Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編) 作:黒曜【蒼煌華】
まだ読んで無い方、宜しければ3話連続更新の1話目からどうぞ。
バレンタインの話自体は6話近くありますけど…。
ルクスリアさん?
察して頂いた通り、主人公にはくっ付きませんよ。
これが『一番の幸せを掴んだ場合』ですから。
「…だって、俺が一番大好きなのは二人なんですから」
「!!??」
ㅤ九条大祐は又もや、全員の前で大胆発言をかます。
ㅤそうした後、リゲルを自身の胸元へ「そっと」優しく押し付けた。
ㅤこの言動が一体先の謝罪と何の関連があるのか。
…いや、関連しか無いのだ。
ㅤ彼はそのままリゲルを抱き締め、先程の話を再開し始める。
ㅤ前に。
「リゲルさん、苦しく無いですか?」
「はわっ…わ、私、は…えぇ、大丈夫よ!」
ㅤ自分自身の卒然とした行為に、彼女が付いて行けているか心配する九条大祐。
ㅤそんな彼に向かって途切れ途切れの言葉を必死に繋げるリゲル。
ㅤ明らかに無理してると察していた九条だが、彼は敢えてそのまま、自らの意思を全員へ伝える為に口を開く。
「…そう、俺は全員大好きです。こんな俺を好きと言ってくれた貴女達全員が」
「でも…さっき」
「…はい。リゲルさんの言う通り。先程俺は『あづみさんとリゲルさんが一番好き』とこの口から言い放ちました。この言葉を、俺は嘘とも冗談とも言いません。況してや撤回なんて以ての外。本気でそう思っていますから」
「…という事は、私達は盛大にフラれたという訳…で良いのかしら…?」
ㅤ何時も余裕がある口調で喋るヴェスパローゼも、今回ばかりは気落ちしているのが目に見えて分かる。
ㅤそれは他の女性達も同じで、皆が皆、総じて「しゅん」としていた。
ㅤ唯一、ベガを抜いて。
ㅤ彼女だけはにこにこと、九条大祐、各務原あづみに笑顔を向けていた。
「…私はそれで良いと思います。自分の娘が、娘の一番好きな人から「大好き」と言って貰えたのですから。その言葉を聞けただけでも満足です…」
ㅤと、如何にも無理矢理作ったであろうその笑顔を彼に向け、直ぐに視線を逸らした。
ㅤ出来る限り自分に集中して欲しくなかったのだろう。
ㅤ然し彼女の演技はバレバレだった。
ㅤ九条大祐は無表情で、今度はベガの目の前まで歩いて行く。
「ベガさん、忘れて貰っては困ります。俺は確かに二人が大好きと言いましたが…何も貴女を『嫌いになった』とは言っていません。それに、これはベガさんに限った話ではありませんよ。この場に居る全員に対してです。俺は先程話した通り、彼女達やベガさんに向かって『二人と同じ位大好き』と言ったんですから」
「…どういう意味、ですか…?」
「俺は全員を平等に愛したい。この想いは誰に口出しされても変える気は無い。でも…その中で、あづみさんとリゲルさんを優先してしまう事が多々出てきてしまうと思います。その時点で皆平等、というのは可笑しい話なんです。…だからこうして、今の俺は二人が一番大好きと言わせて頂きました」
「…成る程ですの。要するに大祐くんは『私達誰かを贔屓するのは嫌で、然も全員が大好きだけど、あづみちゃんとリゲルさんを優先してしまう場合がある』という事で宜しいですの?」
ㅤ九条大祐の話した内容を一括りに纏め、聴き易くする蝶ヶ崎ほのめ。
ㅤ彼の難しい心境をすらすらと述べる彼女に、九条は無言の頷きを返した。
「…そして、これが兎に角大事で重要な話です」
ㅤそう言って、彼は深い深呼吸を吐いた。
ㅤその行動に彼女達は思わず身構える。
ㅤだが、内容は至ってシンプルで難題な問題だった。
「…出来る限り、俺を一番と考えない方が良い。こんな優柔不断ではっきりと決められない男が貴女達の中で一番になってしまえば、貴女達を不幸にしてしまう可能性がある」
「それで?」
「加えて、俺は二人を優先する場合があると言いました。本当は誰かだけを優先も何もしたくない。誰か『だけ』を見たくも無い。俺は一人一人、全員を見たい。貴女達其々の魅力を語れる位には、全員を知りたい。でも…二人を優先してしまう。こんな自分勝手な都合を押し付ける俺を、あまり深くは好きにーー」
「…少し良いかしら。今度は私達を話させて?」
ㅤ九条大祐の話を断ち切る様にヴェスパローゼが口を挟む。
ㅤだが、彼はそれをすんなりと許した。
ㅤ先程までずっと、自分の話ばかりで彼女達の意見を聞いていなかったからだろう。
