三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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……狙撃合戦? はて、何のことでしょう。


SE修【天眼】ツインスナイプ②

 ツインスナイプは口で言うほど簡単ではない。

 そもそもスコープを覗かずに標的を捉える狙撃だけでも難しいのだ。

 ボーダー唯一のツインスナイプ使いの佐鳥だって、今の領域に踏み込むのにどれだけの研鑽を積んだことであろうか。

 それを……。自分を見下ろして冷や汗を流す後輩は難なく成功させて見せた。幾ら、狙撃と相性が良いサイドエフェクトがあるからと言って、これはあんまりだと思う。

 

 

「あの……。佐鳥先輩?」

 

 

 仰向けのまま寝転ぶ佐鳥に呼びかける不安な表情で呼びかける修を見て、佐鳥は笑みを繕って起き上がる。

 

 

「悪い悪い、三雲くん。いきなりツインスナイプを成功させるから驚いちゃったよ。しかも、狙撃の高等技術クイックを取り込むんだから更にね」

 

 

 クイックとは簡単に言えば早撃ちの事を指す。本来、精度を求められた狙撃術に早撃ちは不要な存在……とまで言うと大げさだが、確実に当てる為には胆力と正確性の方が重視される。

 そう言う意味では修の狙撃は異端と言ってもいいだろう。ライトニングを構えてから狙撃するまでの時間が圧倒的に短い。幾ら強化視覚を持つとはいえ、あんな芸当が出来ると疑問に感じるのは致し方がないだろう。

 

 

「その……。初めてで勝手が分からなかったのですが、ライトニングを構えた瞬間に弾道の軌道が視えた様な気がします。そのせいかも知れません」

 

「なんだって? それは本当かい!?」

 

「はい。佐鳥先輩の言われた通り、一射目の軌道を天眼に覚えさせ、二射目をそれに照らし合わせてやってみたんですが、こう直線を走る何かが二つ。標的に吸い込まれるように描かれたんです」

 

「ちなみに、それってもう一回出来るかい?」

 

「……やってみます」

 

 

 修は再びライトニングの銃口を下げ――。

 

 

「――待って、ストップ」

 

 

 ――佐鳥によって射撃を中断させられる

 

 

「……はい?」

 

「はい? じゃないよ。なんで銃口を下ろすの。まさか、またクイックをやるの!?」

 

「だって、もう一回って言いましたよね」

 

「言ったけど……。ああもう! 分かったよ。クイックスナイプでいいよ!!」

 

 

 何をそんなに興奮しているのか分からないが、修は気を取り直して狙撃の態勢に入る。

 まるで決闘を行う西部のガンマンの如くライトニングの銃口を下げた修は、集中力を極限まで高め――構えて引き金を絞る。

 

 

 

 ――ツイン・クイックスナイプ

 

 

 

 銃声がシンクロする。

 佐鳥でもコンマ数秒の誤差が生じると言うのに、修のツイン狙撃は寸分も狂わないタイミングで発射された。

 ライトニングから放たれた弾丸は空を裂き、数十メートル先の標的のど真ん中を貫いていく。

 

 

「これでいいでしょうか?」

 

 

 問われた佐鳥は答えなかった。全身わなわな震わせて、修の両肩を掴むと――。

 

 

「三雲くん! 是非とも狙撃手になろう。キミはそげキングになれる逸材だ!!」

 

 

 ――興奮した口調で修を狙撃界に勧誘したのだった。

 

 

「そ、そげキング?」

 

「そう! そげキングだ。三雲くんなら絶対になれるって! むしろ、スナイパーにならないなんて勿体無さすぎる。絶対に三雲くんの為になるから」

 

「で、でも……。僕はシューターの方があっているかなって……」

 

「とんでもない! これだけの逸材をみすみす逃すなんて、この佐鳥が逃すと思ってる? 思ってないよね! ならなろう。今すぐなろう」

 

