三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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見ました? 彼らの必殺ツインスナイプの勇姿を。


SE修【天眼】A級狙撃小隊④

 修と東の作戦は単純であった。

 鷹の眼の効力を知っていた東が「敵の弾道も読み取れるかもしれない?」と言う点から始まり、それが可能になればオペレーターの人見に頼んで、感覚を共有。鷹の眼の力を得た東と一緒になって電撃戦を仕掛ける事であった。

 

 

「すまない、三雲くん」

 

 

 通信機越しから東の謝罪の声が飛んでくる。今回の勝利の鍵を未知な力に頼っていた事が間違えていた、と反省しているのだろう。

 戦いにおいて、計算外の力を頼りにするのは間違っている。戦術で勝負する時は敵の戦術レベルを計算に入れろ、と部下たちに口を酸っぱくして言い聞かせていた。それは逆に言うと己の戦力を十分に加味して戦術を立てろ、と意味を含めている。自分が魅力的な力を当てにして計算に入れていては部下に示しがつかない。

 

 

「(何をやっているんだ、俺は)」

 

 

 これでは隊長として部下の二人に合わせる顔がなかった。けど、後悔している暇はない。あと一回負けてしまったら、修は無理やり狙撃手にさせられてしまう。それだけは断固として阻止しなければならない。

 

 

「(どうする? 相手はA級の手練れ達だ。佐鳥と当真だけならまだしも、古寺と奈良坂まで相手にすると……。ダメだ、今のトリガー構成では三雲くんを活かす事が――)」

 

 

 できない。そう思ったとき、修から返事が来る。

 

 

『いえ、東さん。東さんは間違ってなんかいません。東さんが信じてくれたから僕は【鷹の眼】を――』

 

 

 その言葉は待ち続けていた言葉であった。聞き間違いか、と思った東は「それは本当か!?」と興奮した声色で聞き返してしまう。

 

 

『はい。お待たせしてしまいすみませんでした。……けど、次は上手くやって見せます』

 

 

 力強い言葉に沈んでいた東のテンションが一気に上がる。暗闇に閉ざされていた希望の光が最後の最後にして力強く輝きだしたのだ。

 

 

「よし。なら、これが最後だ。後先考えずに思う存分にやるぞ。いいか? 作戦は――」

 

 

 東が修に作戦を伝えようとしたとき、希望の光は更に輝きを増すことになる。

 

 

『――すみません、東さん』

 

 

 通信が途絶えていたオペレーター、人見の声が届くのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 一同が転送された戦場は市街地Bであった。ここは先の市街地Aと比べると高い建物と低い建物が混在し、場所によっては非常に射線が通りにくい地形である。けど、一流の狙撃手はそんな些細な障害など関係ない。上手く自分の戦場に持ち込み、必殺の狙撃を撃ち放つ為に幾多の戦術を繰り出す。

 それに加えて実力者は壁抜き狙撃が可能だ。ただ、これには精細なデーターとの複合オペレーションが必要不可欠だが、互いの優秀なオペレーターの力を借りれば可能なはず。

 

 

「よっし! あと1戦。これに勝てば、優秀な狙撃手ゲットだぜ」

 

 

 勝利を目前とした佐鳥は浮かれていた。それはもう、両手を大きく挙げて万歳三唱したいほどに。

 

 

『……ねぇ。佐鳥くん。どうして、そこまで三雲くんが欲しいの?』

 

「何を言っているんですか、綾辻先輩。三雲くんは優秀な狙撃手になる人材ですよ。あれほどの才能を持った人を見逃す手は――」

 

『けど、それだけじゃないでしょ』

 

「な、何を根拠に」

 

『だって、佐鳥くんはお調子者だけど、横暴な人間でないことは私を含めて嵐山隊の全員が知っているもの』

 

 

 予想外な言葉に佐鳥は言葉を失う。まさか、綾辻からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかった。

 

 

『もしかして、ファンに言われた言葉を気にしているの?』

 

「…………」

 

『図星みたいね』

 

 

 以前、嵐山隊のファンから「狙撃手の佐鳥は必要ないんじゃないの?」と心にもない意見が来たことがある。それだけなら佐鳥も我慢できたが、狙撃手は地味でただ隠れてお零れを貰う乞食だ、と言われた時は荒れに荒れた。

 

 

 

 ――俺だけならまだしも、狙撃手をバカにしたことは許せない。

 

 

 

 佐鳥はどうにかして狙撃手の素晴らしさを知ってもらおうと考えたが、自身が広報部隊として人気が少ないことは知っている。実際は下手な芸能人よりも人気があるのだが、佐鳥はそれを自覚していないのだ。

