ARCADIA   作:Sakuto.

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第二章 アザゼルの塔攻略編 Ⅶ

 

 

─ 4月17日 作戦4日目 ─

 

塔攻略最終日、途中でトラブルがあったもののなんとか予定通りに攻略を進めることができた。

残されているのは最上階の50階…まだ誰も見たことのない領域だ。そこにはどんな魔獣がいるかは不明。当初の予定では他校とも共闘して未到達の50階を制圧するつもりだったが参加するはずだった他校もトラブルに見舞われて参加不可となってしまった。だがここまで来たら最後まで制圧したいというのが、ここにいる全員の気持ちであった。だがこちらのメンバーもトラブルにより数班が壊滅させられ、50階制圧開始までにそのメンバーの治療が間に合わなかった。最終的には残りの6班で50階の制圧が決まった。

「やはり予定と違ってメンバーが少なくなるのは不安だな。」

50階の制圧するために今、作戦会議が行われていた。

「そもそも、50階はまだ誰も見たことが無いんだ。外側からの調査だとそれ以下の階層のエレメントの濃度とは桁外れらしい…濃度が濃ければ濃いほど強力な魔獣がいるということだ。相手の正体も、数も、強さも知らない俺達がこの人数で挑むのは少し躊躇われる。だがこのまま待っていてもどうにもならない。塔周囲の濃度は早ければ明日濃くなると思われる。周囲のエレメントが濃くなれば当然作戦は決行できない。そうなれば次、ここに入れるのは数年後となる。その数年の間に各地にこの塔の影響が広がるだろう。そうならないためにも今日で確実に制圧する。仕方ないが、残りの6班で作戦を決行するしかない。」

環は今回で確実にこのタワーを制圧しようとしている。しかしそれは他のメンバーも同じだった。

この機を逃せば塔の影響が広がり日本中に魔獣が出現する確率が大幅に上昇する。

そうしないためにも何としてでも今回で終わらせなければならない。

「まず50階に上がるための入り口を確認しよう。」

環はテーブルに49階の見取り図を広げる。

「昨日調べた限りだと、50階に登るには49階の南にあるこの階段を登るしかなさそうだ。階段は螺旋になっていてかなり大きい。人が4人横に並んでも余裕が残るくらいだ。」

地図に写された螺旋階段を人差し指でトントンと指さす。たしかに見た限りだとこの大きな螺旋階段しか50階に登る手段は無さそうだ。

そこで副隊長・成宮が口を開いた。

「でもいきなり突っ込むのも危険だ。ここは守備魔術を持った奴を前に置いて様子を見よう。」

「そうだな。前に硬い奴らがいると状況も見やすい。もっと案を出して最善の方法で行こう。」

それからしばらくは3年生で作戦会議をしていた。

その間1、2年生は自由時間となっていた。

朔摩は時間が来るまでただ呆然と森の向こうに聳え立つ塔を眺めていた。

昨日の爆発で塔の側面に空いていた穴もエレメントによりすっかり修復され、何事も無かったかのように見える。

そして視線を最上階へと向けた。

(あそこの最上階に行ったら何か分かるかな…)

目を凝らすと自然に目の能力が発動される。しばらく塔の最上階を睨むが何も見えてこない。

(エレメントが濃すぎて分かりにくいな…)

フッと目を閉じると目が通常に戻りしばらくボーっとしていると後ろから誰かに声をかけられた。

「黒月くん。」

後ろを振り向くと幸奈が両手を後ろに回して立っていた。

「先輩。どうしたんですか?こんな所に。」

「それは君もでしょ。」

少し笑いながらそう言い、隣に歩いてきた。

(それにしても、相変わらずこの人の気配は感じ取れないなぁ…影が薄いのか?でも影が薄いのと関係ないよな。ホントに不思議な人だ。)