「ちょっ、待ってください。今までは気分転換じゃ――」

 

「――気分転換なんてただの口実に決まっているでしょ!!」

 

「うわ。薄々気づいていたけど、簡単に暴露したよこの人。ちょっ。待ってください、待ってくださいよ、佐鳥先輩!!」

 

「なに!? 師匠なら俺がなってあげるから、大人しく狙撃界のキングになりなさい」

 

「意味不明ですよ」

 

 

 困った。盛大に困った。まさか、ミイラ取りがミイラになってしまったこの状況に修は頭を悩ます。誰か助けを、と考えた矢先に――。

 

 

「こらこら、佐鳥。嫌がる後輩を無理矢理勧誘するのはいただけないな」

 

 

 ――狙撃の始祖、東春秋が佐鳥の暴走を止めてくれたのであった。

 

 

「しかし東さん。三雲くんのアレ見たでしょ!」

 

「あぁ。悪いと思ったが、見学させてもらったよ。三雲くん。さっきのあれはどうやったんだ?」

 

 

 年長者の東の問いに修は正直に話す。

 

 

「ふむ。銃口を構えた瞬間に弾道の軌道を描く何かが視えた……か。さっぱりだな。ちなみに、それは前から見えていたのか?」

 

 

 修は首を横に振って否定する。

 

 

「いえ。佐鳥先輩に基本の撃ち方を教わった直後からです」

 

 

 佐鳥に言った説明を東にも話した。

 

 

「なるほど。確か、三雲くんは強化視覚のサイドエフェクト持ちだったね」

 

「そうですが、どこでそれを?」

 

「噂になっていたよ。風間に勝ち、緑川・木虎のタッグと引き分けに持ち込んだB級の三雲は強化視覚のサイドエフェクト持ちだって」

 

 

 恐らく空閑が自慢げに米屋達に言った内容を第三者が盗み聞きして広めたのであろう。

 ボーダー内での噂話は井戸端会議のおばちゃん並に広まるのが早い。既に一日またいでいるから、大半の人物がその噂を聞いた事であろう。

 

 

「あ、あはは……。まぁ、隠す事ではないので良いですが」

 

「確か【天眼】と呼んでいたね。これは推測なんだが、佐鳥の助言によってその天眼に秘められていた機能が目覚めたんじゃないか?」

 

「そうなのでしょうか? こんなこと初めてですからよくわかりません」

 

「さしずめ【鷹の眼】と言った所か。いい能力じゃないか。大切にしろよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「――ちょちょちょっ! なに話を終わらそうとしているんですか」

 

 

 会話が穏やかに終わりそうになった所で佐鳥が会話に割って入る。

 

 

「ダメでしょ、東さん。そこは三雲くんを説得しないと」

 

「しかしな。無理に勧誘するのはよくないだろ。こう言うのは本人の意思が大事だし」

 

「そこを説得するのが腕の見せどころじゃないですか。口八丁手八丁な東さんなら容易いでしょ」

 

「参ったな。……三雲くんはどう思うんだ?」

 

 

 話を振られた修は正直に話す事にする。

 

 

「狙撃手は既に僕のチームメイトになってくれる雨取千佳がいます。部隊バランスを考えると僕は中距離を担当するのが良いと考えるのですが」

 

「なるほど。例のアイビスの子と組むのか。……諦めろ、佐鳥。三雲くんの見解は正しい。後輩を優しく応援するのも先輩の務めだろ」

 

「なんでですか。それなら荒船隊はどうなるんです。あそこは三人ともスナイパーですよ」

 

「荒船に考えがあっての事だろう。それを押し付けるのは違うんじゃないか?」

 

「いやだ! 三雲くんが狙撃手にならないなんて絶対に嫌だぁ」

 

「駄々をこねるな。いい歳をしてみっともないぞ」

 

「だったら勝負! 勝負だ、三雲くん。俺が勝ったら大人しく狙撃手になる。負けたら大人しく引き下がる。それでどうだ!?」

 