ㅤ元の席に戻って話を耳に入れようとした時、後ろからコートの裾を誰かに掴まれた九条。
ㅤこういう事をするのは大抵が百目鬼きさらなのだが、今回ばかりは違った。
ㅤ至って真剣な表情で彼を見つめるベガ。
ㅤ丸で自分の側から離れるなと言わんばかりだ。
ㅤその眼差しに込もった意味に、九条大祐は素直に従う。
「…はぁ…大祐、貴方なら絶対にそう言うと思っていたわ。自分が私達を差無く愛せないから離れろ…ね。それは確かに自分勝手過ぎるわよ」
「そうだよ大祐くんっ。私達はそんなの関係無いもん」
「ムリエルさんの言う通りです〜…誰に何と言われても、その…一度好きになってしまっからには、後戻りも何も無いんです〜!」
「大祐くんはもう少し『女』という物を理解した方が良いと思うわ。でないと、レディに嫌われちゃうわよ♪」
「グラちゃん…女の子は、物じゃないよ?」
「…はっ、そ、そうね!」
ㅤしんみりとしたこの空間を、九条大祐の言葉を打ち砕くかの如く、彼女達は全員が彼に各々の想いをぶつける。
「でも、グラちゃんの言うことは最も…だよ。それに、大祐くんは私達一人一人をしっかり見てくれてる…」
「…どうして、そう思うの」
「今迄貴方と過ごして来た時間の中で…その…不思議とそう思えたんだよ…?」
「バンシーちゃん…」
「この場に居る事自体お忘れになられてると思うのですが、マスター…私達も同意見です」
「忘れてなんかいないよ。…ずっと席に座って俺の話を聞いてくれてた君達を忘れろって方が無理な話だね」
ㅤ彼女達一人一人の想いを真摯に受け取める九条の頭の中では、様々な考えが交錯していた。
ㅤどうして其処まで自分に付いてきてくれるのか。
ㅤどうしてこんなに自己中心的で情け無い自分を好きになってくれたのか。
ㅤ彼にとっては分からず仕舞いで考えるのも諦めたくなる程に難しい問題だった。
ㅤこればかりは彼女達本人にしか分からない、回答があるかもあやふやな話だ。
ㅤもしかしたら、分からなくて当然と言えるやもしない。
ㅤだが、一度気になれば最後まで明かしたくなるのが人間という生き物。
ㅤ九条大祐はこの難問を、頭を抱えながら必死に考えていた。
「…大祐くん、そんなに悩む必要無いですの」
「えぇ。蝶ヶ崎ほのめのこの言葉が、最大のヒントです」
「ほの姉もゔぁーすきも、何言ってるのか…世羅には分からないよ〜…」
「単純な話ですよね。世羅ちゃんにはまだ分からないかもだけど」
ㅤと、如何にも『元からこの場に居座っていた』かの様な雰囲気を醸し出しながら、上柚木さくらが部屋の扉を開けて彼の目の前まで歩いて行く。
ㅤそして彼女達の見ているその場で。
「…突然ですみません。あの、遅くなっちゃったけど…これ、受け取って貰えますか…?」
ㅤ両手で後ろに隠していたとある物を、彼の前に差し出す。
「…えーと、これは…チョコで合ってるかな」
「は、はい」
「さくらちゃんはさっきの俺の話、聞いてたりした?」
「…え、あ、はい…全部」
「それを踏まえて尚、俺にこんな素晴らしい物をプレゼントしてくれるの?」
「…飛鳥さんや森山碧さんにも、渡して来ました。私と八千代の問題を一緒に悩み、そして解決してくれたお礼として」
ㅤそう言うと上柚木さくらは一拍置いて、深い深呼吸を吐く。
ㅤ絶対に何か大切な話だと流石の九条も察する。
ㅤすると彼女は、チョコを受け取った彼の手を自分の両手でぎゅっと握り締めた。
ㅤそして顔を上げお互いに目と目を合わせ、じっと見つめ合って。
ㅤ上柚木さくらは頰を赤く染めながら話の続きを彼へ伝え始める。
「…勿論、九条さんに渡したこのチョコにはそういう感謝の意も込めました。でも、このチョコに込めた本当の私の気持ちは違います」
「さくらちゃん…けど」
「…例え貴方の一番になれなくても良い。ずっと側に…居させて下さいっ」
「…!!!」
ㅤ九条大祐へ、心の奥に秘めた自分の想いを告白として伝える上柚木さくら。
ㅤ彼女は大胆な事に、その場で彼に抱き着いた。
ㅤ普通なら周りに居る『九条に好意を寄せている』女性達はあまり良い気分にはならず、寧ろ止めに入るだろう。
…だが、彼女達は違う。
ㅤ優しい微笑みを浮かべ、その告白を祝福するかの様に見守る。
ㅤ九条も何かに気付かされたのか、若干泣きそうになっている上柚木さくらをそっと抱き込む。
「…有難う、さくらちゃん。こんな俺の側で良ければ幾らでも好きに居て。絶対に不幸になんかさせないから」
「…九条…さん」
ㅤそう、彼はこう言ったのだ。
