「な、なんでこの短時間にフォレス・ガロのリーダーと接触して、しかも喧嘩を売る状況になったのですか!?しかもゲームの日取りは明日!?それも敵のテリトリー内で戦うなんて!一体どういうつもりです!聞いているのですか皆さん!!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省している」」」
「黙らっしゃいっ!」
口裏をあわせたような言い訳に、黒ウサギはハリセンでパシパシと頭を順番に叩いた。
「ジン坊っちゃんも!どうして止めてくれなかったのですか!」
「ごめん、僕もあいつが許せなくて…」
「まぁよ、別にいいじゃねぇか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ。そもそも、先にちょっかいかけてきたのは向こうなんだろ?」
一人濡れ鼠のままの十六夜が黒ウサギを宥めるが、黒ウサギの怒りは納まらない。
「十六夜さんは面白ければそれでいいと思っているのでしょうけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなのですよ?
この
黒ウサギは
そこにはプレイヤーが勝利した場合は法の元に裁きを受けてコミュニティを解散するが、敗北した場合には今後こちらはその罪を黙認すると書かれていた。
「まぁ、確かに自己満足だな。」
「そうなのです、時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供は……その…」
「そうね。人質は既にこの世に居ないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間が掛かるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間を掛けたくないの。不快な時間は短ければ短いほどいいわ」
というよりも、彼女の性格的に、自らが裁きたいが為にギフトゲームをしかけたように思われた。
そしてこの驕り。向こうが勝てばこちらがそれを追求できなくなるというリスクについて全く考えていない。なぜなら絶対に勝つ気でいるから。
それは彼女の美点であり欠点に思われた。
「それにね、私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃せばいつかまた狙ってくるに決まっている」
飛鳥の主張に同意を示す一同に黒ウサギは嘆息する。
「はぁ……仕方ない人たちですね。まぁいいです。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。フォレス・ガロ程度なら十六夜さん1人いれば楽勝でしょう」
どうやら単独行動していた間に十六夜の戦力を評価する機会があったようで、黒ウサギはしぶしぶ納得した。
しかしその言葉に十六夜と飛鳥は怪訝な顔をする。
「何言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」
「当たり前よ。貴方は参加させないわ」
「だ、ダメですよ!皆さんはコミュニティの仲間なんですから!ちゃんと協力しないと!」
「そういうことじゃねぇよ黒ウサギ、この喧嘩はコイツらが売ったのに、俺が手を出すのは無粋ってもんだろ?」
「あら、わかってるじゃない」
血統書つきの猫のような笑みを浮かべる飛鳥に、黒ウサギはほとほと困り果てた様子だった。
「それでは皆さん!ギフトゲームが明日ということなので『サウザンドアイズ』へ今からギフト鑑定に行きましょう。この水樹の事もありますし」
と、黒ウサギは片手に持っていた苗木を示した。普通の苗木のように見えるが、何かしらの力…ギフトを持ったものらしい。
「サウザンドアイズ?それに水樹って?」
「俺がさっき蛇をぶん殴って手に入れた」
と、十六夜が中段で軽く殴る動作をする。動きからして戦闘能力は高そうだ。
「ほぉ、愉快なことやってんじゃねぇか」
「吉光様までそんなことおっしゃらないでください!げふん、それで、サウザンドアイズとは特殊な瞳のギフトを持つ者達の群体型の商業コミュニティです。
この近くに支店がありますので、そこで皆さんのギフトの鑑定をお願いしようかと」
「ギフトの鑑定?」
「えぇ。ギフトの秘めた力や起源を鑑定することです。自分の正しい形を把握しておいた方が引き出せる力はより大きくなります。みなさんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
同意を求める声に皆複雑な表情を作る。召喚された中に歓迎するものはいないようだった。
薬研も鑑定されることによって自身の存在が明らかになるのではないかと思ったが、なるようになれと街に目を向ける。
商店へと向かう道は石畳が敷かれており、桜色の花を咲かせた街路樹が等間隔に並んでいた。脇には水路に綺麗な水が流れており、箱庭は公共事業もそこそこに発達しているようだ。
飛鳥が不思議そうに呟く。
「桜の樹、ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」
