそう告げると不敵に笑った。無貌のモノはそれを見て何を思ったのだろうか、
とてもこの世のものとは思えない風貌だった。目や耳と思しき感覚器官など一つもない。感情を表現できるような口などの外見的要因もない。だがそれはたしかに男の方を向いて、愉しそうに嗤ったように感じた。
〈そいつはお前に任せよう。言いたいことはわかるよな? そういうの好きでしょう〉
ケタケタと、怪生物は身体を揺らす。ひどく不恰好で不細工で不気味な揺動。何が楽しいのだろうか。わからない、わかりたくもないが、それでもわかることが一つだけ。
────なるほど、悪趣味だね。
怪生物は
ぐちゃりと肉が弾ける音を背後に受け、無貌の何かは空を見上げる。
星だ。満点の、気持ちが悪い星空だ。磯臭い空気は澄んでいる。有り得ない角度の城はたしかにそこに存在している。そんな矛盾だらけの陸地に降り立った何者か────男曰く、あの死人のような医者がその幸運によって呼び込んだイレギュラーが、ここにいる。
さて、それは誰か。遥かな過去に城の主を封じた旧き神か。風を司る大蜥蜴か。いや違う、そんな大それたものではない。感じる気配は小さなもの。
〈ああ、そうか。
ケタケタ、ケタケタ、ケタケタ。
カラカラ、カラカラ、カラカラ。
ゲラゲラ、ゲラゲラ、ゲラゲラ。
無数の笑い声が響き渡る。脳を直接揺さぶり、吐き気を催し、正気ではいられなくさせるような、邪悪な笑い声が。
〈面白い。ならば立ち向かってみせろ、混沌に。お前の敵はこの地そのものだ。生き残れ、そして辿り着け、真実に。できるものならば。その
嘲笑う声は、まだ止まない。
◇◆◇
別に、特段不思議なことではなかった。
サーヴァント、英霊とは十人十色、百人いれば百人が各々の殺し方を備える人智を超えた超常の存在だ。当然、その中身だって個性的な面々が多い。
百戦錬磨と讃えられて英霊となった神話の英雄。怪物と恐れられて英霊となった一国の王。後世まで愛される名作を執筆し英霊となった才能の寵児。どれもこれも一筋縄ではいかない人物ばかりで、正直な話、その全員を心の底から信じられるかと問われれば、さしもの立香と言えども返答に困る部分はある。
味方だと思っていた人に裏切られることも、敵だと思っていた人と共闘することも、清濁併せ呑む覚悟が無かったかと言えばそうではない。しかし、キャスターから告げられた黒幕の正体とその言葉は、彼を混乱させるには十分であった。
クトゥルフ神話、この世界に存在しない異界の神性。それが今こうして地球という
誰も信じられない、信じてはいけない地。疑心暗鬼とはまさにこのこと。疑い始めたら止まらない。どんなに気丈に振る舞って、誰も偽物なんていないと自分に言い聞かせても、心の端には「でももしかしたら」という黒い囁きがこびりつく。
それは
行き着く先は互いが互いに剣を向け合う仲間割れだ。お前が裏切り者だ、いいやお前がと、真実などない暗闇の中で盲目的にそこに敵がいると勘違いして武器を振り回す滅びの一途を辿るだけ。
────疑心は人を殺すのだ。
「正直なところを話すとね」
ふと、キャスターが口を開いた。
「私とて、君たちを一から十まで信じているかと聞かれればそうではない。契約を交わした君が次の瞬間異形となって襲ってくる可能性だって拭いきれていない」
「そんな、こと」
「ないとは断言できない。君の迷いはそこから来ているのだから」
図星だった。立香の抱く恐怖の正体、迷いの根源は、信じることへの葛藤。これが普段通りの特異点だったならそこまで思い詰めることはなかっただろうが────なにぶん、今回は相手が悪い。
立香は生き延びなければならない。先陣を切って戦い、たとえ全身を粉々に破壊されても存在の根底が消え失せるわけではないサーヴァントとは違い、彼はただの人間だ。頭を砕かれれば死ぬ。心臓にたった一つ穴が開いても死ぬ。サーヴァントの最大の弱点であるマスターという、これ以上ないハンデとして彼は戦場に立っている。
マシュも、己が先輩と慕う彼になんと声をかけるべきか悩んでいた。立香の中ではマシュでさえも疑心の対象。そしてそれはマシュにとっても同じこと。眼前の彼が昨日の彼と同じとは限らない。もしかしたらマスターの顔をした別の誰かかもしれない。信じたいのに信じられない。その事実が、どうしようもなく胸を締め付けるのだ。
ああ、今。この思いを吐き出せたらどれだけ楽なことか。それはできない。それを言ってしまえば、何か大切な糸のようなものが切れてしまう気がする。
「……それでも、」
立香が口を開く。喉が詰まりそうだ。得体の知れない黒い泥のようなものがつかえている錯覚さえある。声を出すのが、怖い。
「それでも、俺はマシュを、そしてキャスターを、信じるよ」