ㅤ絶対に不幸にさせない、と。
ㅤよくよく考えれば一番好きな人の一番になれない時点で、不幸等そういうレベルでは無い。
ㅤでは何故、九条はそんな発言をしたのか。
ㅤ彼自身、まだ気の迷いがある証拠だ。
ㅤ全員を一番として見たい彼は、今日一日で何回もの葛藤を繰り返して来た。
ㅤだが、それも上柚木さくらの言葉に打ち砕かれた。
ㅤ自分が第一として考えられなくても良い、だから側に居させてくれと。
ㅤそれは九条大祐が一として嫌う言葉だった。
ㅤ然し彼にはそれを否定する勇気が無かった。
ㅤじゃあ何故否定出来ないのか。
ㅤ自分では嫌だと思いつつも、各務原あづみとリゲルを第一に考え、想っているからだろう。
ㅤ抑、嫌と思っているかどうかも彼自身が分からなくなっている。
ㅤ二人の事は確かに一番好きで、けど全員平等に愛したくて。
ㅤ人間、実際にこうなってしまえば決断其の物が下せなくなる。
ㅤ様々な問題にぶち当たり、困難を乗り越えて来た彼にも、恋愛という精神的直に来る問題には足を躓かせていた。
「…何やら色々悩んでいるらしいわね」
「そりゃあ…俺の中で主張し合う感情が矛盾しているので…」
「大祐、この問題はそんなに難しく考える物じゃありません。私達全員が企みそうな解決法…それが答えです」
「企み…?うーん…」
ㅤべがの話した内容に、兎に角食らい付こうと脳内をフル回転させて思い付く事全てを口にする。
…と、しようとした九条大祐は、何も思い浮かばずに意気消沈していた。
ㅤそんな彼を見て最初に口を開いたのはヴェスパローゼ。
ㅤでは無かった。
「…ぅゅ…みぃな、なにぃってぅの?」
ㅤ上柚木さくらから手を離し、唯突っ立っている九条大祐の足元には可愛らしい少女が首を傾げていた。
「きさらちゃんは…どう思う?」
ㅤすると九条は、まだ7歳という幼い少女に先程の複雑な話の答えを求めてみる。
ㅤ試しに…みたいな軽い気持ちで聞いた九条。
「…きぃ、いま、だいすけのぃちいじゃない…?」
「…えーと」
ㅤこれが面白い展開を生み出すとは、この場に居た誰もが思わなかった。
ㅤ全員が恋愛という、難しく、答えの見えない問題を必死に解く中で。
ㅤたった一人の少女だけが只管真っ直ぐでいた。
ㅤ百目鬼きさらは九条大祐の足にくっ付き、思いっきり抱き締める。
ㅤそして直ぐにこう言い放った。
「じゃあ、だいすけのいちいに、きぃがなゆっ!」
「…へ?」
「あづにも、りげゆにもまけない。きぃ、だいすけにふさあしぃおとあのじょせいになるっ!」
「きさら…ふふっ…あの子ってば」
「そしてだいすけの…ぅゅ…およめさんに…なゆ」
ㅤ顔を真っ赤に、照れ照れと体を揺らす百目鬼きさら。
ㅤ彼女のこの言葉が全員に答えという光を見出させた。
ㅤ一人、動揺を隠し切れていない男を抜いて。
「…そう…大祐、私達の企みとは、其々が貴方の一番になる事なのです」
「…何、で…」
「あはは、何もそこまで驚かなくても良いんじゃないかな。相変わらず大祐くんは面白いよね〜。…むぐむぐ」
ㅤベガ自身から明かされた、企み。
ㅤ九条はあまりに的外れな事を言われた所為か、一瞬間を置いてから静かに驚愕の音を上げた。
ㅤそんな彼の反応に、ムリエルが笑いながらチョコレートケーキを口に運ぶ。
ㅤ横ではマルキダエルが、ムリエルの頰に付いたチョコレートを布巾で拭ってあげていた。
ㅤ一方で倉敷世羅が我もと言わんばかりに九条の足へくっ付く。
ㅤすると百目鬼きさら、彼女と目を合わせる羽目になってしまい。
「にいの一番…?む〜…じゃあ、せらが一番になるっ」
「きぃ、せあにまけない」
「せらだって、きさらちゃんには負けないもん」
「え?あの…二人共?」
ㅤ現在進行形で九条大祐の足元では、二人の幼い少女が睨み合っていた。
ㅤお互いに目から眼光を放ち、バチバチと火花を散らしていそうな絵面となっている。
ㅤ只管に九条大祐が困っているのにも気付かずに。
ㅤ唯睨み合って。
ㅤ彼の足を抱き締め。
ㅤ若干苦しそうに苦笑いをする九条大祐。
ㅤそれは空気的にも、足元的な意味でも。
「これはもう何かしら、締め付けちゃってるわね」
「ヴェスパローゼさん…見てないで止めて頂けると助かります」
「ふふっ、分かったわ」
ㅤ少女達の争いから助け船を求める如く、九条はヴェスパローゼに二人の睨み合いを止める様に促す。
ㅤすると彼女は笑顔で了承した。
ㅤそして動けない彼の後ろに回り、両腕を背後から伸ばしてーー
「…って、何してるんです!?」
「何って…大祐争奪戦に参加してるだけよ?」
