カオスチャイルド耳かき短編シリーズ   作:栗原 学

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拓留が世莉架に耳かきする話

 ここは僕の家、と言っていいのかは分からないが僕の住処ではある。まぁ要するに今僕達がいるのはトレーラーハウスの中だ。

「ね~タク~。話って何?」

 そして目の前にいるのは尾上世莉架。僕の幼馴染だ。話があると電話でわざわざここまで足を運んでもらったのだ。

「あぁ、尾上。とりあえずそこに座ってくれ」

 僕は棚を漁りながらベッドの端を指さす。

「う?何か探し物?」

「いや、あんまり使ってないから場所が分からなくなって…とあった」

 棚の奥に目当ての品はあった。簡素なプラスチックのケースに仕舞われたそれを取り出す。

「何それ。薬さじ?」

「いや、どうみても耳かきだろ。むしろなんで薬さじなんて言葉が一番に出てくるんだよ」

 う?と本人は首を傾げているが本当に世莉架の思考回路は読めない。こいつの将来が本気で不安になってくる。

「それで、それどうするの?掻くの?耳」

「そりゃあ耳かきなんだから耳を掻くのに使うさ。ただし掻くのは尾上、お前の耳だ」

「う?私の耳を掻くの?タクが?」

 あぁ、と返事をして世莉架の隣に腰を下ろす。

 何故、突然耳かきなんてことをするのかその理由はこれだ。クールキャットプレス。

 『モテる男は包容力が違う!彼女に耳かきをして包容力を見せつけよう!』

 この記事の話が確かなら耳かきが上手い男はモテる。今はその練習をしようということだ。

「さぁ尾上!僕の膝に頭を載せるんだ」

「ちょ、タク!?やめてよ、恥ずかしいよいきなり」

 珍しく世莉架が羞恥心を露わにする。

「いいからほらちょっとだけだから!ちょっとだけ!」

 世莉架の頭を掴んで無理やり膝に載せようとする。載せてしまえばこちらのモノだ。耳かき中暴れたら危ないのは世莉架の方だ。

 その時だった。

「やめてって言ってんでしょ!」

「んごぅ!」

 激しく抵抗した世莉架の頭突きが僕の顎にクリーンヒットした。

 痛みにもんどり打つ僕を押しのけて立ち上がる世莉架。

「この変態!クズ!そのグロい舌噛み切って死ねよ!」

 そう言い残すとトレーラーハウスのドアを開けっ放しにして出ていってしまった。

 

 

