模々具和公記~歴史を記した魔道書の竜王~   作:倉雲

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またの名を、それぞれのR18確認。


第一話 ソレハ キョウフニモ ニテ

「どうかなさいましたか?モモンガ様」

 

オロオロと、白いドレスを着た女悪魔は、自らの愛する主に声をかけた。

本来ならば最も尊き至高の御方に、(しもべ)が自ら話しかけるなど在ってはならない事だ。

しかし先程の苛立ちを含んだ主の声を聞いてなお、怒りと驚きをあらわにしながら玉座から立ち上がった主を前にしてなお、ただ座して待つなど彼女には……アルベドにはできなかった。

 

「じ……GMコールが利かない」

 

わずかな間、怪訝な―――その尊顔は髑髏であるが、アルベドにはそう思えた―――表情(かお)を浮かべた後に、主は短くそう返した。

 

「じーえむこーる……?」

 

創造者タブラ・スマラグディナから与えられた、ナザリックに仕える者達の中でも特に秀でた頭脳を働かせ、アルベドは一体何が自らの愛する主をあれほど苛立たせたのかと考えた。

しかし彼女に並ぶ者は他に二名しか居ない―――至高の御方を除けばではあるが―――ナザリック最高の知恵をもってしても、答えは出なかった。

そもそもアルベドには『じーえむこーる』なる存在が何かわからない。

 

「……セバス」

 

彼女が己の無知を恥じている間に、主は執事に命じる。

 

戦闘メイド(プレアデス)から一人を連れてナザリックの外、周辺地理を確認せよ。範囲は墳墓を中心とした半径1㎞とする。その際、知性体を発見した場合は可能な限り友好的に交渉しナザリックに連れて来い。相手側の要求をある程度は認めて構わない」

 

続いてメイド達にも命令を出す。

 

「セバスについていく者は、知性体と戦闘になった場合ナザリックに即帰還し情報を伝えよ。それ以外のプレアデス達は第九階層に移り第八階層から侵入者が来ないか警戒にあたれ」

 

「畏まりました。モモンガ様」

 

セバスが返事をし、メイド達を連れて玉座の間をあとにする。

 

「モモンガ様……私は、いかがいたしましょう?」

 

アルベドも主からの命令を欲して、指示を仰ぐ。

 

「……あ~、うむ。アルベド、私の元まで来い」

 

「はい」

 

近くに寄れとの命令をもらい、思わず歓喜の声で答えてしまった。

先程からの主の様子や、セバスへの命令等から、今はナザリックに何かしらの非常事態が起きている可能性が高いというのにも関わらずだ。

不謹慎であったと反省し、主モモンガの前で背筋を伸ばしてシャンと立つ。

 

「触るぞ」

 

「あっ」

 

骨で出来た手が、アルベドの手首を掴んだ。

主が持つ常時発動型の特殊技術(パッシブスキル)の一つ『負の接触(ネガティブ・タッチ)』効果により、触られている個所にはわずかな痛みがあるが、アルベドにしてみれば褒美以外の何物でも無かった。

愛する者から刺激を与えられ、欲情しそうになる我が身をおさえていると、その様子が痛みに耐えているものと見えたのだろう、モモンガが手を放した。

 

「すまないな。負の接触の解除を忘れていた」

 

「どうかお気になさらず。モモンガ様から与えられるのであれば、痛みもまた悦びです」

 

「うー、あー……そうか」

 

改めて、モモンガがアルベドの手に触れる。

数秒の間、何かを確かめるかのように主は彼女の細腕を掴んでいたが、次にその手が離れた時、意を決した様子でモモンガは彼女を真っ直ぐ見てこう言い放った。

 

「アルベド……む、胸を触っても良いか?」

 

「くふぅー!!」

 

愛おしき主からの、思いがけぬ問いかけに、アルベドの口から歓声が漏れる。

この時、既に彼女の頭からは『モモンガが先程まで何事かに対して苛立ちを見せていた事』『今は非常事態であり自分の主は何かしらの確認作業をしている』といったことが全て綺麗さっぱり消えて無くなっていた。

 

「構わにゃ……ないな?」

 

「勿論です。どうぞお好きになさってください!!」

 

グイッと前に突き出された胸部に、白い骨の掌が伸びる。

 

(嗚呼、モモンガ様の御手が、私の胸を、胸を……)

 

負の接触は解除されており、刺激自体は先程手首を触られた時の方が強いだろう。

しかしそれ以上に愛する者に胸を触られているという状況は、比べようも無い快感をアルベドにもたらした。

 

「アルベド、すまなかったな」

 

「ふわぁ……」

 

一体どれほどの間、そうしていたのだろう。

一瞬にも永久にも思える時間の後、モモンガの手はアルベドの胸から離された。

暴力的な快楽からやっと解放された彼女は、呆けたように吐息を漏らして、言葉を続けた。

 

「私は、ここで初めてを迎えるのですね?」

 

「……え?」

 

主が困惑している事にも気づかず、アルベドはさらに続ける。

 

「服は如何いたしましょうか?私が脱ぎましょうか、それともモモンガ様の手で?勿論モモンガ様が望むのであれば着たままでも……」

 

「よせ、よすのだ。アルベド」

 

「は?畏まりました」

 

モモンガに制止されて、興奮していたアルベドも多少の冷静さを取り戻す。

 

「今はそのような……いや、そういうことをしている時間は無い」

 

彼女は主の言葉に、先程までの様子を思い出し慌てて謝罪を口にする。

 

「も、申し訳ありません!なんらかの緊急事態だというのに、己が欲望を優先させてしまい」

 

その後モモンガは彼女を許し、ある命令を出した。

その命令を遂行すべく、アルベドは玉座の間から退室する。

 

「この場合は、ヴィクティムとガルガンチュアは外した方が良いわね……」

 

扉を出てすぐに、アルベドは愛する主からの命令を頭の中で反芻する。

その命令とは、『第六階層を除いた各階層守護者に、今から一時間後に第六階層の闘技場(アンフィテアトルム)に来るよう伝えよ』と言うものであった。

しかしこの命令には二名の例外が居ると、アルベドは判断した。

第四階層守護者ガルガンチュア、及び第八階層守護者ヴィクティム。

両者共に、それぞれの事情により今はまだ動かすべきでは無い存在だ。

モモンガは明言した訳では無いが、そうした細かい判断は守護者統括である自分でくださねば、主の手を煩わせる事になってしまう。

一を聞いて十を知るのが良い臣下というものだ。

何より先程の失敗を取り返す為にも、自分は与えられた仕事はキッチリとやらねばならない。

 

「〈伝言(メッセージ)〉」

 

早速アルベドは連絡用の魔法を発動させた。

すると魔力の線が伸び、何かを探しているようなイメージが頭に浮かぶ。

その間も彼女は、第七階層へと向かう足を止めはしない。

やがて魔力の線のイメージが、探していた何かと繋がったものに変わる。

 

「……叔父上様でしょうか?」

 

 

 

 * * *

 

 

