ARCADIA   作:Sakuto.

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その答えは

朔摩と幸奈が初めて一緒に昼食をとってから数日が過ぎた頃。

二人はまた食堂で一緒に昼食を食べに来ていた。

「黒月君は今日何にしたの?」

「えっと…この<ハンバーガー>って奴にしてみました。」

<ハンバーガー>とたどたどしい口調でそう言うとそれを手に取った。

そっと持ち上げると観察するようにジッとハンバーガーを見つめる。

「変わった食べ物ですね。いろんな具材をパンで挟むなんて…斬新だな…」

彼は施設で暮らしている時、パン以外の食べ物を口にしたことが無かったらしいのだ。

そこでふと思いついた疑問を投げかけた。

「ねえ黒月君。君ってパン以外の食べ物を食べたことないんだよね?」

「はあ、そうですが。」

「普通だとパンだけでは生活できないと思うの…野菜も食べてないだろうし、栄養とかも取れてないはず…栄養失調とかにはならなかったの?」

その質問に朔摩は少し頭をかしげてすぐに答える。

「うーん…俺は大丈夫だったんですけど…周りは酷かったです。」

朔摩だけが1度も栄養失調にならず、他の子供たちは栄養失調だというのだ。

「それってどういうことなの?」

そう聞くと肩をすくめて答えた。

「さあ、俺にもさっぱりです。運が良かったのか…はたまた俺がタフだったのか…」

まあでも…と続け窓の外に目をやり、遠くを眺めた。しかしそこで何かを思い出したのか急に顔を強ばらせ、口を噤んだ。

「黒月君?」

「あ、いや…なんでも。」

声をかけるといつもの表情に戻り、ハンバーガーにかぶりついた。

 

