魔王の刀も異世界から来るそうですよ?   作: ラズ

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最初の謎解き会


第7話

薬研はノーネームの図書室にいた。

与えられた私室は広いばかりで調度品の類いはベッドや明かりなどの最低限の物しか無く、少し落ち着かなかったのだ。

そのほとんどを財政難で売ってしまったらしいが、図書室には本が数多く残っていた。

書物が安いということもないだろうと黒ウサギに尋ねれば、ギフトゲームで勝つ為の情報源として売るのは控えていたらしい。

 

ひとまず魔王に関する本を探そうと、表紙を見ながら本棚の間を歩く。

 

ノーネームに帰還してすぐ、白夜叉が言っていた言葉の意味を理解した。わずか3年しか経っていないという朽ち果てた廃墟。

それが魔王によって行われたものだという。

織田信長は魔王ではない。普通の人間だ。

薬研は信長が魔王と呼ばれていることを知ってからずっとそう思っていたが、今回改めてそう感じた。

あの人には人々が生活していた街を一瞬で200年以上風化させる力なんて無かった。

 

「お、吉光。ここにいたか」

 

十六夜がひょっこりと顔をのぞかせた。

 

「なんだい旦那」

 

「ちょっと話さないか?」

 

薬研が了承すると、十六夜は彼を屋根の上へと連れ出した。

屋敷の周囲は森や廃墟、田畑といった殺風景なものだが、星空が美しい。

 

「色々聞きてぇことがあるんだがまず…お前は不完全な神の類いってことでいいのか?」

 

思わず十六夜を見れば、目線は星空へと向けられていた。

 

「は?何を………」

 

数百年生きて来たが、言葉に詰まってしまった。

なるほど最初に一番大きな情報を開示してこちらの動揺を誘う、うまい交渉だ。

不完全などと言われて普通は不服に思うところだろうが、薬研は自分のことを完全な九十九神としては認識してはいなかった。

 

「旦那は、何をもってそう思ったんだ?」

 

「ああ、否定しねぇのな。嘘とかつけねぇ類なのお前?」

 

面白くない、といった様子の十六夜に閉口する。が、そういえば彼は最初の自己紹介で快楽主義だと言っていたのを思い出した。

そのような反応を示すのも当然といえば当然か。

 

「まず、白夜叉のヒトの子ではないって言葉を否定しないどころかそれに反応して決闘に乗っただろ?」

 

指を一本立てながらこちらを見る。

 

「んで、刀を抜こうとして、抜けないようだった。高位の存在に手を出せない、ってのは自分で言ったも同然だったよな。でも挑もうとした。つまりお前は白夜叉が強いことを知っていたがアイツが高位の神であることを知らなかったか、高位の神に戦いを挑むことができないことを知らなかったか…どちらにしろ、できる行動と意識に祖語がある不完全な存在って訳だ。」

 

ニヤりとする十六夜に、薬研は肩をすくめる。

 

「んで、お前より上位のモノ=白夜叉に挑めないってことは、お前は星霊もしくは神霊に連なる存在。他の上位種に挑めないなんて縛りがあるのはおかしな話だからな。

ここで神なのか星霊なのかという選択が残るが…お前今まで、俺含めて誰の名前も呼んでないだろ?それに人の名前を覚えることに罪悪感を感じているように見えた…だから、善神寄りの何かなんじゃねぇかと思った。

あとは油揚げがどうとか言っていたのも理由の一つだ。

だが白夜叉も黒ウサギも、俺のこと見て神格持ちは一目で分かる、と言っていたから、お前は神格持ちでは無いはずだ。

つまりお前は神と認識してもらえない不完全な神である可能性が一番高いと判断した。QEDだ。ああ、証明終了って意味だぜ。お前相当古い時代の存在なんだろ?だから外来語がほとんど分からない。」

 

彼はそう言って両手を広げた。

 

「…よく見てんなぁ。努力して隠すつもりは無かったが…お前さん、意外と頭脳派だなぁ。」

 

薬研がひたすら関心していると、十六夜が耳をピクっと動かした。

薬研も同じくして、屋敷に近づく侵入者の気配をとらえた。

 

「…今日はこの辺にしといてやるよ、お前も来るか?」

「ああ。」

 