アゼルリシア山脈のふもと、南側には山脈を包み込むかのようにトブ大森林が広がっている。

そしてその森の北部には、瓢箪型の湖が在りその周囲には湿地帯が広がっていた。

湿地帯の広さは南側だけでも、湖を取り囲むように七つの村ができて―――現在では二つ減り五つだが―――なお余る程だ。

しかしその村々に棲む者達にとって、重要なのは湿地帯よりも湖の方であった。

何故なら彼らは魚を主食とする―――木の実等、他の物も食べられるが―――種族、蜥蜴人(リザードマン)であったからだ。

そんな蜥蜴人達が大切にしている、ある種神聖視すらしている湖の南側半分、その中心に突如として巨大な建築物が現れた。

彼らに知識が有れば、その建物を城と呼んだだろう。

しかし一生を生まれた村ですごす者がほとんどである蜥蜴人達には、あれほどの大きさの建物を見るのすら初めてのことであった。

 

「い、一体何がおこったんだ!?」

 

奇しくも、その城を外から見た者達と、その城の中に居る者の思いは同じであった。

しかし外からその城を見ている者達がしばし混乱、呆然としている最中にも、その城の主たるキソ・テンリュウサイ・チクマは既に冷静さを取り戻していた。

 

「匂いがある……口から息をすれば確かに空気に味があるし、意識を舌に集中すれば

口内の味も感じられる」

 

ユグドラシルにおいて嗅覚と味覚は実装されていなかった。

これは法律上そうせざるおえないからであり、基本的に全てのダイブ式ゲームでも同様だ。

故に現在のこの状況はパッチを当てただとか超大型アップデートだの続編の開始等では断じて在り得ない。

 

「……これが、『味』か」

 

プレイヤーネーム、キソ・テンリュウサイ・チクマ。本名黒森ワカバがDMMORPGユグドラシルにのめりこんでいったのには訳があった。

彼は生まれつき目と、耳と、舌に障害を持っていた。

彼の眼は色を見分けられず、彼の聴く音には常にノイズが混ざり、彼は『味』というものを知らずに育った。

しかしそのおかげか他の三感は非常に優秀であったため、特に日常生活に不自由することは無かったが、それでも初めてユグドラシルをプレイした日に受けた衝撃を、彼が忘れることは決してないだろう。

プレイヤーの目を通さず、耳を通らず、うなじのコネクタからコードとナノマシンにより脳へ直接届けられる情報は、ワカバに新しい世界への扉を開かせた。

ユグドラシルこそが、彼が初めて触れた『色の有る、雑音の無い世界』だった。

そんな彼だからこそ、『五感の全てが十全に使える』という今の状況に、冷静かつ大胆に『常識を捨てて考察する』事が出来ていた。

 

「これは『酸味』『甘味』『苦味』、それに『えぐ味』ってやつなのかな?」

 

アイテムボックスから水薬(ポーション)を取り出し、味わってから飲み込む。

その際に舌先を強く噛み、傷を作ったのだがそれも直ぐに治って消えた。

 

「今後も要検証だけど、多分アイテムの効果はゲームと変わらず有効。と……」

 

次はゲーム時代に取得した特殊技術(スキル)と魔法の確認をしたいところだが、チクマは既に、確信にも近い予感を持っていた。

 

「おそらく『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』と同じパターンだな……」

 

チクマの―――つまり黒森ワカバの―――父親は古書のコレクターであり、自宅の書斎には数多くの本が有った。

その中には二十一世紀初頭にブームとなっていたらしい、『異世界モノ』と呼ばれるジャンルの物も当然含まれる。

それらを以前一通り読んだことがあったというのも、チクマが冷静さを取り戻せた理由の一つだろう。

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』と言う小説のあらすじは簡潔に言えば、『廃ゲーマーがプレイ中に寝落ちして気がついたらゲームキャラの能力と姿で異世界に居た』というものだ。

これは所謂『異世界モノ』におけるテンプレートの一つでもあり、主人公が偶然により突然に得た筈の能力を最初からある程度―――あるいは完全に―――把握していることへの理由づけに使われる手法だ。

他にもテンプレとしては、『この世界がゲームだと俺だけが知っている』や『フェアリーテイル・クロニクル~空気読まない異世界ライフ~』のように『ゲームの中の世界に、レべル1で転生・転移(トリップ)』というのもあった。

しかしチクマは、とある事情により自分がレベルダウンしていないことを確信していた。

ならば今考えねばならない事は……。

 

「ここはユグドラシルなのか?それとも別の世界か……」

 

天守から見える外の景色は、少なくともグレンデラ沼地ではなさそうだ。

 

「大きな池の真ん中に転移したのか……ん?あれは蜥蜴人か?」

 

周囲の湖を見渡していると、泳いでいる三人の蜥蜴人を見つけた。

先頭を行く一人はチクマと比べてひとまわり小さく、つづく二人は更にひとまわり小さい。

そしてどうやらこの三人はこの城に向かって来ているらしい。

 

「まあ普通、突然こんな(もの)が現れたなら調べようと思うよね」

 

しかし彼らを城の内部に入れるわけにはいかない。

このサム・アザーズ・スタートのギルドホーム『グレンデラ城』はチクマが『システム・アリアドネ』―――攻略が不可能な拠点をプレイヤーが作れないようにする為のユグドラシルのシステム―――の限界に挑んだ作品だ。

全八階層、地上一階から入り次の二階を攻略すると地下一階へと転位する。そして地下二階、地下三階と順次攻略し地下五階を突破してはじめて地上三階、現在チクマの居る天守にたどり着ける。

自分で創っておいてなんだが、各階のギミックの数々や設置されているNPC達のビルド、それらはまさに鬼畜の所業と言えるだろう。

例え今こちらに泳いでくる彼らがカンストプレイヤーであろうとも、たった三人では攻略不可能だ。

しかしこちらとしても、彼らは貴重な情報源なのだ―――現地人なのか自分と同じく転移してきたユグドラシルプレイヤーなのか、はたまたまったく別の何かという可能性もあるが―――それが失われるのは絶対に避けたい。

 

「一階に降りて、城の入り口前で待とう。おっと、万が一戦闘になってこれ(ギルド武器)が壊されたらまずいな……これで良し〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉」

 

天守の入り口からみて最奥の壁、他にも太刀や槍が横にして掛けられているその最上段。

ギルド武器『大罪と美徳の巨鎌』を定位置に戻し、魔法を発動させる。

チクマに使える転位系の魔法としては最も低位のものだが、問題なく目的地に移動する事が出来た。

 

(転位阻害は無し、と)

 

しばし、といっても一分にも満たないだろう時間を待っていると、三人の蜥蜴人が城の入り口前にある階段―――下の方の数段が水没している―――までたどり着いた。

チクマもそこまで歩き、彼らが上り易いように上から手を伸ばす。

先頭に居た一人は、目の前に現れた白い腕で初めてチクマの存在に気が付いたようだ。

一瞬警戒した後、直ぐにチクマが同族であると気づくと警戒を解きその手を取った。

 

「ありがとうよ。しっかし、俺達が一番乗りだと思ったんだがなぁ。お前はどこの部族だ?俺は『竜牙(ドラゴン・タスク)』族族長のゼンベル・ググーだ」

 

ゼンベルと名乗ったその男は、身長こそチクマに一歩及ばぬもののその右腕はチクマのものと比べても決して見劣りしないほど太く鍛え上げられており力強さが感じられた。

しかしそれ故に、体格相応の左腕が寂しくアンバランスにチクマには思えた。

 

(〈魔法無詠唱化・生命の真髄(サイレントマジック ライフ・エッセンス)〉……)

 

相手に気づかれないよう、無詠唱化の強化スキルを使用した上で対象の残り体力がわかるようになる魔法を発動させる。

続いて同じように〈魔力の真髄(マナ・エッセンス)〉と〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉の魔法を使う。

前者は相手の魔力残量が、後者は装備品の詳細を知ることができる魔法だ。

 

(体力はレベルにして前衛職20前後、魔力量から考えてビルドに魔法職は含まれていない。そして……『山小人(ドワーフ)からもらった槍』?)

