特異点にレイシフトすれば、修復が済むまでカルデアに帰還することはできない。
ということで、レイシフトの前に出来る準備はしておくことになった。具体的に言うなら、マスター二人の場合、更なるサーヴァントの召喚である。特異点Fでの戦闘でよくわかったが、維持できるという前提ではあるが、戦力はあるに越した事はない。
マスターと共に直接レイシフトできるサーヴァントの数は都合上限りがあるが、セイントグラフがあればカルデアから戦場への簡易召喚は可能となる。カルデアに待機してもらって、必要な時に喚び出すということもできるのだ。
そもそも、サーヴァントにはクラスごとの相性というものもある。バーサーカーである茨木とシールダーであるマシュはある意味でそういうものの範囲外ではあるが…可能であれば、戦場、戦況によって有利な英霊を選んで運用できる方が良いに決まっている。
本来であれば、マスターとサーヴァントをセットにして入れ替えていたのだろうが、現在のカルデアにはマスターが二人しかいない。であれば、二人が複数のサーヴァントと契約を結ぶ事になるのも自然な流れだった。
そして、召喚実験場にて、複数のサーヴァントの召喚が行われた。
「うふふ、アイドルの凱旋よ、マネージャー!ヨロシクね、子ジカ!」
曲がりくねった角と、爬虫類の尾を持った少女が満面の笑みで手を振る。
「アサシン、ジャック・ザ・リッパー。よろしく、おかあさん」
水着かと疑うような格好で大振りなナイフを二振り手にした幼い少女がはにかみ笑いを浮かべる。
「ライダー、アストルフォ!今回もまたよろしくね、マスター!」
桃色の髪をみつあみにした少女がにっかりと歯を見せて笑ってマスターの手を取ってぶんぶん振り回す。
「相変わらずの間抜け面ね。ふふ、でもそれもそうよね。…私は女神イシュタル。美の女神にして金星を司るもの。せいぜい敬い、畏れながら貢ぎなさい」
黒いツインテールの少女が自らの宝具に腰かけ宙に浮いた態勢で鷹揚に笑う。
「どうしよう、問題児ばっかり揃ってしまった」
「いや、みんながみんな、問題児ってわけじゃないと思うよ…多分」
一通りの召喚が終わってからその結果を総括してのマスター二人の感想である。ひどい。
「いや、間違いなく問題児ですからね。主にあのお嬢様二人」
「まあ、マスターの腕の見せ所ってやつだな。気張れよ、お二人さん」
「三人に増えた人に言われても…」
「こっちからしてみればそっちこそ二人に増えて…あー…いや。失言だった、忘れてくれ」
所謂金枠の性能が尖っているが優秀なサーヴァントたちはアイカと藤丸の片方としか契約できなかったが、それ以外のサーヴァントたちは概ね無事二人ともと契約を結ぶ事が出来た。
二人ともと契約を結んだのはアーチャー・ロビンフッド、キャスター・バベッジ、バーサーカー・アステリオス、アサシン・呪腕のハサン、ライダー・メドゥーサの五騎と、別側面合わせて三騎現界したクー・フーリンの八騎。アイカとのみ契約を結んだのはランサーのエリザベートとアサシンのジャック。藤丸とのみ契約を結んだのはライダーのアストルフォとアーチャーのイシュタルである。
キャスターとしてロボットのような鉄の塊が現界したあたりでマスターたちも薄々感じていたが、ひかえめに言ってまとまりがない。この一団が一つの組織に所属している集団なのだと、初見で思う人間はそうそういないだろう。
「だけど、基本クラスの内でセイバーだけは喚べなかったな」
「まあ、弱点を突かれないクラスで戦うしかないんじゃないかな。まだ相性とかよくわかってないけど」
なにしろこの二人はマスターとして最低限の教育さえ受けないままに戦場に立つ事になってしまった。勉強させたいのはカルデア側としてもやまやまなのだが、現状はその時間も不足しているのである。そもそも、割ける人員が不足し過ぎている。いっそ、サーヴァントの方に教育を任せたいくらいの勢いである。
「…ところで、先輩達は何故戦場でサーヴァントとぶつかる前提で話をしているのでしょうか」
マシュの疑問に二人は顔を見合わせ、そして二人とも首を傾げてみせた。
「いや、聖杯にサーヴァントはつきものなのかなって」
「そういえばそうだね。なんかそういうものだと思ってたけど、今のところそういう情報はないよね」
「あら、特異点には、サーヴァントが喚び出されているものよ?七騎の縛りもないから、偏ってる場合もあるけど」
などとエリザベートからフォローが入る。フォローというか、爆弾発言かもしれない。
「えっ、エリザベートさん、何故そのようなことをご存じなのですか!?」
「だって、アタシ、特異点に召喚された覚えがあるもの。…具体的に何処に誰が居て何があったのかは、ちょっとあやふやだけど…」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。でも、多分アタシ以外もあるんじゃない?記憶。記録かもしれないけど」