「タク?耳かきしないの?」

「えっ?あ…、あぁ始めるか」

 僕の膝に右耳を上にして頭を載せた世莉架が僕の顔を見上げながら聞いてくる。どうやらまた妄想に耽ってしまっていたらしい。

 というかこいつあっさり頭を載せたけど無防備過ぎないか。将来悪い男に騙されたりしないか心配になる。

「まぁいいか。じゃぁ、やるぞ」

 ケースから耳かきを取り出す。耳かきは竹製で

「少し耳たぶ引っ張るぞ」

 耳介を軽く引っ張り耳穴の中を覗く。

 暗くてよく見えないな。トレーラーハウスの灯りだけでは耳穴を照らすには足りないようだ。

 だがこんな事は予測済みだ。僕は予め用意しておいた小さなライトを取り出す。ライトから出るLEDの光は明るく耳穴を照らすのに十分な光量だった。

「どれどれ…あー、結構汚れてるな。耳かきあまりしないのか?」

「うー、最近はあんまりやってないなぁ。お風呂上がりに綿棒で軽く掃除はしてるんだけど…」

「それ、耳の中が荒れるからあんまりやらない方がいいみたいだぞ」

 確か風呂上がりは耳の中がふやけてるから綿棒でも傷つきやすいんだったかな。

「えー?アレ気持ちいいのにー」

「気持ちは分からないでもないけど…。まぁ、あんまり強く掻かなきゃ大丈夫じゃないか?」

 そんな雑談をしながらライトの角度を変える。どうも耳穴の形が平仮名の『く』の字のようになっているらしく奥の方が見る事ができない。

「とりあえず手前からやっていくか…」

 奥の事はひとまず後回しだ。手前の耳垢を除去すれば多少は見やすくなるかもしれないし。

 ライトを左手で持ちつつ右手で耳かきをペンのように握る。

 力加減も解らないし、いきなり耳の中をやるのは少し怖いのでとりあえず耳介を掻いていく事にするか。

 耳介の溝に沿って耳かきを滑らせるように掻く。

「どうだ尾上、痛くないか?」

「う?別に平気だよ~」

 どうやら力加減はこれくらいで問題ないようだ。耳介には余り汚れは見られない。どうやら綿棒で掃除する際に耳介も拭っているようだ。

「よし、中に入れるから暴れるなよ。危ないから」

「おっけい」

 耳穴をライトで照らしながら耳かきを挿入する。とりあえず一番手前の耳垢から取っていくか。

 僕は慎重に耳かきの先端を耳垢に添える。ごく弱い力で耳垢を掻く。

 耳かきを引き上げてみると小さなカスが先端に付着していた。見えていた耳垢のほんの一部しか取れなかったようだ。とりあえずティッシュで拭う。

 こ、これは中々難しいぞ。自分の耳じゃないからどのくらいまで強くしていいのか分かりづらい。強すぎると痛いだけだろうし弱すぎると今度は耳垢が取れない。

 あんまり強く掻きすぎて耳の中を怪我されたらたまったもんじゃないが、とりあえず見えている耳垢だけはちゃんと取っておきたい。

「尾上、少しだけ強くするぞ」

 返事はない。かわりに僕のズボンをキュッと握る。やっぱり怖いんだろうか。

 僕は本当に少し、気持ち強めに耳かきを動かす。

 指先が引っかかりを覚える。耳かきの先端が耳壁を押す力が強くなったことで耳垢が引っかかったようだ。

 力加減を維持したままゆっくりと耳垢を引いてみるがビクともしない。慎重に少しずつ剥がしていくしかない。

 耳垢の端っこを削るようにゆっくりと小刻みに耳かきを動かす。どうやらこのやり方は間違ってはいないようだ。耳垢が少しずつ削れて粉のようなカスが耳かきの先端に溜まっていく。

「うー、タク~それ痒いよ」

「あぁ、悪い。でも、もう少しだけ我慢してくれ」

 これが自分の耳だったら力加減なんか考えずにガリガリ掻いてしまうのだが他人の、それも女の子の耳となると怪我をさせてしまわないかと不安になる。

 力加減といえば昔強く掻きすぎて耳かきが折れてしまった事があった。あの時は来栖にこっぴどく叱られて「これから拓留の耳は私が掃除します!」と言われて大変だったな。

「タク?どうかしたの?」

「あっと、悪い。考え事してた」

 どうやら手が止まっていたらしい。気を取り直して耳かきを再開する。

 さて、再開するのはいいがどうするか。耳垢は端が剥がれかけてはいるが耳かきだと上手いこと取れないみたいだ。いっそのこと直接手で掴めれば楽なのに…。

「あっ…」

「う?ど、どうしたのタク?」

「いや、ちょっとそこで待っててくれ」

 世莉架の頭を僕の膝から枕に移して立ち上がる。

 確かで耳かきと同じ場所にしまってあったはず。と棚を漁ってみるとお目当ての物はすぐに見つかった。

「ピンセット?」

「あぁ、これなら耳垢を掴んで取れるだろ?」

 もう一度世莉架の頭を膝に乗せ耳の中を覗く。さっき苦労して端の方を剥がしていった耳垢がピラピラと揺れている。

 耳の中に慎重にピンセットを入れる。竹製の耳かきと違ってピンセットは金属製だ。下手にガリッとやってしまったら耳かきより痛いだろう。さっきよりもさらに慎重にしなくちゃいけない。

 耳壁に触れないようにそうっと…よし、掴んだ!

「よし、耳垢掴めたから取り出すけど痛かったら言えよ?」

「う、うん」

 耳垢はまだ一部が張り付いているみたいでこのまま引き抜いても耳壁を傷つけてしまうだろう。手始めに弱い力で引っ張ってみる。

「どうだ?痛くないか?」

「うん、別に平気だよ?」

「そうか」

 じゃあこの強さで引っ張って徐々に剥がしていくか。

 

 それから、ゆっくりと痛みがないように引っ張り続けていたのだがついにその時間が終わりを迎えた。

 ベリッと聞こえてきそうなほど勢いよく耳垢が剥がれた。

「尾上、取れたぞ」

「うー、耳の中でベリッて音がしたよ」

 どうやら世莉架には本当に聞こえていたようだ。

 耳垢を摘まんだピンセットを慎重に引き抜く。

「うげっ…」

 取り出した耳垢はとんでもない大きさだった。耳壁に張り付いた物が長い時間を掛けて成長した物らしく軽く弧を描いた平べったい耳垢だ。小指の爪くらいのサイズと形をしている。

