やはり俺の青春ラブコメはまちがっている.   作:黒虱十航

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5 けれども結論が出ることがまだ無い。

「さて、と。じゃあ、クリスマスイベントについて話すか」

俺の部屋の適当な場所に茅ヶ崎を座らせてから、俺は怪盗サンタクロースを置いた場所を漁る。そこまで奥に入っている訳じゃないのですぐに見つかるが、その本は実に地味な表紙だった。そのせいで少し手間取ってしまったのもこれまた事実。だが、今後の方針を固める上で必要不可欠だから多少の手間はしょうがない。

「そうですね。では、お聞きしましょう。俺の話を聞くに、状況はどれぐらい酷いですか?」

視線を部屋のものに向けながらも茅ヶ崎は俺に聞いてきた。うむ……状況がどれぐらい酷いか、なんて実際に見たわけじゃないのでまだ何ともいえない。百聞は一見にしかずという言葉があるぐらいだ。見ていないのに断言する事はできない。

そもそも、俺の見たもの自体まだ少ない。俺が見たものは怪盗サンタクロースからの予告状とクリスマスイベントに関わっている茅ヶ崎、そして小町と茅ヶ崎のあの会話。それらから導き出される明確な事実だけをまずは整理していくか。

まず事実一。怪盗サンタクロースから予告状が来た。

これはクリスマスイベントの実行委員会、即ち双方の生徒会に向けられたものだ。茅ヶ崎が昔にかいた怪盗サンタクロースという小説を参考に送られていると考えて間違いない。動機に関してはまだ分かりかねる。

次に事実二。茅ヶ崎は生徒会としてクリスマスイベントに関わっている。

言うまでもない事実だ。これには、以前の俺のようなゲスト的立場と違うことが明確に表れているといえる。権限もあるし前の俺みたいにやりすぎてしまって戸惑う必要もない。自分たちのことであるのだから成長が、何て気にする必要もない。

更に事実三。小町と茅ヶ崎は知り合い以上の関係である。

茅ヶ崎は敬語を使っていたが小町は、主にため口で俺なんかと話す時とは違うものの他人行儀でないことも確かだ。知り合いだったらお互いに言動に神経質になるだろうがそこまで神経質になっているわけではなさそうだったし最低限推測を抜きにしてしまえば二人の関係は知り合いではあるしそれより少し上等なものかもしれない。

そして事実四。これは、事実一~三を分析して分かる事だが整理しておく必要があることだ。

事実四。少なくとも、小町と茅ヶ崎は怪盗サンタクロースの予告状のターゲットに入る。

双方の生徒会といっているのだがもしかしたらあちらのようにイベントに関与しようとしていないかもしれないから一色の事は考えないものとする。勿論今の一色がそんな理由で逃げるとは思えないが見たものだけでの事実を並べなければどうしょうもない。そうなると、確定しているのは小町と茅ヶ崎の関与だけになる。

それが分かれば自然に事実五が浮かび上がってくる。

事実五。茅ヶ崎と小町は怪盗サンタクロースから逃げようとしていない。

関与すれば失う可能性があるのに二人は関与している。ターゲットに入っているのに関与し続けるのであれば二人は怪盗サンタクロースから逃げる気がない、と考えられる。本当は逃げたいという気持ちがあるのかもしれないがそれを実行に移すだけの逃げたいという気持ちは強くない。小町からすればそんなもの信じていないのかもしれないし茅ヶ崎は信じていたとしても大丈夫だと楽観ししているのかもしれない。どちらにせよ、逃げていないことは確かだ。

ここまで事実が整理できれば後は推測も混ざった事実確認が始められる。

まず始めに前提条件として、今年もクリスマスイベントが行われるということが分かるだろう。見たものだけで100%分かるかどうかで言えば別だがまあ、99%は分かることである。なので今更なことだが一応確認しておかなければならない。そういう前提条件を見落とす事は時に命取りになりうる。

次にもう一つ前提条件を追加すると今年もクリスマスイベントは海浜高校と総武高校が行うというものが挙げられる。そうすると規模が普通にやるより拡大される事や決定に時間が掛かる事、人員が多いことなどの設定が追加される。推理が得意な訳ではない俺なのだ。出来るだけ選択肢を消去法で消すしかない。