エリザベートに話を振られ、マシュに視線を向けられ、数人肩をすくめる。
「まあ、そこのドラ娘をはじめとしたポンコツ娘のおもりをしたり、アーチャーでまとめて酷い目にあったりした記憶がないわけではないですがね…」
「…私は、特には」
「そうですな。私も特には…しいていえば、暗殺者らしからぬ賑やかな働きをしたことがあったような」
「ぼくは…ぼくの、めいきゅうにだれかがきて、たのしかったって、おぼえが、ある…」
「私には話せることはない」
「そうだなー、俺も特にはないかな…ま、しいていえば、無人島に漂流してマスターが肉食系女子に獲物を狙う目で見られていたことがあったような、なかったような、ってくらいか」
「こっちはなんかサーヴァント同士で武闘大会みたいなことをしたことがあったような、ぐらいか?」
「ノーコメント」
「わたしたちは、おかあさんがやさしく頭を撫でてくれたってこととか、ぎゅっとしてくれたこととか、あと、クリスマスにサンタさんといっしょにプレゼントをくれたってことぐらいかな…」
「私?今話したって無意味でしょ。アタシが呼ばれた特異点って、カルデアにとって七番目だったし」
「僕は今度こそフランスの危機に間に合う様に来ようと思って!」
全員が正直に話しているかは不明だが、既に知己であるかのような態度だったりするのはそのあたりが原因であるらしい。あるいは、それは本来であればサーヴァントとマスターを逆にして起こり得ることだったのかもしれないが。
「では、牛若丸さんと茨木さんは?」
「私ですか?私はとくに記憶にありません。ええ、私は特異点には喚ばれていないのでしょう。しいて言えば、主殿と共に鬼ヶ島へ鬼退治に向かったことがあったような…」
「む?
「そこは忘れててくれていいですけどね…」
そんなことより、とエリザベートがアイカの前に歩み寄る。
「セイバーなら、心配はいらないわ。子ジカが望むんなら、アタシがセイバーになってあげるから!召喚の時にそう指示してくれればちょちょいのちょい、よ!」
「…召喚後にクラスを変えたりできるものなの?」
「いや、普通はできないからな。普通は」
「ついでに言えば、キャスターの適性もあるのよ、アタシ。まあアイドルなんだから、当然よね」
エリザベートの要領を得ない話をアイカが何とか噛み砕いて理解した所によると、彼女は基本的にはランサークラスだが、充分な魔力があればキャスターやセイバーとしても着替える程度の気軽さで現界できるらしい。とはいえ、カルデアの簡易召喚システムを経由してでの話だが。
「…そういやあ、ハロウィンのアレは別側面ってほどでもないんだったか」
ロビンが何やら疲労を含んだ訳知り顔をしている。思い当たるものがあったらしい。
「まあ、必要になったら頼むことにするよ」
「アタシのこと、頼りにしてくれていいんだからね、子ジカ!」
むふん、と笑って胸を張るエリザベートにアイカは静かな笑みを返した。
余談。
「女神の召喚?ははは、カルデアのシステムでは神霊は喚べないよ。何を言っているんだい藤丸君」
「まあ、私もくくりで言えば一応擬似サーヴァントになるのだけれど…女神は女神よ、失礼ねこの軟弱男」
「と本人はおっしゃっているんですが」
「えー、いや、だって………あ、あれ?確かに通常の英霊じゃ考えられないほどの神性が観測されてる!?」
「なにを大騒ぎしてるんだい、ロマンの旦那?」
「数値が更に上がった!?」
「あ、薬研君」
「うん?」
「ちょっと、反則ギリギリって意味じゃ私よりそっちの方が反則じゃない。…いえ。そもそもこいつが神性持ちってこと自体が無茶苦茶よね…あの泥人形に神性を与えるぐらいの暴挙よ」
「まあ、俺たちも時の政府の画策とはいえ、ちゃんと百年以上信仰集めてっから掟破りはしてないぜ。大体、最初から言ってるじゃねえか。俺っちたちは大将の式
「む…さすが何でもかんでも神に祀り上げる国…侮れないわ」
「え、なに、どういうこと?」
「俺っちたちも八百万の神の一柱だぜ、ってことだな。ま、神は神でも末席を汚している身だが」
「…神様?」
「そもそも
「神様って現代でも人前に出てくるものなの?」
「普通に、まっとうな方法じゃ顕現出来ないってのが定説だけど?」
「まあ、権能を持っているようなガチの大神とかになると用が終わったら速攻でお帰りいただかないと依り代になったやつがもたないだろうな。そのへんは俺たちの認識でもそうなってる。ただ…まあ、何事も例外って奴はつきものだからなあ」
「ってことは、ありえないことじゃないんだ」
「ははは。目の前にいるのに何言ってんだ藤丸の旦那」