どうしてくれるんですか、ぷんぷん。
気持ち悪くて申し訳ない。
今回はツインスナイプ編です。誰だかお分かりでしょ?
天眼が発動した所で、修の総トリオン量が多くなるわけではない。同時に運動能力が向上する訳でもない。天眼が発動する事で得られる恩恵はあくまで視覚情報が他の人間よりも多く得られるだけだ。その情報を元に修は判断し、実行しているだけにしか過ぎない。
発動しない時より発動した方が戦闘力は向上するが、過剰に変化する訳ではないのだ。
ないはずなんだが――。
そんな風に思っているのは修ただ一人であった。
「頼む、三雲! 俺が作る小隊に入ってくれ」
「いーえ。三雲くんは私が作る予定の部隊に入るのよ。みんな女の子だから楽しいわよ」
「いやいやいや。三雲は我と一緒にヴィクトリーロードを歩み続けるのだ。あの時の誓いの言葉をもう忘れたのか!?」
咄嗟に「知りませんよ」と否定したかったが、それよりも早く別の人間に捕まってしまい、言うに言えなかった。
***
緑川&木虎との戦いの翌日、上層部から呼び出されてしまった。理由は近々起こりうる大惨事、大規模侵攻に付いてであった。
修は空閑と出会ってからモールモッド2体及びイルガー1体と遭遇している。それに加えて空閑と初めて接触を行ったのが修であったので、空閑の説得役としても呼ばれたと思われる。
用事を済ました修は空閑を待つ為にラウンジへ向かった。二人で玉狛支部に戻ろうとした時、ちょうど緑川と出くわしてしまったのだ。あれから空閑と戦った緑川は自分と似た戦い方をする空閑を気に入ってしまった様子。会う度にランク戦を誘う仲にまでなっていた。
緑川の誘いを快く了解した空閑は早々とランク戦ブースへ駆け出していくのだった。
「空閑! 何かあったらちゃんと連絡しろよ」
「分かってるって!」
あっと言う間に空閑の背中が視えなくなってしまう。子供の様に無邪気に燥ぐ空閑に呆れながらも、友人が出来たことは相棒として素直に嬉しかった。
しかし、それが失敗の原因であった。修が一人になったのを機に周囲の人達が我先と接触を図ってきたのである。で、冒頭に戻る。
***
何度も何度も「小隊に入る事は出来ない」とはっきり断っているにも関わらず、執拗に仲間になれと要求してくるB級隊員に頭を悩ませていた。
「おいおい、寄って集って三雲くんを取り合うとか問題じゃないか? うちの木虎が視たら、みんな仲良く緊急脱出しちゃうぞ」
困り果てていた修に救世主が現れる。左頬に手形の痕がくっきりと残っている救世主様だったが。
「……嵐山隊の佐鳥賢だ」
「佐鳥って、あの俺のあれを視た? って聞いてくるあの佐鳥か」
「えぇ。安定の顔窓こと佐鳥君よ」
「――ちょっとちょっと! あれって抽象的な言葉で言うのやめてくれない!? なんか卑猥に聞こえるから。ちゃんとツイン狙撃って言ってよね。それと安定のってつけるのやめて! トラウマだからそれ」
涙目で訴える佐鳥だったが、誰も彼の言葉に耳を傾けない。みな、木虎に下手な事を言って平手打ちにされた佐鳥の相手よりも期待の新星である修の勧誘の方が優先度が高いと踏んだからだ。
「……お前たち、これ以上三雲くんに迷惑をかけると言うならば、木虎に告げ口するからな」
それは魔法の言葉であった。騒々しかった一同は佐鳥の一言によって静まり返ってしまったのだ。
「き、汚いぞ佐鳥。他力本願もいいところだ!」
「そうよ。そこで木虎さんに告げ口とか、男としてのプライドはないのかよ」
「だまらっしゃい。木虎の足ブレードを受けたくなかったら、大人しく三雲くんを解放しなさい」
