三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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はい、今回も外伝です。本編はいま執筆中なので……。

以前、感想にありました木虎の賭け事について書いてみました。
時系列はA級狙撃小隊の後になります。


SE修【天眼】木虎藍の憂鬱

「……そう言えば木虎ちゃん。例の賭けはどうするつもりなの?」

 

 

 久方ぶりに個人ランク戦ブースに赴いた木虎は偶々遭遇した緑川に何の前触れもなく尋ねられたのである。

 

 

「賭け? 何の事かしら?」

 

 

 賭けの単語に聞き覚えがなかったのか、緑川に尋ね返すと彼はニンマリと悪戯を思い出した悪餓鬼の様な笑みを浮かべて――。

 

 

「負けたら三雲先輩とキスするんでしょ?」

 

 

 ――と口に手を添えて誰にも聞かれない様に小声で呟いた。

 

 

「なっ!? あ、あなた……。なんで」

 

「なんでって、タッグを組んだ時に内部通信を繋げたじゃん。まさか、聞かれていないとでも思ったの?」

 

 

 初めは三つ巴戦で模擬戦をしていた緑川と木虎であったが、天眼修の回避能力がずば抜けている為に急遽共同戦線を組むことにしたのであった。その時に内部通信を繋げていた。

 それだけなら緑川に聞かれる事はないのだが、木虎はあの時に限って内部通信を切る事を忘れていたのだ。そのせいで先の会話を全て緑川に聞かれてしまったのである。

 

 

「な、なっ」

 

 

 まさか聞かれているとは思っても見なかったのであろう。木虎の顔が一気に赤く染めあがって行く。そもそも、自身がなんであんな事をのたまったのか、木虎自身が分かっていなかった。模擬戦が終って帰宅してから冷静になって記憶を振り返った時、何で自分はあんな恥かしい事を云ったのか激しく後悔したのだ。枕を抱きしめてベットで身悶えたなんて事は誰にも知られてはいけない最重要機密だ。

 

 

「み、緑川くん。そのことは誰にも――」

 

「――言っていないよ、もちろん」

 

 

 流石に緑川もそんな事を言い触らす様なデリカシーのない事はしなかった様子。ほっと安堵の溜息をつく木虎に緑川は先と同じように悪い笑みを浮かべて言う。

 

 

「……で、どうするの?」

 

「どうするって?」

 

「だからキ――」

 

 

 楽しげにつぶやこうとした単語を言わせまいと木虎は緑川の口を封じる。両手で口を封じられた緑川はどうにか脱出を試みるが、木虎から逃れる事は出来なかった。

 

 

「……いい? これ以上、変な事を言ったら今すぐにスコーピオンで抉るわよ」

 

 

 目がマジであった。もし、緑川は返答を間違えたら本気で緑川の体を抉るつもりなのだろう。流石に言い過ぎたかなと反省した――木虎の得体の知らない威圧感に負けたともいえる――緑川は何度も首を縦に振って了承の意を示す。

 その言葉を信じた緑川を解放した木虎は「いい!」と胸を張って言い続けた。

 

 

「あれの結果は引き分け。負けたらまだしも、私は負けていないんだから無効よ。き、ききキスなんてもってのほかよ」

 

「……え? だって、5戦中2勝2敗1分けでしょ? 俺はてっきり2敗もしたから2回するのかなぁ……って」

 

「そんな訳ないでしょ。そもそも、あれは二戦目限定よ。その結果引き分けだった。よって賭けは無効よ」

 

「そっかぁ。俺はてっきり――」

 

「――てっきり、何よ?」

 

「木虎ちゃんは三雲先輩ラブなのかなぁって」

 

「そんな訳ないでしょ! どうして、私が三雲君の事をすす好きになるのよ。どう考えてもおかしいでしょ」

 

「だって、そうじゃないとあんなことは言わないでしょ? 三雲先輩のサイドエフェクトとタイマン勝負したら俺達でも負ける確率は少なくなかったんだから。本当は勝ってもらってキスして欲しかったのかなぁ、って思ったんだよ。既成事実ゲットを盾に三雲先輩のゲットだぜってやつ?」