二人は食事を終え、食器などを片付けて雑談をしていた。

「あ、そうだ!黒月君!」

少しして思い出したとばかりに掌を合わせる。

「ん?なんです?」

「確認なんだけど君って今月にある全国大会の選抜に出るよね?」

「えーと…はい。出ますね。」

「やっぱりそうだよね。その実力で出ないなんてありえないもんね。」

「それは買いかぶりすぎなんじゃ。」

苦笑しながらそう言うが実際に朔摩の実力は本物だった。

しかも朔摩はまだ本当の実力を出していないように見える。

もしそれが本当なら何故…力を出さないのかが不思議だが、それは気にしても仕方が無い。

そしてここでこのことについて考えるのをやめた。

選抜に出るのならばもっと大事な話がある。

例えば武器について、彼は先日の塔での戦いで武器を失っている。

塔の地下に刺さっていた刀は後で調べてわかったのだが、瘴気が強すぎるせいで周りの人に悪影響を与えてしまうため、使えないようだ。

しかし、あの時何故、朔摩はこれが使うことが出来たのか…それは誰にもわからなかった。

武器はどうするのかを聞いたら。

「もちろんあの刀を使いますよ。」

「え?でも瘴気が強くて使えないんじゃ…」

そう言うと朔摩は顎に手を当てて「んー…」と唸るように考え込む。

考えがまとまったのかサッと椅子から立ち上がる。

「先輩、ちょっと来てください。」

「え?ど、どうしたの?」

どういうことか分からないがとりあえず朔摩の後に続いて食堂を出る。

しばらく歩いていると人気の無い中庭に到着した。

「よし、ここなら大丈夫か。」

朔摩がそう小さく呟くとこちらに向き直った。

すると朔摩は右手を前に突き出した。

そしてすぐに右手の近くの何も無い空間から突然小さいゲートのようなものが出現した。

そしてそこから細長い黒い物が少し飛び出てきた。

朔摩はそれを掴むとゲートからそれを引き抜いた。

朔摩が引き抜いたものに目をやるとそれは前回、塔で入手した刀だった。

「えっ…!?」

その刀は先程も話した通り、瘴気が強いため使えないとのことだったのだが…

「なんでそれがここに…?」

「ああ…実は瘴気を打ち消して使えるようにしたんだ。」

「そ、そんなことが出来るの?」

「ええ、今の技術だったらそこまで難しいものじゃないですよ。」

知らなかった。

現代の技術がここまで向上していたとは。

そしてもう一つ気になったのは…

「さっきの魔術は何?」

「さっきの?…ああ、あれですか。

あれは別に魔術って言えるほどのものでは無いですけどね。」

そう言いながら彼はまた小さなゲートを開き刀をそのゲートに押し入れた。

「今のは先輩達も使ってる魔術用端末にもある武器出し入れのやつの元となったやつです。

端末のは使用制限というか…一度使えば端末に負荷がかかって連続して使うことは出来ないけど…こっちは慣れれば端末より便利ですよ。」

「すごい…そんな魔術があったなんて…」

初めて知った魔術に感動したのか、呆然としている幸奈。

その姿を見て朔摩はあることを思いついた。

「先輩、もし良かったら教えますよ。」

「え、いいの!?」

朔摩の思ってもみなかった提案に喜び、ズイッと顔を近ずける。

朔摩は驚いて数歩後ずさる。

「あ、ああ…この間のカレーのお礼というか…」

「もう…そんなこと気にしなくていいのに、でもありがとう!」

「ええ、はい。それじゃあ早速…」

「うん、お願いします!」

「はい。それじゃあまずこの術の基本を──」

 

「ふぁぁぁ……」

「何?どうしたの?そんな疲れて。」

「うぅん…」

教室に帰ってきてすぐに机に突っ伏してため息をつくと真理が心配そうに声をかけてくれる。

結局余った昼休みを全部費やして朔摩に術の基礎を学んだ。

だが時間が足りなかったせいで基礎はまだ全部教わっていない。

それにしても朔摩の特別授業はとても厳しかった。

術の根本的な所からその術を発動するにあたって必要な魔力など、細かいところまでみっちりと教えこまれた。

それでもまだ完成には至っておらず、また明日続きをするらしい。

「幸奈そんなに疲れるまで何やってたの?」

「うーん…中庭で黒月くんに魔術教わってたの。」

机に突っ伏したままそう答える。

「へぇ~…」

真理のその言葉のニュアンスから嫌な予感がしてゆっくりと顔を上げるとそこにはにんまりと口端を上げてこちらを眺めている表情があった。

この表情の時の真理はとてつもなく意地悪で今まで助かったことが無い。

「ふぅ~ん。人気のない、中庭で、男の子と、二人だけで、秘密の授業ねぇ…」

その言葉で私は顔を真っ赤に染める。

「なっなななに言ってるのよ真理!別にそんな変なことするためにしてるんじゃなくて!」

「んん?変なことって?」

「そっ、それは…えっと…ええと…と、とにかく!真面目に魔術の練習してただけなんだから!」

「分かってるわよそんなこと~。」

「ほ、ホントだからね!」

「はいはい、そんなに熱くならないの。」

「誰のせいだと思ってるのよ!」

そんな茶番をしていると授業開始のチャイムが鳴り、それと同時に先生が教室に入室した。

「えー、今日は教科書67ページの1節から───」

授業中も真理のからかいの言葉が離れなかった。

(そんなこと言われたら明日やりにくいじゃない!真理のバカ!)

「どうしたー、白村。顔が赤いぞー。保健室に行くか?」

「な、なんでもないです!」

「…?そうか。あまり無理はするなよ。」

「はい…」

ちらっと前の席にいる真理に目をやると笑いをこらえているのか体がプルプルと震えていた。

(何笑ってるのよ!後で説教してやるんだから!)

こうして午後の授業が始まった。

 

