─キンッキンッキンキンッ─
剣と剣がぶつかり合う音が塔の地下で鳴り響く。
ぶつかっては離れ、そしてまたぶつかり合う。
両者共目にも留まらぬ速さでぶつかり合っていた。
その衝撃で壁や天井が崩れ、ボロボロと瓦礫が降ってくる。
「グガアアアアア!!!」
「はぁっ!」
─ガキンッ─
「ググググゥ…!」
「…っ!」
ギリギリとぶつかった箇所から音を立て、両者の腕がカタカタと揺れる。
すると魔獣侍が鍔迫り合いに気を取られている朔摩の横腹に強烈な蹴りを入れた。
朔摩はすぐに気が付き、刀を受け流して守りの体勢をした。
ダメージは軽減できたものの勢いは殺せずそのまま吹き飛ばされてしまう。
そして一秒もしない内に壁に激突する。
その衝撃で壁が崩れて朔摩が瓦礫に埋もれてしまう。
そこに魔獣侍は間髪入れず追撃を加えてくる。
大きく息を吸い朔摩の埋もれている瓦礫に向かって炎の息を吐く。
ゴオッと燃え盛る炎が瓦礫諸共朔摩を包み込む。
しかしすぐに炎は吸い込まれるように消滅した。
さすがの魔獣侍も不思議に思ったのか攻撃を中断する。
ゆっくりと近づくと瓦礫の中から朔摩が飛び出した。
そのまま大きく飛び上がり、魔獣侍の背後に着地した。
魔獣侍はすぐに振り向きもう一度炎を吐いた。
地面を焦がすほどの高熱を持った炎が朔摩に迫る。
しかし朔摩は避けることもなく左手を広げながら突き出すと、左手の数ミリ先に巨大な魔法陣が出現した。
魔獣侍が放った炎はその魔法陣に引き寄せられ、全て吸収される。
吸収された炎は朔摩のエレメントに変換され、膨大な魔力を放出させる。
「お前のエレメント、有り難く利用させてもらうぜ。」
そう言い放つと剣を持つ右手に力を込める。
そうすると朔摩の愛剣の刀身が魔獣侍より大きい炎に包まれる。
凄まじい光と魔力を放ち、感情のないはずの魔獣でさえ恐れ、後ずさった。
「おぅし…いくぞ!」
「グゥルル…ガアアアアアア!!!」
両者は地面を蹴り距離を詰める。
「せやぁ!」
「ギュララララララ!!!!」
轟々と燃え盛る炎の剣と魔獣侍と同じ長さ刀が衝撃波を放ちながら衝突する。
膨大なエネルギーのぶつかり合いで塔全体が揺れる。
その振動は最上階にも響きメンバーも驚いていた。
「な、なんだ!?」
「下からだ!あの1年と一緒にいた侍みたいな魔獣!」
そしてメンバー達は数メートル先の地面に空いた穴に目を向けた。
「あの1年…今頃は…」
「やめろ!そんなこと考えんな!」
「で、でもよ…」
「あの1年が無事なことを祈って、いいから俺たちはこっちに集中するんだ!」
「わ、分かった。」
メンバーは戦闘に戻って行ったが幸奈は朔摩が落ちてからずっとその穴を心配そうに見続けていた。
(黒月君ならきっと大丈夫…あんなに強いんだもん…彼を信じて私はこっちに集中しなきゃ。)
うん…と小さく頷き前線に戻って行った。
「ゴガアアアアアアアアアア!!!!!!」
「おおおお!!」
ビリビリと空気が振動するほど叫び声を上げ朔摩の剣を押し返そうとする。
しかし朔摩はそれも上からねじ伏せていく。
そしてついに…
─ガキンッ─
砕けるような音がなると同時に魔獣侍の刀が根元から折れてしまった。
それをチャンスとばかりに朔摩は更に力を入れて剣を振り下ろす。
「おお…っっらぁ!」
─ザシュッ!─
「ガアアアアアアアア!!」
魔獣侍の左の肩口を剣がざっくりと抉った。
このまま真っ二つに切り裂こうとしたが咄嗟に魔獣侍が飛び退き、死を免れる。
「逃したか…」
しかし死を免れたものの、傷は大きく、左腕を切り落とした。
傷口からボトボトと黒ずんだ血が滝のように流れる。
「グル…ルルル…ガアアアアア!」
ふらつくもなんとか持ちこたえ、大声で叫ぶ。
「しぶといな…」
魔獣侍はそばに落ちていたもう1本の刀を広い全速力でこちらに向かってくる。
そして大きく振りかぶり、刀身に魔力を込めて振り下ろす。
朔摩も同じように刀身に魔力を込めて刀を受け止める。
「グルルルルラアアアアアアアア!!!!」
─ピシッ…バキン!─
「っ!」
剣と剣がぶつかり合った瞬間、朔摩の剣にヒビが入る音がした。そしてすぐにその音は大きくなり、朔摩の剣が折れてしまった。
さっきの攻撃で相当消耗していたのだろう。
今の攻撃で限界を迎え、折れてしまった。
すぐに飛び退き、攻撃を避けようとするが距離が近かったため、完全には避けきれず左の肩に攻撃を受けてしまう。
そのまま魔獣侍と距離をとり、自分の怪我の様子を見る。
肩口には刀で切り裂かれ、ぱっくりと開いていて、血がドクドクと流れている。
傷口に手を当て簡単な止血をする。
(まずいな…剣が無いと攻撃が当たらないぞ。)
そう考えている内にも魔獣侍は追撃を加えようと刀を振り回す。
それを素早く避け、一定の距離を保つ。
(何か使えるものは……ん?)