ㅤそう言って後ろから抱き付いたヴェスパローゼは、故意に自分の胸を九条の背中へ押し付けていた。
ㅤ更に彼の耳元で「絶対に逃さない…♪」等と囁き、抱き締める力を強くする。
ㅤ流石の九条も三人の女性から一気に攻められては太刀打ち出来ない…どころか、身動き取れずに好き勝手されている。
ㅤふと、見兼ねたリゲルが割って入る。
ㅤ九条大祐から離されたヴェスパローゼは、にこにこと笑いながらリゲルの背中をトンと押した。
「きゃっ」
ㅤ可愛らしい声が辺りに響き、リゲルは咄嗟に九条大祐の背中へと寄り掛かった。
「…あの…リゲルさん、大丈夫ですか?」
ㅤ恥ずかしながらも先ず彼女を心配する九条大祐。
ㅤ然し、最も恥ずかしがっていたのはリゲル自身だった。
ㅤ彼女は目を逸らしながらも、そのまま彼の背中に寄り掛かっている。
ㅤするとヴェスパローゼが一言。
「あら?やっぱり貴女も大祐争奪戦に参加したいんじゃない」
「ち、ちがっ…!抑貴女が押したからーー」
「じゃあ、大祐は私達が貰っちゃっても良いのね。なら遠慮はしないわ、だって好きだもの」
「…リゲルさん、あまり無理しなくてもーー」
「う〜…!えぇ、私だって誰にも負けない位に大祐が好き…だから!そんな簡単に渡さないわ!」
ㅤ皆の見ている目の前で大きな声を出し、大胆発言をかますリゲル。
ㅤ一拍置いて、彼女は他の女性達がにやにやと笑みを浮かべながら自分を見ている事にハッと気付く。
ㅤすると九条大祐の背中に顔を押し付け、表情を悟られない様に顔を隠した。
ㅤ然し、恥ずかしいのはリゲルだけでは無い。
ㅤ足元に少女二人、背後に美女、横にも美女と、嬉しくとも恥ずかしく、心の中で湧き上がる感情を堪える九条。
ㅤだが、彼が気にしていたのはそれだけでは無い。
ㅤリゲルが自分に向けられている視線から耐える為に、九条大祐のコートをぎゅっと握っていた。
ㅤその力が強まる度に、彼自身の心が締め付けられていく。
ㅤ何故?答えは単純だ。
ㅤ彼女はあまりスキンシップというものを好まない女性だ。
ㅤ初見の人物には勿論の事、例え彼女の心に深く入り込んでいようが触る事を許可しないだろう。
ㅤそう、これが九条大祐の内心の答えだ。
ㅤ彼はリゲルが心配なのもあるのだろうが、そんな彼女が自ら自分の背中にくっ付いて来ている。
ㅤという「リゲルさんは俺だけに…」みたいな独占欲を感じない様に心の中で踏ん張っていた。
ㅤリゲルという存在に悪戦苦闘を強いられているのだろう。
ㅤ偶に吹き掛かる彼女の吐息に、理性が明後日の方向へぶっ飛びそうな九条。
ㅤ今は足元で睨み合いを続けている少女二人を見て理性を保っているが、二人だけの空間だったらどうなっていた事やら。
ㅤ九条大祐が手を出してそのまま大人の階段をーーと考えられなくも無いのだが、彼にはその勇気が無い。
ㅤ加えて九条大祐の中で彼女達の存在というのは、汚れなき純粋な乙女と認知されている。
ㅤそれを自分の色に染めるのは気が引けるらしく。
ㅤ寧ろ彼の色に染めて欲しいと願う彼女達の想いは其方退けで…。
ㅤ側から聞いてれば「これは酷い」という言葉しか出てこないであろう。
ㅤだが、リゲルが九条大祐へ、こうも抵抗無く自分から触れに行くのにはこれが関わっている。
ㅤ単に彼が好きだというのもあるのだろう。
ㅤ然し彼女達を一番と考える九条が、自分の都合で手を出したりはしないと。
ㅤ完全にそう信頼しているからこそ、こうして自ら攻めているのだ。
ㅤそれに加えて、九条大祐はリゲルを身体目的として見ている気が一切無い。
ㅤもう「いや、好きだから」の一点張りだ。
ㅤ確かにリゲルからぐいぐい来られれば、流石に彼も反応を示してしまう。
ㅤそれでもそれは「男」として当たり前の反応だ。
ㅤ然し九条の中では「そんな本能的な物に従って堪るか」という謎の反抗心がある。
ㅤ要するに、彼は人間の本能という概念に囚われたくない人種な訳だ。
ㅤ相手から来てるなら此方からも攻めてやろう…では無く、相手から来てくれたのであれば相手が満足するまで付き合ってあげようという、完全に受け身の精神。
ㅤリゲルはこれに甘えているだけなのだ。
ㅤ本題の結論に戻るが、リゲルの中では「九条大祐は私に手出しをして来ない絶対の自信」というものがある為、自分から彼へ触れに行っている。
ㅤ九条本人もそれを承知の上なのか、リゲルに限らず彼女達を一人として自分の好きにしていない。
ㅤつい先程、各務原あづみへの愛を見せるべくキスをしていたが。