 

ひときわ異彩を放っていたのは、ゼンベルが手にしていたハルバードだ。

もっと良い名前はなかったのかとチクマは思ったが、それを顔に出す事無く考察を続ける。

等級は上級……上級と言えば聞こえは良いが、ユグドラシルでは下から三番目のランクだ。

 

(そんな低位の武器が、冶金技術に優れ古くは神々の装備をも手掛けたと言うドヴェルグ(ドワーフ)の作?)

 

チクマは疑問をおぼえたが、同時にその疑問に対する解答も頭に浮かんでいた。

おそらく『異世界転生に感謝を』という小説と同じパターンなのだろう。

この作品も『ゲームをしていたらゲームとよく似た異世界へ』といういわゆるテンプレモノではあるのだが、チクマの現状のように『廃プレイヤーがレベル100キャラで』とは大きく異なる。

この作品の主人公は『チュートリアルステージが終わったと思ったらいつの間にか異世界に居た』というパターンだ。

その際、装備品・所持品・所持金がそのまま異世界に持ち込めたのだが、ゲームでは所持金の最低単位である1ゴールドがその世界では高額である大金貨一枚となっていた。

このことを作中で主人公は『言葉の意味がそのまま解釈された結果』と考察していた。

 

(上級アイテムが文字通り上級なら、この世界で遺産(レガシー)級以上のアイテムはどういう扱いなのか……こちらも調べる必要があるな)

 

他にも何か判る事は無いかと、改めて良く観察する。

 

(口の両端が斬れてる。あと、よく見たら左手は小指と薬指が無くなってるな……)

 

最後に、魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)のスキルを加えた〈付与魔法探知(ディテクト・エンチャント)〉を使用して今までに得た情報に間違いがない事を確認する。

 

(やっぱり虚偽情報(フォールスデータ)系の魔法もかかって無い……)

 

チクマはこの時点で、このゼンベル・ググーと言う蜥蜴人は十中八九―――もっと言えば九割九分九倫―――現地人だと判断した。

ユグドラシルにおいてロマン主義者、いわゆるドリームビルドのロールプレイヤーは嫌われる傾向にあった。

チクマやモモンガのように全くいなかったわけではないが、その中でさらにロールプレイを初対面の相手に行うプレイヤーはほぼ皆無といって良いだろう。

つまりゼンベルの姿や先の台詞は、ユグドラシルプレイヤーらしからぬものと言える。

加えて言えば、ユグドラシルプレイヤーならば、例え同種族の相手でも警戒を解いたりはしない筈だ。

チクマはそう結論を出すと、ゼンベルに返事をするべく、親指で城の入り口をさし言った。

 

「詳しい事は中で話そう。それより今は残りの二人を早く引き上げてやろう」

 

かつて実在したという数々の名城を参考に創ったギルドホームは、その入り口に至る階段もかなりの角度をつけて造られており、さながら梯子や脚立のようであった。

元々三メートル近い身長を持つチクマに合わせた階段であることもあり、ゼンベルよりもさらに小柄な―――正確にはチクマの方が大きいだけなのだが―――二人は未だ登れずにいた。

 

「ああそうだな、じゃあそっちの奴は頼む」

 

「黄色い模様が有る方だな、わかった」

 

ゼンベルが小柄な蜥蜴人二人の内、これといった特徴が無い方に槍の石突きを差し伸べ掴ませる。

チクマもそれを見て、自分もアイテムボックスから適当な長柄武器を取り出してもう一人の蜥蜴人の手に握らせる。

 

「なっ!? 今のは小型空間(ポケットスペース)か?」

 

ゼンベルに引き上げられた蜥蜴人が何やら驚いて声を上げた。

 

(アイテムボックスはまずかったか?)

 

現地人(彼ら)には使えない能力(もの)なのかもしれない、しかし似た魔法かスキルはこの世界にもあるらしいことがわかった。

 

「何で驚いてるんだ?白いのが魔法使うのは当たり前だろうが」

 

「けど族長、族長よりでかい躰した奴がだぜ?」

 

(まあ筋骨隆々の魔法詠唱者(マジックキャスター)とか、何の詐欺かと思うよね……それにしても、『白いのが魔法使うのは当たり前』、か……)

 

ゼンベル達の会話から、チクマは情報を拾う。

どうやらこの世界でも、蜥蜴人と|蜥蜴人覚醒古種《リザードマン アウェイクン・エルダーブラッド》の差異とでも言うべきか、それぞれの種族特性や適正職業はユグドラシルと同じらしい。

 

(全然違った所もあるかと思ったら、妙に相似してたりして、この世界は何なのかな?)

 

もしかすると過去に幾人もの転移者・転生者がおり、彼等が元居た世界に―――この場合はユグドラシルに―――この世界を近づけたのかもしれない。

ワカバ(チクマ)が読んだ小説の中には、そういうパターンもあった。

『デスマーチから始まる異世界狂想曲』や『まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる』等だ。

 

(単純な現代知識による技術革新(ブレイクスルー)段階移行(パラダイムシフト)だけじゃコウは成らないけど、世界級(ワールド)アイテムの内、『二十』の何かを使ったとしたら……)

 

今はまだ仮説の域を出ないが、その可能性もある事は頭の片隅に常に置いておいた方が良いだろう。

 

(一、スキルや魔法、アイテムの効果に変化が無いか。二、この世界の適正レベル、装備やアイテムのレアリティ相場。三、過去や現在における他のユグドラシルプレイヤーの存在の確認……)

 

情報を新たに得れば得る程に、新しく調べるべきことも増えていく。

 

(こんな時にもモモンガさんが居れば……いや無い物強請りしても仕方がないか)

 

ひとまず今は情報を得ることを最優先にして、考察は後回しにすることに決めたチクマは三人の蜥蜴人、客人達を城内に招き入れる。

 

「さて、まず初めに話しておくが、俺こそがこの(いえ)の主だ。と言っても住んでいるのは俺独りだけで、ほかには動像(ゴーレム)が何体かあるくらいだがな」

 

「「なっ!?」」

 

チクマの台詞を聞き、ゼンベルを除く二人が警戒をあらわにする。

ゼンベルはそんな二人を護る様に前に立ったが、それは彼等を安心させる為なのだろう。

槍を手にしながらも、彼からはチクマに対する敵意や警戒心は感じられなかった。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。テンリューサィ・キソーと言う者だ」

 

おそらく本来ここで名乗るべき純和風である(キソ・テンリュウサイ・チクマという)名前は、この湖の蜥蜴人達にとっては奇妙なものに聞こえるだろうと、『ゼンベル・ググー』の語感に合わせた偽名を使う。

 

「わかった、テンリューサィだな。さっきも言ったが俺はゼンベル・ググーだ。で、コイツ等は……」

 