二人は屋根の上から玄関側へと、音も無く飛び降りた。

彼らの前方の茂みには、20から40代くらいのバラバラな年齢の男たちがいた。

種族も耳が長いものから、瞳孔が縦に長いもの、獣の耳が生えているものと様々だ。

上空から降って来た二人に動揺したようで、一瞬足が止まる。

十六夜が小石を弾くと、異常なスピードで敵対者へと飛んで行った。

木々がひしゃげる音と爆風が辺りを揺らす。

 

「ヒトの子はもう寝てる時間だろ?良いのか?」

 

「気にしなーい気にしない」

 

そう言う十六夜だったが、屋敷からジンが飛び出して来た。

 

「何事ですか!」

 

「フォレスガロからの物騒なお使いらしいぜ」

 

慌てた様子のジンに、十六夜はそう説明する。

砂埃が晴れると、侵入者達は一様に頭を下げていた。

 

「恥を忍んで頼みます!…どうか我々の…いや、ガルド率いるフォレス・ガロを、完膚なきまで叩き潰して欲しいのです」

「嫌だね」

 

油断させたところをブスり、という作戦だったのかもしれないが、十六夜はそっけない。

彼らは食い下がろうとしたが十六夜は続けてこう言った。

 

「どーせお前等、ガルドに人質を取られている連中だろ?命令されてガキ達を拉致しにきたってところか?」

「は、はい。まさかそこまで御見通しとは………我々も人質を取られている身、ガルドに逆らえず…」

「ああ、その人質な。ガルドがもう殺してるから。はいこの話題しゅーりょー」

 

ひらひらと手を振りながら答える十六夜に、彼らは絶句した。

 

「十六夜さん、もう少し優しく…」

 

「気を使えってか?冗談きついぞ御チビ様。殺された人質を拉致したのもこいつらだろうが。むしろ何を被害者面してんだか」

 

そう言われてジンは非難するのをやめた。

つい同情的になってしまうが、今回も彼らはノーネームの子供達を拉致するつもりだったのだ。

 

「な、なあアンタ。ホントに、もう人質は殺されたのか?俺の、俺の息子は!」

 

冷たい態度の十六夜では駄目だと思ったのか、男の一人が薬研に話しかける。

薬研は逡巡したが、どうせ分かる話だと肯定した。

 

「ああ、アイツは人質を連れて来た日に殺してたらしい。」

 

男はガクリと膝をついた。

絶望に包まれた彼らに、十六夜は口角を吊り上げて口を開いた。

 

「お前達の気持ちはよぉく分かる。ガルドが憎いよな?」

 

「ああ、勿論だ…ガルドの所為で!ガルドがいなければ…」

 

「でもお前には力が無い。よしんばガルドを倒したとして、その後ろに魔王がいる」

 

「ああ、そうなんだ、奴を倒しても魔王に目を付けられたら終わりだ!だから、手を出せなかった…!」

 

「だが安心しろ、その仇はコイツが討ってくれる」

 

彼らの口から反抗の意思を引き出して行った十六夜は、悪魔のような笑みでジンの肩を抱き寄せた。

 

「このジン坊ちゃんが魔王を倒す為のコミュニティを作ると言っているんだ!」

「え?」

 

十六夜は困惑するジンの口を塞ぐ。特に打ち合わせはしていなかったようだ。

 

「これまで大変だったな、お前ら!だが安心していい、このジン=ラッセルが率いるのは魔王を倒すためのコミュニティ!魔王とその配下の脅威からお前達を守るためのコミュニティだ!」

 

演説の効果は抜群だった。先程まで絶望に憑りつかれていた侵入者達の目に光が宿る。

一方のジンはあまりの出来事に呆然としていた。

 

「本当か?本当にアンタ達が魔王を倒してくれるのか?もう、魔王の脅威に怯えなくていいのか?」

 

「ああ、安心しろ。手始めにガルドを潰してやる。お前達はコミュニティに帰って伝えろ。ジン=ラッセルが魔王を倒してくれると!」

「わ、分かった。明日のゲーム、是非とも頑張ってくれ!」

 

それだけ言い残し、侵入者達はあっという間に走り去った。

 

「長いものに巻かれる主義ってやつだなぁ」

 