ㅤ然し、それは以前までの話だ。
ㅤ結局リゲルは「相手のタイミングにきっちり合わせてくれる」九条大祐を信頼して、自分と彼で二人だけの時間を過ごせる隙を、それこそタイミングというのを伺っていた。
ㅤそれが最近は、九条自身から来て欲しいという欲求が芽生えてきただけであって。
ㅤ「自分からは行動に移さない」九条大祐と「彼から求められたい」リゲルが噛み合っていないのだ。
ㅤ中々遠回しな言い方になってしまったが、結論は至ってシンプル。
ㅤ待てど待てど全然言動に移さない彼に焦らされている気分を味合わされ、だからリゲルは積極的に九条に触れる様になったと。
ㅤだがまぁ…彼がリゲルの想いを察しているとは思えないのだが。
ㅤこれでは何時迄経っても進展無しで終わる事だろう。
ㅤどうなる事やら。
「大祐くんの一位…かぁ…私にもなれるのかな…」
「バンシーちゃん可愛いからね〜。大好きアピールすれば、大祐くんもイチコロじゃないのかな?」
「ふぇ…えっと、ありがと…。でも、ムリエルちゃんも可愛いから…チャンスはいっぱいあると思う」
「私、もう二位以下は嫌ですの〜!」
「…ふふっ、皆さん…そうこう言っている間に真夜中になってしまいましたよ?早く御暇しましょう。大祐に迷惑が掛かってしまいます」
ㅤ九条大祐という堅い強固な城を落とそうと、どさくさに紛れて攻め込むバンシー、ムリエル、蝶ヶ崎ほのめ。
ㅤ相変わらず攻め手を緩めない二人の少女、二人の美女。
ㅤそんな彼女達を見つめながら微笑んでいる各務原あづみにオリジナルXIII。
ㅤ一方でマルキダエルや上柚木さくら、和修吉は優雅に紅茶を啜っていた。
ㅤ美女美少女に囲まれて何かが心の中で聳り立つ九条大祐。
ㅤ必死に端っこへ逃げようとするが、直ぐに捕まり定位置に戻されてしまう。
ㅤそんな、苦笑いを浮かべながら彼女達の対応に手を焼いている彼の前に、一人の美女がおどおどとしながら現れた。
ㅤそう、先程から九条を見つめ、とある一つの質問をしたくて仕方が無い…綺麗な水色の髪の毛の持ち主。
ㅤベガだ。
ㅤ彼女が何だか何時もと違う事に気付き、九条大祐は動きを止める。
ㅤ「彼が動かない=最大の隙」という思考が働いたヴェスパローゼ。
ㅤその隙を逃すまいと九条大祐を後ろから羽交い締めにしようとしたが、リゲルに然りげ無く頭をポンと叩かれ、止められた。
ㅤ実の母親がもじもじとしている事が気になったのか、各務原あづみはベガの隣へ寄り添う。
ㅤ更にもう片方にはA−zが、心配そうに彼女を見つめていた。
ㅤベガはそんな二人に勇気を貰い、いざ一つの疑問を九条大祐にぶつける。
「…今更で凄く聞き難いのですが…大祐、ええと…貴方は…その…」
「どう…しました?」
「わ、私達全員を、その…愛してくれているという認識で…間違い無いでしょうか…?」
「えぇ、勿論ですよ?それがどうかしました?」
「…えっあっ…いや」
「…ふふっ、愚問だったらしいわね。態々聞く必要無かったんじゃ無いかしら?ベガ」
ㅤ思いの外即答され、少しキョドってしまうベガ。
ㅤヴェスパローゼはそんな彼女を見て、微笑みながらそう言う。
ㅤその意見にはリゲルも同意しているらしく「恋する乙女は心配し過ぎる傾向があるわね」等と、少しばかりベガを揶揄って見せた。
「もう…皆さん私を「恋する乙女」と呼び過ぎです。そんな可愛らしい渾名を付ける程、私は可愛く等ーー」
「うーん…ベガさんは可愛いというか、美しいの部類に入る外見をしてらっしゃるんですよ。それでいて、心は恋愛に初々しくて可愛いらしい乙女。そのギャップが何れ程素晴らしい事か…!まぁ要するに、美しさと可愛さを兼ね備えた美女という事です」
「…ふぇっ!?」
「ほらね。ベガの魅力をこんなスラスラと言い放てるのよ?心配する必要があるかしら?」
「…いや、まだ話足りないんですが。ベガさんの魅力はまだまだ沢山有りますからね」
ㅤこれが九条大祐や天王寺飛鳥等のハーレム男の最大の武器。
ㅤ相手の魅力を吃る事無く伝え、相手に有無を言わせる前に攻め立てるという、言葉を利用した落とし方。
ㅤだが、彼等は自覚等無い。
ㅤ自分の思っている事を素直に伝えるからこそ、相手の胸に届くというものだ。
ㅤ全くもって恐ろしい。
「…後は気遣いしてくれるところとか。疲れている時に優しく「もう休みなさい、明日もあるんですよ?」なんて言われたら…そりゃ休むしか無いでしょ」
「や、大祐、私との会話を思い出さないでっ」
