ある剪定事象の記録   作:ペンギン隊長

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そうして旅は始まりを告げる

 

 

 

 一行は大聖杯へと辿り着いた。巨大な魔術炉心の前に、ひとつの人影がある。それこそ、セイバー…ブリテンの王にして聖剣の担い手、アーサー王だった。

 彼らの存在に気付いたセイバーは観察するようにじっくりとこちらを見ている。

「ヤツを倒せばこの街の異変は消える。いいか、それはオレもヤツも(・・・・・・・・・)例外じゃない(・・・・・・)。その後はおまえさんたちの仕事だ。何が起こるかわからんが、できる範囲でしっかりやんな」

「――ほう。面白いサーヴァントがいるな」

「なぬっ?!テメエ喋れたのか!?今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

「ああ。何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが――面白い。その宝具は面白い。構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」

 セイバーは己の剣を構えて戦闘態勢を取った。

「来ます――マスター!」

「ああ、一緒に戦おう!」

「はい!マシュ・キリエライト、出撃します!」

 

 

 

「…このままでは押し負けるのはこちらの方か。ふむ…それは面白くない。それに、口にした言葉を(たが)えるのも業腹だ」

 セイバーは彼らから少し距離を取り、剣を構え直す。爆発的な魔力がその(ほうぐ)に収束する。

「卑王鉄槌。旭光は反転する。光を飲め!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!」

「宝具、展開します。ううううぅ――!!!」

 セイバーの宝具(つるぎ)の一撃を、マシュの宝具(たて)が防ぐ。

 

 

「――フ。知らず私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。聖杯を守り通す気でいたが、(おの)が執着に(かぶ)いたあげく敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私ひとりでは同じ末路を迎えるということか」

「あ?どういう意味だそりゃあ。テメエ、何を知ってやがる?」

「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。

グランドオーダー ――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」

 魔力を使いきった事により、セイバーは現界を保てなくなり、光の粒子となり消え去った。それと同時に、キャスターも今回の現界の終わりを示す光をまとう。

「オイ待て、それはどういう――おぉお!?やべえ、ここで強制帰還かよ!?チッ。納得いかねえがしょうがねえ!お嬢ちゃん、あとは任せたぜ!次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ!」

「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。…わたしたちの勝利、なのでしょうか?」

『ああ、よくやってくれたマシュ、藤丸、アイカ!所長もさぞ喜んでくれて…あれ、所長は?』

 オルガマリーはセイバーの残した言葉に難しい顔をしていたが、藤丸に声をかけられてはっとして、ミッションの終了を告げた。そして、特異点を引き起こした原因とみられる水晶体の回収を命じる。それを受けてマシュが回収しにいこうとした時、そこにそれまでになかった人影が現れた。

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適性者。まったく見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ。…いや、寧ろ自滅したものとして放置した49人目の方か?」

「レフ教授!?」

『レフ――!?レフ教授だって!?彼がそこにいるのか?!』

 それまでに彼らに見せていた人当たりの良い姿とは全く異なる言動と邪悪さにマシュは困惑と警戒を明らかにマスターたちを護ろうと立ち塞がる。しかし、そんなマシュの焦燥とは裏腹に、オルガマリーはやっと信頼する味方を見つけたとばかりにレフのもとへと駆けていってしまった。

 やっと見つけた救いに縋るようにレフに心中の不安を吐露するオルガマリーにレフはにこやかに対応していたが、その口からは酷い言葉が紡がれる。すなわち、彼女の足元に爆弾を設置したのは彼なのだと。

 戸惑う彼女に、彼は続ける。オルガマリーは既に肉体的には死亡している。此処に居るのは残留思念だけの存在であり、彼女はカルデアに戻る事は出来ない。何故なら、カルデアに戻れば意識のみ存在である彼女は消滅してしまうのだから。

 口先だけの哀れみの言葉を吐きながらレフは彼らの目の前に今のカルデアの姿を映し出す。真っ赤に染まったカルデアスは、悲劇的な現実そのものだった。

「まったく――最期まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」

「なっ…体が、宙に――何かに引っ張られて――」

「言っただろう、そこはいまカルデアに繋がっていると。このまま殺すのは簡単だが、それでは芸がない。最後に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物(・・・・)とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」

「ちょ――なに言ってるの、レフ?わたしの宝物、って…カルデアスの、こと?や、止めて。お願い。だってカルデアスよ?高密度の情報体よ?次元が異なる領域なのよ?」

「ああ。ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。まあ、どちらにせよ。人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

「いや――いや、いや、助けて、誰か助けて!わた、わたし、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない…!誰も、わたしを認めてくれていないじゃない…!」

