ある剪定事象の記録   作:ペンギン隊長

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冬木の聖杯戦争

 

 

 

 市内をぐるっと回って戦闘しつつ駄弁りつつ調査したが、何処にも現地の人間の姿はなかったしあからさまに異変の原因と思われるものは見つからなかった。藤丸とアイカがカルデアや聖杯戦争、サーヴァントなどについて正しい知識を得て、マシュが宝具を使えないことが判明した位である。

 市内の何処かしもも荒れ果て燃え崩れている。日本の平凡な地方都市だったはずの街が焼け野原だ。

 焼けた教会を軽く見て回り、オルガマリーは難しい顔をして考え込む。考えをまとめるためか、独り言を呟いている様子は邪魔をしてはいけないという雰囲気を漂わせている。ロマンが藤丸たちに呼びかけ、一旦休憩を取る事になった。

「マスター、レーション食べますか?」

「いただきます」

「アレが主従の正しい形だと思うんだが、どうだ茨木の」

 鶴丸がマシュと藤丸を示して言うが、茨木は鼻で笑う。

「くかかっ、(われ)は鬼だぞ。まがりなりにも人間であるマスターに従っている時点で上等だと思え。何しろ、鬼は人を喰らうものなのだからな。…む、この柘榴にチョコレイトのかかっている菓子は美味だ。吾の口に合ったぞ。お代わりを所望する、マスター」

「うーん、これはあんまり手元に在庫がないんだよね。調理設備があれば簡単に作れはするんだけど」

「ふうむ…では、吾が大物の首を狩った暁には(なれ)の手で作った菓子を所望する。たらふくだぞ!あれだ、ケーキという奴だ。それを寄越すというのであれば、今のところは我慢をしてやろう」

「ケーキね。この話の進み方から言って、ドライフルーツの入ったチョコ掛けパウンドケーキとかがいいかな?」

「おお、よくわからぬが心躍る響きよな。ぜったいだぞマスター」

「…着々と餌付けがすすんでいやがる」

 これまでの道中の戦闘後にもちょいちょい色んな一口チョコレートを受け取っては美味しそうに、満足そうに食べていたのだが、本当に甘いものを好んでいるらしい。アイカも割と楽しそうに反応を見ている。

「なあ、主自身は休憩というか、糖分補給などはしなくて大丈夫か?そいつは俺たちより消費する霊力が多いだろう」

「消費に関してはフルメンバーに全力で戦わせることに比べればなんとやら、ってやつだよ。今のところ、宝具も使っていないしね」

 などと言いつつ所謂エネルギー飲料と呼ばれるものを摂取している。単純に、市内を歩き回ったことによる体力の消費などもあるのだろう。

『――!休憩はそこまで、周囲に生体反応がある!』

「っ…!マスター、指示をお願いします!」

「茨木、鶴丸、戦闘準備!」

 ロマンの言葉に少女二人が即座に声を出す。呼ばれたものたちも即座にそれに応えた。

 

 

 

 集まってきた低級の怪物を蹴散らし、マシュ達は戦闘態勢を解除しようとしたが、ロマンが焦った声で続ける。

『ごめん、話はあと!すぐにそこから逃げるんだ!まだ反応が残っている!しかもこれは――』

 明らかに、今までの相手とは異なる何かがその場に姿を現す。黒い人影。どのような存在なのか、一目で判別する事は難しい。しかし、サーヴァントである二人には感じるところがあった。

「な――まさか、あれって!?」

『そこにいるのはサーヴァントだ!戦うな藤丸、マシュ!君たちにサーヴァント戦はまだ早い…!』

「そんなこと言っても逃げられないわよ!」

「くはは!吾の出番だな!そこで震えて縮こまっていろ人間ども!我が宝具(ほのお)で焼き尽くしてくれるわ!」

 茨木がそう言ってサーヴァントの前に躍り出る。戦闘態勢に入る時に纏う魔力放出の炎の翼も、心なしかいつもより大きく燃え上がっているようだ。

「大将首というには少々物足りぬが、サーヴァントとなれば勿論大物の扱いであろう?マスター!」

「そうだね。何パウンド分作る事になるのかな…」

 アイカは平常通りといった様子でそう言って微笑みさえ浮かべている。言質を取って意気揚々といったように茨木は満面の笑みを浮かべた。鶴丸は警戒した様子で辺りの様子を窺っている。

