ARCADIA   作:Sakuto.

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魔術競技大会編
彼の謎


塔攻略から14日後の5月1日。

来月…6月の上旬にある、全国の魔術学園に通う生徒達が集いお互いを競い合う大舞台、全国魔術競技大会。

ここの生徒皆はそれに出場するための選抜を控えている。

選抜は5月10日から5月15日の期間に行うらしい。

選抜に出られるのはその各学年の各クラスから10名、一学年に6クラスあるため各学年から60名の生徒が選ばれる。

もちろん1年の入試トップ10名はすでに選抜出場権は持っている。

1年では朔摩、明、高坂が選抜に出るのが確定している。

2、3年は各クラスで誰が出た方がいいかを話し合い多数決をとる。

それに選ばれた生徒は選抜の出場権を得る。

そこからまた今月行われる選抜から各学年から10名選ばれる。合計30名が大会に出場するメンバーである。

その選抜では単純な戦闘力だけではなく、各競技への相性なども図られる。

大会の競技は全部で6つ。

一つ目はフィールドラン。

どの選手がどれだけ早くゴールにたどり着けるか。

道中には様々な障害があるがそれを魔術を用いて突破する。

簡単に言うと障害物競走だ。

二つ目は耐久戦闘。

重力魔術を選手に掛け、どれだけ耐えられるかを競う競技。

地味だがこの競技は選手のもつ魔力に対する耐性がどれだけ高いかで勝敗が決まる競技。

三つ目はスコープショット。

射撃用魔術で100m先の的を撃ち抜く競技。

魔力コントロールや選手の冷静さが重要な競技。

四つ目は迷宮脱出。

バトルロワイヤル形式で、お互いに隠れながら相手を妨害する競技。相手見つけたら競技用のレーザーポインターを相手に当てる。レーザーポインターを当てられた選手はそこで脱落。チーム全員が脱落すればそのチームは失格となる。どのチームがいちばん早く脱出出来るかを競う。

五つ目はウォーターゲート。

水中のあちこちにあるリング状のゲートを潜りながらゴールを目指す。

潜水中は自分にエレメントの膜を身につけ長時間潜水できるようにしている。

六つ目はサバイバルバトル。

最新の機械でランダムに形成されるフィールドで戦う3対3のチーム戦。

形成されたフィールドは約1㎞²。

作られた木々や岩も質量を持っている。

自然を利用した戦闘やイレギュラーに対応するための冷静さと判断力、柔軟な思考が必要とされる。

この競技はこの大会において最大の競技だ。

またこの大会では政府に認められた魔術組織が優秀な人材を見つけ将来自分の組織に勧誘するための場でもある。

そしてこの大会には最も強い魔術組織と言われている<C.O(セントラル・オーガン)>の代表も毎年顔を出している。

つまりこの大会で将来が決まると言っても過言ではない。

そのため全国の魔術学園の生徒にとって、夢である<C.O>に自分をアピールする絶好のチャンスなのだ。

と、難しい話はここまでにして。

 

 