そして最後の前提条件。今年もクリスマスイベントの主催は二校の生徒会であるというものを追加する。そしてそこに聞いた話を追加する。あちらの生徒会長は、去年の文化祭、体育祭で実行委員長をした相模南のような人物だ。俺は、別段相模との関係について根に持っているわけではないのであまり酷く言う気はないがかなり厄介度が増すのは事実だ。そして副会長だ。あっちの副会長は何かことを進めようとすると全員そろっていない事を理由に回避する厄介な奴だ。中々面倒な面々である。

こちらの生徒会は一色、小町、茅ヶ崎の三人。今年は異例の三人体制での生徒会になっているから去年より肩身が狭い事は容易く想像できる。おそらくあちらの事件で忙しいといってもうちの生徒会よりは参加者が多いのだろう。

そして、そこが総武高校が強く出れない理由だ。日本のような多数決で決めていく社会では少数派は切り捨てられるだけだしどんなに一人の力が強くても一人としてしかカウントされない。一票はどうしても一票でしかなくそれぞれの票の重さは必ず釣り合ってしまう。そうなると話し合いでは人数の少ない側がどうしても負けてしまう。もうこれは社会の摂理といっていい。誰が悪いとかそういう次元の話では駄目なのだ。

例えば総武高校側が海浜高校側の参加率が低い事に文句をつけたとしよう。そうしたら勿論事件が起きていることを理由に挙げられるだろうがそれよりも『そっちだって人数少ないじゃん』という反感を買うことになってしまうはずだ。それほどまでに今の総武高校側には力がない。

きっと、今回は秩序ある話し合いになっているのだろう。否定も賛成もはっきりとする会議を行えているのだろう。だが、いくら否定意見を出しても人数で押し切られたり否定して潰そうとしても回避されたりしたら話し合いは一向に進まない。いくら危機管理が整った世界でも住む人間が危険ならどうする事も出来ないように、秩序が取れた話し合いでもその秩序を乱す者が参加すればどうする事も出来ない。

だから今回の失敗はおそらく総武高校生徒会側にはない。あるとするならばもっと生徒会の人数を増やすべき、ということだろうがそれは生徒会の独断で決められることじゃない。

そこまで分かってしまえばある程度、策も考えられるだろう。

「…………」

茅ヶ崎にしばしの時間をくれるように目で訴えてから深い思考の海にもぐる。

まず、考えるべきポイントをはっきりするべきだ。平塚先生も言っていた。『考えるときは、考えるべきポイントを間違えないことだ』だったか。あの時考えるべきだったのは奉仕部としてではなく俺個人で一色を手伝っている理由だった。じゃあ、今回考えるべきはなんであろうか。

勿論、やるべきこと、というのは明確だ。クリスマスイベントを成功させればいい。それだけのことだ。そこから分解していくと怪盗サンタクロースや海浜高校で起きている事件、それを引き合いに出すせいで中々進まない会議などの多くの問題を解決するという課題も分かる。じゃあ、そのためにどうする? そんな風に子供みたいに問いがなければ答えられないのだから自問自答するしかない。

そんな問題を解決する為にどうすればいいか。今ある手札はやはり少ない。それも当然だろう。俺はいつも一人で味方がない。それ故に切れる手札は本当に少ない。人と人とのつながりは麻薬のようなものであるのだからそれぐらいの方がいいだろう。

考えるべきポイントをはっきりさせるためにも『今が何を考える時』なのかをはっきりとさせるべきだと思う。じゃあ、もう一度初歩から考えるか。

大きく言うと今はクリスマスイベントをどうやったら成功させることが出来るかを考える時だ。そしてもっと分解すると今は多くの問題を解決する為にどうすればいいのかを考える時である。ならば、この状況下で考えるべきポイントは何なのか。自分で考えても限界がある。ここは平塚先生のやり方に従ったほうがいいだろう。

平塚先生は"何故"単独で一色を手伝っているのかを考えろと言った。なら今回もその"何故"を考えてみるしかない。それで駄目なら効率は悪いが一度戻ってしまえばいい。

そこまで考えれば考えるべきポイントが漠然としているが決まったといえる。今回の件で考えるべきポイントは『"何故"クリスマスイベントを成功させようとしているのか』である。そこがはっきりとすれば何となくだが全体を見通せる気がする。

