「待ちわびたぞ。雪ノ下八幡!」
そう部室に佇む不審人物が言った。
「知り合い?」
そう雪乃が不審そうに問いかけてきた。
「知らん。こんな奴知ってても知らん」
俺がそう言うと不審人物が言う。
「まさか相棒の顔を忘れたとわな・・・。見下げ果てたぞ。八幡。」
「相棒って言ってるけど」
由比ヶ浜、そんな目で俺を見るな。明らかに犯罪者に向ける目だぞ。それ。
「そうだ相棒。共に駆け抜けたあの地獄のような時をお前は忘れたのか」
「地獄って、体育の時間にペア組まされただけじゃねえか」
「あら。やっぱり知り合いだったのね」
「知り合いって言えるかすら微妙だけどな。ペア組んでるのだって半ば強制みたいなもんだし。それで何のようだ材木座」
不審人物改め材木座義輝に問いかける。
「ついに我の名を口にしたか。いかにも我は剣豪将軍・材木座義輝である!」
ばさっとコートをなびかせながら男前の表情でそう言った。てかコートって今五月だぞ。さすがにもう暑いだろ。
それを見ている由比ヶ浜と雪乃の視線はとても刺々しいものだった。
「ねえ・・・それ何なの?」
雪乃が不快感をあらわにして材木座を睨みつけている。由比ヶ浜はなぜか俺を睨みつけている。なんでだよ。
「こいつは材木座義輝。体育の時間にペア組んでる奴だ。それ以上でもそれ以下でもない」
あの地獄のような時間を平和に過ごすために限って言えば相棒というのもあながち間違いじゃないかもしれない。好きな人とペア作れって地獄だよね!
雪乃が俺と材木座を見比べてこう言った。
「八幡。この人には八幡ほど運動ができるとは思えないのだけれど・・・」
そうなのだ。材木座は運動が全然できない。からっきしだ。対して俺は自分で言うのも何だが基本的に何でもできてしまうので材木座とは全然、全く、ペアとして成り立っていない。まあ俺は材木座に合わせてやっているのでそこまで苦ではない。
「まあこいつに合わせてやってるからそれほど苦でもないぞ。あんまり目立ちたくないし、ちょうど良い」
「そう。それなら納得だわ」
雪乃はうん、うん、と頷いていた。
「では話を戻しましょう。材木座君。何の用かしら」
「う、うむ。時に八幡。奉仕部とはここでいいのか?」
「ええ。ここが奉仕部よ」
俺の代わりに雪乃が答えた。
「そ、そうであったか。八幡よ。平塚教諭からご教授頂いた通りならお主は我の願いを叶える義務があるのだな」
またあの人か。ろく説明をしないでここに連れてくるなよ。そして仕事を増やすな。
「奉仕部はあなたの願いを叶える訳ではないわ。手助けをするだけよ」
「そ、そうであったか。で、では八幡よ。我に力を貸せ。思えば我とお主は対等な関係。再び天下を握ろうではないか」
「何でこっち見んだよ」
「ゴラムゴラム。冷たいではないか八幡よ。我とお主の仲ではないか」
「なんだ、その咳。気持ち悪っ」
「すまない。この時代の空気は汚れているようだ。汚れなき室町時代がなつかしい。そうは思わんか。八幡よ」
なんだこいつ。めんどくさい。
「思わねえよ。ていうかお前もう死ねよ」
「死など恐ろしくはない!あの世で国取りするだけよ」
さすが暴言への耐性は高いな。
「う、うわあ」
その後ろで由比ヶ浜は引いていた。
「八幡、ちょっと」
雪乃が俺の袖を弾きながら俺を呼ぶ。
「何なのあれ?それに剣豪将軍って」
雪乃さん?ちょっと近いですよ。女の子がこんな無防備じゃだめでしょ。
「あれは中二病だ。自分の中の設定に合わせてお芝居をしているようなもんだ」
俺がそう言うと
「病気なの?」
「違う。スラングみたいなもんだ」
「なるほど。理解したわ」
雪乃がそう言うとそれに続けて
「ユッキーを仲間みたいに言ってるのは何で?」
と由比ヶ浜が問いかけてきた。
「さあ?さっぱりわからん」
とそう答えておいた。
俺と由比ヶ浜が話しているうちに雪乃は材木座の眼前に立っていた。由比ヶ浜は「ゆきのん逃げて!」とか言ってる。正直俺もあんなの目の当たりにしたら一目散に駆け出しちゃうレベル。