 だから、狙撃手には誰もが知るスターが必要であった。それに値する人物は最初の狙撃手たる東が値するのだが、あの東が快く引き受けてくれるとは思わなかった。いま徒党を組んでいる仲間達も悪くはないけど、市民を魅了するには足りないだろう。

 けど、天眼を持つ修なら……。あれほど離れ業をあっさりと決めてしまった修なら、あるいは、と考えてしまった。優秀な狙撃手になれる人材であることは嘘ではない。しかし、スター性がある事が今回の戦いの最大な要因であった。

 

 

「けど、俺では――」

 

『バカだな、そいつは』

 

 

 当真が二人の通信に割って入った。

 

 

『お前ほど面白味があって優秀な狙撃手はどこを探してもいないと言うのに……。ったく、そいつは何も分かっていないな。ま、ボーダーについて秘匿事項が多いから、仕方がないが』

 

「当真先輩」

 

『最初に狙撃手になったのは東さんだが、狙撃手の先頭に立って俺達に知識と技術を広めたのは佐鳥、お前のはずだ』

 

「奈良坂先輩」

 

『胸を張ってください。狙撃手の先輩がそんなんでは、僕達の立つ瀬がないじゃないですか』

 

「章平」

 

『ね。嵐山さんも言っていたでしょ。お前ほど頼りになる狙撃手はいないって。もっと、自信を持って。佐鳥くん』

 

「綾辻先輩。……お、俺が間違っていました。俺の手で市民の皆さんに狙撃手の素晴らしさを認めさせて見せます。けど、今は――」

 

『わかっているわ。手を抜いたら相手に失礼だもんね。いま、二人は……』

 

 

 レーダーを確認した綾辻が言葉を詰まらせる。

 映るレーダーに違和感を覚えたからであった。その違和感の正体に気づき、自分の迂闊さを呪うことになる。

 

 

「綾辻先輩? どうしたんですか!?」

 

『やられたわ!』

 

「ど、どう言う意味ですか!?」

 

『三雲くんがバッグワームを使ってきた!』

 

 

 綾辻の言葉に4人に緊張が走る。

 

 

「ちょっ! 待ってください。いま、レーダーに映っているこれは……。はっ!? まさか――」

 

『やられたな。三雲の野郎、ダミービーコンを入れていやがった!』

 

 

 佐鳥が率いるA級狙撃小隊のレーダーには一人分しか映し出されていなかった。三雲を除いた全員がバッグワームを起動して、レーダーから姿から消している。しかし、いまだに表示されている的は一向に動いていない。それを意味することはただ一つ。いまレーダーに映し出されている的はトリガーで作られた偽物である可能性が高いと言うことだ。

 

 

『これは参りましたね。各自油断をせずに――東さん!?』

 

 

 銃声が通信機越しから鳴り響く。その直後、古寺が強制脱出した事を知らせる表示が映し出された。

 

 

『おいおい。これはどう言うこった。奈良坂、古寺の近くにいたんだろ。状況を説明しろ!!』

 

『いま、東さんと三雲が……。ビリヤード!? あんなに動き回って、どうやって標準を合わせた! くっ!? 東さんの背中に隠れて三雲が――』

 

 

 次の瞬間、奈良坂の緊急脱出が知らされる。会話の途中で銃声が4回ほど鳴り響いていた。話から推測して、奈良坂は二人と遭遇して銃撃戦を強いられたと考えられる。そして、何らかの方法で奈良坂を一瞬にして仕留めたと思われる。

 

 

『くっ。バッグワームを今の今まで使わなかったのは、俺達にバッグワームを入れていないと思わせるための策略だったのかよ!』

 

 

 まんまと相手の術中にはまっていたことに、当真のイラつく声が木霊する。

 

 

 

***

 

 

 

「まさかのまさか! ここに来て三雲・東コンビの奇襲だ! まるで二人の位置を知っていたかのように真直ぐと駆け出して、必殺の一撃を叩き込む。狙撃手のセオリーを完全に無視した戦い方ですが、解説の出水先輩。二人の戦い方について、どう思われますか?」

 

「いいぞー! メガネくん、東さん! そんな奴らなんかぶっ飛ばせ。俺が全力で応援しているぞ!!」

 

「ちょっと出水先輩。解説解説」

 

 

 後輩の武富に注意された出水は、自分が興奮気味になっていた事に気づく。恥かしげに「コホン」と咳き込んで間を開けた出水は、自分の考えを――

 

 

「あぁ。あれは――」

 

「あれはあれでありだろう。互いに同ポジション。しかも、数的不利なんだ。ま、東さんのやり方ではないけどな、ありゃあ」

 