 それを見て、オルガマリーも少しだけ冷静さを取り戻した様子だった。

「…アレは、本当に間違いなくサーヴァントなのね?なんでサーヴァントがいるの!」

「所長はこの街で聖杯戦争があったって言いましたよね、だから、もしかしたら…」

『そうか、その街では聖杯戦争が行われていた!本来なら冬木で召喚された七騎による殺し合いだけど、そこはもう"何かが狂った"状態なんだ!マスターのいないサーヴァントがいても不思議じゃない。そもそもサーヴァントの敵はサーヴァントだ!』

 茨木と黒いサーヴァントが戦っているところから視線は逸らさず、オルガマリーは険しい顔でロマンに問う。

「…おそらく、茨木童子はあのサーヴァントを倒せはするでしょうけれど…それまでに他のサーヴァントに私たちが見つかる可能性は?」

『…その可能性はおそらく高いでしょう。彼女の戦い方は派手だからね…。撃退次第、その場を離脱する事を推奨します』

「藤丸、キリエライト、それにアイカ、聞いていたわね?心構えをしておきなさい」

「…わかりました」

「了解」

「まあ、この状況で別行動というのも不安ではあるよね」

 アイカはひらひらと手を振って続ける。

「現時点でそっちの三人は離脱しておく、というのも一つの選択肢ではあるけど、安全が保障されてる場所がある訳でもないし、他のサーヴァントに遭遇して、しかもそれが複数だったりしたら目も当てられない」

「奴らがどういう状況で何を目的として動いているかも判然としないしな。こちらが敵視されていることだけは確実だが」

 オルガマリーが僅かに眉をしかめる。

「私があなたのような問題児にその場に残っての足止めをさせるとでも?」

「行動に移すかはともかく、選択肢として考えられ得るかな、というだけですよ。実際のところ、戦力が偏るので、それをやるならいっそ僕らが他の敵も全部引き付ける位の気概でやらなきゃいけないでしょうが」

 うちの式神たちは貸出できませんからね。とアイカは付け加えた。

 この場に居る戦闘要員は三人、うち二人はアイカを主としている存在だ。彼女個人に従っていると言っていい存在でもあるので、メンバーを分けたとして戦力が偏ろうがなんだろうが、彼女から離れるというのは頷かないだろう。

「ふははっ、人間どもよ、目ん玉かっ開いて見ておけ!――姦計によって断たれ、戻りし身の右腕は怪異と成った!走れ、叢原火!『羅生門大怨起』!」

 茨木の右腕が炎を纏って巨大化し、敵に向かって発射された。そして、相手を握りこむようにして激しく燃え上がる。辺りに茨木の高笑いが響いた。

「…あれが、茨木さんの、宝具…?まさか、自分の体を…」

「まさか、斬られた体の一部をあんな風に使うなんてなあ。驚いた驚いた」

「ロケットパンチだね。義手にギミック仕込むならともかく、生身でやるとは」

 目を見張っているマシュと対象的に、鶴丸は愉快そうに笑い、アイカは感心した様な顔をしている。味方だからとはいえ、のんきな反応である。

『…よし、君たちの目の前にあった反応は消滅したぞ!だけど、同じもの(・・・・)がそちらに向かっている!』

「興が乗った。よし、ゆくぞマスター!!ふはははは!」

「え、ちょっ」

 茨木が走りざまにアイカを抱え上げ、そのまま高笑いを上げて走り去っていく。突然の事に茫然とそれを見送ってしまった四人だったが、いち早く再起動した鶴丸がオルガマリーを横抱きにかかえ上げて走り出す。

「マシュ、藤丸!きみたちもとっとと追いかけろ!まったく。驚きは望むところだが、俺から主を奪うなんて、おいたがすぎるぞあの小鬼!」

「えっ、は、はい!失礼します、マスター!」

 一瞬逡巡しかけるが、置いていかれる訳には行かない、とマシュも藤丸を抱えて追いかける。サーヴァントが全力移動をしようというのなら、人間の足で追いつけるものではない。

 

 

 

 

「――見ツケt」

「む?何か蹴飛ばしたか?」

「先回りされたみたいだね…というか、何処へ行こうとしてたんだい、君は…」

 制動距離を数十メートルほどとって茨木は立ち止まる。振り返れば、黒い影が腹のあたりを押さえているようなポーズで膝をついていた。流石に、蹴飛ばされて消滅はしなかったらしい。

