魔王の刀も異世界から来るそうですよ?   作: ラズ

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第2話

森を進む道中、薬研は黒ウサギを呼び止めた。

 

「なんでございましょう?」

 

「早急に乾いた布を貸して欲しい。戦場で折れるならともかく錆びるのは不本意でな。」

 

と、短刀を示すと、彼女は素っ頓狂な声をあげた。

 

「あああああそれは申し訳ございません!というか皆さんのことも乾かしますね?!んっ?ってかこれ擬似神格宿ってません???え、え、本当に申し訳ございません!!!あああああああ」

 

慌てて注意力が散漫になる黒ウサギに、これ幸いと十六夜が逃げ出す。

別に彼の為に注意をひいた訳ではないのだがとため息をつきながら、黒ウサギの発言に思考を巡らせる。

擬似神格と言ったか。本人の持つ能力は警戒するに値する。

しかし如何せんポンコツなところが多いウサギだ。

これが素ならば出し抜くことは容易いと思うが、演技だった場合は少し厳しいだろう。

 

短刀を見た飛鳥が、少し口元を緩ませながら話し出した。

 

「それ、とても良いものでしょう?目利きの才は鍛えられているの、すぐに分かったわ」

「…うん、すごく良く切れそう」

「そりゃありがとよ…はぁ、歳取ると余計なこと考えていかん」

 

純粋な賞讃だった。

それは彼にとって少し眩しかった。

 

「歳って「ひとまず黒ウサギのハンカチをお使いくださいませぇえええ」」

「…さっきはああ言ったがそこまで気負わなくて良いぜ、黒ウサギの嬢ちゃんよ」

 

飛鳥の言葉を遮り這々の体で泣きつく黒ウサギに、薬研は優しく声をかけた。

暫く宥めると、これからの黒ウサギの活躍に期待してください、と彼女は立ち直ったようだった。

 

 

 

 

「ジン坊っちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」

 

大きな壁が見えて来た。黒ウサギは大きく手を振って緑色の髪の少年へと駆け寄る。

九十九神でもないのに、この世界には色々な髪色の人間がいるようだ。

 

「お帰り黒ウサギ。そちらの皆さんが?」

 

「はい!こちらの方々が―――」

 

くるりと振り返った黒ウサギは、後ろに付いて来ていた3人を見て固まった。

 

「あれ?もう1人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くてかなり口が悪くて全身から、俺問題児!っていうオーラを放っている殿方が…?」

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら、ちょっと世界の果てを見てくるぜ!といって駆け出していったわよ?」

「丁度、吉光くんが拭く物を借りた時」

「おいおいその言い方だと俺っちが手伝ったみたいだろ」

 

しばし呆然としていた黒ウサギだったが、事実を飲み込むと長い耳をピンと逆立てた。

 

「吉光様はともかく!お二人はなんで止めてくれなかったんですか!!」

「止めてくれるなよ、と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったんですか!?」

「黒ウサギには言うなよ、とも言われたから」

「うぅ、嘘です!絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!!」

 

2人が同時に肯定するのを見て、黒ウサギはガクリと前のめりに倒れた。

異世界に来たという興奮もあるのだろうが、自由奔放な少年少女たちだ。この程度で気落ちしていてはこの先、御しきることは難しいのではないだろうか。

まぁ、この歳の少女には無理からぬ話か。それに先程聞いた限りでは規律が重んじられている訳でもないようだし…と、新たに遭遇した異世界の住人である少年を見れば、顔を青ざめさせていた。

 

「た、大変です、世界の果てには幻獣が…!」

 

「幻獣?」

 

獣と聞いてか、耀が興味深そうに尋ねる。

 

「ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいるんです。遭遇すれば最後、とても人間では…」

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」

 

薬研はげぇむおーばぁ、と口の中で転がした。先程も聞いた言葉だ。

 

「吉光くん、はカタカナ苦手?」

 

「片仮名?いや、これでも無教養って訳じゃないと思うが…最近の若者言葉は分からん」

「とにかく!談笑している場合ではありません!」

 

深く受け止めていない3人の態度に、彼は焦燥にかられて声を荒げた。

黒ウサギは仕方なさそうにため息をつき立ち上がる。

 

「はあ……ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、皆様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

