三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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SE修【天眼】しゅらばナウ⑥ Over TOP-Ⅲ

 修は常に自分が強くなる方法を模索していた。目的を果たす為には強くならなけらばならない。強くならなければA級に昇格出来ない。昇格出来ないと言う事は遠征組に選ばれる可能性は絶望的。目標を達成するためにはどうしても自身の実力を上げなければならない。

 天眼が戦いに有効と知ってから、自身が想像以上に戦える事を知ったが、それでも足りない。強化視覚の天眼があるからと言って修自身が無敵な存在になった訳ではない。周囲の人達と比べると欠点だって数え切れないほどある事は自覚している。

 真先に思い浮かべる問題は自身に内包しているトリオン量の少なさ。どれほど実力を上げようとこの問題だけは終始付きまとう。修にとっては永遠の課題と言えよう。

 そして次にあげられる問題は火力の無さ。射手(シューター)にも関わらず火力がないのは致命的ともいえる。先達の射手(シューター)達と戦った身として痛感させられた。自身では総攻撃(フルアタック)をした所で、致命的なダメージを与えられる可能性が少ないと。天眼を併用して騙し討ちをすれば通用する事は知っている。それは今までの戦いが証明している。しかし、しかしだ。騙し討ちを封じられ、正々堂々と真正面から戦ったら圧倒的不利な戦いを強いられてしまう。

 だから必要なのだ。修だけの、修だからこそ可能な総攻撃(フルアタック)が。

 

 

 

 ***

 

 

 

 四方八方から飛び出す弾丸。

 それに加えて上空から狙い澄ませてくる修の変化拘束弾(バルーニング)。完全に囲まれてしまった事に木虎は「やはり罠だったか」と遊真に釣られた自分自身の安易な行動を恥じたが、悠長に考えている時間はなかった。

 地を這う修の置き弾が木虎を狙って放たれているのだ。受け止める事は簡単。しかし、動きを止めたら上から狙っている修の変化拘束弾(バルーニング)に捉えられてしまう。

 

 

「(彼の通常弾(アステロイド)なら、多少ダメージを受けても軽微なはず。なら、いま警戒しなくてはならないのは上!)」

 

 

 多少のダメージよりも身動きを封じられる事を嫌った木虎は銃口を近くの建物に向け、スパイダーを射出させる。そのまま巻き取って自身を矢じりが突き刺さった建物の壁まで移動する。

 しかし、ここで信じられない事が起こった。

 

 

「(なんですって!?)」

 

 

 声に出さなかったが、木虎が驚くのも無理はない。曲がったのだ。修の置き弾が移動した先の壁に向かって。

 直ぐに木虎はスパイダーを再度使用して移動する。しかし、移動した先にも置き弾と変化拘束弾(バルニーング)が襲ってくるのだった。

 更にスパイダーを使用して地面へ着地。そこにも修のトリオンキューブが待っていましたと言わんばかりに飛来してくる。

 

 

「(どう言うこと!? 置き弾が曲がるなんて。そんな設定ができるはずがない。それにあまりにもタイミングが良すぎる)」

 

 

 タイミングよく弾丸が射出される。その自問に木虎は一つの推測を立てた。

 

 

「(まさか、既に発動させているの!?)」

 

 

 

 ──副作用(サイドエフェクト)完全機能(パーフェクト・ファンクション)

 

 

 

 二秒先の未来を視る事ができる迅のサイドエフェクトの下位互換版。下位互換と言えども、たった二秒先と言えども、それは脅威と言える。自分が回避した先に弾丸を先回りして放つ事は可能だ。

 けど、それだと説明できない事があった。置き弾だ。リアルタイムで弾丸の軌道を設定できる変化弾(バイパー)の性質を持つ変化拘束弾(バルーニング)ならば可能だろう。しかし、置き弾はそうはいかない。既に設定された弾丸を再設定する事は機能的に不可能だ。ならば、変化弾(バイパー)を置き弾として活用したのか、と更なる推論を立てるが、それこそありえないと一蹴する。