「待て待て待て。なんだ、それは。どう考えても三雲くんに不利な条件じゃないか。そんな条件、俺が認めないぞ」

 

「俺はイーグレット一挺。三雲君はライトニング二挺ならいいでしょ!? これで五分五分。勝負になりますって」

 

「……どうする? 三雲くん」

 

「僕が狙撃で佐鳥先輩に勝てるなんて思えませんが」

 

「だよな。三雲くんには悪いが実力はおろか年季が違いすぎる。どう転んでも佐鳥が勝つ未来しか見えないぞ」

 

「なら、三本先取! 三雲くんは1発でも当てれば三雲くんの勝ち。これならどうですか!?」

 

「お前なぁ」

 

 

 頑なに自分の意見を曲げない佐鳥に頭を悩ます東。このお調子者がこれほどまで頑固な姿勢を続けるのは稀であるから、本当なら聞き遂げたい所であるけど事が事だ。

 どうやって説得しようかと思案していると、厄介な第三者が介入してきた。

 

 

「いいじゃないですか、東さん。面白そうだからやらしてみたらいかがです?」

 

「当真か。またややこしいやつが出て来たな」

 

 

 介入した人物は当真勇。型にはまらない感覚派狙撃手だ。

 楽しさを第一優先する当真は三人の会話を聞いて、面白そうだと思って首を突っ込んできたのであった。

 

 

「ですよね、当真先輩!」

 

「あぁ、面白そうだ。何なら相手役は俺がやりましょうか?」

 

 

 予想外の申し出であった。

 

 

「ダメだダメだ。何を考えている、お前は」

 

「なら、東さんと三雲。俺と佐鳥のタッグバトルで決めましょう。形式はランク戦でいかがですか?」

 

「だから、どうなったらそうなる!? お前は話を掻き交ぜに来たのか」

 

「しかし、周りの人達は俺達が戦う事を望んでいますよ? ほら」

 

「なっ!?」

 

 

 言われて周囲を見渡せば、訓練中であったはずの狙撃手達が期待の眼差しで四人を見ていた。中には携帯電話を操作して「これから狙撃バトルが始まるよ」と情報を流布している者すらいた。

 

 

「ね。これでやらないなんてなったら収拾がつかないと思いません?」

 

「……良いだろう」

 

 

 東の背中越しから「東さん!?」と呼び止める修の声が上がる。悪い、と修に謝罪した東は「ただし」と付け足して、二人に条件を課した。

 

 

「ただし、オペレーターありだ。俺達が1勝したら俺達の勝ち。お前達は3勝連取の3本勝負。この条件を呑まなかったら、この話はなしだ」

 

「決まりですね」

 

 

 にやける当真に「よっしゃ!」と喜びの雄叫びを上げる佐鳥。

 

 

「当真先輩、ありがとうございます!」

 

「良いって事よ。こんな面白い話、早々お目にかかれないからな」

 

 

 対して東は修に向き直り、深々と頭を下げる。

 

 

「すまん。そう言う事になってしまった。全力でサポートするから、許してくれ」

 

「と、とんでもない! 頭を上げてください、東さん。僕の為に色々と尽くしていただいてありがとうございます」

 

「非はこちら側にあるんだ。俺が何とかしてやる。……佐鳥、当真! 一時間後にランクブースに来い。特別に狙撃手が戦えるように頼んでくる。あと、お前らもオペレーターを探して来い。オペレーターがいない時点でお前達の負けだ。いいな!」

 

「「了解です」」

 

 

 こうして、東・三雲チームVS佐鳥・当真戦が決定したのであった。

 その情報は瞬く間にボーダーの全隊員にいきわたる事になる。




すいません。狙撃合戦まで持ち込めませんでした。
次こそは、次こそは!

てか、東さんと当真さんの口調とそれぞれの呼び方ががわかんねぇ。

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