午後の授業も終わり、生徒達はぞろぞろと教室を後にして帰路についていった。

その中で幸奈は放課後、生徒会で仕事があるため家に帰るのはまだ先になる。

真理には先に帰るように言って生徒会室に向かった。

生徒会室に入ると既に数人が自分の作業をしており、幸奈も急いで席についた。

席に着くなり目の前に置かれているPCを立ち上げ大会の選抜に向けてのデータを整理する。

選抜で行われる競技は一度目の会議で説明されている。

どうやら本大会メンバー選抜戦は一対一の勝負で学年ごとに50名が5ブロックに分けてトーナメントで行う。

各ブロックで優勝、準優勝したものがその学年の本大会メンバーになれるのだ。

ちなみにブロックはくじで決定されるため、クラスが同じでもブロックが別になることがある。

ちなみにこの選抜の戦いではいくつかのルールがある。

一つ、制限時間10分とされ、時間内に勝敗をつけなければならない。

二つ、制限時間内に勝敗が決まらなければ両者が相手に当てた攻撃数がポイント化され、それが多い選手が勝ちとなる。

三つ、使用する武器は指定の物でなければならない。

四つ、治療、修復不可の怪我を相手に与えてはならない。

五つ、フィールドから落ちて地面に体の一部がついた場合、場外となる。

六つ、以上のルールを守らなければ即失格とする。

というのが選抜戦でのルールとなっている。

三つ目のルールの指定の武器というのは安全のために特別に加工された武器のことだ。

銃であれば弾丸はゴムで加工されている。

剣であれば刃の部分を丸くしており、怪我が減るようにしている。

四つ目のルールは例えば、相手の目を失明させる、腕を切断するなどといった怪我などのことを指す。

そういったルールのもと行われる。

以前…何年かほど前にまだこのルールが作られる前に選抜戦が行われた時、一人の選手が対戦相手に治療不可の重症を負わせたという事件が起きた。

この事件が起きてから選抜戦にちゃんとしたルールが作られた。

初期にちゃんとしたルールがなかったことには驚いたが、大会側はそういったことが起きるとは思わなかったのだろう。

「ふぅ…」

しばらくPCの画面と睨み合っていて疲れてしまった。

椅子に背を預けてため息をつく。

チラと時計を見ると時計の針がもう6時前を指していた。

生徒会室に来てから作業に没頭しすぎて時間が経ったことに気が付かなかった。

ともあれ早く下校する準備をしなければ最終下校時間に間に合わなくなる。

周りを見ると他の生徒も下校の準備をしている。

下校の準備が終わり急いで生徒会室を出た。

廊下を歩いていると窓の外に人がいるのが見えた。

二階の窓から外をよく見てみるとその人物は朔摩だった。

「生徒会でもないのにこんな時間まで残るなんて…何してたんだろう…」

考え込んでいると最終下校時間の5分前に鳴るチャイムが聞こえる。

「まずい、早く出ないと!」

とりあえず考えていたことは頭の隅にやって、校門へ急いだ。

 

 

そして時が過ぎて5月10日、全国魔術競技大会の選抜戦が今日から行われる。

選抜戦は今日から15日までの5日間で1日1ブロックという感じで行われる。

場所は学園が所有する小型のスタジアム。

学園の生徒全員約450人が入れるような場所で行われる。

試合するステージは縦横40m。

十分に広い場所で戦うことが出来る。

観客席に被害が出ないように結界を張っている。

これも観客が安心して試合を観戦できるようにするためだ。

 

 

「いやぁ~、それにしても広いな~。」

「これでも学園が所持しているスタジアムでは狭い方なんだと。」

「マジかよ。これより広いの持ってるとかすっげぇ金持ちだな。」

「ああ、そりゃな。国からの援助もあるわけだし。」

「国からの援助…それはすごいな。」

「全世界で魔術師の育成が進められているんだ。そりゃ援助するに決まってる。それに日本の魔術師は他の国に比べて圧倒的に少ないからなおさらな。」

「へぇ…日本の魔術師の数は?」

「だいたい700人くらいだったかな…ちなみに海外だとひとつの国に大体1万近くはいるだろう。」

「はぇ~。日本の魔術師はホント少ねぇなぁ。」

「ああ、まあ日本は小さい国だしそのくらいで足りるんだろうな。」

「それもそうか。」

朔摩と明は目的地に着いて、スタジアム内をぶらぶらと散策していた。

二人のブロックは今日ではないため、自由行動だった。

することがなければ来なければいいのでは?という声もあったのだが学園側の決まりで観戦はしなければならないらしい。

ちなみに俺と明のブロックは、俺がEブロックの5日目、明がCブロックの3日目だ。

「はーぁ…俺のブロックまで暇だなぁ。特にやる事ねぇし。」

「たしかに暇だな。まあ俺は美味い飯があればそれで十分だが。」

「そーいや最近お前、やたらと食いモンの話をするようになったな。」

「ああ。俺が生まれてからこの16年全く見たことない食べ物ばかりだったよ。」

「例えば?」

「そうだな。カレーやチャーハンとかいうのが特に美味しかった。」

「は?」

「ん?なんだ?」

「あ、いや、なにも。」

(マジかこいつ。カレー知らねぇとかどんな暮らししてたんだよ。)