 変化弾(バイパー)の弾丸の軌道を設定する機能を活用すればそれも可能かも知れないが、だとしたらタイミングが全て同じはず。タイミングを計る様に大きく弧を描くような軌道で宙を舞う弾丸は一発も確認できていない。

 

 

「(いったい、どんな魔法を使ったの。三雲君っ!?)」

 

 

 修は未だに動きを見せない。ただ、自身が弾丸と戯れている姿をただ黙って見降ろしているだけ。その姿に木虎は怒りを覚えるのであった。

 

 

「(高みの見物とでも言いたい訳!? 上等よ。こんな弾丸など──)」

 

 

 否。弾丸だけではなかった。自身が立つ場所に影が差す。その正体を確認する為に上空を見上げると、変化拘束弾(バルーニング)によって地面へ引っ張られている電柱であった。

 

 

「っ!?」

 

 

 まさかのトリオン体への非トリオン攻撃。トリオンによる攻撃以外でトリオン体に傷がつく訳ではないが、木虎は咄嗟に身を翻して躱す。例え、トリオン体に傷がつかないと分かっていても危機的状況に自然と身を護る行動を取ってしまうのが生物としての当然の反応。

 その先へ向かって一発の置き弾が射出される。それを見て確信した。三雲修が使っている弾丸の絡繰りを。

 

 

「(時限式!? そんな事ができる弾は通常弾(アステロイド)だけ。しかし、この弾も──)」

 

 

 当然曲がる。子供が描く雷の様に折れ曲がる弾丸を木虎は足ブレードで斬り捨てる。

 

 

「……そう言うこと。通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)の合成弾。それを置き弾として使った訳ね!」

 

「ご名答。……いまので決めるはずだったんだけど、さすが木虎だな。総攻撃(フルアタック)を凌ぎ切るなんて」

 

「あなたの総攻撃(フルアタック)なんて、出水先輩達に比べたら全然怖くないわよ」

 

「……そうだね。木虎の言うとおりだ。出水先輩達のと比べたら僕の総攻撃(フルアタック)なんて児戯に等しいかもね」

 

 

 木虎の言うとおり、自分の総攻撃(フルアタック)が敵の脅威にならない事は知っている。迅に試した時も驚かれただけで、結局のところは全て凌がれてしまったのだ。決定打を与える切札を修は持たない。だからこそ、全てのカードをどのような場面でも利用できるように汎用性を高めなければいけない。

 

 

「さぁ、三雲君。小細工はここまでよ。使っていないなら今すぐ使う事をお勧めするわ。完全機能(パーフェクト・ファンクション)を──」

 

 

 修へ切札を切っていないならば、使う様に忠告する。

 巻き込まれた立場にある自分であるが、このような千載一遇な機会を逃す手はない。修の全力を自身の全力を持って叩き潰し、どっちが強いか今こそ証明してみせると息巻くが──修が唐突に片膝を突く姿を見て既に天眼酔いが始まっている事を理解してしまう。

 

 

「──と言いたい所だけど、勝負あったわね。今の貴方を倒した所で意味はないわ。大人しく緊急脱出(ベイルアウト)しなさい」

 

 

「余裕だね。こっちはまだ、手札を全て使い切っていない!」

 

 

 

 ──グラスホッパー

 

 

 

 残り少ないトリオン量でグラスホッパーを足元に生成。何をするかと警戒した木虎に対し、人間の頭ほどしかない壁の破片を投石したのだった。

 それを見て木虎の沸点が下がる。そんな攻撃でどうこうできると思われている事に腹が立って仕方がなかった。

 

 

「いいわ! だったら、これであなたの首を刎ねてあげるわ!」

 

 

 投石された壁の破片を修の首に見立てて足ブレードを蹴り放つ。一刀両断された直後、破片の奥から散開するワイヤーが木虎の体に絡み付く。

 