「ちょ、ちょっとタク!うげっ、は酷いよー!」

「そうはいっても流石にこれは酷い。血みたいなのがついてるぞ?自分で耳かきした時に引っ掻いたんじゃないか?」

 耳垢はよく見ると一部赤黒い色をしておりまるでカサブタのようになっている。おそらく自分で掻いた時に出血した物が固まったのだろう。

 もう一度ライトを握り耳垢が張り付いていた箇所を照らす。

「まぁ、傷のような物は見当たらないし大丈夫か。粗方取り終えたし綿棒やって終わるぞ」

 ベッドの横に置いてある黒綿棒のケースから一本取り出す。

「う?何でその綿棒黒いの?」

「あぁ、黒い綿棒の方が耳垢が取れてるかわかりやすいんだよ。耳垢が白っぽい色をしてるから」

 実はこの日の為にわざわざ黒綿棒を買っておいたんだ。昨日試しに自分で使って見たが普通の綿棒に比べて耳垢が取れてるという実感が得られた。実際に取れてる量は変わらないとは思うが。

「じゃあ入れるぞ」

 綿棒を耳穴に入れる。やはりまずは浅い部分からだ。

 綿棒で耳壁を拭うように時計回りに回す。そうして少しずつ奥に進めていき穴の半分程度で一度引き抜く。

「ほら、耳垢が分かりやすいだろ?」

 綿球には耳かきでは取れないような粉状の耳垢が全体に付着していた。梵天なんかがあるとそれらも楽に取れるのかもしれないが僕の耳かきに梵天は付いていない。

「うー、分かりやすいのは良いけど恥ずかしいから見せないでよ」

「あ、あぁごめん」

 世莉架の視界から綿棒を引っ込めると綿棒をひっくり返して反対側の綺麗な綿球を再び耳穴に入れる。奥の方はでかいのを取った後だからかあまり汚れてはいなかった。

「よし、終わったぞ。尾上」

「うん、ありがとうタク」

 しかし思っていたより耳垢が溜まっていたな。他の人間の耳の中を見たことがないからなんとも言えないけどこれは普通より多い部類に入るんじゃないだろうか。

 などと考えている間も世莉架が膝の上に頭を載せているままだ。

「尾上?終わったんだから起きろよ」

「え~、反対側は?」

 そうだった。まだ片耳が終わっただけだった。

「すまん、忘れてた」

 そういって寝返りうった世莉架の左耳を覗く。

 こちらも右耳と同じくらい、あるいはそれ以上に汚れているみたいだ。

 ごくり、と思わず生唾を飲み込む。これはさっきよりも大変そうだ。

 

 左耳の耳かきは思っていた通り右耳より大変だった。奥の方で耳垢が栓のように耳穴を塞いでいたりそれが完全に張り付いていたりと中々どうしてハードな仕事となったが今回は都合により割愛する事にする。

 

「ふぁ~…」

 耳かきが終わったものの相変わらず世莉架は僕の膝から離れようとしない。どうも耳奥の大物を取った後、綿棒で仕上げをしている最中に寝てしまったようだ。今も大きな欠伸をしながらスヤスヤと寝息を立てている。

 いい加減膝が痺れてきたが僕の我が儘に付き合って貰ったのだ。少しくらいはこのまま寝かせといてやるか。

 それにしても、結局耳かきで包容力が見せつけられたのだろうか。こうして膝の上で世莉架が寝ている状況は僕に包容力があると言えるのでは、と思う反面、まぁ世莉架だし、と思わなくもない。

 そうか。幼なじみで昔から一緒にいる世莉架じゃそもそも意味がないのではないか?

 じゃあどうするか。来栖も家族だしあまり世莉架と変わらないだろう。有村は何だかんだ人懐っこいから結構簡単に耳かきくらいさせてくれそうだな。よし、有村に連絡してみるか。

 prrrrr…

『はい、宮代先輩?何か用ですか?』

「あぁ、有村。ちょっと耳かきさせて欲しいんだけど…」

『はぁ?馬鹿なんですか?』

「え…いや、その」

『デリカシーってものがないんですか?』

 ブツッ、ツーツーツー。

 

 おのれ、クールキャットプレス…




 普段、耳かきされる側の視点で書いているので凄い難産でした。
 特に耳かきしてる側だと耳かきのカリカリ掻く音とか聞こえないだろうな。と考えたせいで擬音が制限されて面倒で面倒で。
 もう左耳まで書くのは面倒だったんで勘弁してつかぁさい。
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