幸奈は4時限目の授業を終えるとすぐに食堂に向かった。

久しぶりの食堂の利用に少し心を踊らせ早足で廊下を歩いた。

教室棟2階から別館に繋がる渡り廊下を渡る。

食堂に到着するとそこはもうたくさんの人で賑わっていた。

授業が終わってまだ5分も経っていないのにこの人集りはいつもと変わらない様子だった。

キョロキョロと周りを見渡しながら券売機の方へと向かった。

食堂にいる生徒の殆どが食券を買い終えた後らしく、券売機の所にいる生徒は少ない。

その中で一人、券売機をじっと見つめている生徒が目に入った。

「あっ…」

よく見るとその生徒は朔摩だった。

少し様子を見ていると朔摩は券売機に載っている料理の名前を見つめながら「うーん…」と唸っていた。

なぜ唸っているのか、気になって朔摩に近寄り肩を軽く叩いてみる。

「黒月君?」

「ん?」

同時に名前を呼ぶとすぐに振り返ってこちらを見る。

するとさっきとは打って変わって目を丸くして少し驚いているようだった。

「先輩?」

「うん、先輩だよ。こんにちは。」

「あ、ああ…こんにちは。」

朔摩が軽く腰を曲げてお辞儀をすると再び券売機を睨み始めた。

「そんなに券売機を睨んで、どうしたの?」

「え?あ、いや、この<かれーらいす>ってのがなんなのか気になって。」

「え?」

朔摩の言葉に素直に驚いた。

まさか彼は<カレーライス>を知らないのか。

朔摩の目を見ると本気で分かっていないようだった。

そしてそれを確認すべく朔摩に恐る恐る質問をした。

「えっと…黒月君。」

「はい?」

「君、カレーライスのこと知らないの?」

普通ならありえない事だ。

カレーライスが日本で一般的に食べられるようになったのは1877年、明治10年の頃に東京のある飯屋がメニューに載せた頃だった。

それからカレーライスを食べることが当たり前になってもう何十年も経つ。

それなのに彼はカレーライスを知らないとなるとそれはある意味すごい事だ。

「はい。知りませんけど…?」

その表情は<逆になんで知ってるの?>と言っているようなものだった。

「えええぇーーー!?」

幸奈は思わず叫んでしまった。

幸い周りの生徒は幸奈の声より騒がしくあまり注目されずに済んだがそんなことよりも彼が<カレーライスを知らない>ということに驚きを隠せなかった。

「そ、それ…本当?」

「本当も何も初耳ですよ。」

「ええ…!今の時代…カレーライスを知らない人がいるなんて…!」

 

「お待たせ。黒月君。」

「なんか、わざわざすみません。」

「いいよ。気にしないで。私が好きでやった事だから。はいこれ。」

そう言うと片手に持っていたカレーライスを朔摩の目の前にそっと置いた。

そして自分も席につきもう片方の手に持っていたカレーライスを自分の目の前に置く。

「あ、先輩。せっかくのご飯の時間だったのに、わざわざ俺と付き合ってくれてありがとうございます。」

「いいよ。ご飯は一人より二人で食べる方がいいしね。」

「そうですか。」

あのあと、何も知らない朔摩を放って置くことは出来ず、とりあえず試しにカレーライスを食べようと提案し、朔摩もそれに了承した。

カレーライスの食券を2枚買って、朔摩と共に席を先に取りに行った。

ひとまず朔摩を4人用テーブルに座らせ、ご飯受け取ってくると伝えた。

そして現在に至る。

「へぇ…これが<かれーらいす>か。変わった食べ物だな。」

まじまじと見つめる姿に、クスッと笑みが零れる。

「それじゃ、食べよっか。」

「あ、はい。」

「いただきます。」

「いただきます。」

二人は一緒に掌を合わせてそう呟く。

朔摩はスプーンを手に取ってカレーライスに突っ込み、多めにすくい上げる。

「むぅ…」

初めて食べる料理に少し警戒しているようだった。

見本として幸奈もカレーライスをすくい、口に運ぶ。

少なめのカレーライスが小さい口に入っていく様子を朔摩はじっと見ていた。

そして朔摩も幸奈が食べたところを見て安心して、無言で口に運んだ。

「……ん、んまい…。」

咀嚼して飲み込むと目を見開かせ、ボソッと呟いた。

そして余程美味しかったのかパクパクとカレーライスを食べた。

一心不乱にカレーライスを食べるその姿を幸奈は嬉しそうに見つめていた。

(なんだか癒されるなぁ~…。ふふっ、可愛い。)

パクパクとカレーライスを食べる朔摩の姿は今まで見てきた冷静でかっこいいものとは違い、幼い子供のようで母性が擽られた。

いつも無表情と思われていた朔摩のコロコロと変わる表情を見て幸奈はドキッとしていた。

普段は表情一つ変えない朔摩がここまで表情を変えたことが驚きでもあった。

(こういうのがギャップ萌えって言うのかな?)

まあそんなことはどうでもいいや。と幸奈も食事を再開した。

しばらくして二人とも食事を終え、お茶を飲んでゆったりとしていた。

そこでふと疑問が浮かび朔摩に質問をする。

「黒月君って普段に何食べて生活してるの?カレーライスを知らないってよっぽどよ?」

「あー…パン…ですかね。」

「えっ…?」

(パン!?!?)