 

「言ったはずだ。まだ手札は使い切っていないと」

 

「だから何よ。こんなスパイダーなんてスコーピオンで」

 

 

 

 ──時限式変化弾(バジリスク)

 

 

 

 再び木虎の周辺から無数の弾丸が飛翔する。

 

 

「なっ!? 置き弾はさっきので最期じゃなかったの!?」

「弾丸を可能な限り細分化させていた。この時限式変化弾(バジリスク)は万が一避けられた場合の保険だよ。その分、攻撃力は下がるが今の木虎ならこれで充分倒せるはずだ」

 

 

 修の言うとおり、今の状態でこれほどの攻撃を受ければトリオン体を維持し続ける事は難しい。急いで体に絡み付くスパイダーのワイヤーを切断しようと躍起になるが、それよりも早く修の刺客が木虎へ流れ込んで行った。

 これで勝負は修の勝利と行く末を見守っていた観客達は思った事であろう。しかし、木虎はスパイダーのワイヤーを斬る事を諦め、咄嗟に別のトリガーを発動させていた。

 

 

 

 ──両防御(フルガード)

 

 

 

 木虎が張った障壁により弾かれる修の時限式変化弾(バジリスク)。手数は多くても修の時限式変化弾(バジリスク)が木虎のシールドを突き破る事はなかった。それは当たり前。修が放った時限式変化弾(バジリスク)は弾速と飛距離にステータスを割り振っており、威力は通常の五分の一にも満たない。スパイダーで身動きを封じてからの総攻撃(フルアタック)の弱点が周囲に露呈した瞬間であった。

 時限式変化弾(バジリスク)が全てなくなったのを見計らい、両防御(フルガード)を解除する木虎はドヤ顔で吐き捨てる。

 

 

「言ったはずよ。小細工はここまでって」

 

 

 両腕にスコーピオンを生やし、拘束しているワイヤーを切除。自身の体が自由になったのを確認し、失った足にスコーピオンを生やし、決着をつけるべく歩み出す。

 けれど、そこまでだった。木虎の歩みは第一歩で止まってしまう。軽い衝撃を感じ、歩みを止めた木虎はその原因が生じた心臓部へ視線を移す。

 

 

「……な」

 

 

 漏れ出すトリオン粒子。いつの間にか木虎のトリオン体に小さな風穴があいており、その風穴を始点として亀裂が生じていく。

 

 

「僕も言ったはずだ。まだ使い切っていないって」

 

 

 

 ──緊急脱出(ベイルアウト)

 

 

 

 小さな風穴から亀裂が生じた木虎のトリオン体はその姿を維持する事ができなくなり、緊急脱出(ベイルアウト)が強制的に発動されてしまう。

 その直後、修のトリオン体も徐々に色あせていき、木虎と同じように緊急脱出(ベイルアウト)が発動されてしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「こ、こ、これは……。まさかの引分け!? 再び行われた木虎隊員と三雲隊員の勝負は引分け! しかし、三雲隊員は一度も被弾したようには見えませんが、これは一体」

 

「恐らくトリオン切れでしょう。慣れない合成弾を何度も使っていますし、支援の為に多くのトリオンを消費したと思います」

 

「三雲隊員はトリオン量が低いのは知っておりますが、そこまで消費量が激しいものなんですか?」

 

「それは分かりませんが、最後の変化する置き弾の弾数から見ても、彼が許容できる弾丸数を大きくオーバーしていると思います」

 

「最後のあれですね? 置き弾式の変化弾(バイパー)。一見、誰もが思いつきそうなものですが、使っている人は見ませんね」

 

「当然ですよ。変化弾(バイパー)は設定した軌跡を描く弾丸。その場に留める続ける事は出来なくないけど、その後の軌道はリアルタイムで設定し直さないといけません」

 

「え? しかし、三雲隊員のあれは……変化弾(バイパー)じゃないんですか?」

 