「…。吾はこの土地には不案内なのだ。(なれ)と共に歩き回った範囲しか知らぬ」

「だろうね…」

 少し遅れて、鶴丸とオルガマリー、マシュと藤丸が追いついてきた。

『サーヴァント反応、確認!そいつはアサシンのサーヴァントだ!』

「マスター!」

「いけるか、マシュ」

「――はい。あなたに勝利を、マスター!」

 マシュは藤丸を地面に降ろして己の盾を構え直す。鶴丸は僅かに片眉をしかめ、オルガマリーを抱えたまま藤丸に歩み寄る。

「先回りされた、ということは足止めである可能性が高い。伏兵に注意しろよ」

「そ、そろそろ降ろしなさい、鶴丸」

「まあ確かに、俺は人ひとり抱えたままの大立ち回りってのはできないが、またこの場を離脱するとなった時に抱え直すというのも手間だ。落ち着かないだろうが、ひとまずの安全が確保できるまでこのままいかせてもらうぜ」

「まさかその時は俺も抱えるつもりじゃないですよね。流石に過積載になりますよねそれ」

「ははっ、舐めてもらっては困る。流石に大太刀ほどの打撃はないとはいえ、ひょろっこい人間ふたり程度なら俺にも抱えられる。…いや、あまり人数が増えると重量より先に抱えるところがなくなるんだがな」

 などと本人は言っているが、鶴丸は明らかに大した筋力などない儚げな風貌をしている。人ひとり抱えて疾走して息も切らせていないのだから、確かに見た目通りの儚さではないのだろうが。

 とはいえ、彼らもマシュや茨木のように見目以上の筋力を発揮している例を目の当たりにしているので、頭ごなしに否定するほどではない。少なくとも、鶴丸が普通の人間ではないということ自体は知っているのだし。

「吾はどうする、マスター。…流石に、宝具をもう一度使うにはもう少し魔力を溜める必要があるが」

「宝具は少し様子見かな。でも…どう思う(・・・・)?」

「くはは!何にせよ、汝が命じれば吾が蹴散らすのみよ。とはいえ…会話できるだけの知能のある相手であれば、口を割らせるのも手よな」

 茨木はアイカを抱えたまま、しかし視線はアサシンを向いている。アイカの視線も同じくアサシンに向いているが、アサシンを挟んで反対側に居るマシュたちを見ているようでもある。

「争いになるには、少なくとも二つの派閥が必要だと思うんだけど…はてさて」

「敵が何であろうと、知ったことか。吾の邪魔をするのであれば全て喰らい蹴散らしてくれる」

「…頼もしいなあ」

「そうであろう、そうであろう。なにしろ、吾は京を騒がせた大妖怪であるのだからな!」

 茨木は右手だけでアイカを抱え直し、左手に大太刀を握るとアサシンに斬りかかっていく。

「こら小鬼!主を抱えたまま前線に出るんじゃない!!」

「ふはは!吾は矛、マスターは盾、これぞ最強の布陣ではないか!」

「そりゃあ遠隔よりすぐ傍の方が障壁は張り易いかもしれないけどね…」

「茨木さん、先輩は戦闘要員ではありません!」

「クッ…矢張、二対一ハ分ガ悪イカ」

 若干戦場が混乱しかけた時、横合いから走り込んできた影があった。

「っ、マシュ!」

『追いつかれた!今度はランサーだ!』

「むむっ、何だ、こやつ…!」

 ランサーの薙刀と茨木の大太刀がぶつかり合い、拮抗している。それ自体は驚愕するほどのことではない。問題は、ランサーが完全に茨木だけを狙っていることだった。

「フォウ、フォーウ!」

「あれじゃあ、二対二じゃなくて、一対一と一対一だわ…マシュ一人でアサシンの相手をさせるのは…」

「…それでも戦うしかありません。茨木さんひとりで二人と戦わせるわけには行きませんから…!」

「ハ。未熟者ガ大口ヲ。貴様カラ先ニ殺シテヤロウ!」

「――小娘かと思えばそれなりに(つわもの)じゃねぇか。なら放っておけねぇな」

 そんな声と共に、火の玉が飛んで来てアサシンの腕を焼く。

「ヌゥ…!何者ダ…!?」

「何者って、見れば分かんだろご同輩。なんだ、泥に飲まれちまって目ん玉まで腐ったか?」

 森の中からゆったりと現れたのは、フードで顔を隠した青年だった。ローブらしき服装に、杖を持っていることからして、魔術師であろうことが察せられる。

「貴様、キャスター!ナゼ漂流者ノ肩ヲ持ツ…!?」

「あん?テメエらよりマシだからに決まってんだろ。それとまあ、見所のあるガキは嫌いじゃない。そら、構えなそこのお嬢ちゃん。腕前じゃあアンタはヤツに負けてねぇ。気を張れば番狂わせもあるかもだ」