「いや、まだ初夏に入ったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」
「…今は秋だったと思うけど。」
噛み合わない3人は顔を見合わせ首を傾げ、そして十六夜は黙っていた薬研に目を向ける。
「…景観なんてのは自由に変えられるもんじゃねぇのか」
まじまじと3人に顔を見られた。
何かマズいことを言っただろうか、と記録をたどれば、自分がおかしなことを言っていることを理解した。そうだ、日本には四季があり季節は移り変わるものだった。
「ああ、皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのです。時間軸以外にも歴史や文化、生態系など、所々違うことがあるはずですよ」
「パラレルワールドってやつか?って考えると、吉光のとこは随分前に袂をわかったんだろうなぁ」
「はは、そうかもしれんなぁ」
「ですが箱庭には統一祖語の恩恵があり、このように意思疎通が取れるという訳です。因みにパラレルワールドではなく、正しくは立体交差並行世界論というものなのですけれど…今からこれを説明すると時間が足りないですし、もう着いちゃいました」
黒ウサギが指差したのは、入り口の両脇に向い合う2人の女神像が描かれた青い布が立てかけられている店だった。
あれがサウザンドアイズの旗印ということだろう。
看板を下げようとしていた割烹着の女性店員に黒ウサギは慌てて声をかける。
「待っ」
「待った無しです。お客様、うちは時間外営業はやっていません」
「何て商売っ気の無い店なのかしら」
「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
ピシャリと店員に切って捨てられ、元々気位の高い飛鳥と、貧困生活故か図々しさを身につけてしまった黒ウサギは抗議した。
「文句があるならどうぞ他所へ。貴方方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐め過ぎで御座いますよ!?」
出入り禁止はともかく、閉店ギリギリに入ろうとするのはこちらが悪い。
第一閉店時間を知っていたのなら薬研たちを少し急かすなりすれば良かったのではないだろうか。
「成る程、箱庭の貴族であるウサギの御客様を無下にするのは失礼でしょう。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前を宜しいでしょうか?」
冷たい態度の店員に、黒ウサギは言葉を詰まらせた。
「俺達は『ノーネーム』ってコミュニティなんだが」
「ほう。では何処の『ノーネーム』様でしょう。良かったら旗印を確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
などと押し問答を続けていると、店内から凄まじい勢いで迫って来る気配を薬研はとらえた。
「いぃいぃいぃいいやっっっっほおおおおぅうう!!!!久しぶりだ黒ウサギ!!!」
着物にしては短くひらひらとした装飾のある服装の白髪の少女に黒ウサギは飛びつかれ、そのまま共に吹き飛んで行く。
そして勢いを殺せず、2人は叩き付けるような水音を立てて水路の中へと落ちた。先程見た限りでは水深は浅かったため溺れることはないと思うが、それなりの痛みが予想された。
黒ウサギを強襲した白髪の少女は、体を起こした彼女の胸に顔を埋めて擦り付ける。
「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろう!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、此処が良いか此処が良いか!」
どうにも助兵衛な親父のような言動をする少女だ。彼女も見た目通りの年齢ではないのだろうか。
「いい加減離れて下さい!」
白夜叉と呼ばれた少女を無理矢理引き剥がし、黒ウサギは彼女の頭を掴んで店に向かって投げ付ける。
様付けする割には雑な扱いだ。もう慣れっこなのだろうか。
降って来た少女を十六夜が足で蹴り上げると、彼女はうめき声をあげて着地した。
「おんし!飛んできた初対面の美少女を足で蹴るとは何様じゃ!」
「十六夜様だぜ。以後宜しく和装ロリ」
十六夜に食ってかかる少女に、一歩遅れて飛鳥が話し掛けた。
「えっと、貴女はこの店の人かしら?」
「おお、そうだとも。このサウザンドアイズの幹部の白夜叉様だよ御令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割に発育が良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」
女性店員が冷やかに釘を刺す。
一方の黒ウサギは濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がってきた。
「うう……濡れてしまいました…」
「私達、湖の上に喚び出された」
「それは悪うござました、ええ黒ウサギが悪かったですとも…」
耀と黒ウサギの会話に耳を傾けていた白夜叉は、ポンと手を打った。