ジンの頷きに、黒ウサギは赤いオーラを発し髪の毛を青から鮮やな緋色に染めあげた。

 

「黒ウサギは問題児を捕まえに参ります。

…箱庭の貴族と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやりますよ」

 

そして目の前の大きな門の壁へ飛び上がり、水平に張り付く。

 

「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

黒ウサギは跳躍し、あっという間に森の中へと消えていった。

 

「…さぁ、こちらへどうぞ。箱庭を案内しますね。」

 

 

彼らはジンに先導されて石造りの通路を通り、天幕の中へと入った。

そう、天幕の中に入ったのだが、上空には幕のようなものは見当たらない。

変わらずに燦々と太陽が道を照らしている。

 

振り返って、上を見て……という動作をする一同に、ジンは微笑む。

 

「ああ、箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんです」

 

「じゃあ何で天幕をかけているの?雨避けかしら。それにしては大掛かりよね?」

 

「いえ、むしろ雨は定期的に人工の雨雲を使って降らせています、あれは太陽の光を直接受けられない種族の為に設けられたものなんです。」

 

薬研は戦場に出る身として雨の匂いにはそれなりに敏感だ。だが人の手で管理されている以上、ここでは役に立たないらしい。

 

「あら、この都市には吸血鬼でも住んでいるというの?」

「え?勿論いますが…?」

 

「……そう。」

 

当たり前のように箱庭の高等技術、そして吸血鬼の存在を提示され、飛鳥は閉口した。

そう、ここはそういう世界なのだ。

異国の町並みに初めて見る文字、獣の耳が生えた人間、そして身に纏う服や武器、地球から来た彼らには目を引くものばかりだった。

 

「お疲れでしょうし、先にご飯にしましょうか」

 

そう言ってジンは店に3人を案内する。

席について暫くすれば、猫耳の店員が水をサービスしにきた。

 

「ご注文はいかがなさいますか?」

 

「ティーセット4つで、お茶は紅茶を2つに緑茶とコーヒーを1つずつで…」

「にゃあ!」

「はいはーい、ティーセット4つに猫まんまですね!」

 

薬研は不思議そうに首を傾げる飛鳥と目があった。猫まんまなど誰も頼んでいない。

 

「…三毛猫の言葉、分かるの?」

 

耀が目を見開いて少し興奮気味に尋ねる。

 

「私は猫族ですからね〜。お歳の割に綺麗な毛並みの旦那さんですし、ちょっぴりサービスしちゃいますよ!」

「にゃにゃにゃーなぁ」

「やだもーお客さんったらお上手なんだから!」

 

猫耳娘は長い鉤尻尾を上機嫌に揺らし店内へと戻っていく。

その後ろ姿を見送った耀は嬉しそうな顔で三毛猫の背を撫でた。

 

「…箱庭ってすごいね、私以外に三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」

「にゃあ」

 

三毛猫は人間の様に頷いてみせる。

 

「ちょちょっと待って。貴女もしかして猫と会話できるの?」

「なんて言って口説いてたんだ?」

「もしかして猫以外とも意思疎通は可能なんですか?」

 

少し頬を紅潮させた飛鳥を含め、3人は矢継ぎ早に尋ねた。

 

「うん、生きてるなら誰とでも話はできるはず。さっきは鉤みたいな尻尾が綺麗って言ってた」

 

「素敵な力ね。じゃあ、例えばあそこで飛び交う野鳥とも会話が可能なのかしら?」

 

と、飛鳥は上空の鳥を指差す。

 

「うん、多分。話したことがあるのはよくいるような鳥ばっかだけど…ペンギンがいけたからきっと「「ペンギンっ!?」」う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカとか…」

 

耀の声を遮るように2人が声を上げた。

薬研には鳥の種類だということくらいしか分からなかったが、2人が驚くくらいだからきっとすごいのだろう、と漠然と受け止める。

 

「しかし、全ての種と会話可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのは大きいんです。」

 

「幻獣、ってーと十六夜が行っちまった場所にいるっていう…」

 

「ええ、一部の獣人のように神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですが、幻獣は独立した種の1つです。同一種か相応のギフトがなければ意思の疎通は難しいんです。」

 

3人は先程のジンの切羽詰まった様子を思い出した。言葉が通じるならば戦闘を避けられる場面もあることだろう、たしかに心強いギフトだ。

 

