ただの使い魔には興味ありません!【習作】   作:コタツムリ

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今までありがとうございました。

この処女作を、
読んでくれた読者の皆様、アイデアをひらめかせてくれたラノベの神様、そして原作者のヤマグチノボル先生に捧げます。


エピローグ&あとがき

 

 

 その後、駆けつけた教師たちによりフーケは捕縛。

 負傷者たちは全員、学院中の水メイジたちの懸命な治療で一命を取り留めた。

 とある使い魔の少年の左手に握られたナイフから事件の全容が知らされて、関係者たちは顔面を蒼白にさせたという。

 自分たちがパーティーに興じていた裏で、そのような事件が起こっていたこともそうだが、あの王立魔法衛士隊ですら歯が立たなかったフーケをたった数人で撃墜してしまったオスマンたちに、教師たちは畏怖を覚えた。

 

 魔法でフーケの変装を解いた教師たちは驚いた。

 なんとフーケはまだ年端もいかぬ少年だったのだ。

 後に王宮の調査で彼の者がガリア王国の秘密部隊、『北花壇騎士(シュヴァリエ・ド・ノールパルテル)』の構成員であることが判明するのだが、今の彼らにそれを知る由はない。

 年齢から性別から全てを嘘で塗り固めて任務に就き、いざとなったら全ての濡れ衣を他人に着せて自分の存在は消してしまう。その姿は文字通り、太陽が当らない北花壇には咲くはずのない『見えない花』のようだった。

 

 かくして魔法学院を襲った事件は幕を降ろした。

 公けには、学院に進入したフーケを、オスマンを始めとした教師たちが撃墜したとして処理された。が、その実情は、窮地に陥ったオスマンたちを一人の平民に過ぎない少年が救い、さらには勇敢にも怪盗フーケを討ち取った、というものだった。

 だが、貴族社会にとって平民の活躍ほど耳障りの悪いものはない。ましては、あのトリステイン一のメイジとさえ目されるオスマンを凌ぐほどの活躍など、到底公開できるようなことではなかった。

 よって前述のとおりに事件は処理されたのだった。

 公式にはそうなったが、非公式には後の女王陛下じきじきに褒章を賜わることとなる。が、それを知る者は少ない。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 事件から半日ほど過ぎた頃、魔法学院『水の塔』内にて学院長オスマン、そしてコルベールとギトー両教員が目を覚ます。

 三人とも重症で、しばらくは『水の塔』内にある医療施設に入院する運びとなった。

 

 魔法で操られていたシュブルーズとロングビルは、オスマンによって解呪が行われた後、秘書と教職にそれぞれ復帰する見込みとなった。

 可能な限り学院の落ち度を世に出さない為の、オスマンの判断だった。

 二人とも現在は学院の地下に幽閉されており、そのときが来るのを待っている。

 

 それからさらに半日が経過し、事件からちょうど一日が経とうという頃。

 才人は病室でようやく目を覚ました。

 

   ◇ ◇ ◇

 

