継続高校、クリスマス実習です! 作:卯月
12月24日、午後9時。洋上に浮かぶ継続高校学園艦は、世間の聖夜とは違った喧騒を見せていた。
「アキ、ミッコ、準備はいいかい?」
継続高校戦車道隊長、ミカは愛車BT-42で作業する二人の戦友を見上げる。彼女はサンタクロースの衣装を着ていた。世間一般の女子高生が着るような、ミニスカだのビキニだのといったちゃらついたものではない、WSO(世界サンタクロース機構)公認の正装だ。それは、アキもミッコもである。
「いいよ、ミカ。いつでも行ける」
「プレゼントも積み込んだよ!」
「よし、じゃあ行こうか」
継続高校にて秘密裏に行われる必修授業、「サンタクロース道」の実習が行われようとしていた。
「前進」
ミカの指示に合わせて、ミッコがアクセルを入れる。BT-42は排気口から煙を吐きながらゆっくりと前に進み、
「サンタ道その1っ! 飛行術ぅぅぅぅぅっ!!!」
ミッコの叫び声と共にふわりと浮かんだ。
飛行術。サンタクロース道において初歩の初歩、算数で言うところの足し算のような技だ。伝統を重んじる古式サンタ道ではトナカイとそりが使用されるが、最近ではトラックが主に使われる。戦車も別に珍しくはない。
「まずはサンダース大付属だ。頼んだよ、ミッコ」
「りょーかい! サンタ道その2っ! 転移術ぅぅぅぅぅっ!!!」
ミッコが気合を入れると同時に、BT-42はその速度を増し、やがて光速を超えワープに入った。数秒もせぬうちに、距離的に数百キロ離れていたサンダースの学園艦が眼下に現れる。
転移術。サンタクロース道においてちょっと難しい、引き算にあたる技だ。WSOに所属するサンタは全世界に数万のみ。その人数で世界中の子供たちにプレゼントを配るためにはこの術の習得が不可欠になる。
出発から30秒もたたずサンダースの地に降り立った継続3人。その腕前に、アキはミッコをたたえる。
「さっすがミッコ。飛行術と転移術にかけたら継続1だね!」
「まーね。でもあたしができるのはここまでさ」
そう言いつつも、ミッコの顔は誇らしげだった。アキは手帳をパラパラとめくり目的の場所を探る。
「ターゲットは……、ここだね」
そびえ立つのは、戦車道履修者の寮である。
「ええっとね、サンダースの戦車道履修者はクリスマスパーティーでばか騒ぎして、そのまま寝落ちちゃうのがいつものパターンだって。一応やりやすくなるために事前に飲み物に睡眠薬を混ぜといたよ」
「さすが諜報術のアキ! 事前情報に抜かりはないね!」
諜報術。サンタクロース道において、掛け算的ポジションの技だ。子供の笑顔のために、何が欲しがっているのかをリサーチする諜報術は、サンタクロース道の要ともいえる。
「ちなみにプレゼントは、ケイさんが水素水サーバー、アリサさんが電源タップ型高性能盗聴器、ナオミさんがチューイングガム1ダース」
「じゃあさっさと済ませてしまおう。ここで時間をかけることに意味があるとは思えない」
ミカは寮のエントランスドアの前に立つ。防犯のためドアには電子キーがかかっているが、ミカは電卓のお化けみたいな機械をキーに差し込み、いとも簡単にロックを解除してしまった。
「ミカの破錠術っていつ見てもほれぼれするね。あっざやか!」
ミッコが口笛交じりにいうのを、ミカが無言で制す。
「ここからは敵の本丸だ。静かに」
大会議室ではサンダースの生徒たちが描写するのもはばかれるような惨状の中グースカと眠りこけていた。
「うわぁ」
「ケーキバズーカやったらしいよ?」
「祝うこととはしゃぐこと、同じことだとは思えないね」
3人はかろうじてクリスマスツリーと言えなくもない物体の下にプレゼントを置く。
「ミッションコンプリート! さ、次に」
「ねえ、アキ、ミッコ」
「どうしたの? ミカ。何かあった?」
「ここの掃除をしていくのも、サンタクロースの務めじゃないかな?」
***
「美味しいね、ケーキ」
「こっちのピザもいけるよ」
「クリスマスといえばチキンじゃないかな? それにシャンメリーも山ほどある。落ち着いて食べた方がいい。ごちそうは逃げ出さないからね」
サンダースから「掃除」した大量のごちそうに囲まれながら、BT-42は夜空を駆ける。
ケイさんは水素水とか引っかかりそう。