 

 

 直ぐに否定したかったが、自分自身がなんで戦闘中にあんな事を云ったのか未だに分かっていないが為に反論のしようがなかった。そもそも木虎が惚れている男性は三雲修の師である烏丸京介である。それにも関わらず他の男性にキスを賭けるのは些か可笑しな話である。考えた末に木虎が結論に至った答えは――。

 

 

「ああでもしないと、三雲君は本気で私を倒しにかからないと思ったのよ。ほら、私って可愛いでしょ。男なら誰しもが私のキスが欲しがるかなぁって」

 

 

 ――随分と斜め下の結論であったが。

 

 

「自分で可愛いって言っているよ、この人は。だから双葉に嫌われるんじゃないの?」

 

 

 緑川の言葉に木虎は精神的ダメージを250程受ける事になる。

 ちなみに全HPは1000である。黒江双葉の件は木虎にとってそれなりのダメージを与える事は緑川も知っていた。某ゲーム風に言うと効果抜群だ、である。

 

 

「そ、それとこれとは関係ないでしょ!」

 

「まぁ、そうなんだけどね。……それより、木虎ちゃんは例の狙撃戦を見た?」

 

 

 唐突に話題が変えられる。本当ならば「そんな事よりもって!」言い返したい所であるが、聞き慣れない単語が緑川の口から飛んできたので、そちらの方に興味が湧いたのだろう。

 

 

「なにそれ?」

 

 

 彼女は先まで広報任務で出動していた。ちなみに今回の報道任務は簡単な取材である。本来ならば部隊長の嵐山准と時枝充が相手をすることになったが、先方が女性の意見も聞きたいからと言って木虎を指名したのだ。その為につい先ほどまで繰り広げられていた狙撃戦を彼女は見ていない。

 緑川は簡潔に狙撃戦について木虎に説明する。

 

 

「……はぁ、佐鳥先輩。何をしているんですか」

 

 

 佐鳥の突拍子もない行動に呆れるしかなかった。まさか自隊のオペレーターである綾辻も一口噛んでいたのは驚きであったが。

 

 

「それで? なんでその事を私に言ったのかしら」

 

「理由なんかないよ。強いて言うならば佐鳥先輩が三雲先輩を気に入ったから、今後はちょくちょく会えると思うよ、って言いたかったぐらいかな」

 

 

 狙撃手(スナイパー)で唯一二挺狙撃(ツイン・スナイプ)が――三雲や東が出来る事は知らないので――可能な佐鳥が気に入るのは中々珍しい事であった。新人狙撃手(スナイパー)を指導する立場にいる彼は中々弟子を取る事はなかった。最もそれは佐鳥自身に問題がなくもないのだが――弟子に二挺狙撃(ツイン・スナイプ)を強いるのが最大の原因である――弟子にしたいと思える逸材は中々いないとの事だ。

 けど、そこで疑問が生じてしまう。そもそも今の会話でどうして三雲修の名前が挙がるのだろうか。

 

 

「……まさか、佐鳥先輩が賭けをした相手って」

 

「言っていなかった? 佐鳥先輩達の相手は三雲先輩と東さんだよ。いやー、面白かったな。特に最終戦。前の2試合を犠牲にして不意を突いての速攻。あれは解説してくれるまで分かんなかったなぁ」

 

 

 仮に自分があの場にいて狙撃手(スナイパー)用のトリガーを持ってもあんな風に立ち回る事は出来ないだろう。そもそも待ちに徹する狙撃戦は性に合っていないと理解している。

 

 

「なにをしているのよ、あのバカは」

 

 

 あまり修の事を知らないが、少なくとも修が狙撃手(スナイパー)として模擬戦に参加しているのがおかしい事は理解できる。

 

 

「(狙撃手(スナイパー)になったら再戦(リベンジ)出来ないじゃないの。そんな事も分からないのかしら、三雲君は)」

 

 