「珍しく敬語じゃ無い。…よっぽど焦っているのね、ベガ」
「お母さんと大祐くん、本当の夫婦みたいだね。羨ましいな…私もそうなりたい…な?」
「大祐と…夫婦…!?」
「あづみさん、貴女さえ良ければ何時でも準備は出来ております」
「えへへ…子供は、何人が良いかな…?」
「「「ぶっ!!!」」」
…やはり、先程の九条大祐や天王寺飛鳥の話といい、無知や無自覚というのはなんて恐ろしいものなのか。
ㅤ特に各務原あづみや百目鬼きさら。
ㅤ彼女達は其方関連の事を知らない。
ㅤだが、知らないのにも関わらず九条大祐には爆弾発言をかます。
ㅤそんな二人の発見は、此れ迄幾度と無く彼の胸を締め付けてきた。
ㅤあまりにも辛過ぎる九条大祐は、一回森山碧に相談を持ち掛けた程だ。
ㅤ森山碧から返って来た答え。
『…ハーレムロリコンめ…後ろから刺されてしまえーーん?あぁ、適当にあしらっとけばいんじゃね?』
『へっきーの答えが適当過ぎるわ!ていうか全部丸聞こえだったからな!?』
『ああ、悪ぃ☆』
『絶対反省してないだろ!』
『…バレた?』
(九条大祐がバトルドレス「ストライクフリーダム」を装着し、目の前でロングレンジライフルを放つ音)
…なんてぐだぐだなやり取りをしている二人なのだろう。
ㅤ話が逸れてしまった。
ㅤ少しばかり強引に路線を戻そう。
「いや…子供って…」
「あづみ、意味を分かっているのですか?」
「えっと…確か、コウノトリさんが運んで来てくれるってお母さんが…」
「…ベガさん?」
「…もし、大祐と本気で夫婦になりたいなら、その時教えましょう」
ㅤ各務原あづみという少女が無知な理由、母親であるベガが嘘を教えているから。
ㅤ然し、実の娘に性行為の話など出来たものか。
ㅤ答えはNO、ノーだ。
ㅤ加えてベガは、今迄各務原あづみを誰にも渡そうとして来なかった。
ㅤ抑母親にその気が無いのであれば話は始まらないし変わらない。
ㅤだが、九条大祐と出会い、実の娘と相思相愛の仲である事を目の前で証明され。
ㅤベガも認めざるを得ない、というか認めざる他選択肢が無かった。
ㅤつい先程もお互いのファーストキスを捧げ、軽いキスを済ませたばかり。
ㅤそろそろ其方関係の話を各務原あづみへ聞かせようとした際に起こった出来事だった。
ㅤだから余計にベガは話辛くなってしまい、まさかこの場で話す訳にもいかず。
ㅤバレンタインパーティが終わっても、恐らく話さない積もりなのだろう。
ㅤ彼女の「本気で夫婦になりたいなら」という発言が証拠だ。
ㅤだが然し、各務原あづみは。
「…わっ私、大祐くんと本気で夫婦になりたいですっ…だから、お…教えて下さいっ!」
「あづみさん…」
「…後は大祐次第って事ね。勿論答えは決まってる筈よ?」
ㅤ各務原あづみの後押しをするが如く、確定付いた答えをリゲルは九条へ催促する。
ㅤ無論、彼の口にする言葉も決まっているようなものだ。
ㅤ一言「俺もです」といった言葉を放てばいいだけ。
ㅤ難しい事等何も無い。
ㅤだが、九条大祐が口にした言葉は。
「…俺は、まだこの関係で良いと思います」
「大祐!?」
「大祐くん…」
ㅤ予想外の答えが返って来た所為か、各務原あづみとリゲルの二人は思わず彼の名前を口にする。
ㅤ各務原あづみの夫婦になりたい告白を断った理由、それは九条大祐なりにしっかり考えていた。
「あづみさんは子供を持つ以前に、どうすれば子供が出来るかを知らないですし…もし知っていても俺には一つだけ心配な事があるんです」
「心配な、事…?」
「うん。あづみさんの体の事が兎に角心配なんだ」
「どうして?私は全然平気だよ。前よりも丈夫になったよ?」
ㅤ九条を納得させたいが為に、必死に問い掛ける各務原あづみ。
ㅤすると彼は、彼女の体を優しく抱き締め、話を続けた。
「…あのね、あづみさん。子供を持つ為にする行為っていうのは、今迄の比にならない位にぐったりするんだ。この言い方だと全くそう思えないだろうけど、実際にそういう事をした時…あづみさんの体に何かあってからじゃ遅いんだ。ベガさんなら、分かってくれますよね?」
「…えぇ、勿論です」
「でも、大祐くんとなら…!」
ㅤ九条が説得しようとも、怯まず押しの強さを見せる各務原あづみ。
ㅤ然し。
「こればかりは…譲らない」
「…!」
ㅤ彼女の耳元で静かに呟き、自らの意思をしっかり示す九条大祐。
ㅤそんな彼の言葉に各務原あづみは、見るからに気落ちしてしまっていた。
ㅤリゲルは九条大祐の答えに納得がいかないのか、一歩前に出て反論しようとする。