若干冷めた口調でそう呟く薬研に、十六夜はニヤニヤと笑った。

 

「まぁ良いじゃねえか、ああいう手合いの方がやりやすい。

魔王とその関係者にお困りの方、ジン=ラッセルまでーーーキャッチフレーズはこんなところか?」

「ふざけないで下さい!」

 

ようやく我に返ったのか、ジンが大声で十六夜に詰め寄る。

 

「そんな宣誓が流布されれば他の魔王に目を付けられてしまいます!」

「大歓迎だ、あんな面白そうな力を持った奴とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

「お、面白そう?では十六夜さんは自分の楽しみの為にコミュニティを破滅させるつもりですか!今はギフトゲームを堅実にこなして、コミュニティを大きくすることが先決です、それを…」

 

ジンは糾弾した。誰かの入れ知恵かも知れないが、彼なりにリーダーとしての今後の方針を持っていたらしい。

だが彼もまた、魔王の脅威に怯える一人という訳だ。

 

「ハァーーー本っ当に呆れたやつだな、おチビ。そんなの大前提だろ」

 

「まぁ、無理もねぇさ、幼少期に植え付けられた恐怖ってのは中々拭えるものじゃねえって言うぜ」

 

口ではそう言ったものの、ジンのことを分かってやれる訳ではなかった。

この言葉も、だからこそ傷を付けるのだと誰かが言ったことを覚えていたに過ぎない。

ただ憤慨するジンをポンポンと宥める。

 

「コミュニティを大きくしていく為には、まず人材が必要だ。だが俺達ノーネームには旗印も名も、呼び込む為の象徴が何も無い状態だ。

それじゃ人は集まらない。となると…リーダーの名を売り込むしかないだろ?」

 

ハッとした様子でジンは顔を上げた。十六夜は侵入者に対して、しきりにジンの名前と彼がリーダーである事を強調していた。

 

「僕を担ぎ上げて…コミュニティをアピールするということですか?」

 

「ああ。打倒魔王なんて目的を掲げれば、確実に目立つ。んで明日の、魔王傘下のコミュニティとのギフトゲームに勝てば、良い宣伝になる。

これに反応するのは魔王だけじゃない。同じ打倒魔王って目的を胸に秘めたヤツらもだ。せめて俺の足元並のやつが揃えば、どっかに消えちまった昔の仲間よりはアテにできるだろ?」

 

相変わらずの自信家である。

彼のことだ。魔王と戦うのが面白そうという理由の方が大きいに違いないのだが、確かに建設的な意見のように思われたのだろう。

ジンは真偽を確かめるかのようにじっと十六夜を見詰めていた。

彼は暫くの後、コミュニティのリーダーとして覚悟を決めたのか口火を切った。

 

「一つ、条件があります。今度開かれるサウザンドアイズのギフトゲームに、十六夜さんが参加し、勝利して下さい。そうすれば僕も十六夜さんの案を受け入れます」

 

十六夜は顎で続きを促した。先程よりは機嫌が良さそうだ。彼は反骨心のある者を好むきらいがある。

 

「そのゲームには僕たちの昔の仲間…元魔王の吸血鬼が出品されるんです。」

「元魔王ってことは強いんだよな?しかも、ソイツが仲間だったってことは…」

 

途端に、十六夜の目が爛々と輝いた。

 

「はい。御察しの通り、先代のコミュニティは魔王と戦って勝利した事があります」

「人類で最高の戦績記録を持ってたらしいぜ。」

 

と、薬研はガルドが言っていたことをそのまま添えた。

 

「ほぉ?それを越えるってのがどういうことか、この坊ちゃんが分かってるのかは怪しいが…」

 

「…分かっているつもりです」

 

「それで着実にとか甘い事言ってたのか?…ま、とにかく俺はその元魔王を取り戻せばいいんだな?」

「はい。十六夜さんの作戦には多くの戦力が必要です。そのゲームで貴方が力を示し、強大な仲間を取り戻せば、支持しましょう」

 

「いいぜ、交渉成立だ。明日のゲーム、負けるなよ」

 

そう言ってジンの頭をポンポンと叩くと、十六夜は背を向けて立ち去ろうとし…ふと、思い出したかのように振り返る。

 

「あ、もし負けたら俺、コミュニティ抜けるから」

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