横顔を見れば幸奈も塔の方を見ていた。

「気になるんですか?」

「少しね。黒月くんはあれを見て何か分かったことある?君って何でも分かるような目を持ってるでしょ?」

「あ、分かりました?よく気が付きましたね。」

「なんとなくね。それでどう?」

「あぁ…ここからだとほとんど分からないんですよね。エレメントが濃いせいで。」

「へえ、そうなんだ。」

「やっぱり入ってからじゃないと分からないか…」

「そうなの?」

「ええ、これはかなり強いのがいると思いますよ。」

「やっぱり今のメンバーだと厳しいかな。」

「どうでしょうね。メンバーは優秀ですし、作戦次第じゃないですか?」

「そっか。」

言い終わるとどちらとも喋らなくなりしばらく沈黙が続いた。ただ2人は塔を見つめていた。

すると幸奈が口を開いた。

「ねえ、黒月くん…君って─」

幸奈が何かを言おうとした時!他の人物の声が聞こえた。

「おぉーーい!朔摩ぁ!」

朔摩は後ろを振り向く。

「明か…」

幸奈は続けることなくそのまま黙った。

そして林の中から明が姿を表した。

「朔摩〜?お、いたいた。ちょっと聞きたいこと…が……」

明は最後まで言い終えることなくその場で固まった。

「明?どうしたんだ?」

怪訝そうに朔摩が声をかけるとそれにハッとして口を開いた。

「そうか朔摩…なるほど。」

「おい、何がなるほどだ。」

「そうかそうか…入学早々できるとはな…」

「は?」

朔摩は明が何を言っているのか理解出来ていなかった。

そんな朔摩の気も知らずに明は親指をグッと立てウィンクをした。

「邪魔したな!お幸せに!」

その言葉に幸奈はピンと来たようで顔を真っ赤に染め声を荒らげた。

「ちょ、ちょっと!君なにか勘違いしてない!!ち、違うよ!そんなんじゃないからね!」

幸奈が必死に訴えるが明は誤解したままニヤニヤしていた。

「まあまあ、先輩も照れずに。んじゃな!」

そう言い残すと早々にこの場を立ち去った。

「ちょ、ちょっとーーー!!!!」

最後に叫ぶが既に姿を消した明には届くことは無かった。

その中で唯一、朔摩だけは不得要領な様子で顔を傾げている。

「なんだあいつ?いきなり来たと思ったらすぐに帰って。それにどうしたんですか先輩。顔真っ赤にして息も荒らげて。」

「はぁ…はぁ…な、何でもないわ。」

「そうですか。そういえば先輩、さっきなにか言おうとしてましたけど結局何だったんですか?」

「ああ、ええっと…や、やっぱりいい!大したことじゃないから!」

「…? そうですか。」

「う、うん」

(君とどこかで会ったことあるかもなんて言われたら困るよね。)

そう、朔摩とは初めて会った時からどこかで会ったようなと感じていた。

(上手く言えないけど…生まれる前から知ってたみたいな…)

だが彼と初めて会ったのは生徒会室だった。それ以前に彼に会った覚えがない。

(黒月くんって一体何なんだろう。)