ゼンベルが名乗るよう後ろの二人に促すが、二人はまだ警戒して口を開かなかった。

 

「すまねぇな、コイツ等も根は良い奴らなんだが……」

 

「いや、気にしないでくれこの状況じゃ仕方がないさ。それよりお互い聞きたい事があるだろう」

 

チクマは謝罪を受け入れ、会話の先を促す。

 

「ああ、じゃあ……なんでこのデカい建物は急にここにでてきたんだ?」

 

「それは俺にも解らない、気がついたら住処ごと見知らぬ場所、この湖に居た。ただ信じて欲しいのだが、俺に敵対の意思は無い。それで族長殿」

 

「堅苦しいな、ゼンベルで良いぜ」

 

「ではゼンベル、俺からも聞きたい事が有る。さっき君は自分達が一番乗りだと思っていたと言い、その後俺がどこの部族かと訊いたが……つまりそれは、この湖周辺には竜牙族以外の部族も在るということだな?」

 

「おう、俺達の他には今は『緑爪(グリーン・クロー)』、『小さき牙(スモール・ファング)』、『鋭き尻尾(レイザー・テイル)』、『朱の瞳(レッド・アイ)』の四つだな」

 

「そうか、四つか……」

 

チクマは口元に手をやり、どうしたものかと考え込む。

会話が途切れ、いぶかしんだゼンベルが問いかけた。

 

「どうしたテンリューサィ」

 

「いやなに、明日以降、他の部族が(ここ)に敵意を持って訪ねてくる可能性は高いのだろうかと考えていた」

 

チクマにしてみればこの転移は全くの『予期せぬ事故』であり、元々この湖に住んでいた者達の生活を荒らすつもりはない。

しかし「ここに城があるだけでも邪魔だ、出て行け」などと言われても困る。

竜牙族とはこうして族長と話す機会を得たが、他の部族には話をしにこちらから向かうべきなのだろうか。

そういった事をチクマはゼンベル達三人に語った。

 

「なるほどな、ならいい方法があるぜ。これなら誰も文句は言わねぇ筈だ、少なくとも竜牙族の奴はな」

 

正直チクマから見て、ゼンベルは余り頭が良さそうには思えなかったが、ここは郷に入らば郷に従えの精神で彼の提案に乗ることに決めた。

 

「素直にありがたく知恵を借りるとしよう。それで、どんな方法だ」

 

待って増したと言わんばかりにゼンベルは笑みを浮かべて言った。

 

「俺と戦って勝てばいい、そうすりゃお前が竜牙族(俺達)の新しい族長様ってわけよ」

 

コイツは何を言っているんだろうという気持ちでゼンベルの後ろに立つ二人に目をやれば、二人もまた『呆れ』の表情を顔に浮かべていた。

一人は「やっぱりか」、もう一人は「またか」と言った様子だ。

 

「ゼンベルはこう言っているが、二人はどう思う?」

 

彼等の意見も聞く、もしかしたらこの世界の、この湖周辺の蜥蜴人としてはゼンベルの方が普通(スタンダード)なのかも知れない。

チクマの視線を受け、黄色い模様の有る方が話し出す。

 

「まあ、普通は各部族の族長は数年おきに儀式で決めるものだからな。あんたも驚いただろうけど、竜牙族では一番強い奴がなる掟なんだよ」

 

どうやら竜牙族は他の部族と比べても特殊なようだ。

ならばその族長たるゼンベルは、実は蜥蜴人の中でも変わり者の最たるものなのかも知れない。

そんなことを考えていると、もう一人が説明を受け継いでくれた。

 

「だから旅人であるゼンベルが族長でも誰も不満は無い、お前がゼンベルに勝ったのならお前が族長になり湖の真ん中に住んでいてもそれは同じだろう」

 

族長が一人だけ村を離れて暮らしているというのもどうなのだろうとチクマは思ったが、つまり権力が有るということは自由にふるまえるということなのだと考えれば納得もいく。

その上でゼンベルの提案には気になる点が在ったので確認する。

 

「しかしそれでは、他の部族からの敵意はやはり向けられてしまうのではないか?」

 

「お前が俺に勝ったなら、文句を言う奴はまず居ないだろうな」

 

問題ない、とゼンベルが答える。

 

「どういうことだ?」

 

「俺達竜牙族は、何よりもまず『強さ』を尊ぶ、そしてそんな竜牙族は全部族で最大の武力を持つ。その族長に面と向かって何か言える奴は少ねぇ」

 

なるほど下手をすれば部族間での戦争になりかねないのならば、クレーマーはその周囲の者達が必死になって止めてくれるだろう。

 

「その『竜牙族は何よりも強さを尊ぶ』っていうのは他の部族にも知れ渡っていることなのか?」

 

そうでなければ、ゼンベルの言葉は机上の空論にすらもなっていないのだが……。

 

「元々他部族との交流はほとんど無いからなぁ。でも、元はよそ者の俺もそれくらいは知ってたぜ」

 

チクマの問いには黄色い模様のある蜥蜴人がゼンベルに代わり答えた。

 

「まあ、そもそもウチの族長が行動力ありすぎなだけで、他の村の奴らはずっと黙って見ているだけかもしれねえけどな」

 

自身を元はよそ者だと言ったその蜥蜴人は言葉を続ける。

 

「でもそうじゃねえかもしれねえ。その時あんたが族長か、それともどの部族でもないただの蜥蜴人かで相手の態度は全然違うもんになるんじゃねえか?」

 

それはこの男の言う通りだ、チクマにしても現地人達の族長となるというのは情報収集の面等で利が在る話だ。

しかし気になる事が有る。

 

「それはそうだろうが……君は、俺とゼンベルに戦って欲しいのか?」

 

「……あー何と言うかなぁ」

 

話しても良いものだろうかと悩んでいる様子だ。

ゼンベルが照れくさそうに顔を背けた、どうやら彼に関する話されたくない話題のようだ。

しかしゼンベルも、黄色い模様の彼が話すのを止めようとまでは思っていないらしく、彼が口を再び開いてもおとなしくしていた。

 

「ゼンベルは、まだ族長になる前にある蜥蜴人に負けた。再戦を誓って鍛え直したけど、それが叶う前に相手は……」

 

「わかった、戦おう」

 

そこまで言われればチクマにも大体の事情は呑み込めた。

 

(叶わなかった決着、ライバルを失った男……俺はそこに現れたライバルの面影を持った謎の男ってとこか。スポ根漫画とかでありそうな、ベタな話だな)

 

だが、だからこそ気に入った。

チクマはこういったテンプレ物が大好きだった。

それにゼンベルの強さはゲームで(ユグドラシル)のレベルにして20前後の筈であり、万が一の時にもチクマは即時蘇生用のアイテムも装備している。

安全マージンは十分に取れている筈だ。

それでいて茶番(ヌルゲー)になるとも限らない。

ユグドラシルには無かった、この世界独自の魔法やスキルは存在するらしいのだから。

 

「よっしゃあ!!なら今から始めるか?」

 

ゼンベルが歓喜の声を上げ、チクマに確認する。

しかしチクマは冷静に返した。

 

「いや、族長を決める戦いに、見届け人が二人だけと言うのもな……」

 