「だいたいわかったわ。あなたの依頼はそのびょうき?を直すことで良いのね?」
「八幡よ。我は崇高なる希望を叶えるためにここに参上した次第だ」
いやだからなんでこっち見てんだよ。
「話しているのは私なのだけれど。人が話しているときはその人の方を向きなさい。お母さんに教わらなかったの?」
氷の女王のごとく冷たい声音でいった。
「モハハハハ。これはしたり」
「おい。その喋り方良い加減にやめろ。お前はこっちに頼みにきているんだろ?だったら礼儀くらいわきまえろよ」
俺がそう言うと材木座は黙り込んでしまった。あれ俺そんなに怖かった?たしかに怒った時の俺は姉ちゃんよりも怖いと雪乃に言われたことはあるが・・・。本気で怒った訳じゃないのに。だいたい50パーセントくらい。
「とにかく、あなたの依頼はそのびょうきを直すことで良いのよね?」
重くなった空気の中雪乃がそう口を開いた。
「い、いや別に病気じゃないですけど」
材木座は目を伏せながらそう言った。完全に素だ。
雪乃と俺に攻められた材木座のキャパシティは完全に崩壊してしまっている。ちょっと可哀想になってきた。材木座哀れなり。
とにかく少し材木座を慰めようと一歩進むと足元に何かが風で飛んできた。
拾い上げるとそれは文字がびっしりと羅列された原稿用紙だった。
「これは・・・。」
「ふむ。説明せずともわかるとはさすが八幡。何を隠そう—」
「これなに?」
材木座を完全無視して由比ヶ浜が覗き込む。
「小説の原稿だと思うけど」
「いかにも。それはラノベの原稿だ。新人賞に応募しようと思ったが友達がいないため感が聞けぬ。よんでくれ」
こいつ完全に調子を取り戻してやがる。
「「ラノベ?」」
由比ヶ浜と雪乃が首をちょこんと傾げながら俺に問いかける。
「マンガみたいなファンタジーな物語を活字で書いたようなもんだと理解してくれれば良い。実際はそんな簡単な括りじゃないが」
俺は小説は基本的にオールジャンルでいけるのでラノベを読むこともまあある。マンガも好きだしな。
「そう」
「へえー」
興味なさげに二人が言った。
「ていうか投稿サイトとか投稿スレに晒せば良いだろ」
「それは無理だ。奴らは容赦ないからな。酷評されたらたぶん死ぬぞ。我。」
まあ確かにネット越しの相手なら容赦なく言いたいことを言ってくるだろう。
一般的に考えれば俺たちと材木座の距離感ならどうしたってオブラートに包んだ物言いになるだろう。でもなあ
「たぶん投稿スレより雪乃の方が容赦ないぞ」
「へ?は、八幡どうしてその御仁を名前でよんでいるのだ?ま、まさか・・・」
そっちかよ。てっきり容赦ないって言う方に反応したのかと思ったよ。でも面白い勘違いだ。どうせ付き合っているとでも思っているのだろう。よし。少しからかってやろう。
「まあ俺たちは名前で呼び合うようなそんな関係だ」
嘘は言っていない。兄妹だからな。
「ムムム。お主まさか・・・リ、リア充だったのか!?」
「まあそうだな。雪乃ともう一人美人なお姉さんと一緒に暮らしているし」
俺と材木座のやり取りを由比ヶ浜と雪乃は笑いを堪えるように見つめていた。
「く、くそ!!羨ましすぎる。」
おいまた完全に素に戻ってるぞ。
「まあ姉と妹だけどな」
「へ?」
で、でたー、本日二度目のへ?いただきました。
そこで完全に気が付いたようだ。俺と雪乃の苗字が同じだということに。
材木座のへ?と同時に由比ヶ浜と雪乃が吹き出した。由比ヶ浜は大笑い、雪乃は可愛くぷぷっと笑っていた。かく言う俺も大笑い。
「くそ!してやられた」
材木座は設定なのか素なのかよくわからない反応をしながら顔を真っ赤にしている。
「ま、まあいい。明日また来る。その時感想を聞かせてもらうぞ!ではサラダバー」
おい「さらばだ」が「サラダバー」になってるぞ。どれだけ恥ずかしかったんだよ。
どうでしたでしょうか?次回は材木座編後編です。もしかしたら中編になるかもしれませんが・・・
感想、誤字報告等よろしくお願いします。