どうする、と相談し合う一同。佐鳥の言うとおりにするのは癪だが、木虎を敵には回したくない。けれど、こんな絶好のチャンスを見す見す逃したくもなかった。
一同が答えるよりも早く間を縫って脱出した修は皆に向けて告げる。
「みなさん、お気持ちは大変うれしいのですが、僕は既に小隊を組む仲間と約束していますので、応じる事はできません」
深々と頭を下げて一同に謝罪する修。当の本人は何も悪い事をしていないのに謝られた事に後ろめたさを感じたのだろう。みなは「悪かった」「ごめんね」と謝りながら、その場から去っていく。
「佐鳥先輩、ありがとうございました。大変助かりました」
「いいってことよ。三雲くんを放って置いたら、木虎に何を言われるか分かったものじゃないからね」
「さっきも木虎の名前が挙がっていましたが……」
「アイツ、暇が出来る度に三雲くんとの対戦ログを食い入るように見ているんだぜ。あそこでこうすれば、とか。あれは失敗だったとか、三雲くんに見せてやりたかったよ」
「それはなんて言いますか――」
「――おれも対戦ログを視させてもらったけど、凄かったね。特に第5戦のカウンター武器破壊。あれを視た時、鳥肌が立ったよ」
賛辞する佐鳥の言葉に修は苦笑いするしかなかった。
「あれって、やっぱりメガネを外したのとなんか関係があるの?」
佐鳥の記憶上では修はトリオン体でもメガネを着けていたはず。しかし、木虎の眼を盗んで鑑賞した対戦ログの時はメガネをしていなかった。その違和感に気付くまで修の異変を一緒に見ていた時枝、綾辻の三人で原因を推測し合ったのは秘密である。
「えっとですね……」
修はメガネを外す事でサイドエフェクト【天眼】が発動する事を話す。
「え、マジで? 三雲くん、サイドエフェクト持ちなの?」
「あ、はい」
「マジか。それであんな事が出来たんだ。けど、そんな大切な話しを俺なんかに話してよかった訳?」
「大丈夫です。既に空閑が何人かに話してしまっていますし。秘密にするようなことでもありませんから」
「そっか。けど、強化視覚ね。スナイパーの俺にとっては咽喉から手が出てしまうほど欲しい特殊能力だよな」
オプショントリガーにレーダーから逃れるためのバッグワームがある。もし、修の天眼があったならバッグワームを起動されても正確に撃ち抜く事が出来るだろう。
それにそれさえあれば、仲間の眼となって動きを正確に把握する事も可能だ。ランク戦でこれほど頼もしい能力は早々ないだろう。
「まだ使い慣れていませんので、色々と改善しないといけないところはあるんですが、強みが出来たことは素直に嬉しいです」
「だろうね。マジでチートだもん、それ……。ね、三雲くん」
「はい?」
「気分転換に狙撃手用訓練施設に行ってみない?」
「……はい?」
何を思ったのか、佐鳥は一緒に狙撃手用訓練施設に来ないかと誘ったのである。
「ほら、他の場所に行っても仲間になれって勧誘されるのがオチだろ。なら、スナイパーの訓練施設ならおれもフォローできるし、訓練中に勧誘しようと考える者も少ないと思うしさ」
「……えっと」
佐鳥の提案は正直言ってありがたかった。空閑にはレプリカを通じて連絡すれば合流する事も容易であるし、何より狙撃手用訓練施設なら雨取千佳もいる。彼女に協力してもらって、小隊を組む予定があると伝えれば、他の人間にも納得してもらえると踏んだのだ。
「それでは、お邪魔でなければお願いします」
「オッケー。任せておいて」
サムズアップで答える佐鳥に修は「なんて優しい先輩なんだろう」と感激する。
今度、嵐山隊に行ってお礼のどら焼きをご馳走せねば、と思ったり――。