「おれ、長老会の誰かを呼んでくるよ」

 

「爺さんをここまで泳がせるのか?無理だろ」

 

黄色い模様の蜥蜴人が提案し、もう一方の蜥蜴人がそれを却下する。

 

「なら、俺が竜牙族の村まで行こう。三人は先に帰っててくれ」

 

チクマが先程飲み干したポーションの空き瓶を手渡しながら言った。

 

「ゼンベルはこれを村に持ち帰ってくれ。そうしてくれれば、俺は魔法を使って竜牙族の村の位置を知ることができる」

 

何の変哲も無いガラスの小瓶をしげしげと見ながら、関心したようにゼンベルが言う。

 

「へぇ、魔法ってのはすげぇな」

 

了解の意を示し、ゼンベル達三人は城の外へ出ていく。

やがてその背中が見えなくなると、ザブンという水音が三つ鳴った。

 

「さて、どうしたものか……」

 

システム・アリアドネに触れる恐れがあるため、城の入り口を塞ぐことはできない。

この世界ではシステム・アリアドネが働いていない可能性も勿論あるが、賭けをするにはリスクが高すぎる。

 

「留守番を置こうにもこのギルドホーム自動湧きの(POP)モンスターいないし、NPCは一体を除いて自我を持たない設定のゴーレムだけだし……」

 

グレンデラ城は違ったが、おそらくNPC達が居るギルドホームが転移していれば、彼等は設定通りの自我を持っていたのだろう。

重ね重ね、ナザリック地下大墳墓もこちらに来ている事を願うばかりだ。

 

「傭兵モンスターは今後の事も考えるとユグドラシル金貨の使用は危険だ。特にこの世界でも安定してユグドラシル金貨が得られるようになるまでは……」

 

効率の良い、エクスチェンジ・ボックス―――素材やアイテムをその原材料に応じた額の金貨に変えるアイテム―――に放り込む為の素材とか運良く手に入らないだろうか。

 

「召喚モンスターじゃしばらくしたら消えちゃうしな……あ、そうだ」

 

ユグドラシルにおいて、召喚された存在は一定時間の経過で消滅してしまう。

しかしその例外である存在達を呼び出せるアイテムを、チクマは持っていた。

 

「あった、『小鬼(ゴブリン)将軍の角笛』」

 

アイテムボックスから無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)を取り出し、更にそこから無限の背負い袋を取り出し、その中からようやく目当てのアイテムを取り出した。

『小鬼将軍の角笛』、レベル12から8のゴブリンの一団計19体を召喚するアイテムだ。

特筆すべき点は、このゴブリン達は時間経過では消滅しないということだ。

しかし呼び出せるゴブリン達のレベルが低いことと、主な入手方法が課金ガチャであるために、ユグドラシルではあまり人気の無かったアイテムだ。

チクマが笛を吹くと、何処からともなく目の前にゴブリン達が現れた。

 

「へい旦那、何用ですかい」

 

ゴブリンにしてはキリッとした顔立ちをしている気がする、ゴブリン達の内の一人が口を開いた。

 

「やあゴブリン・トループの皆、実は頼みたい事は留守番なんだけどね」

 

チクマが小鬼の騎兵(ゴブリン・ライダー)の乗っている狼の頭を撫でながら言った。

 

「レベル100のゴーレムを一体、リーダーに命令権を与えておくけど、来客がきたら戦闘は基本厳禁。ここの主は竜牙族の村に居ると伝えてお帰りねがえ、相手がここで待つと言うなら城に上げてもいいけど、この部屋以外には入れるな」

 

頼みたい事を伝え終わると、先頭の小鬼の指揮官(ゴブリン・リーダー)が返事をする。

 

「了解でさぁ」

 

「あ、言い忘れてた。多分お客が来るとしたら相手は蜥蜴人だから、主が同族であることも伝えてくれ」

 

「へい」

 

「じゃあ、夜明け前には帰るつもりだけど、場合によってはもっと遅くなるかもしれない。その時はコレの中から好きな物を食べてていいから」

 

無限の背負い袋を一つ、側に居た小鬼の魔法使い(ゴブリン・メイジ)に渡す。

その中身は低級の食材系素材アイテムだ。

 

「はい、いってらっしゃいませ」

 

ゴブリン達に見送られ、グレンデラ城をあとにする。

と言っても、今はまだ入り口から外へ出ただけだが。

 

「多分意味無いと思うけど一応ね……〈偽りの情報(フェイクカバー)〉〈探知対策(カウンター・ディテクト)〉これで良し、それじゃ〈物体発見(ロケート・オブジェクト)〉〈千里眼(クレアボヤンス)〉」

 

ユグドラシルでは情報収集系の魔法に対して阻害する魔法は勿論のこと攻勢防壁など自動迎撃(カウンター)も当たり前に行われていた。

先に発動させた二つの魔法はそれらに対しての最低限の守りを得るものだ。

チクマはそこまででは無いが、用心深いプレイヤーならば更に八種程の魔法を自身に重ねがけするだろう。

〈物体発見〉は先程ゼンベルに言った、『自分の知っているアイテムの現在地を知る』魔法だ。

そして離れた場所を見ることができる〈千里眼〉でその周辺を確認する。

 

「おっ、どうやらゼンベル達はもう村に着いたみたいだな」

 

チクマの視界には、高床式の木造家屋が湖のほとりにいくつも並んでいた。

 

「意外とゴブリン達を呼び出すまでに時間をかけてしまったのかな?まあいいや〈魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)・次元の移動〉」

 

念のため強化スキルを使用した上で、先程と同じ転位系の魔法を発動させる。

村の端の方となる湖の岸辺に転位し、村に向かって足を進める。

 

「止まれ、お前はうちの村の蜥蜴人じゃ無いだろ!?族長よりデカい奴なんて一度会ったら忘れる筈がないからな!!」

 

村の端に立つ小柄な蜥蜴人がチクマを見つけ、呼び止める。

 

「何処の部族だ!?竜牙族に何の用だ!?」

 

チクマに問う彼の声を聞き、他の蜥蜴人も何事かと集まってきた。

今はおそらく―――チクマが転移した時刻が元の世界(リアル)と同じく午前零時であれば―――深夜だが、結構な数の蜥蜴人が起きていたようだ。

これは多分、湖に突如城が現れた事が理由なのだろう。

それともチクマのイメージでは蜥蜴人は昼行性だったが、この世界の―――あるいはこの湖の―――蜥蜴人達は夜行性なのだろうか。

 

(……いや、よく見れば眠そうにしている奴が何人か居るな。それに集まったのは全員大人だ)

 

子供達はきっと寝ているのだろう、ならばあまり大きな声を出すべきでは無いなと思いながら、チクマは問いに答えた。

 

「俺の名はテンリューサィ・キソー、竜牙族族長のゼンベル・ググーとの約束を果たしにきた。ゼンベルの元へ案内願いたい。それが叶わないのであれば、せめてゼンベルにテンリューサィが来たと伝えて欲しい」

 

声を大きく張り上げたものではない、しかしそれでいて良く通る堂々としたチクマの名乗りに、それを聞いていた蜥蜴人達はザワザワと騒ぎだす。

 

「族長の知り合いなのか?」

 

「約束ってなんだろな」

 

「かっこいい……なんて立派な尻尾かしら」

 