「んじゃさ、<ラーメン>って知ってるか?」

「らーめん?聞いたことない言葉だな。いのりでもとなえるのか?」

「ちげぇよ。食いもんだよ。それもすげぇうめぇやつ。」

「それは興味深いな。」

「なんだったら今度食いに行くか?奢ってやるぞ?」

「本当か?じゃあありがたく。」

「おう!美味すぎて腰抜かすんじゃねぇぞ~。」

最後には明がニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言った。

それほどまで美味しいのか…とさらに<ラーメン>が気になった。

また今度食べに行く時まで楽しみにしていよう。と決めた。

─ピンポンパンポーン─

「ん?」

突然鳴ったスタジアム内放送に不思議に思いながら天井を見上げる。

─只今より、全国魔術競技大会の国立魔術師育成学園関東地区の選抜を行います。

出場選手の方は控え室に待機していてください。─

「もうすぐで始まるのか、俺達は今日じゃないから観客席に行こうぜ!」

「ああ。」

 

「よっと…ふぅ…間に合ったな。」

「そりゃ間に合うだろ。全校生徒より椅子の方が数が多いんだから。」

「それもそうか。」

そんな話をしているうちにスタジアムの中心のステージに続々と1年生の選手が上がっていく。

「まずは1年からか。誰が勝つかなぁ。お前はどう思う?」

「なんでそこで俺に聞くんだよ…俺は他の奴らの事なんて全く知らないぞ。そんな俺に聞いてどうする。」

「えっ……お前…もしかして上位10位の奴らのことも知らないとかない…よな…?」

「知ってるわけないだろ。知ってるのはお前と高坂くらいだ。」

「うっわ、お前どんだけ周りに興味ないんだよ。」

「知ったところで何かあるって訳でもないんだし。」

「は〜ん……お前ってそういうところあるよなー。」

「そういうところってなんだよ?」

小馬鹿にするような言い方に少しムッとしながら理由を聞く。

「そーいう人に対して冷めてるっつーか"人として大切なもの"がかけてるっつーか…まあ簡単に言えば人間らしくないってことかな。普通だったらそんなこと考えねぇぞ。」

「それは単にひねくれてるってだけじゃないのか?」

「どうかな。ここまで変わった奴は初めてだからな。」

「それはどうも。」

それにしても…

「人間らしくない…か…確かにそうかもな。」

"人間らしくない"と言われ、昔のことを思い出して、自嘲するかのように薄く笑う。

人間らしいってなんだろうな。

などと思っていると、くじが終わり、一ブロック目の組み合わせが決定した。

「お、そうこうしているうちに組み合わせが決まってるじゃん。さあどうなるのかねぇ。」

 

 

そしてトーナメントは進んでいき、1年生の1ブロック目はあっという間に終了した。

続いて2年生の一ブロック目のトーナメントは、かなり長く続いた。

ある対戦で両者ともタフで、なかなか諦めずに粘り強く戦っていた。

結局隙を見せた相手に漬け込むように攻撃を仕掛けてポイントを獲得、わずかの点差で決着して会場が盛り上がった。

続いての3年生の対戦は、さすがは3年生と言ったところか、1年生や2年生とは違って迫力などが凄まじかった。

特にあの環 大志は群を抜いて強かった。

圧倒的な力で相手をねじ伏せて勝利を勝ち取っていた。

この学園に環に勝てる生徒はそういないだろう。

こうして1日目の選抜が終了した。

明日は2ブロック目の対戦。

明日も俺と明に出番はないため、また観戦することになるだろう。

そしてこの日はスタジアムで解散、そのまま帰路についた。

 

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