「……知らない天井だ」

 才人が目を覚ますと、そこは真っ白い天井が見える見慣れない部屋だった。

 無意識に体を起こそうとすると全身に電流が走り、才人は思わず顔をしかめる。

「い痛ッ――!!」

 痛みがひいてから、才人は思い出すように記憶を辿ってみる。

 自分は確か、フーケと戦っていたはずである。デルフに操られ、フーケに頭突きし、あの後どうなったのだろうか。

 ふと視線を下げると、才人はベッドの上で、体を包帯でグルグル巻きにされていた。目と鼻の穴と唇以外は全て巻かれ、まるでミイラのようだった。

 左側には小窓が開け放たれており、夜空に浮かぶ双月の光が優しく差し込んでいる。

 反対側には白いカーテンのような布が天井から垂れ下がっており、部屋を分ける仕切りの役割を果たしている。

 どうやらここは病院のようだと、才人はあたりを付けた。

「さ、サイト……サイト!? 気が付いたのね!」

 ベッドの横でもたれかかるようにして寝ていたルイズは、才人の意識が戻ったのを確認して飛び起きた。そして間髪入れず、その胸に飛び込んだ。

「痛だいぃいいい!」

「もう、バカバカバカ! 心配したんだから! バカぁああ!」

 才人の声も耳に入らず、ルイズはわんわん泣いた。そして才人の胸をぽかぽかと殴る。

 しかしながらそんな虫も殺せなさそうな軽い拳も、今の才人にとっては激痛だった。

「痛い、痛いよルイズ!」

「きゃぁッ! ごめんなさい」

 思わず才人が叫ぶと、ルイズは飛び退くように離れた。

 落ち着きを取り戻したルイズは、才人が大怪我をしていることを思い出したのか、うるうると瞳を潤ませ、すがるように才人を見つめた。

「ごめんなルイズ。心配させて」

「まったくよ、もう! 丸一日も起きないなんて……」

 ルイズの目尻にさらに涙がたまる。貯水限界をこえて、ほろりと一粒こぼれる。

「……ごめん」

 他に言葉が見つからず、才人はただただ謝り続けた。

「だめ! 謝っても許さないんだもん。おしおきなんだもん!」

 ルイズは横から才人の顔を覗き込んだかと思うと、両手を彼の頭の横について覆いかぶさった。桃色の長い髪がハラリと肩からこぼれ、才人の頬を撫でてベッドにまで届いた。

 そして重ねなれる唇。

 今までで一番長い口付け。

 まるでお互いが生きていることを確かめ合っているかのように、離れようとしない。心臓の鼓動が大きくなり、お互いの唇を通して相手に伝わる。

 その心音のリズムは、不思議と一致していた。まるで二人の心が共鳴し合っているかのように。

「……ルイズ」

「今日はこれで許してあげるわ。でもいいこと? 明日もおしおき。明後日もおしおきなんだからね!」

 ツンっとそう宣言したルイズは、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 こんな『おしおき』ならしばらく入院してようか、と才人は微笑した。

「……全治二ヶ月だって。しばらくは動くこともできないそうよ。それと……」

 複雑骨折した足は患部の状態が酷すぎて、もとには戻らない……、とは言えず、ルイズは悲しそうに俯いた。

 ヴァリエール家の財力をフル動員して、ありとあらゆる秘薬と優秀な水メイジをかき集めたが、これが精一杯だった。

 いかに魔法と言えど、全能ではないのだ。

 だが、

「ああ、それなら大丈夫だと思う」

「え?」

 才人は仰向けに寝たまま痛む右手を天井に向かって掲げる。

 そして、

『情報精査開始。肉体の損傷部位特定。骨・筋肉・血管・神経・関節・内臓・皮膚・脳に損傷認知。情報修復許可申請。情報容量不足、不許可。細胞情報再構築許可申請。同、不許可。当該対象の四十八時間前の身体情報の閲覧申請。許可。身体情報の同期申請。許可。身体情報の上書き申請。許可。情報操作開始』

 目にも留まらぬ速さで才人の唇が振動した。次いで即座に才人の体全体が眩く発光する。

 包帯の布目もやすやすと通り抜け激しく発光。病室が一瞬、昼のように明るくなった。

 光はすぐに収まった。そして再び夜の静寂が戻る。

「サイト、今のは?」

「二日前の俺の身体情報を上書きした。これで怪我は治ってるはず」

「――はぁ? 何を言って――」

 頭がおかしくなったのかと心配するルイズをよそに、才人はむくりと上半身を起こした。そして一度大きく伸びをした後、肩を回し、首をコキコキ鳴らした。

 額に巻かれていた包帯を取ると、傷一つない才人の健康的な顔が現れた。

「なッ!? ちょ! えぇ~~!?」

 理解が追いつかないルイズは、ただその様子を呆気に取られながら見続けた。

 そんなルイズに才人は、さも当たり前であるかのように涼しい顔でのたまった。

「よし、治った」

 

 病室内に一瞬の沈黙が生まれる。

 

「……そ、そんな――」

 ポツリとルイズがつぶやく。

「そんなわけあるかー!!」

「ぐぇッ」

 ルイズは飛び掛るように才人に馬乗りになった。そして両手で才人の襟元を掴むと、ガンガンと揺らした。

「る、ルイズ。脳みそが揺れる」

「い、意味わかんないわよ! 何なのよ、それ! 私の心配を返しなさいよぉおお!」

 たまらず、我を忘れてルイズは揺すった。

「ルイズ! 酔う! 脳が揺れて酔う! 気持ち悪くなってきた!」

「バカ! もう、ほんとバカ犬! 信じらんない! 全治二ヶ月の怪我が一瞬で治るとか、あんたホント何者なのよぉ~!!」

 ここが病室であることも忘れて、思わずルイズは叫んだ。

「な、何者って、それはルイズが一番よく知ってるだろ?」

 荒い息をついていたルイズはようやく落ち着いた。

 そしておもむろに口を開く。

「はぁ、はぁ。そうだったわね。あんたは――」

 呼吸を整えながら、ルイズは今までのことを思い出すかのように瞳を閉じた。

 