魔獣侍の向こうに微かに見えたその光に目を凝らしてみると抜けた天井から射す光の先に真っ黒の刀身の刀が宝のように祀られているかのように地面に突き刺さっていた。
(あれなら…)
スキを見て魔獣侍の攻撃を躱し、刀の方へ走り出す。
魔獣侍はそれをすぐに追いかける。
無数の斬撃を繰り出してくる侍の攻撃を避けつつ、刀の所まで走り柄をぎゅっと握る。
柄を握ったのを確認するとそれを勢いよく引っ張る。
台座に擦れて火花を散らしながらもその黒い刀身が完全に台座から抜ける。
そのままの勢いで侍に斬撃を放つ。
朔摩の斬撃はまともに侍の胴に入り、血を撒きながら数十m吹き飛ぶ。
朔摩は自身の持つ刀をまじまじと見つめた。
長い年月ここに放置されたのか、所々錆びており、多少ながらも刃毀れしている。
だがそんな状態でも切れ味はバツグンだった。
本来の姿になるともっと強力な武器になるだろう。
そんなことを思いつつ倒れている侍に向き直り、刀を持っている方の手を前に出し中段の構えをする。
数秒して侍がググッと体を起こしこちらを睨みつける。
「さすがA級の魔獣はタフだな。」
「シュルルルルルルル…」
それでも相当弱っているらしく刀を地面に突き立ててなんとか立っている様子だ。
「一気に仕留める。」
足に力を入れ、地面が抉れるほど強く地面を蹴る。
そして一瞬で侍との距離を詰め、薙ぎ払うように刀を振る。
すぐに後ろに周り背中に縦切りを放つ。
背中に攻撃を受け振り向くがそこには既に朔摩の姿はなく、気が付けば上に跳躍していた。
すぐに刀を受けようと構えに入ろうとするがそれよりも早く朔摩の攻撃が侍の体を抉った。
降下の勢いで振り下ろした刀は左の肩口から反対側の脇腹をなぞるように切り裂いた。
その傷口から大量の血が吹き出し朔摩にベッタリと付くがそんなことは気にもとめず、追撃する。
左切り上げ、縦切り、右薙ぎ、左薙ぎ。
無数の斬撃が次々と侍を斬りつける。
そしてトドメをしようと刀を持つ手を後ろに引き、勢いよく突き出す。
刀は侍の胸のど真ん中に直撃し、ザクッという音を立て貫通する。
そのまま後ろを向く勢いで刀を振り上げる。
侍は胴から上が真っ二つに切られその場に倒れ込み、動かなくなった。
朔摩はヒュンッと刀を振って付いた血を払う。
するとおもむろに上を向いた。
最上階までポッカリ空いた穴は徐々に狭くなっていた。
魔力を宿した塔のため、傷付いた場所はゆっくりと修復されているのだ。
完全に閉じるまで後数十分はある。
「上のメンバーが心配だ。
急がないと。」
そう呟くと全身に強化魔術をかけ補強して、壁を蹴って跳躍しながら最上階に向かった。
「グオオオオオオオオオ!!!!」
「ちぃ…!うるせえな、何なんだこいつ!強すぎる!」
最上階では苦戦しながらもなんとか応戦し、現状を維持している様子だった。
「怪我人は下がれ!動けるやつは前に来い!」
「了解!」
「白村!攻撃が来たら防御するんだ!それと手が空いていたら怪我人の治療だ!」
「はい!」
「成宮!スキを見て攻撃だ。」
「ああ!」
その時、穴からタンタンと壁を蹴るような音がうっすらと聞こえてきた。