考えるべきポイントは分かった。後は考えるだけだ。

「……すまん。まだ時間掛かりそうだから明日話す」

おそらく、今考え始めてしまったら朝になってしまう。それだけ潰していかねばならないものがあるのだ。俺はきっと計算しか出来ないから片っ端から潰して計算できない答えを消去法で見つけるしかない。

「そうですか」

茅ヶ崎は、俺の目を見てそういった。その眼差しには失望の色なかった。むしろ挑戦的で期待していると言わんばかりの強い眼差しだった。そこまで期待されても俺は形になった答えなんて出し切れないからそんな風に期待するのはやめてほしい。

「じゃあ、俺からヒントをあげます」

「は?」

俺の鼻に人差し指を触れさせた茅ヶ崎は立ち上がって何かを話し始めようとしていた。その姿は陽乃さんというより平塚先生に似ていて年下に完全に諭されているような気分だった。というか本当に諭されるのだろう。

「ものというのは何でも表と裏があります。そうでなければそれはとても退屈で無機質な欺瞞でしょう。ですからたとえば『何故やるのか』を考える時には『何故やらないのか』ということも考えるといいですよ」

茅ヶ崎は、言い聞かすように俺に言った。何か、こいつは本当に大人びてるな。一年前は中学生だったはず何だがそんな気配がゼロ何だよなぁ。

きっと、茅ヶ崎の言っていることは事実だけどそれはきっと当事者ではなく傍観者だからこそ言えることなんじゃないかと思った。茅ヶ崎はまだ当事者であるはずなのに何故そこまで客観視出来ているのだろうと不思議に思えた。

「と、いうヒントを差し上げましたんでその分、俺から宿題を出します」

あくまで幼げで、あくまで大人びているだけで茅ヶ崎は高校生だ。しかも俺より年下だ。勿論年齢が下だから劣るとかそういう事は言いたくない。だが唯一、高校一年生が何故この領域にまで達するのかということだけは疑問に思えた。

「何故、本物を求めるのか。何故、本物を求めないのか。この二つのことについて話せるようにしてください」

茅ヶ崎は、そういってから荷物を持って俺の部屋を出た。見送りは不要であると出る時にアピールしてきたので何か特別な見送りをすることもなく部屋から出た茅ヶ崎は俺の顔すら見ずに帰ったと思う。

 

さっさと着替えて部屋のベッドに沈み込んで時計の秒針が進む音だけを聞いた。今、この瞬間に鳴っている秒針の音は俺が奉仕部に数回行って、雪ノ下と俺が似ていると。そう思ったあの時に心臓が追い抜こうとした秒針と同じスピードなのに何故だかものすごく遅く感じた。

遅く感じる分秒針の音は重くのしかかってきて考えなければならないことの膨大さを気付かされてしまう。第一これでもまだ、実際に状況を見ていないのだ。今回は茅ヶ崎の状況説明が的確だったからある程度、理解出来る。状況を見なくてもそれなりに考えることが可能だ。それでも実際にこの目で見ないと見落としがあるかもしれない。だからこそ、その考えることの膨大さには悲鳴をあげそうになる。勿論ギリギリで我慢するけど。

この静けさはより一層思考を回転させる。だが、それが今の俺にはより辛くもある。あまりにも思考を回転させてしまうと無駄なことまで考えてしまう。潰さなければならないことだけ計算しつくして潰すしかない。心理でしか考えられないなら心理を数値化して計算すればいい。ただ、それには相当の時間が掛かるからな。まずは、茅ヶ崎がくれたヒントと宿題を参考に考えるべきである。今まで掛け違えていて一度考え直したつもりだったがそれでもまだ不足しているというのであれば今度こそしっかりと公式を成り立たせてしまおう。問題の再構築と再検討をするか。勿論、さっき茅ヶ崎がいたときに考えていた通りでいいはずだ。だがそれは、クリスマスイベントのみであって小町たちの問題や奉仕部の問題には繋がらない。だから茅ヶ崎の出した宿題の問題を再構築する。

