「さ、さぁ。注目の変則ランク戦、三雲VS緑川&木虎戦もいよいよ最後となりました。これまでの戦績は……。三雲1の緑川&木虎2に引き分け1との事です。って、なんですかこの戦績。A級二人にここまで肉迫出来るなんて、何者なんだ!」
友人から知らされた戦いの情報を確認して度胆を抜かれる。途中から見物し始めた隊員達もそれらを聞いて武富桜子同様に驚愕したのであった。
「私も正直驚きました。吃驚仰天とはまさにこのこと。相手はA級草壁隊の緑川くんとA級嵐山隊の木虎隊員。どちらもエース級の実力の持ち主に玉狛所属のB級三雲隊員は堂々とした立ち回りで二人を相手取っている。これじゃあ、どちらがA級か分からないぞ!?」
「相手の動きを見てから、実行に移すまでの判断力が早いから出来る芸当だろう。俺の時もあの判断の速さにやられたしな」
「そう言えば、三雲隊員は風間先輩と戦って勝ったと噂になっておりましたが、真偽の方はいかに?」
「事実だ。最後の最後で油断してもっていかれた。俺もまだまだ精進が足りなかったと言う事だろう」
風間が認めた事で喧騒の波が拡大されていく。それだけ今回の噂は注目の的だったのだろう。B級成り立ての隊員がA級のベテラン精鋭隊員に勝利する。普通に考えれば眉唾だろうと勘ぐる所であるが、本人から事実だと告げられてしまった。
それを聞いたB級隊員は修を仲間にしようと情報を集め始めるのであった。A級になるには小隊を組んでランク戦に挑み、昇級しなければならないからだ。その為に実力者を仲間に入れたいと考えるのは当然の事だろう。
「驚愕な事実に驚いている間に三雲VS緑川&木虎戦、最終戦が始まりました。三雲隊員が遅れている間に緑川・木虎隊員の両名は確りと作戦を練っていた模様です。この二人、本気だ。本気でB級の三雲隊員を潰しにかかってる」
「既にあいつらは三雲に1勝されているからな。数的有利な条件にも関わらずだ。アドリブで連携を取るのは危険と考えたのだろう」
「三雲隊員は異常に反射神経が良い様に感じられましたが、その秘訣は何だと思いますか?」
「それについては俺も想像の域を超えないから説明できないな。ただ――」
本当はサイドエフェクトの恩恵だ、と言えればいいのだが、この場で修の手札を明かすのはフェアではない。
風間はお茶を濁すことで質問をごまかすことにしたのだった。
「――ただ?」
「動きに迷いがないから、動作の一つ一つがキレているのだろう。最大の要因は三雲の状況判断の良さだと俺は考える」
「なるほど。っと、そうこう言っている間に、三雲隊員がレイガストで緑川くんを強襲! 先に放ったバイパーの中に緑川くんを狙う様に弾道が描かれていた模様。それに気づいた木虎隊員の指示のもとに緑川くんが避けるがそれすらも計算の内と言ったところでしょうか。これがB級成り立ての隊員の動きか!?」
「変化弾はリアルタイムで弾道を描く事が可能なトリガーだ。これを扱うにはセンスが必要。空間把握能力に長けた人間でないと発動に手間取るからな」
「では、三雲隊員はその空間把握能力に長けていると?」
「あれは例外と言ってもいいだろう。どっちかと言うと、全部見てから決めている節がある」
「……は? それはどう言う意味ですか」
「それよりも、木虎がスパイダーで動きを封じに掛かったぞ」
「っと、第4戦の決め手となった木虎隊員のスパイダーが三雲隊員に襲い掛かる。せっかく強襲した三雲隊員の一撃は木虎隊員によって防がれてしまった! その隙を狙って両者が動く。三雲隊員を挟み撃ちするつもりだ。そこまで本気で殺しにかかるか、A級隊員!!」
「当たり前だ。相手が何であれ、舐めて掛かるのは論外だ」
「し、失礼しました。おっと!? 三雲隊員、レイガストを放り投げ……え、えぇ!! 弾丸トリガーで二人のスコーピオンを破壊した? 武器破壊? 武器破壊をやってのけたぞ。武器破壊なんて私は漫画以外に見た事がありません」
「武器破壊をしている奴はいたが、そいつは狙撃でやっていたな。弧月やレイガストならともかく、スコーピオンなら三雲でも破壊する事は可能だろう。ま、それには大玉を放つしかなかったようだが」
仮に分割してスコーピオンを破壊できるパワーがあれば今の不意打ちで二人を強制退散させる事も出来たであろう。けど、修は自分のトリオンが最弱であることを知っている。保険に保険をかけて、大玉一発の弾丸を撃ち放ったとみて間違いないだろう。
「これで三者仕切り直しに……ならなかった!? 三雲隊員、ここでまさかの隠し玉を発動だ! トマホーク? トマホークだ! バイパーとメテオラの合わせ技、合成弾トマホークを緑川・木虎に撃ち放った。こんな隠し玉まで持っていたのか。お前はどこの吃驚箱だ」
「合成弾は熟練者でも数秒の時間を有してしまう。魅力的な技であるが扱える隊員は実は少ない。あれまで使えるとなると、緑川達は更に苦戦を強いられるだろうな」