変化弾(バイパー)の性質を持つ弾丸であることは間違いありません。けど、射出するタイミングと弾速と飛距離。その三点を見る限り通常弾(アステロイド)の性質も持っている様に見えますね」

 

「つまり変化弾(バイパー)通常弾(アステロイド)の合成弾? そんなの成り立つんですか?」

 

「成り立つから、木虎隊員は最後の最後に置き弾を背後から浴びてしまったようね」

 

 

 次から次へと情報が頭に流れ込んできて、桜子の頭から小さな湯気が立ち上っていく。彼女からしてみれば変化拘束弾(バルーニング)だけでも充分驚愕する出来事にも関わらず、風間の炸裂弾(メテオラ)の使用。初めて見る遊真の戦闘能力。それに加えて変化する置き弾と来たものだ。

 もはや桜子の頭はオーバーヒート気味。「もうやめて。桜子のライフはもうゼロよ」と強く言いたい所であるが、実況者としての誇りが許さない。

 

 

「さて……」

 

 

 立ち上がる那須。彼女に「どうしました?」と聞くと。

 

 

「私も射手(シューター)だもの。彼のあの弾丸に興味がないと言えば嘘になるわ。ちょっと仔細を訊いて来るわ」

 

 

 そう言うなり、那須は覚束ない足取りで遊真たちの元へ歩み寄る修へ向かう。

 その後、更なる修羅場が待ち受けているのだが、修が天眼酔いによって倒れた事によってあっけなく終幕を告げる。

 その後、燻った修羅場の火の粉が迅の元へ飛び火するとは彼のSE(サイドエフェクト)でも予想する事はできなかったであろう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 後日。

 

 

「はぁ!? アイツに時間を与えたからこそ、あんな変態的な弾丸トラップに掛かったんでしょ! 陰険メガネに勝つなら速攻あるのみよ」

 

「香取先輩。それで空閑君にやられたのを忘れたんですか? そんなんではランキング戦でも三雲君達にいい様にやられてしまいますよ」

 

「なんですって!!」

 

 

 バチバチ。ぶつかり合う火の粉。その火の粉を放つ二人こと木虎と香取はいがみ合いながらも、自分達の模擬戦の過去ログを見ながら「あーでもない」「こーでもない」と白熱しあう。

 

 

「もうやだ。なんで俺、また対三雲会議に巻き込まれてるの」

 

「そりゃあ、迅が事の発端なんだろ、あの三雲の弾丸は。ったく、防衛任務がなけりゃ俺も参戦したのによ」

 

「太刀川。俺が言うのもなんだが、お前は自重しろ」

 

「なんだよー。風間さんだって三雲とやりあったんだろ! 俺だって天眼三雲とやりあいたいんだよ」

 

「それについては充分反省している。……それで迅。まだ三雲に何かしら吹き込んでいるなら、今すぐ言え」

 

 

 いつの間にか太刀川隊の隊室に集まっていた一同の視線が迅へ集まる。

 

 

「吹き込んでいるとは人聞きの悪い。俺だってあの弾丸を喰らって落ち込んだ一人ですよ」

 

 

 肩を竦めて「心外だ」と反論するものの、皆の目線が彼の言葉を信用していない事を物語っていた。

 

 

「……まあまあ、せっかく迅もいるんだ。ここいらで対三雲についておさらいしておこう。今回から参加している木虎と香取も遠慮なく意見を言ってくれ」

 

 

 場を纏めだした東の言葉に「了解」と全員は答える。

 

 

「とほほ。……もう関わらないと思っていたのに、恨むよメガネくん」




以上をもちまして、修羅場ナウは(強制的)終了です。
いや、ホント長かったな。おそらく、書いた当初と今回で持っていく方針は全然違っていたんだろうなぁ。


……さて、もうやれることはやった。次こそはアフトクラトル戦だ。
これについてはどうするか迷っているところです。

アフトクラトル戦を丸々書くか、戦闘の場面のみ書き綴るか。
うーむ。

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