「そう…春日部さんの力は本当に素敵ね。羨ましいわ」

 

飛鳥は憂鬱そうに羨んだ。

耀はその言葉を聞いて少しそわそわしていたが、一つ唾を飲み込んでからおずおずと口を開く。

 

「久遠さんは」

「飛鳥でいいわよ?」

 

「えっと、じゃあ飛鳥、は、どんな力を持ってるの?」

 

「私?私の力はまぁ酷いものよ。だって」

 

飛鳥が言葉を続けようとした時、同じテーブルにわざとらしく音を立てて腰をかける男がいた。

逆立った金髪が特徴的な、スーツを着た体格の良い男である。耳が尖っていることから、彼もまた何かしらの人間以外の人種であることが伺えた。

 

「おやぁ???誰かと思えば東地区の最っ底辺コミュニティ『名無しの権兵衛』のリーダー、ジン君じゃないですかぁ????

今日はお守り役の黒ウサギは一緒じゃないんですか???」

 

「…貴方の同席を許した覚えはありませんよ、ガルド=ガスパー」

 

「黙れこの名無しが。聞けば新しい人材を呼び寄せたそうじゃないか。コミュニティの誇りである『名』と『旗印』を奪われた癖に、よくもまぁ未練がましくコミュニティを存続させようなど考えたものだ―――そうは思わないかい、そこの紳士にお嬢様方」

 

ガルドと呼ばれた大男は、ジンがすげなく返した後も喋り続け、そして3人に向けて友好的な笑みを向けた。

 

「…同席を求めるならばまず、名乗って一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おおっと!これは失敬。私は箱庭上層にある『666の獣』の傘下である「烏合の衆の」リーダってぁあ?!誰が烏合の衆だ小僧!!名無しの権兵衛のお粗末な教育じゃ人には礼儀をつくせと教えてくれなかったのか??」

 

ジンに横槍を入れられたガルドは鋭い歯を剥き出しに怒鳴りつけた。

 

「森の守護者だったころの貴方にならともかく、今の2105380外門付近を荒らす獣に返す礼儀などありません」

 

「ハッ、そういう貴様こそ過去の栄華に縋る亡霊と変わらねぇだろうが!自分のコミュニティが置かれてる状況を理解してねぇようだな?弱小コミュニティのリーダーにお似合いのおツムの出来で」

「まぁまぁ旦那がた、ちょっと落ち着いてくれや」

 

薬研は席を立って険悪な様子の2人に割って入った。

 

「如何せん俺たちはこっちに来たばっかなんだ、何がなんだかさっぱり分からん。」

 

「そうね、貴方たちが大変仲良しなことだけは理解できたけれど。…それを踏まえた上で質問したいことが1つ―――」

 

飛鳥は皮肉めいた言い回しで肩をすくめ、そしてジンに鋭い視線を向ける。

 

「ねぇ、ジン君。ガルドさんの指摘するあなたのコミュニティが置かれている状況とやら…説明していただけるわよね?」

 

ジンは言葉に詰まったのか、口を開いて閉じるのを何度か繰り返した。

 

「貴方は自分の事をコミュニティのリーダーだと名乗ったわ。

なら黒ウサギ同様、新たな同士として喚びだした私達にコミュニティとはどういうものなのかを説明する義務があるはずよ?そうでしょう」

 

尋ねる声はガルドのように怒鳴りつけるのではなく、ただ静かなものだ。

だがジンは鋭利な刃物でも突きつけられているかのような圧迫感を覚えた。

 

「レディ、全く貴女の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界とルールを教えるのは当然の義務、いや責務!しかし彼はそれが出来ない、いやしたがらないでしょうねぇ」

 

ガルドはジンをねめつけながら、上機嫌に続ける。

 

「よろしければコミュニティの重要性と小僧―――ジン=ラッセル率いる『ノーネーム』について客観的に説明させていただきますが、どうでしょう?」

 

飛鳥は訝しげな顔で一度だけジンを見たが、当のジンは一貫して俯いて黙り込んだままである。

 

「…そうね、お願いするわ」

 

「承りました。まずは…そうですね。名と旗印についてから始めましょうか」




読了ありがとうございます。
ジンとガルドの罵り合いを書いていたら楽しくなってしまい本編以上にいがみ合ってました。
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