ㅤだが、後ろにいるベガから肩を掴まれて止められた。
「…ここからは大事な話をします。申し訳無いですが、あづみさんとリゲルさん、ベガさん以外はーー」
「分かっていますよ、大祐。ヴェスパローゼ、皆を違う部屋に連れて行く誘導を手伝って下さい」
「言われなくても既に終わっているわ。部屋に残っているのは私達だけよ」
ㅤ事情を理解し、気を利かせて全員を退場させようと試みた和修吉。
ㅤ然し、彼女よりも早く察したヴェスパローゼが、九条大祐達に気付かれない様に全員を違う部屋へ移動させていた。
ㅤヴェスパローゼの行動力の高さに、九条は頭を下げて感謝の意を示す。
ㅤすると彼女は何も言わず、唯にこにことしながら片手を振って部屋から退室した。
ㅤそれに付いて行く形で、和修吉も退室する。
ㅤ彼女はその際「愛していますよ、大祐」と言い残していった。
ㅤ一体どういう意味でそう言ったのか。
ㅤ九条大祐は「好きだから」という単純な意味だけには感じられ無かった。
ㅤ何か別の意味が込められいる様で。
ㅤだが、それは今考えるべき事では無いと、一度頭の隅にへと追いやった。
ㅤそして再度、各務原あづみの方へ体を向ける。
「…あづみさん、俺の本心を言っても良いかな」
「…うん」
ㅤ二人共、一拍置いて会話を続ける。
「…俺はね、いや…俺もかな。あづみさんとは今迄以上の関係を築きたい」
「…!」
「でも、それでも…あづみさん自身の体が一番だから。何かあったんじゃ、関係も何も無いから。それだけは分かって欲しい」
「…ううん、私…分かってたんだ。自分の体がまだ弱くて丈夫じゃない事。でも、前よりは少しでも強くなったって自分で信じたくて、大祐くんにもそう認めて欲しくて………ごめんね、自分勝手で…」
ㅤ今にも泣きそうな程に、震えている声。
ㅤそんな彼女の本音を耳にした九条は、この判断が本当に正しいのか疑心暗鬼になっていた。
「…けど、あづみさんは…それでも俺を求めてくれた。受け入れてくれた。だから本来俺に拒否権なんて無い」
「違うよっ、大祐くんは私を心配してくれただけ…無理強えをしたのは私だから」
ㅤ互いに自分の非を悔いては相手を悪く無いと言い張る。
ㅤ自分が一番最低辺だと思い込み、そんな自分に尽くしても意味は無い…だからその分他人に尽くそうとする少年。
ㅤ相手にとことん献身的で、争い事を好まない優しい性格の少女。
ㅤ献身という二文字を持ち得る二人は、相手を認めても自らを認めようとはしない。
ㅤ何方かが悪いでは無く、何方も悪くないで事済む話であるにも関わらず。
「大祐が優しくリードしてあげれば良いだけの話なんじゃないかしら?」
「リゲル、子供を作る為に必要な行為というものを知っているのですか?」
「勿論知ってるわ。キス以上の事をするだけでしょう?」
「…駄目ですね」
「何が!?」
ㅤ至って真面目に話をしている九条大祐、各務原あづみの後ろでは愉快な会話をしているリゲルにベガ。
ㅤ正に対象的だ。
「…リゲルさん、幾ら俺が優しくリードしたって、あづみさんの体は耐えられるか怪しいですよ」
「それにあづみはまだ14歳です。大祐だって15歳という若さで…子供を作るには早過ぎる。私は時を待つ、という大祐の意見に賛成です。その間に子供を作る為に必要な知識を、あづみに教えれば良いのですから」
「お母さん…」
「大祐やベガの見解がよっぽど正しいって思い知らされるわね…」
ㅤ少し考えるだけで別の選択肢が見えてくる。
ㅤ目先の事に囚われていては、新しい道など生まれはしない。
ㅤ大袈裟な例えではあるが該当に当て嵌まる例えではある。
ㅤ然し誰もが視野の広い人間では無い。
ㅤだからこそ、頭で考えるという行為が何れ程大切な事か。
ㅤ九条大祐も、先程から悩んでいる問題に視野を奪われ過ぎている。
ㅤ彼もまだ大人では無い証拠だ。
「でも…なれるなら…今直ぐにでもあづみさんともっと深い関係をーー」
「大祐くんと繋がりたい…なぁ…」
「…ベガ、あづみって結構重症よね」
「…私や貴女も否定出来ませんよ」
「わっ、私はちゃんと弁えているわ!大祐と大人の恋をするにはもう少し待たなきゃって……そう…何時迄、待たなきゃいけないのかしらね……」
「あ、そうでした」
ㅤ各務原あづみの爆弾発言を受け流す九条大祐。
ㅤそうでもしなければ生き長らえる事すらままならないからだろう。
ㅤそして彼はリゲルの言葉に、とある事を思い出す。
「あづみさんにはお互いにファーストキスという初めてを体験しました。では、リゲルさんはどうしましょうか」