 

 ――述べるよりも早く、自分の意見を言ったものがいた。出水はその人物の顔を見てあからさまに表情を歪ませる。

 

 

「た、太刀川さん」

 

「探したぞ、出水。レポートの手伝いを、と思ったんだが……。ずいぶん、面白いことをしているな、お前ら」

 

 

 乱入してきたのはA級1位太刀川隊の部隊長、太刀川慶であった。

 まさか、自身の隊長がこんなタイミングで来るなんて、と出水は太刀川をよこした運命を呪う。

 

 

「な、なんでここに?」

 

「いやぁ。お前を探していたら、迅とばったり会ってな。ランクブースに行ったら面白い事をしているよ、と教えてくれたんだ。案の定、ずいぶんと面白いことになっているな、こいつは」

 

 

 当真に特攻する修と東の姿を見て口角を上げる。太刀川はそのまま出水の横に座り、観戦を決め込むつもりのようだ。

 胸中で太刀川と言う刺客を送り込んだ迅に悪態つく出水であるが、彼の心情など分からない武富は太刀川に質問を投げかける。

 

 

「あの、太刀川さん。さっきの言ったことって……?」

 

「あぁ。お互いに狙撃手なんだろ。だったら、どっちも待ちの姿勢で勝負を挑んだら、銃口が多い方が勝つに決まっている。あいつらがなんであんなに慌てているかしらんが、奇襲をして先手を取ろうと考えるのは当たり前だろ」

 

 

 その意見はもっともであるが、太刀川はそれまでの戦いを見ていないから言えることだ。武富はその前の2戦を見た後の意見が聞きたかったのであった。出水は自分に武富の視線が来たのを知ってか、太刀川の後に続いて話し始める。

 

 

「おそらく、この1戦に勝負を賭けたんじゃないかな? 前の2戦はあくまで今回の1戦の為の準備期間だったのかもしれない。メガネくんがバッグワームを使って、ダミービーコンを使うタイミングも2戦目で図っていたのなら、先の意味のないダミービーコンの使い方もうなずけると思うんだ」

 

「なるほど。それじゃあ、始めから奇襲で勝負を仕掛けるつもりだったんでしょうか? ですが、なんで3戦目まで持ち込んだんですか? 1戦目で使ってもよかったと思われますが……」

 

「これは推測だが、何かを視ていたんじゃないか?」

 

「視ていた?」

 

「メガネくん。強化視覚のサイドエフェクト持ちだから」

 

「……へ?」

 

「……あ」

 

 

 慌てて口を押える出水。だが、それは逆効果であった。その対応は自分が口を滑らせたと口外したも同じ。聞き間違いじゃないと悟った武富は――

 

 

「は……。はぁぁあああっ!?」

 

 

 盛大に驚きの声を上げるのであった。

 

 

「ちょっ、出水先輩!? あれって本当だったんですか? 三雲隊員がサイドエフェクト持ちだって、マジ情報だったんですか!?」

 

「な、ナンノコトヤラ」

 

「何気に噂になっていましたが、三雲隊員のトリオン量ではサイドエフェクトはあり得ない、と否定する人達もいましたので……。しかし、それならなぜ、入隊した時に発覚しなかったのでしょうか。まさか、後天的なものとか言いませんよね」

 

 

 詰め寄られて、あきらめたのだろう。もともと、修がサイドエフェクト持ちと言う噂は広まっていた。今更告げたところで何も変わらないと踏んだのだろう。

 

 

「……同じ玉狛支部の空閑から聞いたから、噂は本当だぞ。正式名称は強化視覚。愛称は【天眼】らしいぞ」

 

「て、天眼? 天眼って肉眼では見えない事でも自在に見通せる、神通力のある目のことですよね。……えぇ!? なにそれ!! 完全なチートじゃないですか。まさか、風間さんが言っていた全部視ていたって……」

 

「言葉通りの意味。今のメガネくんは何でも見通せるはずだよ。それは、お前も見ただろ?」

 

「視ました。えぇ、見ましたとも!! けど、信じられないじゃないですか。サイドエフェクトが働いていたなんて誰が予想できるんですか!?」

 

 

 誰も予想できない事だろう。出水だって、空閑から聞いていなければ修の噂を信じることができなかったことであろう。

 

 

「へぇ。あいつ、迅の後輩だろ。メガネくんって言っていたが、メガネかけていないじゃん。出水もなんで、三雲の事をメガネくんって呼んでいるんだ?」

 

「普段の彼はメガネをかけているからですよ。メガネを取る時は本気モードのときだけです」

 