 出会った瞬間、心臓がバクバクと鼓動した。

 決闘では華麗に槍を振り回し、その後お姫様抱っこ。

 毎晩魔法の練習に付き合ってくれて、今ではコモン魔法を使えるようになった。

 そして昨日の今頃は、フーケの魔法から命がけで守ってくれた。

 たった数日の事なのに、もう何年も一緒だったように感じる。

 

 ルイズはゆっくりと瞳を開いた。

 そして観念したように微笑んだ。

 

 

 

 

「そうだったわね。あんたは……、

 

『ただの使い魔』だったわね」

 

 

 

 

 今晩は『会月』の夜である。

 二つの月がそっと触れ合うように、その輪郭を重ねるのである。

 大きな青い月に小さな桃色の月がそっと寄り添うように近づいてゆく。触れ合った瞬間、二つの月光が混ざり合い、オーロラのように幻想的なグラデーションが夜空を彩った。

 

 その淡い月光を窓の外から受けながら、

 二つの影もまた――、

 

 ひとつになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ただの使い魔には興味ありません!』

 

         完

 

 

 

 

 

 






あとがき



 お読みになって頂きありがとうございましたm(_ _)m

 ゼロの使い魔は作者にとって初めて手に取ったライトノベルであり、一番思い入れの強い作品でした。それゆえに先日の訃報は残念でなりません。
 そしてゼロ魔が未完のまま絶版になってしまうのは悔恨の極みです。
 ノボル先生は最終話までのプロットは完成していると仰っていたので、いつかどこかで編集者様の方から公開してくれないかと願うばかりです。
 このままゼロ魔が終わってしまってはノボル先生が浮かばれないような気がして……


 さて、このssを書いた経緯ですが、実はとあるマジ基地アンチssをそうとは知らずに読んでしまいまして、ルイズ惨殺とかふざけんなこの野郎ー、と怒り狂って、アンチssをアンチしてやるという反逆心から書き始めたものです。(爆
 しかし国語力もなく、文章も書いたことがない作者にとっては至難の業でした。
 最初は駄文でもいいやと思い、エセ一人称もどきの駄文(自称)を書いていたのですが、どうも話が面白くなく、ルイズも可愛くない。そもそも駄文にすらなっていない、酷い出来のものでした。
 そうこうしている内にノボル氏がガンを告白。
 なんとかノボル氏が御存命の間に書き上げたい。が、こんな駄文にすら劣るような駄文もどきで本当にいいのかと思い直し、一から書き直す。そして原作に合わせて3人称を書き始める。
 しかしここでまた壁に激突。3人称難しいです(^^; 表現に沢山のバリエーションが求められます。知らないと、自力では思い付けない表現が沢山あります。
 そして未だに分かっていない視点移動のタブー。
 いろいろつまづいた末に、結局原作を参考に文章を練習する目的も兼ねて、原作沿い再構成として再度書き始めました。
 この作品はそういった経緯から生まれました。
 書き始めたのは一年前のゴールデンウィークから。途中半年ほど休んだので正確な執筆期間は半年ですが、初めて他人に公開できるデキに仕上がったと思います。
 唯一の心残りは――――、間に合わなかったことですね。
 今は、いちファンとしてできるせめてもの手向けとして、このssを天国におられる先生に捧げる次第です。

 長くなりましたが、これであとがきを閉めさせて頂きます。



 最後までお付き合いいただいた読者の皆様には感謝の念が耐えません。
 本当にありがとうございました。

 完結後は時間の関係であまりハーメルンに顔を出せなくなるかもですが、ちょくちょく冷やかしに戻ってこようと思います。(^ω^)

 ではまた。
 どこかでお会いできた時にはよろしくお願いします~。


                           コタツムリ












以下、おまけ?