見つめる瞳に躊躇いはなかった。その宣言を向けられたキャスターは目を細める。どうやらマスターは思ったより気狂いの素質があるようだと、己の中で定義していた〝ただの人間〟という評価を改めた。
マシュは安堵していた。ああ、やはり彼は彼だ。この真っ直ぐな瞳は、きっと誰にも成り済ますことはできない。心なしか、盾の裏に潜んでいた小動物もほっと一息吐いたような動きを見せた。
「覚悟は決まったようだ」
「待たせたみたいだね。ごめん」
「いいとも、それが普通だ。なぁに、安心したまえ。君が誰かに裏切られて死んだとしても、一回くらいならなんとかしてみせるさ」
「頼もしいけど、おっかないね」
冗談めかした言葉に僅かな苦笑が漏れた。
「さて、それではいよいよ探索開始と行こうか。少しは戦えるサーヴァントと出会えるといいな、マスター」
そして、歩き始めて少し経ち。決意を新たにした立香達が出会った最初のサーヴァントは────
「おお! そこだ、いいぞぉ動いた! 鮮やかな疾走だ! 流石だぜ俺のリトル・ノーチラス!」
────ラジコンを手に騒ぐ中年のオッサンであった。
◇◆◇
「ハッハッハッハ! いやあ妙なところを見せたなお前さんら」
「いや、構わない。印象こそラジコンで遊ぶ変な中年になってしまったが、少なくともこれで君が怪しい人物だとは思えなくなった」
「ラジコンで遊ぶ変な中年は十分怪しくないかい? 白衣の
快活に笑う中年は、自らをライダーと名乗った。曰く船乗りで、かつては王子をやっていたこともあるんだぜと鼻高々に語る彼は、素性の知れない立香たちを朗らかに笑って受け入れた。
「すごい! すごいよこれ! 思ったように動く! こんなラジコン初めて見た!」
「先輩、そこで面舵いっぱいです!」
さながら潜水艦に車輪をつけたような外観のラジコンは、今立香とマシュの手に渡っていた。マスターなんて重責を背負っていても、やはり日本人男子ということなのだろう、男心をくすぐるオモチャを見た途端テンションが上がりっぱなしでとどまるところを知らない。
製作者のライダーによれば、これは彼のスキルで生み出したものなのだという。「素材ならほら、そこにあるだろ?」とネジ狂った角度の城の壁を指さされたときは、さしものキャスターを以ってして何言ってんだこいつという感想しか浮かばなかった。
キャスターから見たライダーへの印象としては、奇妙な男だという一言に尽きる。
ラジコンの件を見て、当初キャスターは彼のことを少年のように純粋な好奇心で動いている人種かと思っていた。しかしよく瞳を覗き込めば、その奥には煌々と煮え滾る憎悪が渦巻いている。一瞬ライダーだという自己申告は実は虚偽で、真のクラスはアヴェンジャーか何かではないかと勘ぐってしまったほどだ。
そして、それはライダーにとっても同じこと。
ライダーから見たキャスターの印象としては、奇妙な男だという一言に尽きる。
彼が最初に見たキャスターの異常性は、その死人のような在り方だった。サーヴァントとは皆元は一様に──多少の例外はあれ──死した過去の残滓だ。言ってしまえば全員死人、そこに異論はない。が、キャスターに関しては
声も、仕草も、あらゆる面から死が漏れている。ふと目を離した隙にぱったりと死んで、次に目を向けたら生き返っているかのような、そんなちぐはぐさ。死体を繋ぎ合わせたゾンビに白衣を着せたかのような独特の雰囲気。
というより、もっとこのサーヴァントを直接的に表現する言い方がある。
言うなれば、
が、同時にそこまで悪人ではないのではなかろうかという思いも抱く。ライダーから見た彼の姿は、それこそ自らの好奇心に従って動く自由人のように映ったのだ。理知的で猟奇的な彼の瞳が映す世界は、いつも己の興味の対象を追いかけている。今だって、立香が操作するラジコンを面白そうに見つめて────
「まったく楽しそうだなマスター、私も混ぜろ! 船だというなら羅針盤を載せたまえ! 幸運なことに私は方位磁石を持っているぞ!」
何故そんなものを持っているのか甚だ疑問ではあるが、言うや否や白衣の右ポケットから取り出した方位磁石をラジコンにくっつけ始めた。多分結構ノリがいい男なんだろうな、とライダーはキャスターを評価する。
先程まで彼らの間に流れていた緊迫した空気は何処へやら。男のロマンを乗せたライダー作の
セイレム実装→ネタ被り回避ィ! でも死体蘇生者って言ったぞやっべ(素)
北斎実装→ネタ被り回避ィ! 今度こそ死ぬかと思った。
ルルハワ開催→やっべ(素)
ストーリーに◾️◾️◾️◾️◾️登場→やっべ(素)
まあそんな感じです。死体蘇生者……一体何バード・何ストなんだ……
あとライダーに関しては本編に彼が登場する前からプロット上に存在してたんで公式とのネタ被りだとしても見逃してくださいお願いします。
感想とか評価を貰えるとこの小説とか他の小説の更新が早くなったりするかもしれない。