「えぇっ!?そんな…急に言われても…///」
「わぁ、リゲル、凄い顔真っ赤だよ」
「照れてる証です。あづみも大祐に対しては何時もあんな感じですよ?」
ㅤそう言われた各務原あづみは、自分で気付かない内に顔を真っ赤に染めていた。
ㅤベガに微笑ましく「ふふっ」と言われ、気付き、両手で顔を隠す。
「…そうなんだよね。私、大祐くんときっキス…したんだよね///」
「うっ、あづみさんに言われるとなんか恥ずい…。思い出したくーー無い訳でも無いな。寧ろ一生忘れたくない思い出の一つだ」
「や、思い出さないでぇ…いやぁ…うぅ〜…///」
「か、かわええ…!」
ㅤ彼女とのファーストキスを思い出し、口元がにやけ…はせずに恥ずかしがる九条大祐。
ㅤそんな彼を見て更に恥という感情が湧き上がって来たのか、各務原あづみは九条大祐と目を合わせる事が出来なかった。
ㅤ可愛らしい彼女の照れというものを目の当たりにし、九条は少し揶揄い気味に「いや〜嬉しかったな」等とほざいて見せる。
ㅤ然し、その言葉が各務原あづみに火を付けた。
ㅤ彼女は膝を着いている九条大祐を見事押し倒し、彼の腹部辺りに馬乗りになる。
ㅤそして唖然としている九条の顔の近くにグッと接近し。
「だ、大祐くん…これ以上は我慢出来ないよっ」
「あづみ、口封じにキスしようとしてるわ」
「良いのでは無いですか?あの子があんなに積極的なのは、見ていて新鮮です」
「ちょと!のほほんと見るもんじゃ無いですからね!?あづみさんも、謝るから落ち着いて!」
「む〜…」
ㅤ不貞腐れた様に頰を膨らませ、怒っているのだと表情で九条に伝える。
ㅤ 流石にそこまでされれば気付かずにはいられないだろう。
ㅤ九条大祐は苦笑いを浮かべながら、「どうどう」と各務原あづみを落ち着かせようと試みる。
ㅤだが、其処で思い掛けない出来事が起こってしまった。
「あづみさん、本当にごめんーー」
「えーいっ」
「ふむっ…!?」
ㅤ彼が謝ろうとしたその瞬間。
ㅤ何処からか聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、各務原あづみはいつの間にか九条大祐の唇に自分の唇を重ねていた。
「んっ!?」
ㅤ唐突な出来事に驚く事しかできない九条。
ㅤまさか彼女がこんなにも積極的だとは、彼でも知らなかったと。
ㅤだが、近くで見ていたリゲル、ベガは至極機嫌の悪そうな表情を見せていた。
ㅤその理由とは一体。
「…ぷぁっ」
「不可抗力過ぎだろ…ナナヤ、あづみさんに謝って」
「え〜、だってあんな面白そうなチャンス、逃す方がどうかしてるよ」
「ナナヤちゃん…んと…」
「ほら、あづみさんだって困ってるから」
ㅤナナヤに、自分のした事を謝罪するように催促する。
ㅤ言うべき時には言っておかなければ、今後ナナヤはまた好き勝手にやってしまうからだろう。
ㅤ何時もとは違う、威厳をしっかり持って彼女に注意を促す。
ㅤ然し又もや、各務原あづみに驚かされる事となった。
「ち、違うの。大祐くん…あのね、ナナヤちゃん。えと…ありがと」
「…へっ?」
「でしょでしょ〜♪あづみちゃんが心の中で「もう一回…したいな…」みたいに思ってたから、手伝ってあげたんだ〜♪」
「な、ナナヤちゃん、言っちゃだめっ」
ㅤあまりに衝撃的な出来事が起こり過ぎた所為か、九条大祐は言葉を発するという力を失った。
ㅤそれはリゲル、ベガも同じ。
ㅤまさか各務原あづみとナナヤが結託していとは。
ㅤ何より三人が思ったのは、何時からお互いに仲良かったのか…という疑問だった。
ㅤにこにこと笑うナナヤに、恥じらう各務原あづみ。
ㅤそんな二人を見て、三人共自然に笑みを浮かべていた。
ㅤ内二人はナナヤに良い印象を持っていないが。
「さてさて〜お次はそこの貴女だよっ」
ㅤ又何かやらかす積もりなのかと、頭を抱える九条大祐。
ㅤそんな彼を無視し、ナナヤはとある人物を指差す。
ㅤさぁそれは誰なのか。
「…えっ、私!?」
ㅤ無論、リゲルだろう。
ㅤだが、本人は指差された方向に驚いていた。
ㅤあのナナヤが仕掛けて来る事だ…身構えた方が良いだろう。
ㅤ彼女はそう思い、ナナヤに対して身を低くして構えた。
ㅤ送り付ける視線もキツい眼光にして。
ㅤそこまでされると、流石のナナヤも少し遠慮しようかと一考した。
ㅤ然し彼女はニヤリと笑い、リゲルに笑顔を向ける。
「安心してよ。直接私が手を出す訳じゃないからさっ♪」