朔摩の横顔を眺めていると突然、メールが送られてきた。

「ひゃい!!」

メールの着信音に驚きビクッと肩を跳ねさせおかしな声がでた。

慌ててポケットから端末を取り出しメールの送り主を確認する。

「はぁ…びっくりしたぁ…」

「誰ですか?」

朔摩が幸奈の端末を覗き込むようにする。

「め、メンバーから。もうすぐに作戦が始まるって。戻ろ?」

「そうですね。」

作戦が始まると聞き2人はメンバーの元へと急いだ。

到着すると2人は周りから暖かい目や妬みの目で見られていた。

「作戦中に何やってんだよ。」などが聞こえてくる。

幸奈は顔真っ赤にして覆いながら俯くが朔摩は何のことやらという具合で首をかしげていた。

しばらくそんな調子で視線を受けていたが作戦の説明が始まるとメンバー全員が真剣な顔に戻り話を聞いていた。

作戦の説明を終えると直ぐに出発となり急いで支度をした。

支度を終え班で塔に向かっている途中隣から声をかけられた。

「よう1年。今回は役に立てるといいな?ま、射出系魔術を持っていないお前が役に立てる所があればな。せいぜい頑張れよ。」

そう皮肉を言うと笑い声を上げながら去っていった。

「なんなのよあの人!またあんなこと言って。黒月くん!あんなの気にしなくて良いからね!」

幸奈が頬を膨らませ先程の人達の背中を睨みつけながら言う。幸奈はああいうタイプの人間が嫌いだった。そもそもあんなのを好む人はいないと思うが。

朔摩に気にしないように言いかけるが当の本人は当然のように気にした様子はなかった。

「分かってますよ。ああいうの一々構ってられませんし。」

「こうなったら君の本当の実力を見せつけてやりましょう!」

「あー、いや別にいいです。目立つのも困りますし。」

「何言ってるの!入試1位の時点でもう目立ってるの。」

「え?そうなんですか?そんな目立つ程のものですかね?」

「それはもう。しかも君は1位といってもただの1位じゃないんだよ?2位との差が圧倒的なんだよ。そんな実力者が目立たない訳がないでしょ。」

「へぇ〜。俺の成績よく知ってますね。」

「それはこの作戦のメンバーの事を把握してるから。それだけよ。」

「なるほど。」

怪しい言い訳でもなんとか納得した様で胸を撫で下ろした。

「ちなみに先輩は入試成績どのくらいだったんですか?」

その質問に幸奈は顎に人差し指を当て記憶を辿った。

「え〜と、確か5位だったよ。」

「へ〜先輩って意外と上の方だったんですね。」

「あ、今私なんかがって思ったよね?」

「いやいや。そんなことないですよ。」

「ホントかなぁ…?」

ジト目で朔摩を睨むが朔摩はいつも通りだった。

「まあこの作戦に参加出来るほどの人ですから当然ですよね。」

「そうね。それなのに君をバカにした人は黒月くんの事なにも分かってないのになんであんなこと言うかな。」

幸奈はまだ気にしていたようでその様子に朔摩は苦笑する。

「仕方ないですよ。確かに役に立ってませんでしたから。それより先輩、前の人とだいぶ距離空いちゃいましたから急ぎましょう。」

「わっ、本当だ。」

 

前のの人に追いつき、しばらく歩いていると塔に到着した。

 

塔に入ると環が前に出て作戦と陣形の説明を始めた。

「敵の正体は分からないため慎重に行くしかない。犠牲者を出さないために安全な方法で50階を制圧する。今からこの作戦の陣形を説明する。

まず防御魔術の強いメンバーは前に、リーチの長いメンバーは中央、火力の高いメンバーは後ろ。

最初は防御魔術で相手の動きを見る。

隙があれば中央メンバーが遠距離魔術で攻撃をする。相手が怯めば後ろのメンバーが前に出て一斉攻撃。

これが最適な方法だと思う。

異論はないか?」

環の説明に誰もが納得していた。

「よし、じゃあこの作戦で行く。50階へ出発だ。」

環が先頭を歩きその後をメンバーがついて行く。

そしていくつもの階段を上り遂に50階前の扉に着いた。

「陣形を作れ!」

その言葉にメンバーがササッと行動し、すぐに陣形が完成する。

「よし、今から扉を開ける。覚悟はできたか。」

そう言うとメンバーは頷いた。

それを確認した環は扉の方へ向き直り、扉を両手で押した。

重い石を引きずるような音と共に扉は開いた。

扉が完全に開くと同時に前列のメンバーがバリアを張った。

慎重に奥に進む。

50階は大きな一本道で出来ていた。

しかしどこにも魔獣の姿は見えない。

メンバー全員が気を緩めた時、朔摩が気が付き大声で叫んだ。

「気を緩めるな!!!!!」

その言葉にメンバーがビクッと反応し、構えた。

その瞬間、後ろから霧ののような黒い煙が集合し、どんどん形を作っていった。

メンバーはその姿に驚き、恐怖した。

10m以上はあるだろうその姿は侍のような鎧で全身を包んで、鬼のような顔をしている。

肩に担いでいるのはその魔獣より長い長刀だった。

メンバーが呆然としていると魔獣は長刀を横薙ぎに振った。

その風圧で多くのメンバーが吹き飛ばされた。

朔摩も地面に手を付き風圧に耐えていた。

「あいつ、多分Aランク以上の魔獣だぞ。」

「Aランク!?」

「ああ、これは相当ヤバい。隊長、指揮を。」

「ああ!防御班!さっきの陣形に戻れ!遠距離班、一箇所に固まらないように陣取れ!

