デート・ア・ライブ 雫キャッスル   作:事の葉

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どうもこんばんは(編集時午前1時)事の葉です。
いやぁ、お待たせしました。何せテスト期間でしてね。親と学校からの圧によって殆どパソコン自体起動させれませんでした。久しぶりでタイピングが衰えているのを実感します。

タイトルにもある通り、今回は最終回です。ぜひ、お楽しみくださいませ。


大好きな人と【終】

-side 雫

 

 私には、何がなんだか分かりません。

 一人、城の中でしくしくとすすり泣いていたら、眩い光が私を包んで、そして気づいたら、夜道にぽつんと立たされていた。詳細には、座っているんだけれど。

 

「雫?」

 

 私を見下ろす士道の顔には、困惑と、そして心配の表情が浮かんでいた。絵本のように分かりやすいほどの表情で。

 一瞬喉を詰まらせ、それからすぐさま現状を理解して、バッと手を前に突き出す。

 

「〈機界城(シャムシエル)〉―――【召使(マーシアハ)】!」

 

 城にテレポートできる。これで逃げれる。

 そう思って叫んだけれど、しかし、視界から士道が消えることはない。それどころか、景色さえも一切変わってない。

 

「えっ、なっ、なんで?」

 

 混乱。疑問。複数の感情が入り混じって、まともに脳が回らない。今までこんなこと一度も無かった。少しのタイムラグさえあったけれど、十数秒待っても景色は変わらない。

 

「な、なぁ、雫?」

「ご、ごめんなさい」

 

 恐怖が入り混じって口から漏れた言葉は、何についてか分からない謝罪。

 それを聞いて、士道は悲観を顔にした。

 

「そんなに、怖いか?」

 

 それでも振り絞って聞いてくれた質問に、私は必死に首を横に振った。

 

「そうじゃなくて、これ以上近づいたら、本当にいいのかなって。一緒にいて楽しいですし、士道がいないととても暇で、必要なんだと、思うんです。けれど、そしたらどこかで亀裂が入って、それが大きくなって…」

 

 そこまで言って気付いた。自分が嗚咽していることを。だけれども、止めることは出来ない。

 

「その、だから。亀裂が入らない程度に、離れよう…って、でも、離れたら物悲しくて。会いたくなったけれど、いざ会ってみたら、また不安になって。このまま、突き放されそうで…それで、えっと…」

 

 言葉が詰まる。途中から、何が言いたいかさえも分からなくなっていって。終いには涙で言葉もでない。

 ドレスの裾は強く握ったせいでしわくちゃに。私の顔も、そうなんだと思う。零れ落ちるたくさんの涙。理由も分からないまま、絵本にだけ出てきたそれは、本来、私が流してはいけないものなんだろう。人形にあってはならない表情だから。

 

 そんな私を見て、士道は抱きしめた。強すぎず、しかし、しっかりと。私の痛みを分かち合うように。

 

「大丈夫だ。俺は雫を突き放さないし、雫から、逃げない」

「信じても…いいんですか?」

 

 士道の言葉を、簡単に受け入れられたら、どんなに楽か。きっと、士道と出合う前だったら、頷いただけだっただろう。こんな疑心暗鬼になることも無かった。

 士道との繋がりの確証が欲しかっただけで。ただ、それだけが欲しくて、それだけあれば。

 

「もちろんだ」

 

 士道は一度しっかりと顔が見えるように、私の肩を掴んで、目の前で笑ってくれた。嬉しそうに、幸せに。私には分からないのだけれど。きっと、何かいいことがあったんだろう。

 

「こんな、人形に…飽きたりしない…ですか?」

 

 涙は流れる。ただただ流れる。ポロポロ、ポロポロと。その中、怖くて聞けなかったそれを、必死の思いで尋ねた。

 何を言われても受け入れる決心が付いたからじゃない。自分でも分かってる。望む答えが欲しいんだ。

 

「あぁ。絶対に飽きたりしない。それに、今の雫は、しっかりと人間だ」

 

