ある剪定事象の記録   作:ペンギン隊長

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原作だとひらがな喋りの子が漢字交じりに喋っているのは仕様です。まあ個体差みたいなもの


大聖杯に続く道

 

 

 

 大聖杯の存在する地下工房に繋がる洞窟の前に辿り着いた。

「これは…やっぱり短刀の方が良いかな。今剣(いまのつるぎ)、薬研藤四郎、おいで」

 呼びかけに応えるように、マントの中から白と黒の対象的な色合いの少年が姿を現す。二人が現れた瞬間、その場に薄紅の花びらが舞い散ったような錯覚をマシュはおぼえた。

「子供…?」

「ぼくたちからすれば、あなたがたの方が幼い子供ですよ。ほんの百年も生きていないのですから」

「刀相手ならともかく、人間にそれはねえだろ。そもそも寿命が違うんだから」

 オルガマリーが思わず零した言葉に、白い少年はやれやれと肩をすくめてみせる。黒い少年は白い少年に嗜めるような事を言った後、微笑を浮かべて短いマントを翻し、オルガマリーに礼をとる。

「大将が世話になってるな。俺っちは薬研藤四郎。藤四郎の短刀のうちの一振だ。こっちは今剣。鞍馬の山の小天狗だ」

「小は余計です、薬研」

「ふん、実際(われ)より小さな身の丈をしているのだから、間違っていないではないか」

「…あなたの使い魔、礼を弁えているものもいるのね」

「いやあ、礼を弁えているというか、空気が読めるというか、人間社会の事情を考慮してくれるというか…」

 アイカは僅かに視線を泳がせる。彼女も一応、自分の式神の他者に対する態度に関して思う所はあるらしい。

「…子供を戦わせるってのは、少し抵抗があるな…」

「…わたしも、あまり気が進みません」

「そうか?どちらも結構な戦士に見えるが」

 キャスターに言われて改めて見てみると、確かに今剣と薬研藤四郎の二人は明らかに武装している。和装と洋装の違いはあるが、武具そのものは日本の武士のものだ。そして、衣装に着られているという感じはない。あまりにも自然に着こなしている。違和感がなさ過ぎて威圧感もない。ただの見目の整った子供に見える。

「…見た目どおりではない?」

「アイカはこれからボスに挑むってのにそれに相応しくない奴を喚ぶような奴じゃないだろ」

『こちらから見える数値からいっても、これまでに喚んでいた式神たちと遜色ない実力の持ち主だろうしね。…いや、寧ろ今回の彼らが今までで一番総合的な数値は高いかもしれない』

 ロマンの言葉に反応したかのように薬研が藤丸たちに視線を向け、言う。

「いやいや、俺たちが強く見えるとすりゃあ、そりゃ、俺たちが大人げなく本気モードで出てきたってだけだ。まあ、どっちが強いかと言われれば、早く動けて攻撃を当てられた方、って話になってくるんだけどな」

「大人げなく、ってどう見ても大人には見えないけど」

「いや、これでも俺っちは太郎の旦那より年上だし、今剣は鶴丸の旦那より年上だぞ。俺は鎌倉、今剣は平安の生まれだからな」

 

 

 

 洞窟の中を進みながら、ぽつぽつと話をしていた。キャスターは、セイバーの宝具は、見ればその正体を察するに足るものであるという。

「王を選定する岩の剣の二振り目。おまえさんたちの時代においてもっとも有名な聖剣。その名は、」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)。騎士の王と誉れの高い、アーサー王の持つ剣だ」

 宝具の名を口にしたのは、キャスターとは別の声だった。はっとして彼らが声がした方を見ると、そこには黒い影…シャドウサーヴァントが立っていた。

「アーチャーのサーヴァント…!」

「おう、言ってるそばから信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを護ってんのか、テメエは」

「…ふん。信奉者になった覚えはないがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 アーチャーとキャスターには何らかの因縁でもあるのか、一触即発の雰囲気を漂わせて言葉を交わし合っている。