「ほう、つまり御前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は………遂に黒ウサギが私のペットに」
「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」
「ふふ、相変わらず反応が面白、げふん可愛いのう…まあ良い。話があるなら中で聞こう」
「宜しいのですか?彼らは旗も持たないノーネーム。規定では…」
「よいよい、身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。それにおんし、こやつらがノーネームと知って聞いておったろう?」
バツの悪そうな顔をする店員に、白夜叉は肩をすくめた。
通されたのはそれなりの広さを持つ和室だった。趣味の良い調度品が置いてあり、中には日本刀もある。薬研は思わず視線を止めてつぶさに観察したが、拵えは見慣れぬものだった。
和室の上座に白夜叉がどっしりと腰を下ろしてから、ずいと指された下手に彼らは適当に座っていく。
十六夜などは堂々と上座に座りそうなものだが、ただの傍若無人というわけでもないらしい。
彼女は、芝居がかった動きで扇子をパシりと閉じた。
「では改めて自己紹介と行こうかの。私は白夜叉。黒ウサギとは少々縁があってのう。サウザンドアイズの本拠は四桁じゃが、私は今もこうしてこちらまで降りて来たりしてはちょくちょく手を貸してやっておるのじゃ。」
「四桁、って?」
箱庭の根本的なことについての質問が出たために、白夜叉はちらりと黒ウサギを見やってから続ける。
「箱庭の階層を示す外壁にある門を外門というのじゃが、それの千番台から1万未満に住んでいることを四桁の外門に住んでいる、という。
例えば黒ウサギのおるノーネームは7桁の外門の内側に本拠を構えておるが…」
曰く、箱庭は上層から下層まで7つ、そして東西南北に分かれており、それに伴い、それぞれを区切りには数字が与えられいる。外から七桁、六桁となっていき、数字が若ければ若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な者達が住んでいる。
四桁ともなると名のある修羅神仏が割拠する人外魔境であり、現在いるのは七桁の外門の中でも東側の、外に近い場所。
外門の外に続く世界の果てにはコミュニティに属していないが強力なギフトを持ったモノが多く棲んでいて、水龍もその一つである。
白夜叉は地図を広げながらそのように説明した。
つまり彼女も修羅神仏かそれに匹敵する力を持っている何かであるということか。
薬研は自分が彼女に戦闘を仕掛ける図を想像しようとしたが、全くどう仕掛ければ良いか分からなかった。
なるほど自分より高位の存在なのは間違いないらしい。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に蛇神様を素手で叩きのめしたのですよ!」
興味津々な白夜叉に、黒ウサギが自慢気に胸を張って述べた。
行く前はああも怒りを露わにしていたくせに、現金な娘子である。
「なんと!?彼奴を直接的に倒したと申すか!!ではその童は神格持ち……ではないか」
「ですね。神格持ちならば一目でわかりますし」
神格持ちなら一目でわかる、その言葉に薬研は黒ウサギが先程擬似神格、という発言をしていたことを思い出した。
肉体の方ではなく、刀を見て初めてそう言ったことから、現時点ではこの体のことは吉光という人間として認識しているのだろうか。
「ところで白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何もアレに神格を与えたのは私だぞ?もう何百年も前の話だがの。」
十六夜はヒュウ、と楽しげに口笛を吹いた。
「へぇ?じゃあお前はあの蛇よりも強いのか?」
「当然だ。私は東側の
「つまり貴女のゲームをクリア出来れば私達のコミュニティはとりあえず4桁以下の東側最強のコミュニティということになるのかしら?」
白夜叉が首肯すれば、3人は闘争心をむき出しにして立ち上がる。白夜叉は愉快そうに笑った。
「依頼しに来ておきながら私にギフトゲームを挑もうとするとは」
「探す手間が省けた」
「え?ちょ、ちょっと皆様!?吉光さまも止めてください!」
「俺っちは1抜けたー」
「吉光、ここは俺も戦うぜ!っていうところだろ」
「ふむ、ヒトの子よりも感覚は鋭いというところか?」
待て、彼女は自分をナニとして認識しているのだ。気が変わった。そうだ、どうせあと数日の命だからどうにでもなれなんて考えていたのは自分じゃあなかったのか。
「…まぁ、それも面白いかもな、いいぜ、俺も戦おう」
白夜叉の言葉に皆が言及する前に、参戦の意思を示す。
「ちょっと!!ホントにどうしてこう問題児さまばかりなのですかぁ」
「よいよい黒ウサギ。私も遊び相手に窮しておったところじゃ…が、始める前に1つ訊いておかねばならぬことがある」
白夜叉は扇子で黒ウサギを制すると、着物の袖から双女神の記されたカードを出し微笑む。
「さて、おんしらが望むのは挑戦か?それとも――――――対等な決闘か?」