その音に幸奈はいち早く気が付きその方向へ振り向く。
するとその穴から強化魔術を纏った朔摩が飛び出してきたのだ。
「…黒月君!!」
スタッと着地して魔術を解くと立ち上がった。
「間に合ったか。」
ホッと溜息をつきキョロキョロと辺りを見回す。
「黒月君!大丈夫だった?!」
「それは後で…環先輩はどこですか?」
「あ、ええと、あっちだよ!」
「ありがとうございます。」
礼を言うと隊長の方に走った。
「環先輩。」
「黒月か…!無事だったか。」
「遅れてすみません。すぐに加わるので。」
「無事ならいいんだ。お前は奴の後ろで待機だ。」
「分かりました。」
そこから朔摩が加わってから戦闘は一気に逆転して、数十分でもう一人の魔獣侍を倒すことが出来た。
メンバーは勝利を分かち合い、大いに喜んだ。
「黒月…よく無事だったな。」
戦闘が終わり、メンバーが喜びあっているところに環と成宮、幸奈が朔摩の所に歩いてきた。
「ええ、まあ。」
「もう1匹の魔獣はどうした?」
「倒しました。」
「本当か!?こっちはこの人数でなんとか応戦できたものをよく1人で…!」
「まあ多少苦戦しましたが、なんとかなりました。」
「そんなことより黒月君…怪我はない?」
「ええ。大した傷は…」
「そう…よかった。」
幸奈は安堵したのかホッとため息を漏らした。
「全く君は…無茶ばっかりするんだから。」
「それほどした覚えはないんですが…」
「いーえ!しました!」
「はあ、それはすみません。」
「そこら辺にしておけ。それより、地下には何があったんだ?」
「そうですね。…と言ってもこの刀以外何も無かったですけどね。」
「なに?刀?」
差し出した刀を環が覗き込むように見る。
「どうしてこんなものが…」
「さあ…剣が壊れたので代わりに使ったんですけど…とりあえずこれからこれを使っていこうかと。」
「そうか、まあ見つけたのはお前だ。お前が持っているべきだろうな。」
「そういえば、ここにはなにか無かったんですか?」
「そういえば…まだ何も調べていなかったな。よし、今から調査しよう。」
メンバー総出で最上階の部屋を調べ始める。
しかしこれといったものはなく、なんの収穫も無しと思われたが、朔摩が辺りを見回しながら歩いているとある場所に目が止まり、近づいて行く。
「……」
そこにあったのは日本の文字でも外国の文字でもない…この世界ののものでは無い文字が並んでいて、その文字の上には謎の紋章があった。
「これは…」
なんとなくその紋章に触れてみると突然塔全体が振動し始めた。
「どうした、なにがあった!?」
そう叫びながら朔摩の元へ、メンバーが集まる。
「一体何が起きたんだ…!…どうした黒月?」
しかし朔摩は呼びかけに対して返事はなく、ただその紋章が彫られた壁をジッと見続けていた。
そして揺れが収まると、朔摩は小さい声でボソッと呟いた。
「──────…」
すぐそばに居た幸奈は朔摩がなんと言ったか理解出来なかった。
(なに…今の、聞いたことのない言葉…どこの国の言葉でもない…)
そっと朔摩の横顔に目をやるといつもと同じ、飄々とした表情だった。
(君は本当に何者なの…?)