 泣きながら助けを求めるオルガマリーを見て、レフは笑っていたが、そこで動くものがあった。

「――へし切長谷部」

「主命とあらば!」

 弾丸のように、何か(・・)が射出された。藤丸に認識できたのはそれくらいだった。マシュには、それが人の形をしているところまで見えた。アイカの人差し指がピンと伸びてオルガマリーを指差していた。

 紫色の影はレフが開けたカルデアスへの直通経路からオルガマリーを攫い、アイカの隣に戻ってくる。それは、紫色のカソックに身を包んだ青年の姿をしていた。横抱きに抱えられたオルガマリーは何が起こったのか分からないという顔をしている。

 青年はそっとアイカの隣にオルガマリーを降ろす。

「…なに?」

「オルガマリー、もう大丈夫ですよ。あなたの助けを求める声はちゃんと、僕に届きました。聞こえた声は無碍にはしません。僕にできることがあるのなら」

 そういって、赤みを帯びた橙色の鉱物で出来た花をオルガマリーに差し出した。その花は、マリーゴールドであるように見える。されるがままその花を受け取った後、オルガマリーはハッとした様子でアイカを見る。

「え、な、何で…?」

「あなたは助けて、死にたくない、と言ったじゃないですか。それを強いて無視する理由が僕にはありません」

 にこりと笑うアイカを、オルガマリーはまだ信頼できない。かといって、動く事も出来そうになかった。あまりのことに反応できていなかったレフが現実を認識し直し、憎々しげな視線を彼女たちに向ける。

「余計なことを…。…ここで何をしようと、その小娘はカルデアに帰れば消滅するのだぞ?」

「それはどうでしょう。魂が残っているというのなら、いくらでも方法はあるでしょうに。いや、大人は頭が固いですからねー」

 いっそ挑発のようにアイカは笑う。茨木がふん、と鼻を鳴らした。

「よくわからんが、アレは敵という事でいいのか?(われ)の宝具をぶちかましてやればよいのか?」

「うん、でも、敵ならある程度情報は吐かせないと。信頼できるものでも出来ないものでも、とりあえず情報は沢山集めておくにこしたことはないからね。判断材料は多い方が誤差を減らせる」

「小生意気なガキが…やはり私がこの手で殺すしかないようだな、貴様は」

「聖杯がなきゃ大層な魔術も使えない分際でそんな凄まれても、ねえ」

「先輩、それ以上の挑発は自殺行為だと警告します!!」

 はっ、とはっきり鼻で笑って、にこやかに見下すようなことを言ったアイカに、マシュは慌てて叫ぶが、既に手遅れである。レフも既に平常心を失う寸前の怒りに見舞われているようだった。

「我らが王の寵愛を失った塵屑風情が、よくもまあ、大層な口をきく。おまえたちは既に、滅びている存在だというのに。もはや、おまえたちにできることなど何もなく、焼失を待つだけだというのに。…貴様には、最後に祈りを捧げる時間さえも許さん!」

「最後に祈りを捧げる?何を言っているのさ。神への祈りは己が成すと決めた決意の奏上、最初に終わらせておくべきことだよ。或いは、全てが終わった後の報告さ。いずれにせよ、御前に参ってすることだし、隙間時間に済ませるようなことじゃない。信心が足りないんじゃないかい?」

「そういう意味では、ありません!!」

 マシュの涙目のつっこみにアイカはひらひらと手を振って答える。レフの手にした水晶体…聖杯が、輝きを放った。発射された巨大な火の玉を、茨木が叩き落とす。

「マスターに危害を加えようというのなら、まずは吾らを倒すのだな。…もっとも、他者(ひと)の力に頼ることしかできない小物に吾らが倒せるとは思えぬが」

「いやいや、僕は自分が死ぬより先に自分の部下を殺させたりはしないよ。君たちの命を預かっているんだ。僕も自分の命をかけなくっちゃね」

「俺たちが存在するかぎり、主に届く刃などありません。主が命をかける必要もないかと」

 青年が刀を抜いてレフに冷たい視線を向ける。茨木が僅かに嫌そうな顔をした。

使い魔(サーヴァント)風情が、舐めた口を…」

 聖杯に再び魔力が集まる。しかし、

「ぼくの動きが見えないのかなっ!」

障壁(よろい)なんざ、紙と同じだ!!」

 いつの間にか肉薄していた今剣と薬研の短刀がレフの体を斬り裂く。腕の腱が切れたのか、レフの手から聖杯が落下した。

「なっ…?!」

「戦場で油断は禁物だぜ、旦那。何処から刃が飛んでくるかわかったもんじゃないからな」

 その時、大聖杯のある地下空洞そのものが崩れ始めた。否、それ以前に空間自体が安定を欠いているようだった。

 レフは舌打ちをして聖杯を拾い直す。

「この特異点もそろそろ限界か。私はお(いとま)させてもらうとしよう。貴様らはこのまま時空の歪みに呑みこまれるがいい」

 そう言ってレフが姿を消した方向へ不満げな視線を向けつつ、今剣と薬研はアイカのもとへ戻ってくる。マシュが大慌てでロマンに至急のレイシフトを要請し、ロマンは既に実行している、と返している。しかし、空間の崩壊にはどうも間に合いそうもなかった。