 そもそも修は木虎に再戦(リベンジ)したいと考えていないなんて事は木虎の考えにはなかった。自分なら負けた相手に勝つまで挑戦し続ける。それが他の人間にも当てはまると信じて疑わなかった。今の修はそんな事を考えている余裕はないのだが。

 

 

「……ぁ。佐鳥先輩だ」

 

 

 緑川の視線を追うと言った通り、そこには佐鳥の姿があった。どうやら東達に誘われて焼肉を食べて戻ってきたのだろう。物凄く機嫌が良さそうだ。彼の背中にお花畑が見えるのは気のせいではないだろう。

 

 

「あれ? 木虎と緑川じゃん。お疲れさん」

 

「お疲れ様です、佐鳥先輩。少しお時間よろしいですか?」

 

「え? なになに、どうしたの? なんか物凄く怖いんだけど」

 

「あー。佐鳥先輩。木虎ちゃんのいう事は聞いた方が良いよ。命が惜しくなかったら」

 

「なにそれ!? 俺って木虎に何かした? 思い至る節はないんだけど……」

 

 

 事実、木虎のどら焼きを無断で食べました事件は既に制裁を受けている。それ以上に木虎から制裁を受ける様な事件は未だにしていないはずであった。

 

 

「少し狙撃戦についてお話があるんですが」

 

「え? 狙撃戦? ……あぁ。もしかしてみてくれた? いやー、流石は三雲君だよね。俺も久方ぶりに高揚したって言うか、新たな二挺狙撃(ツイン・スナイプ)仲間と巡り合えてうれしいと言うか、とにかく今日は最高の日だったよ」

 

 

 親指を突き出してのサムズアップが木虎からしてみれば非常にウザかった。ドヤ顔が特に木虎の怒りのボルテージを上昇させてしまう。

 

 

「(佐鳥先輩逃げて。超逃げて)」

 

 

 そんな二人のやり取りをハラハラしながら見ている緑川はいつでも戦線から離脱出来る様にトリガーを握りしめる。木虎の怒りが大爆発したと同時にトリオン体になってグラスホッパーで離脱を図るつもりなのだろう。

 緑川に佐鳥を助けるなんて選択肢はない。逃げる一択以外彼の思考は皆無であった。

 

 

「そうですか。それはよかったですね。実はここ最近模擬戦をしていなかったので、相手を探していたのですが良ければ佐鳥先輩にお相手していただけませんか?」

 

「え? いやいや、俺は狙撃手(スナイパー)だから万能手(オールラウンダー)の木虎と相手をすることは……って、ちょっと木虎? 木虎さん。なぜに私めの後ろ襟を御掴みに?-ちょっ! トリオン体に換装してどうなさるんですか。誰か!? 誰か助けて!!」

 

 

 文字通り暴れる佐鳥を引きずって行った木虎はそのままランク戦ブースへと彼を連行していく。その後、木虎にフルボッコされる佐鳥であったが、未だに自分が彼女の逆鱗に触れたのかは未だに謎であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 東から焼肉を奢ってもらい、満足げに玉狛支部に戻った修の携帯に一通の連絡が届く。

 

 

「……ん?」

 

「どうしたんだ、オサム」

 

「いや、緑川からLINEが来たんだが、これってどう言う意味だろう?」

 

「えっと、なになに? 賭け事を思い出して? なんだこりゃ」

 

「さぁ?」

 

 

 その後、緑川に『何のことだ』と返信したら、数秒後にスタンプと言う形で返信が来る。

 

 

 

 ――このフラグ製造機がっ!!

 

 

 

 それを理解する事は修一人では不可能であった。

 試に玉狛支部の先輩方に聞いたら息を噴出して盛大に笑ったとか。




ワートリって主人公はたくさんいるけど、ヒロインっていないんですよね。
木虎が一番早く登場したから、そうなのかなぁって思うことはありますが。

自分はオサキトもありだと思っていますし、オサチカ、修怜、香修でも全然ありだと思っていますが、普通に考えるとオサキトかオサチカなのかな?

てか、日常編って本当にセンスがいりますよね。
自分ではこれが精いっぱいの日常編でした。

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