魔王の刀も異世界から来るそうですよ?   作: ラズ

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第9話

薬研は力強い星の霊力によって叩き起こされた。

理知的な紫色の目と目が合う。なるほど彼の人知を超えた力は星に約束されたものだったらしい。

見回せば真剣な表情の黒ウサギ含む召喚されたノーネームの面々と、見知らぬ金髪に赤い目の少女がいた。

 

「吉光さま!!!」

 

黒ウサギが感極まった様子で抱きつく。薬研は反射的に背中を優しく叩いた。

と、自分の手を見て気付いたが、負傷が完全に回復している。心無しか体調もいい。

黒ウサギは吉光と自分を呼んではいたが、この体の状態、そして顕現されたこと。きっと彼らは全て知ってしまったのだろう。

 

「…初めまして、なんてごまかしは効かねえか」

 

「ええ、覚悟なさい。吉光くん…いや、薬研藤四郎くんと言った方が良いのかしら?」

 

飛鳥は顕現時に自然と彼の腰に納まった短刀に目を向ける。

薬研が乾いた笑い声をあげれば、その目は益々鋭くなった。

 

「飛鳥が怒るのも当然。私も怒ってる」

 

「すまんすまん」

 

薬研が謝罪を重ねて手を合わせれば、むっとした様子だかひとまず引き下がる。

変わって十六夜が楽しそうに口を開いた。

 

「なぁ、答え合わせしよーぜ」

「答え合わせ?」

 

聞き返せば、一つ頷いて目をきらめかせる。

 

「お前のこととか色々だよ」

 

「…ああ、旦那はそういうの好きだよなぁ。いいぜ、聞いてやる」

 

「まず、お前は姿が消える前にゲームオーバーだ、と言った。

俺が前に説明したことを踏まえたのなら、お前は生きてると思った。」

 

ーーー終わりってことさ。場合によっては小休憩を表すってところか。

 

去り際に戯れに言った台詞からすぐにそのことを察されたとは思わず、少し目を見張る。

薬研は茶化すように口を尖らせた。

 

「まぁ、ぶっちゃけるとこういう解け方をしたことはなかったから俺っちも確証はなかったんだがな。」

 

その言葉に、一人を除く女性陣の不機嫌さが増した。

うっかり墓穴を掘ったことに首をすくめながら、その例外を手で示す。

 

「というか、そこの嬢ちゃんは?」

 

「ああ、コイツはお前がいない間に手に入れた戦利品さ。こっちも立て続けに問題が起きてよ…それでお前のことは後回しになっちまって、今はやっと一段落したところなんだ」

 

「戦利品か…間違ってはいないな。家政婦のレティシアという。君とは今度、同僚として仲良くやっていきたいと思う」

 

軽く会釈され、さらりと手入れの行き届いた金髪が服を伝う。

美術品のような少女だ、と彼は自分のことを棚に上げてそう思った。

 

「というかね、彼女を手に入れたお祝いの前に、どうにか貴方を元に戻したかったの。」

 

「みんなで祝わなきゃ、意味が無い」

 

じ、っと見詰める耀の視線にたじろぐ。

彼は戦場にあることこそが自然だ。少女たちにとって薬研は共に巨大な虎という脅威を退けた仲だという認識が薄かった。

そこまで慕われるようなことをしただろうかと、首を傾げる。

 

「お前の持っていたギフトカードから、お前が何らかの手段で擬似的な人の器に降ろされ、制限付きで力を行使していることが分かった。これが一週間ほど前。」

 

「それで、吉光さまの持っていた刀には擬似神格が宿っていたので、何かヒントになるものが無いかと、黒ウサギがギフトカードに入れてみたのです。そうしましたら…」

 

黒ウサギは伏し目がちに続けたが、口ごもる。

 

「自分でギフトカードに入れてみりゃあ分かることだろ?口ごもってどうするよ。

 

依り代No.49(薬研藤四郎)

擬似人格『薬研藤四郎』

擬似神格『薬研藤四郎』

 

だとよ。

そこで俺たちは、お前が薬研藤四郎として相当精巧な模造品であることを理解した。」

 

と、十六夜が紫色のギフトカードを投げ渡す。

受け取ったそこにはその文字はなかったが、彼が言うからにはそうなのだろう。

彼はくだらないことで嘘をつく男ではない。

 

「上手く行き過ぎてると思って一応紋とかも調べたが、確かに薬研藤四郎を模していたし…お前のその、吉光って偽名、粟田口吉光から来てんだろ?」

 

「ああそうだぜ。良い名前だろ。なるほど擬似人格なぁ…」

 

政府も厄介なものを自分に与えたものだ、と彼は思った。

 

「でも、こうして話している貴方が…その…擬似人格とは思えないわ」

 

「当たり前だぞお嬢様。コイツは古い時代の存在なんじゃなくて、むしろ未来の存在。

外来語が分からなかったのも、外来語がある世界で隔離されていたからこそだ。だから翻訳機能が作動しなかった。」

 

現世に何人も同じ顔のヒトガタが赴いては問題だし、過去の改変はそれこそ本末転倒だ。

隔離、という意識では無かったが確かに。自分は特殊な空間でのみ生活していた。

箱庭とはいえ詳しい事情を話すことが正しいか分からなかったため、薬研はそんなところだと曖昧に頷く。

 

「まぁ、俺も統一祖語の恩恵の意味をよく知らない時は誤解してたがな。季節が簡単に変えられるみたいなことも言ってただろ?