「は…はい、頑張ります!」

「坊主がお嬢ちゃんのマスター…で、いいのか?なら指示はアンタに任せようか。オレはキャスターのサーヴァント。故あってヤツらとは敵対中でね。敵の敵は味方、ってワケじゃないが、今は信頼してもらっていい」

「え、はい、頑張ります!」

 鶴丸は激しい打ち合いを繰り広げている茨木とランサーに視線をやりつつ、キャスターを見て眉をしかめている。オルガマリーもキャスターの真意を見極めるように視線を向けている。

「そっちの二人は不満そうだが…今は置いておいてくれや。それ、来るぞ」

「…ああ、話は後だな。って言っても…」

 鶴丸は苦虫を潰したような顔をしている。

「主から指示の取り下げがなきゃ俺は前線に加われない。あの様子じゃ取り下げてくれないな。今回はあんたに任せる」

「指示?何時の間に」

「念話でざっくりな。流石に主も二人以上同時に別の話はできないから今は話せないが」

 要するに、アサシンと対峙した時点で指示があったということだろう。確かに、個人的な判断にしてはおかしな行動ではあった。彼なら一直線に主のところに向かっていてもおかしくない。

「アンタもサーヴァントなのか?ちょいとばかし、気配が違うようだが」

「いや、俺はサーヴァントじゃあない。そっちの概念で言うところの使い魔に近い存在なのは否定しないがな」

 ふん?と追究を保留にした声をもらし、キャスターはアサシンに視線を向ける。マシュはアサシンへの攻撃の糸口を探るように盾を構えて対峙している。

 

 

 

 ランサーとアサシンを倒し、一行は戦闘態勢を解いた。茨木と鶴丸も抱えていた相手を地面に降ろす。

「あ、あの…ありがとう、ございます。危ないところを助けていただいて…」

「おう、おつかれさん。この程度貸しにもならねぇ、気にすんな」

「うん?あわよくば貸しでも作ろうと様子を窺っておったのではないのか?術師」

「様子見をしてたのは否定しねえが、貸しを作るためじゃねえよ。手を組む意味がある相手なのか、知りたかったのさ」

 茨木は疑わしそうにキャスターを見る。キャスターはやれやれと肩をすくめてみせた。マシュはどうすればいいのかわからないという顔をしている。

「ちょっとアイカ、アナタのサーヴァントでしょう、止めなさいよ」

「いや、今回の茨木の言説は僕には止める資格はないのでなんとも」

「まあ、あの小鬼もいきなり襲いかかったりはしないだろう。状況が全く読めんという訳ではないんだし」

『とりあえず事情を聞こう。どうやら彼はまともな英霊の様だ』

 

 

 

 キャスターとの情報交換により、この街に起きた事、今起きている事がおおまかにではあるが、わかった。

 要するに、この街では今も聖杯戦争の真っ最中であり、生き残っているのはこのキャスターと、セイバーの二騎のみであり、他のサーヴァントは一旦セイバーに倒され、泥に汚染されて存在していたらしい。もっとも、彼らが三騎倒した事で残っている汚染されたサーヴァント(シャドウサーヴァント)はアーチャーとバーサーカーだけになったが。