考えるべきポイントが茅ヶ崎の言ったものだとすればそこから逆算して今の状況を再認識出来るはずだ。『求める』と『求めない』ことの動機を考えるとしてそれはどんな場合だろうか。何を考える時だったらそれを考えるべきポイントとして挙げるだろうか。何をしている時にそんなことを考えるのに至るのだろうか。事態を逆算して完全に問題を分析する。

この問題はつまり『する』と『しない』の動機を並べている。そしてその両者の動機をわざわざ並べるのは主に一つの場合のみだ。それこそがその両者を比較している時である。

例えば犯罪を『する』『しない』で動機を調べることによって両者の思考がある程度分かる。それが分かれば比較して違うところがはっきりするはずだ。つまり、この問題はそういうことだ。

その場合、何を考える時、という問いに当てはまるのは『する』或いは『しない』と考えた者自体の分析をする時だといえる。動機からその人物を分析するのは難しいが動機を比較する事で分析するのは少しだけ簡単だ。

さて。ここまで来たら後は両者の動機を分析してそこから両者を分析するだけだ。勿論茅ヶ崎は分析まで宿題にしていない。だが、これはおそらくクリスマスイベントの突破口を拓く手がかりになると思う。だから宿題にわざわざ出してヒントまで与えた。

じゃあまず簡単な方から考える。本物を求める側の立場に俺がそもそもいるのでこれについては想像する必要はない。想像する必要はないが自分の行動の動機をはっきりとさせなければならないので勿論簡単な訳じゃない。全ての事には理由がある。そんな風に言う人は少なくないし俺だってそれには賛成だ。ぼっちがぼっちになるのにだって必ず理由があるのだからそれと同様にどんなことにでも理由はあるはずだ。

逆に言ってしまえば理由のないことなんかないから何かをするならしてはいけない理由を無視せずに突破できるだけの理由が必要になる。どれだけ理由を正当化することが出来るのかという自分の中での葛藤をしてそれに打ち勝った時始めて動く事が出来る。だから、俺が戦っているように感じていなかっただけで俺が本物が求めた時も求める理由と求めてはいけない理由が衝突したのだろうと思う。だったら、考えなければならない。

俺が本物を求めることを正当化出来た理由。それは、何なのだろうか。あの時は用意していた策を失ってそれでも何かを言いたいと、そう思って言葉を探した。探して探して、それでいくつものことを考えた。俺が欲しかったものが言葉ではなく、けれども確かにあることを頭の中で確認した。それが分かり合いたいとか、仲良くしたいとか、話したいとか、一緒にいたいとかそういうことじゃないことも確認したから今まで仲良くして来れなかった、分かり合えなかったというのを理由にする事はないはずだ。じゃあ何を理由にしたのだろう。考えるだけであの時のことを思い出して目尻が熱くなってくる。もういっそあのときのことをそのまま思い出してしまおう。

 

俺はわかってもらいたいんじゃない。自分が理解されないのも知っているし、理解してほしいとも思わない。俺が求めているものはもっと過酷で残酷なものだ。俺は分かりたいのだ。分かりたい。知っていたい。知って安心していたい。安らぎを得ていたい。分からない事は酷く怖い事だから。完全に理解したいだなんて、酷く独善的で、独裁的で、傲慢な願いだ。本当に浅ましくておぞましい。そんな願望を抱いている自分が気持ち悪くて仕方が無い。

けれども、もしも、もしもお互いがそう思えるのなら。

――いや、そんなものは存在しない。

は? 何か違う……前のように思考が進まない。

そんな関係、ありえない。お互いがそう思っているなんて事自体分かるはずがないし傲慢でも叶えたい願いなら叶うとでも思ったら大間違いだ。結局、傲慢だと分かっているとでも言えばいつかは許されると思っているだけの本当に浅ましい行為でしかない。何が分かっている、だ。分かっているならそんな願いしてはいけない。酷く独善的で、独裁的だと分かっているならそんな願いは捨ててしまえ。お前はもう、幼子ではないのだ。願ったらもらえるとでも思ったら大間違いだ。お前はもう、願う事を許されてはいない。許されていないタブーを犯し続けるて許されるほどお前は、徳をつんでいない。むしろお前は悪だろう。今まで何度も失敗をして醜い姿を晒した。一人でやった気になっても結局失敗して事の本質を捉えようとしていなかった。それなのに今更、更生した気にでもなったのか? 奉仕部に入って隔離されて。それで更生して失敗を帳消しに出来ているつもりならそんなのは欺瞞だ。