「いやそれは身体が大きいから尻尾も相応にあるだけでしょ」

 

「おい、誰か族長に確認して来いよ」

 

「あの身につけている武具の、なんと見事なことか。特にあの鎧……まさか白竜の骨鎧(ホワイト・ドラゴン・ボーン)を上回るのでは!?」

 

「四至宝に?いやいや、それはありえないでしょう」

 

こうした喧騒も、今のチクマにとっては貴重な情報源だ。

耳を傾けながら『四至宝』『白竜の骨鎧』等の気になる単語(ワード)を拾い集め、頭の中のメモ帳に書き記していく。

しばらく待っていると、いつの間にかいなくなっていたあの小柄な蜥蜴人が帰ってきた。

 

「どうぞ。族長がお待ちです……俺について来てください」

 

どうやら彼がいなくなったのは、ゼンベルに確認を取ってくる為だったようだ。

そして先程とのチクマに対する態度の違いは、今はチクマを『族長の客人』としてあつかっているからだろう。

 

「案内、感謝する」

 

礼を告げ、言われた通り彼の後に続いて村の中を歩いて行く。

さらにその後ろのを数歩離れて周囲の蜥蜴人達もゾロゾロと続く、皆族長(ゼンベル)客人(チクマ)の『約束』が気になるのだろう。

ただ、蜥蜴人達の―――特にメスの―――視線が自分の尻尾に集まっている気がしてチクマは居心地が悪かった。

 

(なんか尻尾がムズムズする気がする……)

 

数分程歩き続けると、他の建物と比べて二回りくらい大きな建物が眼に入ってきた。

そのそばには開けた場所があり、その中央にゼンベルが立っている。

 

「来たぞ、ゼンベル」

 

「おう、やっと来たかテンリューサィ、待ちくたびれたぜ」

 

チクマとゼンベルが言葉を交わす。

周囲の蜥蜴人達は、チクマの先程の言葉に嘘が無かったと判り安堵する。

しかし続くゼンベルの言葉にそれは驚愕へと変わることになる。

 

「聞け!!竜牙族の蜥蜴人達よ、これから俺はこのオスと戦う。もしこいつが勝ったら、こいつが俺達の新しい族長だ!異論も反論も認めねぇ!」

 

その言葉に蜥蜴人達が驚いていることは、チクマにも理解できた。

しかしゼンベルがグレンデラ城にやってきた時、供をしていた二人がそうであったように誰一人として彼に異を唱える者は居なかった。

 

(なるほど……『何よりも強さを尊ぶ』と言うのは確かなようだ)

 

周囲に居た蜥蜴人達が離れ、チクマとゼンベルを囲むように円を描き並ぶ。

その円の中央が、二人の為の決闘の場(リング)ということだ。

 

「誰か、開始の合図を」

 

ゼンベルと向き合ったチクマが言う。

 

「わしがやろう」

 

円状に並ぶ観客達の中から、一人の蜥蜴人が前に出る。

チクマには彼の正確な年齢までは判らなかったが、結構な高齢に思えた。

 

「では……始めっ」

 

高齢の蜥蜴人が、上にあげた片手を下げ言った。

その直後、ゼンベルが一息に間合いを詰めハルバードを突き出した。

 

「む、惜しかったな」

 

チクマはその槍の穂先が、自身の身体に触れる直前に右手で槍の柄を掴み取ることで防いだ。

 

「ほう、今のを掴むかよ」

 

ゼンベルが面白そうにニタリと笑う。

 

「『矢捌き』という技だ。本来はその名の通り弓使いに対して使うものだが、この通り槍や剣にも―――っ!?」

 

ゼンベルがハルバードを手放しその手で拳打を放ち、チクマもハルバードを放しゼンベルの拳を、掌で受け止める。

 

「勿論、拳を相手にしても同じ事ができる」

 

ガシャンと、二人がほぼ同時に手を放したハルバードは大きな音を立てて地に落ちる。

 

「それにしても硬い拳だなゼンベル。君の本職は槍使いではなく修行僧(モンク)か?」

 

「だったらなんだ!?」

 

ゼンベルがチクマに握られていた拳を無理矢理引き戻し、次は爪による連撃をしかけてきた。

一手では無い、フェイントも含めた見事な連撃であった。

しかしそれらがチクマの身体に届くことは無く、チクマの右手によって時に逸らされ、時に阻まれ、その度に金属音が鳴る。

 

(かって)ぇな!お前もモンクか!?」

 

「いや、素で鱗が硬いだけだ」

 

実はこの一連の攻防の中で、チクマは数度の実験をしていた。

その結果、どうやら現在チクマが使用できる特殊技術(スキル)はユグドラシル最終日、つまり転移した時点で使用できたものに限るらしい。

もちろん装備による『外付け』のスキルは使用可能だが、要するにレベルダウンした後に別の職業(クラス)を取得したために使えなくなった『かつては使用できたスキル』は使えないらしい。

 

(『骸骨騎士様~』とは違う点だな……)

 

これが現実(リアル)であれば、転職したからといって以前の職業のノウハウを全て忘れてしまう訳じゃない。

だから使えるかも知れないというチクマの予想は、外れていたということだ。

 

「防いでばかりで、お前も攻めてきたらどうだ!?」

 

痺れを切らしたゼンベルが、流れを変えようとチクマを挑発する。

 

「そうだな……ところでゼンベル、先程から〈アイアン・スキン〉と〈アイアン・ナチュラル・ウェポン〉を使っているが〈抵抗する屈強な肉体(レジスタンス・マッシブ)〉は使えるか?」

 

「あん?それがどうした」

 

「俺は今から、君を殴る。その時、防御系のスキルは使えるだけ使っておけ。さもないと……死ぬぞ」

 

チクマが今まで使っていなかった左手でゼンベルを突き飛ばした。

ゼンベルの巨体が宙に浮き、後方へと弾かれる。

同時にチクマも自ら後方に飛び退き、両者の間には距離ができる。

 

「さあ、まずはこれを防いでみろ。ゼンベル」

 

チクマは尻尾を地面に叩きつけると同時に、ある『外付け』のスキルを発動させる。

それは〈フロスト・オーラ〉極寒の冷気によって範囲内の相手にダメージを与え、動きを低下させる効果を持つスキルだ。

だがチクマの目的はゼンベルにダメージを与えることでも、動きを鈍らせることでもない。

その目的は実験と……演出。

自分が族長と周囲から認められる為には、その強さが目に見えて判りやすい派手な技でゼンベルを倒す必要があると、チクマはそう判断した。

その前準備として、オーラの範囲を調節し自身とゼンベルの間に真っ直ぐな白い氷の道を創る。

 

凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)氷結爆散(アイシー・バースト)!?」

 

「いや違う。認めたくないが目の前で起こっているのは、もっと強力な何かだ」

 

パキパキと音を立てて地面が凍っていく様を観た、またそこから溢れ出る冷気の余波を浴びた蜥蜴人達が騒ぎ始める。

つい先程までは、族長を決める神聖な決闘の邪魔はすまいと静かに見守っていた彼らだったが、蜥蜴人達に伝わる四至宝の内の一つ、その能力を知る者が居たが故に、彼らは黙っている事ができなかった。

 