とにかく相当高度な人工知能が作れる世界から来てるってことだ」

 

「そんな言い方…」

 

「まぁまぁ、別に気にすることじゃない。モノがモノで何が問題なんだ?」

 

彼がAIであると断じる十六夜に、再び非難の目が向けられた。

しかし、特に気負った様子もなく受け止める薬研の様子に、周囲の空気が少し和らぐ。

 

「実際、表記を見るまで俺も擬似人格とは思わなかったが…まぁ、お前の擬似人格ってのは、神格を落とし制御する意味で使われてるみたいだからな。それがイコールで今考えて喋ってるお前を作っているかっていうと微妙なんだ。

依り代のレプリカ薬研藤四郎の九十九神として昇華された人格があって、それと別に過去の記憶を担ってるのがギフトカードに表示されてる『擬似人格』なんじゃないか、って白夜叉は言ってたな。トップダウン型の人工知能が混ざってる感じ?」

 

あの意味深なことを言っていた少女か。

彼も堂々と語っているものの、色々と人の意見を伺ったらしい。

しかし、十六夜の知識の深さには驚くばかりだった。

 

「とっぷだうんがた、ってのはどういう意味なんだ?」

 

「ああ、こういう質問に対してはこう答える、みたいなのを大量に用意して、普通に応答できるように見せかけてるってコト。

つまりお前の場合は人格と銘打ってる訳だし…『薬研藤四郎』を主体とした出来事をぶち込んで、それに基づいて行動を選択するようにされてるんじゃねえか?」

 

するように()()()()()

勿論その出来事には恣意的なものも含めているだろうと十六夜は言外に滲ませた。

 

「…まぁ、地球上の薬研藤四郎にまつわるモノを集めてぶち込んだのが俺だから、記録の俺っちだけで何種類もいることは自分でも分かってたさ。」

 

ぽつりと言えば、十六夜は興味深そうに口角を吊り上げる。

 

「んで、誰が俺っちの大将になんだ?」

 

起動のための霊力を注がれた段階で彼には勿論分かってはいたが。

こういうのは分かっていてもあえて聞くべきだろう、と薬研は思う。

 

「本当はレティシアと同じようにみんなで所有したかったんだけど…無理らしくて…」

 

と、少し不服そうに飛鳥が言う。

同意を示す様に耀が頷いた。

 

「霊力が一番高いのは俺らしくてな、譲ってもらったんだ。代わりにレティシアの所有権が減っちまった。」

 

十六夜がふてくされた様子で文句を言うのに対して肩をすくめる。

 

「そりゃあ俺っちよりも嬢ちゃんの方が良いだろうよ、災難だったな…いいぜ。

俺っち、薬研藤四郎だ。よろしく頼む」

 

薬研がそう名乗りを上げた直後、十六夜は彼の背後に美しい桜吹雪を幻視した。

彼らはお互いに、双方の間に霊力回路がしっかりと結ばれたのが分かった。

 

「…やっぱりここに来る前に契約が切れていたから霊力が供給されず、自然に顕現が解けた、という訳で良いんだな?

お前がやけに自暴自棄だったのも契約が切れたことが原因か?」

 

「…大将って本当に頭脳派だよな。全部正解だよ」

 

「契約が切れた、ということは…」

「いいや、前の審神者が死んだ訳じゃねえぜ、俺っちが名前を知っちまったから始末せざるをえなかったのさ」

「そんな…」

 

暗い顔になった黒ウサギを安心させようとそう言ったが、始末という言葉に更に落ち込ませてしまった。

むぅ、と薬研は唸る。

 

「だがよ、お前は今、俺の名前を知ったままだろ?」

 

「そうなんだよなぁ、実際、俺っちが大将を神域に連れていけるかっていうとそれは無理だ。そもそもここ箱庭だもんなぁ」

 

「じゃあ、安心して名前呼べばいいだろ」

 

ぶっきらぼうな十六夜だったが、少し照れが見えた。逡巡する薬研に不遜な態度で言葉を重ねる。

 

「大体よ、俺様をどうにかしようなんざ100年早ぇ。この十六夜様が呼べって言ってるんだぞ?ほら」

 

「…いざよい。」

 

口のなかで転ばした言葉に、何の霊力も込めなかった。

 

「十六夜くんだけズルいわ!私も!」

「私も」

「ふむ、よく分からんが便乗しよう」

「黒ウサギのこともお願いしますね!」

 

薬研は笑った。




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