「マシュ、藤丸君、所長、深呼吸。焦っても空回りするだけだよ」

「先輩、そんな悠長な…」

「だいじょうぶですよ、ちょっと狭間の空間に落ちるくらい、気をしっかりもっていれば平気です」

「丁度俺たちは三人いるから一人ずつ存在固定の補助もできるしな。まあ、任せとけ」

「狭間に落ちた場合の備えもせずに時空移動をしたのか?怠慢だな」

 式神三人がそう言ってそれぞれに意味合いの違う笑みを浮かべる。そして今剣と薬研は二人でマシュと藤丸をぎゅっと抱きしめ、青年はオルガマリーをひょいと抱え上げた。

「え?え?」

「なっ」

「茨木もできるだけ近くにいるようにね。はぐれると厄介だから」

「吾がそのようなへまをするわけがなかろう」

 空間が崩壊する。その衝撃で、ただの人間である藤丸が失神した。マシュも半分ぐらい意識が跳びかけているようだった。オルガマリーは意識が薄れると同時にその存在も薄れ始めるのを自覚する。

「あ…」

「その手の中のものに意識を集中しろ。シェルター程度にはなる」

 オルガマリーの手の中にあったのは、鉱石で出来た花。それを意識した瞬間、彼女の姿が掻き消えた。

「しょちょ、う…」

「…大丈夫。まだそこ(・・)にいるよ。その先はカルデアに戻ってからだね」

 マシュの意識が途切れようとするその時、カルデアからのレイシフトのアンカーが彼らに届いた。

 

 

 

 カルデアに戻ってきても、管制室の惨状はほとんど変わっていなかった。多少は瓦礫が片付けられていたが、それだけだ。

 そこに降り立った一行にロマンが駆けよってくる。

「キミたち、大丈夫かい!?」

 そして、藤丸とマシュは気を失っているだけだということを確認して、一旦息を吐いた後アイカに向き直った。

「アイカちゃんは…大丈夫そうだね。マリー所長は?」

「理論的には、僕の式神と同じです。長谷部さんの手に在る、その花を依り代に魂を留めました。魔力を充分量供給すれば、意識が戻った時に実体化できるはずです」

「また地味に難しい要求を…けれど、消滅してはいないということだね?」

「心が折れていないのならば」

 アイカの返答に難しい顔をしたロマンの背を薬研が叩く。

「とりあえず、嬢ちゃんたちをちゃんとしたベッドに寝かせてやろうぜ。話はそれからでもできるだろう?」

「そ、そうだね…二人を医務室に運ぼう。手を貸してくれるかい?」

「ああ、任せてくれ。長谷部の旦那もこっちにきてくれや」

「・・・」

 薬研にひらひらと手招きをされ、長谷部は眉間に僅かに皺を寄せる。

「長谷部さん、所長もベッドに寝かせておいた方がいいと思うんだけど」

「主命とあらば。しかし主、あなたもきちんと休息を取ってください」

「だいじょうぶですよ、ぼくがちゃんとあるじさまを休ませますから」

 

 

 

 

 マシュと藤丸が無事目を覚まし、管制室で緊急会議が開かれる事になった。いや、会議というよりは報告会に近いか。

 カルデア外部との連絡は取れない。おそらく、レフの言った通り滅びてしまっているのだろう。カルデアだけが通常の時間軸にないため、なんとか崩壊直前の歴史に踏みとどまっているのだ。

 この状況を打破するには、カルデアスを精査し直して発見された新たな時空の乱れ…七つの特異点を修復するしかない。七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが彼らに唯一残された人類を救う手段なのだ。

 そして、それができるのは、カルデアに残されたマスター適性者は藤丸とアイカの二人しかいない。オルガマリーが行動できない現状、仮の責任者であるロマンが二人に問う。人類を救う為に戦う覚悟はあるか。人類の未来を背負う力はあるのか、と。

 藤丸は、戸惑いながらも答えた。

「…自分に、出来る事なら」

 アイカは平然と返した。

「まあ、現状は好ましくないし、僕にできることがあるというのなら、それをするのも吝かではないね」

 そうして、カルデアの聖杯探索(グランドオーダー)は始まったのだった。

 

 

 








僕花言葉とか大好きなんですよね
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