「ハハ、なんだこりゃ?震えが止まらねぇ、だが寒いからじゃねぇ!ましてや怖ぇからでもねぇ!!そうだ、嬉しいんだ。こんな強いオスと、戦えることがよぉ!」

 

そして、かつて凍牙の苦痛が有する氷結爆散の威力を、身をもって知った漢は歓喜する。

目の前に居るオスから放たれる冷気が、かつて受けたそれを上回ると確信したが故に。

 

「さて、これから放つ一撃は、今の俺が君に撃てる最高の一打だ!!」

 

距離が開いてなお届くゼンベルの声に負けないよう、チクマも大きな声で告げた。

正面のゼンベルに対して身体を斜めに構え、片足のつま先は真っ直ぐ前に向け、もう一方の脚は直角に開き真横に向ける、腰を落とし上半身を前へ倒す。

チクマの今の姿勢を、ユグドラシルプレイヤー―――更に言えば前世紀のスポーツ映像の鑑賞を趣味にする者―――が見れば、スピードスケート選手のスタート時を連想しただろう。

 

「いくぞ、ゼンベル!!」

 

「おう、来い。テンリューサィ!!」

 

氷でできた道の上を、チクマが奔る。

チクマはスケートに関しては素人だが、博物館には過去のオリンピック等の映像資料が豊富にあった。

更にチクマは寒い地方の出身であり、路面凍結(ブラックバーン)の上を転ばずに滑って進むくらいのことは出来た。

そんな彼が、異形種(モンスター)としての―――人間よりはるかに優れた―――肉体を得た今、以前目にしたアスリート達の動きを模倣するのはたやすいことであった。

そしてチクマは知らなかったが、実のところスピードスケートの世界記録と陸上短距離走の世界記録では、スピードスケートの方が速い。

 

「がっ!?」

 

瞬く間にチクマはゼンベルに迫り、腹部へめがけ渾身の一撃を叩き込んだ。

言われた通り防御系スキルを多数使用していたのだろう、今度は弾き飛ばされずに数歩分さがっただけだ。

しかしその直後、ゴポリとゼンベルの口からは血が滴り落ちる。

 

「俺の、負けか……やっぱ……強ぇな……テンリュ…サィ」

 

自身の敗北を認め途切れ途切れに、ゼンベルがチクマに称賛を贈る。

その姿に、チクマの眼が驚愕に見開かれ、彼もまた拳を交えた相手(トモ)を称える。

 

「あの拳を受け、その様な姿となってなお……未だ立つか、ゼンベル・ググー」

 

ゼンベルの腹部には円い風穴が空いていた。

その背中まで貫通するその穴から、チクマの目にはゼンベルの背後に居た狼狽えている蜥蜴人達の姿が見えている。

その傷の周囲は凍りつき、血が流れ出ることもない。その事がゼンベルが未だ辛うじて生きていることに繋がったのだろう。

しかし今彼は息をするのも苦しい筈だ、寒さで痛覚が麻痺しているなら、今すぐにでも意識を失ってもおかしくない筈だ。

そんな中で、ゼンベルはチクマに言葉を贈ったのだ、それも自分殺した相手に怨み言ではなく、認め褒め称える言葉をだ。

 

「お前……が、族…チョ……だ」

 

ゼンベルの言葉は続く。

チクマは自身の両眼から溢れ出る涙が止められなかった。

正直ゼンベルをレベル約20程度の雑魚だと侮っていた。この世界特有の何か(スキル)あるのなら見せて欲しいと、完全に上から目線で考えていた。

そんな自分が今はただただ恥ずかしく、この勝負に真剣に命を賭けて挑んだゼンベルに申し訳が無かった。

チクマが勝負に乗ったのは、彼我のレベル差や蘇生アイテムがあって安全を確保できていたからだ。

チクマには腹に風穴が空いてなお立ち続けることなどを出来ない。ましてやその状況で相手に称賛の言葉を贈るなど絶対に不可能だ。

だからこそチクマにはゼンベルが眩しく、自身が恥ずかしかった。

であれば、どうしてゼンベルを敗者と思えようか、どうして自分を勝者と誇れようか。

 

「死ぬな!!ゼンベル!!」

 

自然と、チクマの口からはそんな言葉が出ていた。

チクマには、それを聞いてゼンベルが笑った気がした。しかしそれが気のせいだと直ぐに悟る。

ゼンベルは既に、事切れていた。

 

「最期まで、膝をつく事無く……なんと威風堂々たる死に様かな」

 

いつまでも悲観してはいられない。チクマは腕で涙を拭い取り、ゼンベルに近づく。

 

「キソー殿、何を?」

 

開始の合図を務めた年寄りの蜥蜴人がチクマに問う。

チクマはそちらを見ずに答える。

 

「蘇生を試みる。ゼンベルはこのまま死なせて良いオスじゃない」

 

蘇生を試みると言うチクマの言葉に、周囲の蜥蜴人達にざわめきが広がる。

先程の〈フロスト・オーラ〉が使われた時以上の大きさだ。

 

「そうだ!司祭たちを呼ぼう、すぐに!!」

 

「そうだ、大儀式を!!」

 

「駄目だ魔法上昇(オーバーマジック)を使える司祭を含めて複数人……となると、他の部族の協力が必要になる」

 

「待って、新しい族長が何かするみたいよ」

 

彼等のざわめきも気にせず、チクマはゼンベルの遺体を横に寝かせ、その状態を〈道具上位鑑定〉の魔法を使い確認していく。

 

「〈修復(リペア)〉」

 

チクマが肌身離さず常に装備している、今日まで唯一手元に残った世界級(ワールド)アイテム『始原にして終末の焔』は、装備者に複数の恩恵をもたらす。

その中の一つには上位道具創造(グレーター・クリエイト・アイテム)等に代表される作製・生産系のスキルや魔法を強化するというものもあった。

例えば〈修復〉であれば、本来破壊されたアイテムに〈修復〉を使用すればそれで直ったアイテムの耐久値は破壊される前と比べて若干減ってしまうのだが、その減少がほぼゼロになる。

 

(……まさか、ここまでとは)

 

ゲームの設定が現実になったからだろうか、チクマが腹の風穴を治すつもりでゼンベルの遺体にかけた〈修復〉は、その欠損を全て直した。

裂けた口の端、失った左手の薬指と小指、全身の古傷……そして勿論腹部の穴も、綺麗サッパリと直っていた。

 

「おお!?」

 

その光景を最も近くで見ていた年寄りの蜥蜴人を筆頭に、さらにざわめきが大きくなる

 

「〈魔法抵抗突破最強(ペネトレートマキシマイズ)位階上昇化(ブーステッドマジック)死者復活(レイズデッド)〉!!」

 

ユグドラシルにおいて、魔法はかけられる側にその意思が有れば抵抗(レジスト)できた。

そのためチクマは〈抵抗難度強化(ペネトレート)〉のスキルでそれを難しくし、更に魔法が持つ効果や威力を、その魔法の振れ幅の中で最大まで高める〈最強化(マキシマイズ)〉のスキルを加え、最後に位階上昇まで付けた蘇生魔法を唱える。

 

「「「うおおお!?」」」

 

ゼンベルの腹が規則的に上下しだす。

それに伴い周囲の蜥蜴人達から大きな歓声が上がった。

 

「ぐ……ん?」

 