「マジ。メガネを取ると真剣モードとか、どこの漫画の主人公なんだ、アイツは。……どれ、ちょっと俺も」

 

「待って、太刀川さん。ブースに入ろうとして、どうするつもりなんですか」

 

「ちょっと乱入――」

 

「――させる訳にはいきませんから。あんたが乱入したら、ますますカオス状態になるだけだから」

 

 

 ウキウキ気分でブースに入ろうとする太刀川を出水が後ろから羽交い絞めして阻止する。

 せっかくいい感じで勝負が進んでいるのにもかかわらず、太刀川が入って状況が変わったら大事だ。シューター界の新星をこんなつまらないことで台無しにさせるわけにはいかないのだ。

 そんな1位部隊のいざこざに苦笑いしつつも、武富は実況を続ける。彼女の実況魂はこの程度で折れるほど軟ではないのだ。

 

 

「さぁ、三雲・東隊員の次なる標的は当真先輩の様子。おっと、これはどう言うつもりだ? 二人してバッグワームを解除。そして、新たに……ライトニングとイーグレット? これは、ツイン狙撃だ。2戦目で使ったツイン狙撃を再び使う模様だ!」

 

 

 武富の言葉に二人が「なぬっ!?」と反応してモニターを見やる。そこには当真の射線を掻い潜る二人の狙撃手の特攻姿があった。

 

 

 

***

 

 

 

 幾多の赤い閃光が三雲と東に注がれている。

 

 

「(こいつは、予想以上だな)」

 

 

 広がる摩訶不思議な光景に東は笑うしかなかった。いま、二人に注がれている赤き閃光は当真が放つと思われる狙撃の弾道だ。確実に仕留めるつもりだったのだろう。二人に注がれている弾道はどれも額に標準を合わせていた。

 

 

「(さすがだな、当真。だが、今回ばかりは勝たせてもらう)」

 

 

 狙撃小隊の事情を知らない二人は必死にならざるを得ないのだ。負けたら失うものは大きい。東も「任せろ」と息巻いたにもかかわらず、力及ばずでした申し訳ないではすまないのだ。

 

 

「人見っ! 三雲くんの視覚情報から当真達の正確な位置を割り出せ」

 

『既にやっています。……割り出せました。北北西約1キロのビル屋上です』

 

「よし。そこまで分かれば――」

 

『東さん。当真先輩がイーグレットを構えました。5秒後、狙撃が来ます』

 

「了解した、三雲くん!」

 

 

 三雲から狙撃を注意せよ、と呼び掛けられる。三雲の言葉通り、5秒後には己を穿つための銃弾が飛んできたのだった。普通ならば真向から対抗せずにやり過ごす事なのだが、今の東ならば当真の狙撃がはっきりと視えている。

 

 

 

 ――クイック・スナイプ

 

 

 

 スコープを全く視ずに引き金を絞る。本来ならば確実性が低い狙撃なので使うことを嫌う東であるが、今の東の視線には自分が放った弾道が赤き閃光となって教えてくれている。

 この情報があれば標準をスコープで視て合わせる必要はない。自分はただ、赤き閃光に合わせて銃弾を沿わせればいいんだから。

 東が狙撃の銃弾を打ち返す――その技術をビリヤードと呼んでいる――と同時に、追従していた修がライトニング二挺の引き金を絞る。

 

 

 

 ――ツインスナイプ

 

 

 

 ライトニングから放たれた弾丸は当真の額へ吸い込まれていく。

 

 

「シールドっ!!」

 

 

 やられると感じた当真はイーグレットを投げ捨てて額に集中シールドを二つ作り出す。修の弾丸は当真のシールドによって阻まれてしまうが、その直後に放たれた東の狙撃は躱せない。

 

 

 

――クイック・スナイプ

 

 

 

 時間差で放たれた東の弾丸は当真の心臓部に着弾する。

 大きく胸部を抉られた当真は自身の反撃を最後の最後まで警戒している二人に向けて伝える。

 

 

「そこそこ楽しかった。次はちゃんと白黒つけようぜ」

 

 

 強制脱出が発動。当真の戦闘体は光となって空へ昇っていく。

 これで最後は佐鳥ただ一人。誰にも気付かれないように力こぶしを作った修は次の行動に移ろうとするのだが、激しい頭痛と眩暈に襲われて、その場で膝を折って四つん這いになったのだった。

 

 

「三雲くん!? どうした!!」

 

 

 慌てて東が駆け寄る。苦しげに表情を歪ませる修を視て、ただ事ではないと思ったのだろう。戦いを中断しようと人見に呼び掛ける東を修は止めたのであった。

 

 

「だ、大丈夫です。いつものやつです」

 

「いつものやつ?」

 