***
――した、自分がおろかであったと、数分前の自分を呪った。
「あの……。佐鳥先輩?」
「うん? なんだい、三雲くん」
「なんで僕はライトニングを持たされているのでしょうか?」
「気分転換だよ」
「しかも、なぜ二挺も持たされているんでしょうか?」
「気分転換、気分転換。さっ、一緒に狙撃界にツイン狙撃を轟かそうぜ」
「人の話を聞いてください!」
修の大声によって注目が集まる。声主が誰かと分かって集まりだした一同に慌てた修は、佐鳥に助けを求めるのだが――。
「――はい。まずは一挺で良いから構えてね。まずは基本姿勢といこうか。片膝を地面に付ける。そして、膝にライトニングをのせてから銃口を目標に固定してね」
どうやら、言うとおりに行動しないと逃がしてはくれない模様。諦めた修は左手に持つライトニングを消し、佐鳥の言うとおりに狙撃の体勢に入り――。
「じゃあ、まずは軽く――」
――佐鳥が助言を行うよりも早く修のライトニングが火を噴かす。
放たれた弾丸は標的のギリギリ右隅を捉えていた。
「ちょっ。三雲くん! 気が早すぎ。慣れないトリガーなんだから、もっと落ち着いて狙わないと」
「す、すみません」
言われるよりも早く引き金を絞った事に反省する。標的を見据えた時、メガネをかけていたにも関わらずいつも以上に標的との距離が近くに感じてしまったのだ。これなら容易にあたると思ってぶっ放してしまった。
「……まぁ、いいか。今ので弾丸の軌道を覚える事が出来たんじゃないの?」
「へ?」
「三雲くんの天眼なら、今のでライトニングの射撃能力を捉える事が出来たでしょ。後はその弾丸軌道を参照すれば当てる事が出来るはずだよ」
「な、なるほど」
佐鳥の説明に納得してしまった。
けど――。
「すみません。メガネを取っていませんでしたから、もう一度やってもいいですか」
「……あ。そ、そうだったね。じゃ、もう一回初めからやろうか」
「はい」
修がメガネを外した時、周囲から歓声が上がる。
――あの三雲がメガネを取ったぞ。
野次馬となって見守っていた者達からの言葉に佐鳥は苦笑いするが、修の集中力を妨げまいと彼ら彼女らに注意を呼びかける。
「(……まずは一発。これで)」
ライトニングを構え、間を置く事無く引き金を絞る。放たれたライトニングの弾丸は標的の左隅を掠めていった。
「(今のでライトニングの弾丸軌道は覚えた。後は、銃口の角度を修正して――)」
「――お、おい。三雲くん!?」
佐鳥は思わず三雲を止めにかかる。けれど、狙撃に集中していた三雲は彼の言葉が聞こえていなかったのであろう。
修は再びサブのライトニングを生み出し、銃口を向けるや否や二挺同時に引き金を絞る。
――ツイン・クイックスナイプ
流れる動作で狙撃を敢行した修は結果を表示するモニターを確認する。
「……ぇ、マジで?」
修よりも早くモニターを見ていた佐鳥はこれでもかと言わんばかりに目を大きく見開かせていた。
モニターには中央に一発だけ弾痕が表示されていた。
これを見て、修は一発だけ命中してもう一発は外した、と思ったがそうではない。
「同じタイミングで同じ場所に命中させる……。しかも、クイックで!?」
そんな馬鹿な、と驚愕して仰向けになって崩れ落ちる。自分で言っておきながら、こうも簡単にツイン狙撃を敢行した後輩に驚かずにいられなかった。
この瞬間、狙撃の眼【鷹の眼】が開眼したとかしなかったとか、真意は次の戦いで分かる事だろう。
狙撃の技って意外と少ないですよね。
クイックドローもゲームの技ですし。……まぁ、当たり前なんですが。
次は狙撃合戦がはっじまっるよぉ――……ぇ、そうなん?