ある剪定事象の記録   作:ペンギン隊長

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前話で藤丸たちが気絶してる最中の話


幕間
飼い犬の手綱はちゃんと握りましょう


 

 

 

「ところでマスター、(われ)は貢物のケーキを何時食べられるのだ?カルデア(ここ)には料理をするための(くりや)も材料も揃っておろう?」

「あー…そうだね、作らなきゃだね…」

 まだみぬスイーツに目を輝かせている茨木に微苦笑を浮かべ、アイカはレイシフト先では羽織りっぱなしだったために少し埃っぽくなっていたマントをばさばさとふるった。調理は清潔な服装で清潔な場所で行うのが好ましい。そしてそのまま羽織り直さずに腕にかけた。

「一度にたくさん食べるとさすがにお腹壊しそうだけど…まあ、杵さんたちじゃないんだから自分の体調管理くらいできるよね。とりあえず、まずはパウンドケーキからかな。二つ目以降は何が良いか、これを見て考えておいてくれる?焼き時間が一刻半くらいはあるから、それまでに決めてくれたら続けて作れると思うけど」

 アイカはそう言って鮮やかな写真の添えられたレシピブックを茨木に手渡す。茨木はそれを手に取ってまた目を輝かせた。

「おお、カタログというやつだな!むうう、どれも美味そうで目移りが止まらぬ…!(なれ)は鬼か、仏か?!幾つ選んで良いのだ?!」

「あるじさまをどれだけ酷使する気ですかこの小鬼…まあ、パウンドケーキ程度ならぼくもお手伝いできますけど」

 今剣はそう言って睥睨した後、食堂に向かって歩き出したアイカに置いていかれないように茨木の袖を引く。そういえば施設配置わかっているのだろうかこの主従。

「ところで、何だか大変な事になっているようですが、これからどうするんです?あるじさま」

「どうしようねえ。太郎さんじゃないけど、僕も地上がどうなろうとあんまり興味がないんだよねぇ。まあ、助けを求められるなら、助力はするかな。人は死ぬべき時に死ぬべきだけど、生きたいと願いあがく人たちを否定しないよ、僕は」

「その台詞をぼくに吐くあたりがあるじさまの性格悪いところなんですよねえ」

「だって今君は僕の刀だろう?」

 あははと笑うアイカに今剣はそうですけど、と口を尖らせた。

「ただ、どちらかの目的が歴史改変であった場合は――」

 言いかけ、何かを感じ取ったようにアイカは立ち止まる。そこは丁度、召喚実験施設の前だった。二人が立ち止まったことに気付き、茨木が顔をあげる。

「む?どうかしたのか?此処は厨ではあるまい」

「んー…なんか…」

 ひょい、とアイカはその部屋の中を覗く。中に人の姿はない。現在カルデアのスタッフは管制室まわりと医務室のあたりでの作業をしているのだろう。そもそも、召喚実験を行うのはマスター適性者の役目である。

 だが、何に反応したのか、召喚システムが起動し、その場に青い光が広がる。魔法陣の前に形成されるのは銀色のカード。そこに戦車に乗った兵士の姿が描かれていることを今剣は見とがめ、僅かに眉をしかめた。

「――牛若丸、(まか)り越しました。

 主殿!あなたの忠犬、頼れるライダー、ブレーキの壊れたダンプカー、主殿の牛若丸ですよ!!」

「ぐへっ」

 喩えて言うなら、ゴールデンレトリバーのような大型の人懐っこい犬が飼い主に跳び付くような、そんな突進が召喚完了と同時に行われるなど、誰が予期できただろう。突然の事に反応できなかったアイカが女の子として出しちゃいけないようなうめき声をあげることになるのも仕方のない話だった。

「牛若丸、だと…?何故貴様がこのタイミングで現れるのだ。そもそもマスターは召喚を試みていなかっただろう!」

「この牛若丸、主殿の喚ぶ声をしかと耳にしていました故!先程は遺憾ながら遅れを取りましたが、主殿への(みち)が繋がりそうだったので、こう、ぐいっと!」

「ぐいっと」

 力強くこぶしを握る仕草をする牛若丸の言葉をアイカはおうむ返しに繰り返した。そして、自分に抱きついている牛若丸の姿をざっと確認して今剣に問う。

「…牛若丸?」

「…残念ながら、よしつねこう…の、幼少期、うしわかまるさまですね。この時空の、という注釈は力強く強調しておきたいところですが」

「む?その小天狗、私のことを知っているのですか?」

「僕は、史実においては存在しませんが、物語においてよしつねこうの幼きころからさいごの刻までをみとったことになっている刀ですからね。…まったく、この時空のよしつねこうは、まったく…」

 はっきりと言語化されない心情に物凄く複雑な彼の葛藤を感じる。喩えるのならば、物凄く尊敬していた歴史上の偉人が実際に会ってみたら非常に残念な人間だった感じというか。

「私の刀…薄緑ですか?」

「三条宗近が刀、今剣です。まあ、薄緑もあるじさまの式神として居ますが」

「そうですか、小鍛冶の…後の世ではそのような名刀も手に入れていることになっているのですね、私は」

「手に入れたというか、鞍馬の寺に奉納されていたのを勝手に持ち出したというか…」

 今剣はとても嫌そうな顔をしている。どう見ても元主に対して向ける顔ではない。嫌っているというほどの嫌悪感は持っていなさそうだが。

 そんな今剣と、露骨に嫌そうな顔をしている茨木と、尾を振る犬に見えるほどの上機嫌の牛若丸を見比べ、アイカは事態の収拾を放棄した。

「さてと。それじゃあ僕は予定通り厨にいこうかな…」

「厨の用事ですか?厨事はそう得意というわけではありませんが、命じていただければこの牛若丸、何でもこなしましょう。主殿、どうぞご命令を!」

「長谷部さんの亜種かな???いや、手伝ってくれなくていい。なんか今大惨事を予感したから厨での手伝いは試みなくていい。ダンプカーは戦場を更地にしていてくれ」

「戦働きは得意中の得意です!私は何を狩ってくれば良いのですか?デーモン?スフィンクス?ゲイザー?魔神柱?必要なものがあれば、御随意にどうぞ!」

「ちょっとなにをいわれているのかよくわからない」

 碌でもないことを言われていることだけは察するものの、本人の自己申告に(たが)わない暴走ダンプカーっぷりである。こいつ本当にライダーなのだろうか。実はバーサーカーだったりしないのだろうか。

「おや、フォウ殿、このようなところで何を?主殿がマシュ殿と共にいないのであれば、てっきりフォウ殿がマシュ殿についているものかと」

「フォウ、フォウフォウ…」

「自分のことは放っておけと言っているようですが、この小動物に何かしたんですかうしわかまるさま」

「フォウ君ちょっとこの源氏主従のこと見ててやってくれない?」

 小動物に何を頼みやがってるんですかねこのマスターは。

 

 

 

 

「ところで、アイカちゃんいつのまに新しいサーヴァントを召喚したんだい」

「押しかけサーヴァントです。僕は無罪だと主張します」

 

 

 

 

 

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