 屈託の無い笑顔を向けられた。それに、望んだ答え以上の言葉を添えて。

 私は言われて気付いた。確かに、涙を流して、笑う人形なんて。感情が複雑に入り組んでいて、泣きたいのか笑いたいのか分からない。

 それを例えるなら、それこそ人間だろう。

 

 ここまできたら、私がお返しできることといったら一つしかない。いや、もしかしたらまだあるのかもしれないけれども、今の私にはそれしか思いつかなかった。

 

 士道の手を放して、それから士道を抱き寄せる。か細い腕ではあまり力が入らなくて、思いっきり踏ん張ったから、ちょっと顔が歪んだかも…だけど。

 

「ちょっ……」

 

 士道の言葉を遮るように、唇を重ねる。

 初めてと語るように、震えていて、唇と唇を重ねるだけの軽いキス。

 一度触れただけですぐ離れてしまったが、士道の唇の感触が離れない。

 

「これ、恥ずかしい」

 

 自分の唇を人差し指でなぞってから、ぼそっと呟く。

 顔は噴火しそうなほどに熱いし、脳はオーバーヒートを起こしそう。

 どうやら、士道もそうだったみたいで、顔をさくらんぼみたいに赤くしながら、呆然としていた。

 

「えっ…?」

 

 しかし、その士道を見て楽しむよりも先に、体の異常に気付く。というより、防護壁が無くなったのだ。

 

 今まで身に纏っていた霊装が光の粒子となって空気と同化していった。無論、その下に普通の服を着込んでいるわけもなく、咄嗟の事だったので、手で隠す暇もない。

 

「ちょ、雫っ…」

 

 ようやっと我を取り戻した様子の士道が私にブレザーをかぶせる。それで私も現状を理解して、必死に胸と下腹部を手で隠す。彼のブレザーが大きかったおかげもあって、彼に目を閉じてもらってからボタンを二つ付けるだけで、何とか大事なところは隠せた。

 

 よいしょと立ち上がってから、一言。

 

「見た…?」

「…ミテマセン」

「何? 今の間は」

「…実は見えてました」

 

 そういって、深々と頭を下げる私の救世主さま。だらしない。

 私はその頭をこつんと小突いた。持っていた本の中でも、こんなことをヒロインがしてた気がするから。

 

「これで許してあげます」

「…ふふっ、あははっ」

 

 私が漫画で読んだキャラクターのセリフを真似てみたけれど、何でか笑われたみたいだ。士道は腹を抱えて、前のめりになりながら笑っていた。

 

「す、すいません。変なこと言って」

「や、ちょっと、面白くってな」

「……」

 

 馬鹿にされたわけじゃないけど、拗ねる、に近い感情が心を巡った。こんな感情初めてだ。

 

「おぉ、綺麗な空だ」

「…っ!」

 

 士道が指差した先には、冬の星空がプラネタリウム…ではないけれど、少しの雲と一緒に空に浮かんでいた。時折隠れる月や星がまた綺麗で。絵本のように幻想的ではないが、それでも、現実的な、しかしだけれども幻想を孕んでいて、一言で言うなれば、素敵だった。

 

「さぁ、帰ろう。俺たちの家に」

「はいっ!」

 

 ひとしきり空を楽しんでから、士道の手を繋いで彼の家へと帰っていく。

 

 幸せだ。

 大好きな人の笑顔を見て、大好きな人と手を繋いで、大好きな人と一緒に暮らせて、大好きな人と一緒にいて。




さぁ、去年の12月から続いていたこの『デート・ア・ライブ 雫キャッスル』もとうとう最終回。
色々と初めてな雫ちゃんでしたが、私の趣味を爆発させながら、ニーズにこたえるべく色々と試行錯誤した、私も楽しめて、皆様も楽しんでいただければいいな、という作品でした。

これ以降は、悠佳メモリーでもやった、裏話でお話しましょう。

今まで読んでいただいた方も、途中から読んでいただいた方も、そして今回だけ読んだという方も、今までご愛顧ありがとうございました。また何か新作を書くかもしれませんので、そのときはまた読んでいただければ幸いです。

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