今宵はクリスマス・イブというらしい。
カルデアのマスター、最後の、そして、最悪のマスターの出身は日本ということを我々は識っていた。
藤丸立香。
一般公募枠から人理を守る愚かな組織、カルデアに入館した愚か者の名だ。
彼の出身地である西暦2000年代の日本では神も仏もない時代となっている。尤も、これはただの比喩。人類からの観測ができないだけで、神も仏も在る。だが、在るにしろ、神も仏も人類、殊に日本人には影響を全く及ぼすことはなかった。
なにせ、日本ときたら、葬式は仏の作法で、結婚は土着の神の作法で行うという。あまりにも不可思議な国だ。昨今では、救世主を讃えるクリスマスや、ケルトの厄払いの儀式であるハロウィンまで盛大に祭りとすると我々は識っている。
実に悪魔的ではないか。
神や仏は形骸化し、その概念のみを抽出し、自らの快楽のために使う。
実に悪魔的だ。
そう、我々に提案したところ、皆、喜び勇んで準備を始めた。
人理焼却は2016年、12月25日の20:30に終了する予定だ。とはいえ、あくまでも予定。少し早まることも十二分に考えられる。
我々が長い時を掛けてきた計画だ。綻びが見つかる可能性もあり、それを潰すための時間を設けていた。綻びが見つからなければ、そして、その綻びを早く倒せたのならば、人理焼却はより早く行われることとなる。
我々の計画は狂うことはない。
人理焼却、それまでの間の暇潰しだ。
そう、このクリスマスパーティーは、あくまでも暇潰しなのだ。
私の管轄下にあるXの座の一角には、様々なものが並べられていた。一体、どこから持ってきたのだろうか? そのような疑問が吹き飛ぶほどに持ち込まれた品物は素晴らしかった。
煌びやかなあしらいが施されたモミの木。その下には綺麗に梱包された四角い箱。更に、長テーブルの上には、こんがりと照りが煌めく七面鳥、マッシュポテト、ブロッコリー、雪の降るアインツベルンなる創作料理まである。そして、極め付きは巨大なクリスマスケーキだ。
ああ、クリスマス・イブが待ちきれない。あくまで、これはサバトである。悪魔の悪魔による悪魔のための儀式だ。人理を否定し、全てを無に帰し、全てを新生するための儀式、それの前祝いがこのパーティーだ。
そう……。
これが、12月22日の昼頃の出来事だ。パーティーのために
だが、綻びがやってきた。その綻びは滅びを連れてやってきた。
いやはや、藤丸立香は我々よりも悪魔だった。正確には、藤丸立香であり藤丸立香でない存在、平行世界の藤丸立香“たち”が悪魔なのであるが。
第七特異点まで定礎復元を完了させた藤丸立香たちが神殿へと現れていた。その数は数える気力が失せるほどに多かった。
そして、藤丸立香たちはイナゴのように我々へと襲い掛かったのだ。いや、まだ正義という下らない大義名分の元で刃を振るならば、まだ分かる。だが、違うのだ。藤丸立香たちは、およそ、この世で最も醜い我欲で以って、我々を蹂躙し始めたのだ。
「バルバトスが死んだ!? この人でなし! まだ、20回しか
「爪寄こせや、フラウロス!」
「フラウロスも折れた!? ……サブナック、いや、ファルネウスだ! やるぞ、バーサーカー!」
どちらがバーサーカーだというのか?
余りにも非道、余りにも外道。怒りを感じながら、私は藤丸立香の前に姿を現した。
「来たよ、サブナックゥッゥウウウ!」
「死ねェ! ハルファス!」
「アモン、あまりいいの落とさないなぁ。めんどくさいけど、まあ、刈るかな」
私の姿を気に掛けることもなく、他の魔神柱を刈っていく藤丸立香たちがいる中、とある藤丸立香が私の姿に気が付いた。
「おい、新しい奴が来たぞ! ……セイバーだ! アーチャーで刈れ! バーサーカーでもいいぞ!」
その声を聞いた瞬間、私の中で怒りが増大した。羽虫が。
「起動せよ。起動せよ。廃棄孔を司る九柱。即ち、ムルムル。グレモリー。オセ。アミー。ベリアル。デカラビア。セーレ。ダンタリオン。我ら九柱、欠落を埋めるもの。我ら九柱、不和を起こすもの。無念なりや、無常なりや。我ら“七十二柱の魔神”を以てして、この構造を閉じる事叶わず……!」
「遺言はそれでいいんだな?」
「!?」
『ワォ……。流石、藤丸くん。頼りになるなァ……』
背筋に冷たいものが奔った。背中という
それからは、ただ蹂躙だ。一矢報いることもできないこともあった。
どこからともなく現れた特異点では観測できなかった英霊たちに私は葬りさられた。何度も何度も何度も何度も。その度に蘇り、血走った目で英霊たちを押しのけた藤丸立香のサーヴァントに殺され殺され殺され殺され。「SW EPⅡ」や「私以外のセイバーぶっ殺す!」とほざくふざけた英霊に斬られたりしたのは我が人生でも痛恨の極みであった。せめて、もう少しコミカルを控えて殺してはくれまいか? 種子島で穴を開けられた傷口にグリグリと聖剣を入れてくるのは止めてくれまいか?
──もうやっていられない。
「逃げんな、テメェ!」
鬼気迫る表情で追ってくる藤丸立香を何とか撒き、岩陰に身を隠す。触手は擦り切れ、所々、血が出ている。ふと、辺りを見渡した。
そこは奇しくも、皆と飾り付けをしたXの座の一角だった。
次々溢れる想い。
フラウロス。
ファルネウス。
バルバトス。
ハルファス。
アモン。
サブナック。
記憶の中の皆は笑顔であった。笑顔で、24日のパーティを楽しみにしていた皆。
なれば……なれば、私は立ち上がらなければならぬ!
「見つけたぞ……ドブネズミ」
私は体を縮こませた。怖い。
上から降ってくる藤丸立香の声はとても冷たかった。
「あー、マスター。今の君に言っても伝わらないとは思うが、敗者には情けを掛けるべきではないかね?」
「え? 敗者はただ素材を吐き出すべきでしょ? 何もドロップしないとか許さないよ、俺」
己が主人の言動に、何とも微妙な表情を浮かべる赤い外套を着たサーヴァント。
「絆レベル10のエミヤならワンパンも狙えるハズ。ちゃっちゃとやっちゃって。他の奴に素材を取られる前に」
「……了解した。魔力を回せ、マスター」
一瞬にして、景色が変わった。どうやら、赤いアーチャーの固有結界に引き摺り込まれたらしい。
赤いアーチャーと目が合う。アーチャーは、ほんの一瞬だけ片目を閉じた。
ああ、感謝する。
君が固有結界で私を殺すことで、思い出のパーティー会場は壊されないで済んだ。
体にいくつも刀が刺さる感触を最後に、私は死んだ。
+++
手折られる訳にはいかない。
それが、たった一柱、残された私の矜持。勇気を奮い起こし再誕する。場所はXの座の中心。再生が終わると共に、カルデアの悪魔が私の前に現れた。
何度、殺されようが……貴様に我々の思い出だけは汚させない!
「征くぞ、最後の人類よ!」
「無駄無駄無駄ァ!」
ライダーでセイバークラスの私を倒すのは、何故なのでしょうか?
ああ、これがかの有名な嘗めプという奴か。
「おっ! 絆レベル上がったね」
「そうであろう!」
いや、そうではなかった。藤丸立香はどこまでも貪欲であったのだと魂に焼き付けながら、私の意識は消失した。