 そして、この状況が元に戻るかはともかく、聖杯戦争を終わらせるには、セイバーかキャスターのどちらかが倒れるしかない。

「なんだ。わたしたちを助けてくれたけど、結局は自分のためだったのね。貴方はセイバーを倒したい。けれど一人では勝ち目がないからわたしたちに目を付けた…違って?」

「その通りだ。だが悪い話じゃあねえだろ?」

「そうですね。初対面の方から好意で助けたなんて言われるより分かりやすいし信用できる」

 キャスターに同意する言葉を差しこんだアイカに目をやり、オルガマリーは眉をしかめた。

「…アイカ、この状況で何をやっているの」

「いえ、うちの子たち嫉妬深くて独占欲強いさびしがりが多くて。まあ流石に人前でくっつき虫になるのはそうそうあることではないんですけど」

 おんぶおばけ状態になっている鶴丸を気にした様子もなく、アイカは平然と返した。時々よしよしと白い頭を撫でている。

「それが他者にも理解共感できるかはともかく、人が手を組んだり誰かのために動くというのは、その人に利があるからでしょう。己の利がないのに動く人なんていませんよ」

「それは違うと思います。世の中には善意で動く方もいる、と反論します」

「ノン。それは反論になっていない」

 ちっちっち、と指を振ってみせたアイカにマシュは更に反論を重ねようとするが、その前にアイカは言う。

「例えば、善を成すことが目的だというなら目的を果たすのは利だろう。感謝の念や好意尊敬の感情を向けられることも利だろう。それに価値を見いだすかどうかはその人次第ではあるけれど」

「・・・」

「己にとって価値あるものが手に入るのなら、それは利のあることじゃないかい。…まあ、不利益を防ぐため、という場合もあるだろうけどね」

「ちなみに主の言説に従うなら、俺たちが主に従うのは俺たちにとって価値ある存在である主の傍に侍って愛でて愛でられるためだな。うん、間違ってない」

 鶴丸はそう言って猫のように頬をアイカの頭にすりつけた。セクハラだなんだと言われても不思議ではないが、アイカは好きにさせているというか、放置している。

「…それで、そんな事をわざわざ言い出したのは何故かしら」

「所長がなんだか残念そうな顔をしていたので」

『…もしかしてフォローのつもりだったのかい、アイカちゃん』

 アイカは肩をすくめてみせる。それまで黙りこんでいた茨木がひょいと口を挟む。

「慰めを言いたいので有れば、こう言うべきであろう。"この男は我々に手を組む価値を見出したのだ"、とな」

「こーら、口に物を入れたまま喋らないの」

 どうやら茨木が今までずっと黙っていたのはキャンディを口に含んでいたからだったらしい。そういえば話を聞く態勢になる前に色んな味のキャンディを一つかみアイカから渡されていた。

 茨木は少しむっとした顔をして口の中の飴を噛み砕こうとして逡巡し、結局口を閉じた。口を出す事よりも甘味を味わう事の方が優先されるべき事として判断したらしい。

 

 

 

 とりあえず、キャスターと手を組む事は決まった。

「この場合、貴方のマスターは誰になるの?」

「そりゃ、そこの坊主か嬢ちゃんだろ。アンタにマスター適性はないしな。いや、ホントに珍しいな。魔術回路の量も質も一流なのにマスター適性だけ無いなんて。何かの呪いか?」

「うるさいわね、どうでもいいでしょうそんなコト!」

 マスター候補二人は互いに目を見合わせる。

「此処は藤丸君がマスターになるべきでは?」

「まあ…アイカは実質二騎以上のサーヴァントと契約してるようなものだしな…」

 現状、これ以上の増員は望めない。アイカの式神の運用における制限はほとんど開示されていないが、とりあえず無暗に増やせばいいというものでもないし、これまでを見る限りかなり癖の強い性格をしている。余程必要に迫られなければ他の式神を(可能かどうか分からないが)出す事はしないのだろう。

 それに、シャドウライダーとの戦いのときにも言っていたが、戦力増強が必要なのは藤丸の方なのである。

「そうね。藤丸、そいつはキミに任せるわ。せいぜいうまく使いなさい」

「決まりだな。この街限定の契約だが、よろしく頼むぜ。となれば、あとは目的の確認だな。アンタらが探しているのは間違いなく大聖杯だ」

『大聖杯…?聞いた事がないけど、それは?』

「この土地の本当の"心臓"だ。特異点とやらがあるとしたらそこ以外ありえない。だがまあ、大聖杯にはセイバーのヤロウが居座っている。ヤツに汚染された残りのサーヴァントもな」

「残っているのはバーサーカーとアーチャー?どうなの、その二体は。強いの?」

「アーチャーのヤロウはまあ、オレがいればなんとかなる。問題はバーサーカーだな。アレはセイバーでも手を焼く怪物だ。近寄らなきゃ襲ってこねえから、無視するのも手だな」

『状況は分かりました。我々はMr.キャスターと共に大聖杯を目指します。Mr.キャスター、案内を頼めますか?』

「ミスターはいらねぇよ。道筋は教える。いつ突入するかはマスターたち次第だ」

『助かります。では探索を再開しようか。よろしく頼むよ、アイカちゃん、藤丸君』

 

 

 

 

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