「狂瀾怒濤の大展開。トマホークが二人に襲い掛かる。三雲隊員、まさしく切り札を切って来たぞ。これで終わってしまうのか、A級隊員! ……へ? 弾道が逸れた? 弾道が逸れたぞ。せっかくの切り札もまるで相手を躱す様に目前で枝分かれし、トマホークは命中ならず」
「よく見て見ろ。あれは切り札じゃない。……ただの囮だ」
「……へぅ? はっ!? シールドを解いた二人の体にアステロイド? アステロイドが突き刺さる。な、なんで? いつの間に、いつの間に置き弾なんて設置したんですか!?」
「三雲は緑川が設置したグラスホッパーを撃ち落す為にバイパーを放っていた。が、同時にさりげなくアステロイドも放り投げていた。恐らく何らかの決め手、あるいはトラップとして活用しようと目論んでいたのだろう。けど、それだけでは二人に届かないと判断した三雲はトマホークで判断力を削ぐと同時に動きも制限させた。後は、シールドを解くと同時に置き弾のアステロイドを起動させたのだろう。あれほどいやらしい手を使う隊員は早々いないだろうな。案外、トラッパーも向いているかもしれない」
「ありがとうございます、風間さん。さぁ! 三雲VS緑川&木虎の変則ランク戦はこれで終了です。戦績は2勝2敗1分け。……引き分け!? 今回の勝負は引き分けです」
「試合はそうだが、実質は三雲の勝利だ。A級二人にこれだけの戦績を成し遂げられたなら、タイマン勝負では完勝もあり得るだろう」
「そうですね。三雲隊員がB級隊員であることを一瞬でありましたが忘れていました。今回の戦い、風間さんはどう見ますか?」
「即席チームだから連携がスムーズでないのは致し方がないが、それぞれ役割を決め過ぎていたな。突出する緑川とフォローをする木虎。役割分担は大切だが、二人とも互いの小隊のエースだ。それぞれ場面場面で順応し、状況を変化させる事で変わる場面も少なくなかったはずだ。今回の戦いはいい勉強になっただろう」
「なるほど。対して、三雲隊員についてはいかがでしょう?」
「俺の時と比べて随分と動きは良くなったが、まだまだ固いな。今後は色々な相手と戦って研鑽を続ける事でさらなる上達につながるだろう。今ある武器を大切にすることだな」
「ありがとうございました! 今後はこう言った面白おかしい場面はどんどん突っかかって行くつもりなので、みなさん。情報提供をよろしく! 以上、海老名隊オペレーター、武富桜子がお送り致しました!」
***
「……白チビ。メガネボーイのやつ、最後の最後でやりやがったな」
「俺もビックリ。なに、最後のあれ?」
空閑のあれとは合成弾の事を言っているのだろう。当の本人に伝授した出水はドヤ顔で説明を始める。
「あれは合成弾だ。メガネくんのやつ、バイパーとメテオラを使っていたからな。隙を窺って、トマホークをぶっ放したら面白くなるぞ。とアドバイスしたんだ」
「ほぅほぅ。とまほーく、ですか」
「あぁ。バイパーの如く弾道を自在に描き、メテオラの如く破壊力を持つ合成弾。最後の決め手になると思って教えたんだが、まさか……。置き弾のアステロイドを意識から外すための捨て石にするなんて思っても見なかったがな。面白いな、お前の所のメガネくんは」
「そりゃあ、オサムですから」
褒められて自分の事の様に喜ぶ空閑。自身のサイドエフェクトで出水が嘘や建前を言っていない事を知っているから素直に喜ぶ事が出来た。
「シューター界に新しい風が吹きそうだ。こりゃあ、二宮さんや加古さん、那須が黙っていないだろうな。今度、シューター会に誘ってみるか」
正隊員で活躍しているシューターは少ない。大半は前衛のアタッカーであったり、後衛のスナイパーである。中衛のポジションはガンナーを選ぶものが多く、シューターを選ぶ人間は少ない。
発想力と応用力が必要な為、戦いを工夫しないと勝つことが難しい事は出水も重々承知している。けれど、逆に言わせればそれだけ汎用性が高いとも言える。柔軟に対応できるのはシューターだけだ、と疑ってやまない出水は数少ないシューターを集めて、シューター会なるものを開いていた。互いに発想力を刺激し合って、柔軟性を高めるための集会に修も混ぜたら絶対に面白くなるだろう、と出水は確信していた。
「……え、なにその会議。面白そうなんだけど。俺も混ざっちゃダメ?」
「槍バカが何を言っているんだ! お前は出禁だ」
しかし、出水は知る由もなかった。
今後、修がらみで色々と騒ぎに巻き込まれるなんて。
修をシューターにさせる為、あらゆる手段を講じて守り抜く事になろうとは思っても見なかったであろう。
ここから先、弾バカ先輩の活躍で修がシューターになるか、オールラウンダーになるか変わります。……たぶん。
実は何気に次の構想も考えていたり。
次は奴の狙撃銃が火を噴きます。
サトらないよ、たぶん。