「そ、それだけ!?」

「ええ。」

朔摩は相変わらず表情一つ変えずそう返す。

「き、君ってどんなふうに生活してたの?」

その質問に答えるのに、やや躊躇したがすぐに答えた。

「俺、色々あってかなり貧乏な施設で育ったんですよ。」

苦笑しながらそう言った。

「施設?」

「はい。今まではパン以外の食べ物が存在するなんて思ってもいませんでしたが今だと多分…パン以外の食べ物を買う余裕が無かったんでしょうね。そのパンも施設で作ってるものでしたし。」

彼にはそんな複雑な過去があったのか。

余計なこと聞いてしまったかもしれないと後悔した。

「気にすることないですよ。俺が勝手に喋っただけなんで。」

幸奈の気持ちを読んだのか、朔摩は優しい言葉を掛けた。

「う、うん。ごめんね。」

謝罪をすると朔摩は少し微笑んだ。

「大丈夫です。」

その場の空気が少し重くなった。

だが朔摩がいいと言ってるのだ。

気にしすぎていたら逆に失礼だ。

気持ちを切り替え、話題を考える。

そこでふと思いついた。

彼は食に対しての知識が薄すぎる。

それなら私が今後一緒に昼食をとって知識を付けよう。朔摩が「結構です。」といえばそれまでなのだが。

試しに食事に対して関心があるか聞いてみる。

「黒月君。君、食べ物の事もっと知りたい?」

「ん?ええ、まあ。」

よし、第一関門クリア。

「それでなんだけどね。もし君がよかったらなんだけど、今後一緒に昼食を食べない?」

「は?」

我ながらぶっ飛んだお誘いだ。

だがまともな食事を知らないのは可哀想だ。

それに謎だらけの彼のことが少し気になるから…一緒に居ればわかることもあるだろう。

「どう?」

もう一度強く聞いてみると朔摩は少し気圧されて思わず頷いた。

「よし!決まりだね!」

そこで丁度昼休みの終わりのチャイムが鳴った。

「今日はここまでですね。では…」

二人とも立ち上がり食堂を出た。

 

1年は3階、2年は2階なので2階で二人は別れることになった。

「それじゃ、また明日ね。」

「また明日。」

そう言うと朔摩は踵を返し階段を上って行った。

幸奈は朔摩の姿が見えなくなるまでその背中を見つめていた。

「さて、私も戻ろうかな。」

そう小さく呟いて教室へ帰って行った。

(そういえば明日も黒月君と一緒にご飯なんだよね。)

また新しい料理を見て驚いている姿が目に浮かぶ。

その姿がなんだか面白くてクスッと笑ってしまう。

(次はどんな反応するのかなぁ…楽しみだなぁ~。)

心を弾ませながら足を進めたのであった。

 

ガラッとドアを開けて教室に入る。

上機嫌で鼻歌でも歌いそうな様子に友人の真理が声をかけてきた。

「幸奈?どうしたの、そんなに上機嫌で。」

「ふふ、それはね。」

そう言いつつ席に着くと前の席にいる真理が体をこちらに向けた。

「今年入学した首席の子、覚えてる?」

「ああ、黒月君ね。」

「うん!さっき黒月君と一緒に昼食食べてたの。」

「へぇ~。あなたもなかなかやるのね~。」

「そんなことよりね!彼、カレーを食べたことないらしいの!」

「うそっ!?信じらんない!」

「やっぱりそう思うよね。でも彼本当らしいの。」

「それはなんでなの?」

「それはちょっと言えないかな…。」

彼の知らないところで自分の過去を勝手に話すのは良くない。ましてや複雑な過去だ。

「それでね、黒月君がカレーを食べた時の反応がとても面白かったの!」

「そりゃそうよね、初めて食べるものに驚かないわけないもの。」

「それも面白いだけじゃなくて、すっごい可愛かったの。」

その光景を思い出しているのか破顔している。

「そ、そんなになの?」

女子は可愛いものに目がない。

そこまで言われれば気になってしまう。

「ね、次から写真撮ってきてくれない?」

「え、うーん…黒月君から許可もらえたらね。」

「うん。よろしくね。無理にとは言わないから。」

「うん、わかった。そうそう!それでね──」

こうして女子二人の会話は次の授業が始まるまで続いた。

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