一緒にいればいるほど彼の謎が深まる。
そんなことを考えていると朔摩の呪文に連動して壁の紋章が赤く光り、下の文章が変形し全く違う文章に変化した。
環がその文章を覗き込むが見たことのない文字で何も読めなかった。
「どういう事だ…この文字は一体…」
「─魔界より降り立ちし王は、二つの世界の光になりて、厄災より生くる者たちを救はむ。
こは二つの世界のゆくすえにかかれり。
王を始めとする者達も戦場にその身を投げむ。
オルビスの名のがり─」
朔摩は静かにその壁に彫られている文を読み上げた。
「…どういう事だ…?王とはなんだ?厄災?二つの世界?意味がわからない。」
「そんなことよりも…なんで黒月君はこの文字が読めるの?」
混乱する中、幸奈は朔摩に恐る恐る聞いた。
しかし朔摩もいまいち理解出来ていないようだった。
「分からない……ただ、なんとなく…読めるんだ。」
そう言いつつも朔摩の表情を見る限り、何も知らない訳でもなさそうだった。
"オルビス"と読んだ瞬間表情がすこし変わったように見えた。
「黒月君…オルビスって…わかるの?」
「いや…ただ、知っているような気がする…多分。」
思い出そうとするが何も思い出せない。
そんな、なにか引っかかるようなものを残しながら施設に帰って行った。
施設に戻ってすぐに学園に戻る準備を済ませる。翌日の早朝にここを出る予定らしい。
その日はメンバー全員がすぐに眠りについた。
しかし幸奈はなかなか寝付けず、気晴らしに外に出た。
(こんなに疲れてるのになんで寝れないのかな…)
施設の玄関を出て、すぐそこの崖に歩いていくと既に先客がいたようだ。
(あれって…)
近づいて確認するとそれは朔摩だった。
崖から落ちないように設置された柵に腕を乗せてもたれかかっていた。
人に言えたことじゃないがこんな時間に何をしているのだろう…と不思議に思い肩をトントンと軽く叩いて声をかける。
「黒月君。」
すると朔摩はすぐに振り向き、幸奈の顔を確認して安心したかのように表情を少し緩めた。
「なんだ…先輩か。」
「驚かせちゃってごめんね。」
そう言いつつ朔摩の隣に移動し、自分も同じように柵に手をついてもたれる。
「いえ…それより先輩はこんな時間にどうしたんですか?」
「それは君もでしょ。」
「まあ、そうなんですが…」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
2人は黙って、ただそこから見える景色を眺めていた。
「ねえ。」
沈黙の中、幸奈が遠慮がちに声をかける。
「なんですか。」
「君は今日、1人であの魔獣を倒したって言ってたけど…Aランクの魔獣を単独でやっつけるなんて異常だと思うの。普通、Aランクの魔獣を倒すには一級魔術師が20人いないと勝てないくらい強いのよ。それを君は…」
そっと視線を朔摩に合わせ、言葉を続ける。
「…君って何者なの?」
それを聞いた瞬間、再び沈黙が流れる。
「……」
「……」
数秒間目を合わせているとふっと朔摩が視線を外し、崖の方に目を向けた。
「俺は…ただの魔術学園の学生ですよ。」
なんだか誤魔化された気がするが気にせずにまた質問をする。
「他にももう一つ、あの塔の文章にあった"二つの世界"って…一つはこの世界として、もう一つは"魔界"って事なのかな?」
「…知りたいですか?」
朔摩は再びこちらに顔を向け、目を合わせてきた。
その言葉は自分を試しているような気がした。
「…知りたい…。」
力強く、しかし静かにそう言うと朔摩は目を伏せて柵から体を起こして姿勢を正すとこちらに向き直った。
「なら…頑張って<
<C.O>の魔術師になれれば先輩の知りたいことも分かるはずです。」
「ちょ、君からは教えてくれないの!?」
「一学生の俺が知ってるとでも?」
「そ、それは…」
確かにそうだ。
でも朔摩は学生では理解できない様なことを知っているように思える。
それ以外にもなにか隠していそうにも思える。
今は何も言わないでおこう。
そして、1番頭に残っているのが。
『頑張って<C.O>の魔術師にならないとですね。』
彼はそう言った。
確かに幸奈はC.Oの魔術師を目指している。
でも実際はC.Oの魔術師になれるはずが無いと、思っていた。
「私なんかが…<C.O>の魔術師になれるわけ…」
そう落ち込みながら否定しようとすると朔摩が被せるように言った。
「大丈夫…先輩はなれるよ。」
朔摩の顔に目を向けるとその表情はどこまでも優しく暖かかった。
半ば諦めようとしていたが朔摩に励まされ、底からなにかがこみ上げて来るのと同時に、その表情を見た瞬間ボッと顔が熱くなるのを感じた。
顔が赤くなったのを隠すために顔をプイッと背けると朔摩は不思議に思い覗き込もうとする。
「先輩?」
「だっ、だだだだ大丈夫だから!」
「え?ああ、そうですか。」
(あっ、あの顔は…反則だってぇ!!!!!)
プルプルと震えながらそっぽを向いている幸奈を見て朔摩は不思議そうに首をかしげていた。
そして幸奈の中にある朔摩に対するある感情が芽生えたのはここからだったのかもしれない。
第2章 ─終─