そしてその欺瞞をお前は許容し始めている。むしろ完全に許容してしまっているときだってあるだろう? 結局お前は高校生になって孤独がカッコイイとそう思ってそれっぽく振舞ってそれっぽいことを言って頭良さげにしているだけだ。それっぽいことを言えば自分を証明できる気がして青春は欺瞞だのと言っているだけだ。そんな姿の方がよっぽど醜い。そんな醜悪な姿で更にものを強請るなんてそんな行為、万死に値する。早く消えてしまったほうがいい。

 

自分の自意識さえ否定してしまう自意識の化け物。そのせいにしてしまえば今のように完全に否定してしまった俺自身を守る事だって難しくは無いのだと思う。ただ、ぼっちというのは基本的に誰のせいにもしてはいけない。自分の中の化け物であってもそれのせいにすることなんて出来ないのである。だからこそ、今、こうやって否定したのは俺の一つの答えになりうる。

きっと、あの時よりも今の方が求めてはいけない理由が大きく強くなってしまっているのだ。だからあの時のように思考を進めようとしても壁が出来てしまう。いつだったか、俺は青春に壁がつきものであると考えていた。だとすればきっとこの瞬間も青春なのだろう。きっと青春だ。それは否定しない。万人があこがれて何とか謳歌しようと躍起になる青春だ。

――――けれども、俺はそんな青春は間違っていると思う。

先に進まなければならないのに絶望的な高さの壁が出来て道を塞ぐんだったらそんな青春は間違っているし要らない。おそらくその間違った青春が世間一般には正しいんだろう。俺が間違っているのも重々承知だ。けれどもその世間一般はもっと間違っていて、そんな間違ったところから見た俺の青春はきっと随分間違っている。

そんなのも全部許容してしまおう。もう、俺の青春が間違っていればいい。本物に手が届かないのかもしれない。そんなのもう分かった。しつこいほどに問い直されて否定されてそれでやっと分かったのだ。――否、もっと前から分かっていて目を背けていただけだ。自意識の化け物なんて言い訳をしてなんとか目を背けようとしていたのだ。目を背けることを今まで正当化してきてその有様がこれだ。もう、考えることすら出来なくなるほどに残酷な自意識に呑まれたその姿はあまりにも滑稽で自虐的な笑みが零れ落ちてしまう。

「ハハッ……ざまあみろ。あんだけ逃げたんだからこうなるのなんて分かってただろうが」

駄目だった。ヒントを与えられて宿題を与えられても宿題の答えを見つけ出すことが出来なくなってしまった。あの頃の本物を求めた俺の気持ちが分からなくなってしまった。推測することすら許されず自らの自意識が途中までの解を喰らい尽くしてしまう。

人と人とのつながりは本当に麻薬だ。知らず知らずに依存して、そのたびにじんわりと心を蝕むし誰かに頼らなければ何も出来なくなってしまう。何より、一度断つことに成功しても始める前にはどうしても戻る事が敵わない。まったく、なんて恐ろしい麻薬なのだろう。奉仕部という部活そのものが、その麻薬を配り歩くような残虐的な部活なのではないか、と言う疑念すら湧いて来て吐き気がしてしまう。魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教える。そんな風に言い訳をすれば手を差し伸べる事が許されるという風に考えてしまって結局、その人間に麻薬を渡してしまったのだ。そしてなによりの麻薬の依存者が俺だ。

事実、俺は奉仕部での人とのつながりを受験云々の名目で断っていた。そして今日、こうやって依頼を受けて話を聞いても初期の頃とは全然違う人間になってしまっている。比企谷八幡と言う人間がまったく別の人物に塗り替えられてしまっている。

――――――――無理だな。

 

結局、いくら考えてもその日は、何一つ答えを出せなかった。

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