おまけ1

『ラストの別ルート。プロット案』


才人、情報操作で回復。
ルイズ泣く
シエスタ包帯を替えにやって来る。才人の腕を自分の胸に押し付ける。「盗賊をやっつけたんですって? ステキー!」
キュルケもやってくる。反対の腕を同じように押し付ける。「ああん! ダーリン。私が付きっ切りで看病してあげるわ」
両腕が幸せな悲鳴をあげている。
タバサがひょこり後ろから現れる。「ぴとっ♪」っと抱きつく。見ると猫耳、白ニーソ着用。瞳で会話。才人の背中に顔をうずめて恥ずかしがるタバサ。
それを見てルイズキレる。「バカ犬ぅー!!」
どかーん

 たとえ少年の人格が少々変わっても、バカ犬がご主人様に爆発させられるのは、世界によってあらかじめ決められた、どうあっても変えることのできない規定事項なのかもしれない。
 紳士からバカ犬に格下げされた少年。
 ファーストキスから始まった二人の物語は、まだ始まったばかりだ。

   完




おまけ2 『回収しきれなかった伏線』

『コルベールの受難』

 最終話の後。

 病室で、才人がしきりのカーテンを横にスライドさせると、その向こうにはコルベールがいた。

 ベッドで仰向けになっているコルベールに、才人は思い出したように言った。
「そういえば、あなたですよね? あのとき馬車を燃やしたのは」
 あのときとは、才人たちがフーケ捜索隊として出払った時である。
 その行きの工程で才人たちの乗った馬車が大破して炎上したのである。
 一行はみなルイズの爆発魔法によるものだと思っていた。が、才人はそれとは違う解釈をしていた。
「――何のことだい?」
 一瞬目が泳いだコルベールはしかし、すぐに平静を取り戻した。
 しかしその反応をみて才人は確信した。
「とぼけないでください。ルイズお嬢様の魔法は爆破することはできても燃やすことはできません。あの時馬車が炎上したのはお嬢様の魔法とは別の魔法です。あの場所で高威力の火系統魔法を使えるのはキュルケ嬢とあなただけ。すぐ隣でキュルケ嬢が魔法を使ってないのを確認しましたので、残るはあなたしかいないのですよ」
 コルベールは大きく息を吐き嘆息した。
「全てお見通しというわけですか」
「認めるのですね?」
「ええ、認めましょう。しかしあなたが悪いのです! あなたが……、あなたがミス・ロングビルの胸を、も、揉みしだいたりするからッ!」
 コルベールは泣きそうな顔をしながら拳を叩きつける。
 するとその振動が伝わって痛かったのか、すぐにお腹の辺りを押えてうめいた。
「ぐぬぅぅぅ……」
「それが理由ですか」
「ええ、そうですよ! 悪うござんしたねー! 私は決して謝りませんぞー!」
 開き直ったコルベールにサイトは冷たい目を向けた。
「なるほど、私情にかられて尾行任務をほったらかした上に自分の存在がばれるような攻撃をして、あまつさえ守るべき生徒を巻き込んで危険にさらしたことを謝らないと? このことは学院長に報告させてもらいます」
「なっ!? ちょっと待ちたまえ! そんなつもりで言ったのでは……」
 その瞬間、才人とコルベールの背後にあった仕切りのカーテンがシャッっと横にスライドした。
 そしてその向こうには、
「お、オールド・オスマン!」
「その話、詳しく聞かせてもらおうかのう?」
 ギロリと睨むオスマン。コルベールは顔から血の気が引いた。
 才人は清清しい笑顔でコルベールに告げる。
「馬車って高いんですよね?」
「そ、それはッ……!」
 才人が言わんとすることを予想してコルベールは反射的にオスマンをみた。だが、時すでに遅かった。
「馬車代はコルベール君の給料から差し引かせてもらおう」
「なッ! それだけは! お、お願いです。それだけはどうかぁああ!」
 そんなコルベールに才人とオスマンは口を揃えて言った。
「「だ~め」」
「そ、そんなー……。今月の研究費がぁぁぁ」
 絶望のあまり、コルベールは気絶した。

 学長室でロングビルに仕掛けた罠をつぶしてくれたハゲに、二人のささやかな報復がなされた。







おまけ3 『自重ネタ』

ギーシュと決闘後。

夜、広場で五右衛門風呂に入る才人。
シエスタがやってくる。
「一緒にはいる?」
「はい///」
シエスタと混浴。
「サイトさんの槍さばきステキでした」
「じゃ、俺の槍を磨いてくれるかい?」
「はい、よろこんで」
「じゃぁ、今すぐ磨いてもらおう」
「え? 今すぐ? どこにも槍なんてないですけど……?」
「槍ならここにあるではないかー」
「ま、まぁ/// ご立派ですぅ~」

スカイリムのモロパクリなのでボツ(笑




最後のシメ、これでいいのか!? (^^;

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