 アーチャーとキャスターが互いに武器を構えた時、茨木たちもまた武器を構えたが、マシュはひとりだけ呆けていた。

「なにぼんやりしてんだお嬢ちゃん。相手はアーチャーだ。アンタの盾がなきゃ俺はまともに詠唱出来ねえんだが」

「あ…は、はい!すみません、なぜか気が抜けていました。問題ありません、いけます。ガードならお任せください!」

「ふはは。なんなら吾が一人で磨り潰してやってもよかったがな!」

「茨木のお嬢は勇ましいねえ。俺も見習わないとな」

「見習わなくていいですよ。猪突猛進の馬鹿はぼこぼこにされるのがさだめです」

 そして、茨木が地面を蹴るのを合図にしたように戦闘ははじまった。

 

 

 

「考えたな花の魔術師…!まさかその宝具に、そんな使い(みち)があったとは…!」

 マシュの宝具を睨みながらそんな事を言って、アーチャーは消滅した。

「おう、未練なく消えろ消えろ。聖剣攻略はオレとお嬢ちゃんたちでやってやる」

 上機嫌な様子のキャスターの言葉にマシュは不安を零す。キャスターはそんなマシュに彼女の盾はセイバーの聖剣に負ける事はないだろうといった。負けるとしたら、マシュがへまをした場合だろうとも。

「いいか。聖剣に勝つ、なんて考えなくていい。アンタは、アンタのマスターを護る事だけ考えろ。得意だろ、そういうの?まあなんだ。セイバーを仕留めるのはオレたちに任せて、やりたい事をやれって話さ」

「…はい。そのアドバイスは、たいへん力になるようです」

「うむうむ。大将首をあげるのは吾の役目だからな」

「いや、そこはオレも譲るつもりはないぞ?元々これはオレたちの戦いなんだからな」

「早い者勝ちであろう?」

 好戦的なサーヴァント二人が火花を散らしている。

 

 

 

 

 もう少しで大聖杯に辿り着く、というところで、一旦休憩を取ることになった。藤丸に不調の色が見える事をオルガマリーが指摘したのである。彼は正真正銘、カルデアに来る前は一般人で、魔術回路を使った事もなかったため、ここにきてサーヴァント契約が負担として現れてきたのだろうということだった。

「アイカ先輩は…特に不調ということはなさそうですね」

「疲れてない、とは言わないけどね。契約を結んで魔力を流す事自体は昔からしていたものだから」

「俺たちはそれこそ、大将が古川の家に赤ん坊として生まれた時からずっと見守ってるようなもんだからな。いや、契約したのがその頃ってわけじゃないが」

「え、僕は契約前に顔を合わせていた覚えは……あれ、どうだっけ。時系列があやふやだなぁ…」

 アイカはうーん、と眉をしかめている。薬研は、はははと笑った。今剣が訳知り顔をする。

「あるじさまは昔から時系列の把握が苦手ですからね。昨日のことを明日のことの違いはわかっても、先週の事と先月の事と来週の事をまちがえたりして」

「あながち全否定もできない…」

「とりあえず先輩の認識している時系列がぐちゃぐちゃになっている、あるいは、予定を把握するということが苦手だということはわかりました」

 マシュがざっくりとまとめると、アイカはひらひらと手を振って、彼女より自分のマスターの心配をしてなさい、と伝えた。

 

 

 

 みなで一息ついたところで、オルガマリーが改めて藤丸を見て複雑そうな顔をしている。複雑そうな顔というか、葛藤している顔というべきかもしれない。

「…あの、なんですか所長?」

「こ、ここまでの働きは及第点です。カルデア所長として、あなたの功績を認めます。…ふん。なによその顔。どうせまぐれだろうけど、今は貴方たちしかいないのよ。その調子でうまくやれば褒めてあげてもいいってコト。三流でも一人前の仕事はできるんだって分かったし」

『なんと。藤丸君を一人前と認めてくれるなんて、何か甘いものでも食べました?』

「ロマン。無駄口を叩く余裕があるなら、二人に補給物資の一つでも送りなさい。本人が頑張ってるのに、装備不足で失敗するなんて可哀想じゃない」

『おや。可哀想、とはお優しい。これはもしや、所長にもようやく心の雪解けが?』

「バ…!あ、哀れでみじめって意味よ!そんなコトも分からないの!?」

 咳払いをした後、オルガマリーは真面目な顔を作り直してアイカを見る。

「それと、アイカ。あの時の暴言の真意を改めて問いたいのだけど」

「暴言?」

 本気でそんな事言ったっけ、という顔をしているアイカに、オルガマリーは苦虫をかみつぶした顔になる。

「あなたが、わたしの演説の途中で帰ってしまった時にわたしに言ったことよ!カルデアの理念が信用ならない、魔術師は利己的(エゴイスティック)だ、って言っていたじゃない。どうなの!」