ゼンベルが目をパチクリと数度瞬かせ上半身を起こす。

自分の身に何が起こったかわからないと言った様子だ。

 

「俺は、死んだはじゅじゃ」

 

蘇生したばかりだからか、寝ぼけているようなものなのだろう。

ゼンベルは呂律が回っていない。

 

「ああ、一度は死んだな。だが君は死なすには惜しいと……いや違うな、死なせて良いオスじゃないと思ったんだ」

 

チクマが手を差し出し、立ち上がるように促す。

 

「はっそうかい。俺は死にじょこなっちまったか……ありがとよ」

 

ゼンベルが礼を言い、チクマの手を取る。

それは奇しくも、二人が最初に出会った時の様であった。

 

「おう、お前ら!!さっきも言ったが、これからはこのテンリューサィ・キソーが俺達竜牙族の族長だ!!異論に反論、うざってぇ事は一切認めねえ」

 

立ち上がったゼンベルが、周囲の蜥蜴人達に対し族長の交代を告げる。

するとゼンベルの蘇生に成功した時と同じくらいの、あるいはそれを上回る程の歓声が上がった。

 

「就任早々、随分と慕われてるじゃねぇか。テンリューサィ」

 

「これは君に勝った事、そして君を生き返らせた事に因る物だ。つまりそれだけ君が慕われているということだよ、ゼンベル」

 

チクマと話しているうちに、ゼンベルのたどたどしい話し方はすっかり抜けていた。

 

「かぁー、なんつうか小恥(こっぱ)ずかしいな。結局俺は負けちまったからな」

 

「それは仕方ないさ、君は見たところ他の蜥蜴人達と比べたら大部竜に近づいてはいるが、未だ竜と呼べる域には至っていないだろ?」

 

「ああ、あの伝説か。そう言うお前は今にも竜に変身しそうだな」

 

「成れるぞ、具体的には背中から翼が生えて首が長くなる」

 

「……マジか?」

 

「大真面目だ」

 

ユグドラシルにおいてドラゴンは最強種という設定であり、プレイヤーが選択できる種族の中には存在しなかった。

その代わり、魔法でドラゴンに変身出来る種族や、ドラゴンの血縁(ドラゴン・キン)火蜥蜴(サラマンダー)に代表される二足歩行の竜系統の種族は選択出来た。

亜人ではあるが、蜥蜴人もその一つだった。

 

(この世界でも前提職業や前提種族の考え方はあるのかな?)

 

ゼンベルの反応から竜に成る蜥蜴人という伝説は在るようだが、どこまでゲーム(ユグドラシル)設定(システム)が通用するのか。

 

「じゃあなゼンベル、俺は一度あの(いえ)へ帰るよ。これからの詳しい話はまた明日しよう、昼頃にまたここに来るから」

 

「わかった、その時には戦士頭と祭司頭、狩猟頭を集めておくぜ。あ、長老会の爺さん達もだな」

 

横でゼンベルとチクマの会話を聞いていた年寄りの蜥蜴人が何か言いたそうにしているのを察したのか、ゼンベルがつけたした。

 

「ああ、頼んだ」

 

チクマはそう言うと転位系の魔法を発動し、ゴブリン達の待つグレンデラ城へと帰った。

 

「旦那、お帰りで」

 

城の一階に転位魔法で現れたチクマに、ゴブリン・リーダーが一団を代表して挨拶をする。

 

「ああ、ただいま。それで、誰か訪ねてきたかい?」

 

「いえ、誰も来ませんでした」

 

チクマの問いにゴブリン・リーダーが答える。

 

(ふむ、あの蜥蜴人が言っていたように他の部族は傍観か、あるいは……)

 

竜牙族以外の部族の蜥蜴人とも、いつか必ず接触する必要があるだろう。

果たしてそれは何時になるのか、こちらから各村々を訪れた方が話がスムーズに進むのではないか。

 

(もういいや、今日は寝よう)

 

昼頃まで寝て、竜牙族の村に行きそこで他の蜥蜴人と相談するというのも良い案かも知れない。

 

「じゃあ、俺は上の階で寝てるから、誰か来たら自分たちは竜牙族族長のテンリューサィ・キソーに使えるゴブリン達であることを相手に話してから、相手の要件を聞け。あとは特に命令の変更は無いよ」

 

「へい、わかりやした」

 

ゴブリン一同が頭を下げて了解の意を示したのを満足げに肯きながら、チクマは天守にある寝室に転位した。

 

「さてさて、リアルじゃ考えられないくらい豪華な寝具の数々だな……確か『家鴨の羽毛布団』だったっけ?」

 

チクマがいざ寝ようとした丁度その時、何処かから伸びてきた魔力の(ライン)が自分と繋がった様な奇妙な感覚をおぼえ、その直後に若い女性の声が聞こえてきた。

 

『……叔父上様でしょうか?』

 

これは〈伝言〉の魔法だろうか。

チクマには―――正確にはワカバには―――兄弟や姉妹はいない、それはワカバと別れてしまった妻も同じ筈だ。

つまりチクマにとって兄弟とは義兄と呼ぶ大錬金術師タブラ・スマラグディナ唯一人である。

であれば、この〈伝言〉の相手は自然と特定された。

 

「アルベド……か?」

 

自分を叔父と呼ぶ可能性がある者は義兄(タブラ)作品()であるあの三人だけだ。

そして長女は第五階層の一角に幽閉、三女は第八階層の何処かに封印されている設定なのだから、次女の守護者統括である彼女だけが自分に〈伝言〉を送れる。

チクマがそう考えたのは正解だったようで、すぐに肯定の言葉が返ってきた。

 

『はい、貴方が姪と呼んでくださったアルベドです』

 

予想通りNPC達も命を持ったのは嬉しかったが、ナザリック地下大墳墓もこの世界に転移しているのならば、何よりもまず先に確認しなければならない事がある。

 

「アルベド、陛下は!?モモンガ様は今何処(いずこ)に!?」

 

曲者揃いの組織を纏め上げるという点において、彼より優れた人物をチクマは知らない。

彼より状況対応能力に優れた存在をチクマは知らない。

彼が来ているのなら自分はどれだけ救われるだろうかと、チクマはアルベドに問わずにはいられなかった。

 

『落ち着いてください、叔父上様。モモンガ様は御無事です。つい先程も私に御命令をくださりました』

 

「ふむ、陛下はなんと?」

 

『はい、つきましては各階層守護者は今から一時間後……いえ53分後に第六階層の闘技場に来るようにとのご命令です』

 

「了解した。53分後に第六階層の闘技場だな」

 

『はい、では私はこれを他の守護者達に伝えねばなりませんのでこれで失礼します』

 

〈伝言〉が切れる。今、チクマの心は眠気も吹き飛び喜びに満ちていた。

ナザリックも来ていた、モモンガさんも来ていた。

 

「ああ、今日は人生最良の日だ。まあ、当然か新しい人生の最初の日なんだから」

 




うちのオリ主、チクマは色んな意味でイカれてます。
最初のコンセプトが『モモンガ以上の狂人』でモチーフが怪盗クイーン(はやみねかおる)と罪口商会の人間(西尾維新の人間シリーズ)と黒子の外印(流浪人剣心)と杉本佐一(ゴールデンカムイ)なので。
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