近距離班は防御班の後ろへ!」

環の指揮にメンバーは「了解!」と叫び陣取った。

魔獣が攻撃の予備動作に入ったのを確認すると防御班はバリアを展開した。

魔獣の振り下ろした長刀はそのバリアにヒットし、跳ね返された。

「グゥゥルルル…!」

そして遠距離班が攻撃するはずだったが。

「こんなやつ!俺一人で十分だ!」

そう言って飛び出したのが入試2位の高坂だった。

環がそれを止めようと手を伸ばすが届かずに高坂はそのまま魔獣に突っ込んでいった。

「バカ野郎!戻れ!!」

メンバーがそう叫ぶがそれでも高坂は止まらなかった。

「もらったぁ!」

魔獣が怯んでいる隙に鞘に差していた剣を抜き、振りかぶる。

魔獣は高坂の動きを確認し、素早く立ち上がり、飛び退いた。

その動きに高坂は驚き、振り下ろした剣は空振りに終わる。

その隙に魔獣は反撃とばかりに高坂を回し蹴りで吹き飛ばす。

そしてすぐに壁に激突した。

「ごはっ」

吐血をしてその場に倒れ込む。

「言わんこっちゃねぇ!」

メンバー数名が走り駆け寄ろうとするが魔獣は高坂に追撃を加えようとしていた。

「ぐっ…うそ…だろ…」

高坂は動くことも出来ずに魔獣の攻撃を受けるしかなかった。

メンバーが助けに来るがもう間に合わなかった。

高坂が諦めて目を瞑り、攻撃を受けようとした時、突然横から物凄い衝撃を喰らった。

そのまま高坂は横に吹き飛んだ。

目を開けるとそこに立っていたのは朔摩だった。

朔摩が高坂を蹴り飛ばし魔獣の攻撃の軌道から外すと自分もその軌道から外れる。

高坂のすぐ近くに朔摩が着地し、高坂は朔摩に声をかけた。

「おま…余計なこと…すん…」

言い終わる前に朔摩がこちらを睨み低い声で言葉を発した。

「邪魔。引っ込んでろ。」

「っ!」

「勝手な行動するからこうなるんだ。」

そう言い残すとすぐに魔獣の元に戻って行った。

「…くっそ!」

地面を拳で叩きつけながらそう吐く。

目を瞑り歯を食いしばっていると朔摩の言葉が脳に響く。

─邪魔。引っ込んでろ。─

その言葉が悔しくて仕方がなかった。

「畜生…ちく…しょう…」

そのまま意識を失った。

 

前線に戻るとメンバーに声をかけられた。

「さっきの助け方は…ちょっと乱暴じゃないか?」

「この魔獣の攻撃をまともに受けたら終わりですよ。それならアイツを動かすしか無かったんで。それに勝手に行動した罰も込めて。」

「へ、へぇ…」

「そんなことよりこっちを集中しましょう。」

「そ、そうだな。」

防御班と遠距離班が慎重に様子を見ながら魔獣に攻撃している。

魔獣は全方位から攻撃を受けて翻弄されていた。

耐えきれなくなったのか魔獣は怒り、大声で叫んだ。

「ギュララララララララララララ!!!!!!」

「なんだ!?」

「全員警戒しろ!」

すると少し離れた場所からもう1人、全く同じ魔獣が現れた。

それにメンバーは誰も気づいていなかった。

もう1人の魔獣は近くにいた幸奈を後ろに立ち刀を振りかぶった。

それに気づいた朔摩は幸奈の所に走った。

ギュン!とスピードを上げ刀が幸奈に当たる直前で割り込み、剣で刀を受けた。

その瞬間、衝撃波が発生し、近くにいたメンバーは吹き飛ばされる。

幸奈は何が起きたか理解できないでいた。

突然朔摩が走ってきたと思ったら朔摩が幸奈の後ろに立った。その瞬間衝撃波で吹き飛ばされた。

何とか上体を起こし、先程まで自分が立っていた場所に目をやる。

そこには最初にいた魔獣と瓜二つの魔獣が立っていた。そしてすぐ側に朔摩がその魔獣の刀を受け止めていた。

魔獣が上から押し潰すように刀を構え、朔摩はそれを耐えていた。

すると魔獣の刀があまりにも重く、地面が抉れ、窪みが出来る。

朔摩の顔を見ると歯を食いしばり衝撃に耐えていた。

すると魔獣と朔摩のいる地面が崩れ、大きく穴が空いた。

そのまま魔獣と朔摩は下の階へと落下して行った。

幸奈はその穴に駆け寄り、穴を覗き込んだ。

「黒月くーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!」

そのまま魔獣と朔摩は下の階の地面も突き破り、どんどんと下の階へ落ちていった。

 

朔摩は落下しながらも魔獣と戦っていた。

(1番下に落下するまであとあと数十秒ってところかな。)

魔獣と鍔迫り合いをしていたが朔摩が魔獣に蹴りを入れ、少し距離をとる。

すると魔獣は壁に足をつき、そのまま勢いよく壁を蹴りこちらに迫ってきた。

「グゥゥルルルアアアアアアア!!!」

刀を振りかぶり思いっきり振り下ろした。

朔摩はそれを剣で受けたが刀の勢いは殺せずそのまま下に飛ばされる。

床を何枚かぶち抜き、1階と思われる床まで破り、その下へと落ちる。

1階の下、地下に到達しその地面に激突する。

「いって…」

その場に倒れていると上から魔獣が降ってきて膝を突き出していた。

朔摩はバッと飛び退き膝蹴りを躱した。

「グゥゥルルル…」

地面からめり込んだ膝を抜きこちらを睨む。

「まさかもう1匹いたとはな。」

魔獣が刀を構えると朔摩も剣を構える。

両者同時に地面を蹴った。

剣と刀がぶつかり火花が散った。

 

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