「それ暴言になるんです?…いえ、真意と言われても、すごく眠かったので、家を出る前に口酸っぱく言われたことがぽろっと出てしまったというか」

 口真似なのか、少々芝居がかった口調でアイカは続ける。

「"よいか、アイカ。まっとうな魔術師というやつは絶対に信用してはならぬぞ。あやつらは例えば、世界が滅亡すると聞けばその前に根源に到達すると即答するのが標準の碌でなし…貴様のような世間知らずの小娘などいいように騙され利用され使い捨てられるのがオチじゃ。うむむ…いっそこの場で(わらわ)が殺して喰らってやるのが慈悲か、いやしかしあまり妾が干渉すると一つ目めが煩いからのぅ…むう、仕方がない。よいか、信用できないものばかりしかおらぬと判断すれば速攻で帰ってくるのじゃぞ。一つ目めが何を言おうと妾の元に匿っておけば文句を言えるものなぞおらぬし妾以外に危害を加えられるものもおらぬのだからな。何がなくとも最後には帰ってこねばならぬのだからな!"」

「…などと都合三度くらいは」

「さすがおおひめさま、人の話を聞かないヤンデレっぷりですね」

 口調で誰の台詞なのかわかったのか、今剣が感心しているのか呆れているのかわからない顔をしている。そしてまったく関係性がわからない。

 とはいえ、そんなことを口酸っぱく言われていれば魔術師に対してネガティブな偏見が生まれようとも不思議はないと言えるだろう。少なくとも良いイメージは持てまい。

『すごい偏見たっぷりの見解だけど、当てはまる魔術師が存在しないとは言えないからなあ…カルデアにいるかは別として』

「・・・」

 オルガマリーは難しい顔をして黙りこんでいる。空気を変えようとしたのか、マシュがアイカに問いかける。

「えっと…先輩に帰ってこいとおっしゃったということは、先輩のご家族の方、ですか?とても、先輩を大切に思っていらっしゃる」

「否、家族ではないよ。大切に、というか……いや、改めて考えるとどう思われてるんだろう僕。便利な玩具あたりかな?」

「えっ」

「しっかりきっかり僕の記憶に残るような方法で伝えられた感じからして、気に掛けられてはいるのだろうけど」

「そりゃあ、おおひめさまだってあるじさまが自分で判断できなきゃいけないことに関してはあるじさまが分かるように伝えますよ。ぼくたちが知っていればそれでよい、ということでないのなら」

「告げられたことを俺たちが改めて大将に伝えるってのも変な話だしなあ」

 いくらか情報が省かれているような会話に、マシュは疑問符を沢山浮かべて戸惑った顔をしている。

「ご家族じゃない…ん、ですか…?では、一体…」

 困惑するマシュに、アイカは少し困ったような顔をして言う。

「色々と面倒な事情があるので詳しい解説はしたくないのだけど、完全に誤解されることを承知でわかりやすく言うのなら、なんというかこう…年上でやんごとないお嬢様な幼馴染的な」

「幼馴染よばわりはどうかと思いますがそんな感じですよね。あるいは、パトロンみたいなものでは?」

「ああ、大将の作るもんに注文付けつつ献上品を楽しみにしてるあたりまさにパトロンだよな」

「パトロンってどんな意味だっけ…」

 どんな扱いを受けていたのやら遠い目をするアイカに、マシュはこれ以上掘りさげない方が良いんだな、とその件に関してはそっとしておくことにした。そして藤丸に視線をうつし、藤丸もまた何やら黄昏ているような顔をしているのをして目を丸くする。

「どうかされたのですか、マスター」

「え、いや…ちょっと、家族の事思い出してた」

「藤丸先輩の家族…どんな方なのでしょう」

「普通の日本人だよ。魔術とか知らないような一般人。父さんも母さんも普通の会社員だし」

 その普通というのは、カルデアにはないものである。かといって、藤丸もうまく説明出来る言葉を思い付かないようだった。

 

 

 

 

 

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