「この天眼を使いすぎると、頭痛や吐き気が襲ってくるんです。しかし、今回は随分と早かったな」

 

 

 緑川&木虎戦では5試合続けて発動させても頭痛や眩暈に襲われることはなかった。試合数だけを考えると前の戦いの方が長いはずだ。

 

 

「(鷹の眼が発動したことで、制限時間が短くなったのか?)」

 

 

 痛みに耐えながらも、連続使用時間が短くなった原因を考える。そして、修の推測は限りなく正解に近いだろう。ただでさえ天眼の効力は反則級だ。それに加えて弾丸の軌道を可視化するなんて反則能力が開眼したのだ。ただで済むわけがない。

 

 

「三雲くんはここで休んでいろ。佐鳥は俺が仕留める。人見、感覚共有を解除しろ」

 

『了解です』

 

 

 東の指示に従って感覚共有を解除する。それに伴って修の苦痛が少しばかり和らいだのだ。感覚共有は修の負担を増す原因である事をこの時に知るのであった。

 

 

「いえ。僕もやります」

 

「無理だ。そんな様子でまともに狙撃ができるとは思えない。ここは俺に任せて――」

 

「いえ、東さん。狙撃はしません」

 

「なんだって?」

 

「僕に考えがあります。手伝ってくれませんか?」

 

 

 自身が使い物にならないことは修も重々承知している。しかし、だからと言ってこのまま戦線離脱するわけにはいかない。ならば、使えない戦力の使い道などただ一つしかない。

 修は東に作戦を伝えると、人見と一緒に驚かれることになる。

 

 

 

***

 

 

 

「(高性能な力は消耗が激しい。それを今回の戦いで感じ取ることができたようだな。それでも戦う姿勢を崩さない。それは大事なことだぜ、メガネくん)」

 

 

 後輩の戦いぶりに満足気に笑みを浮かべる迅は持ち込んだぼんち揚げに手を伸ばすが、どうやらすべて食べつくしてしまったらしい。一枚も残っていなかった。

 

 

「ぼんち揚げもなくなったことだし、俺は玉狛に帰るかな」

 

 

 今回の暗躍はすでに終わっている。その結果、自分の想像以上の結果が得られたことに満足したのだろう。迅はくるりと踵を返して、その場から去ろうとするのだが。

 

 

「ほぉ。どこに行くのだ、迅」

 

 

 腕組みをしていく手を阻む風間によって移動することができなかった。

 

 

「あ、風間さん。こんちは。風間さんもメガネくんの奮闘を見守りに来たのですか?」

 

「噂を聞いて見に行こうとしたのだが、それよりも菊地原が面白い話を聴いたものでな。東隊の隊室に寄ってあの二人を諌めていたら、来るのが遅くなった」

 

 

 風間の言葉に頬を引きつる迅。修のように額から冷や汗を流した迅は、この場に居続けたら危険と判断し――

 

 

「そうなんだ、それは大変でしたね。じゃ、俺はここで――」

 

 

 ――戦略的撤退を実行したのだが、行動を先読みしていた風間は己の部下を呼んで捕縛させたのであった。

 

 

「ちょっ、風間さん。なに、なにこれ!? なんで俺、こんなことになっているの」

 

「黙れ、馬鹿者。小荒井と奥寺から聞いた。お前、あの二人に人見の邪魔をしろと頼み込んだらしいな。東さんが三雲を愛弟子にするなんて嘘までついて……」

 

「いやいや、嘘じゃないですよそれ。俺のサイドエフェクトは――」

 

「それに加えて、奈良坂には三雲がきのこ派でたけのこ派をバカにしていたとか、古寺には宇佐美の裸を覗いたとか、ある事ないことを吹聴したらしいな」

 

「あ、あはははは。こ、これには深い事情があって」

 

「ほぉ。なら、その深い事情と言うやつを聞かせてもらおうか。歌川、菊地原。すまないが、このバカを部隊室へ連行してくれ。俺も後で行く」

 

「「了解です」」

 

「か、風間さん。俺の話を聞いて! これは俺のサイドエフェクトが、サイドエフェクトが――」

 

 

 お決まりのセリフを言わせまいと歌川と菊地原が迅を連行していく。

 

 

「さぁ! いよいよ、この狙撃合戦もクライマックスに突入だ! いきなり倒れる三雲隊員でしたが、戦闘を続ける模様。ツイン狙撃の名手佐鳥隊員に三雲・東両隊員はどう立ち向かっていくのでしょうか」

 

「離せ、出水! あの戦いに俺も参加する。参加すると言ったら参加するんだ!」

 

「ダメです、太刀川さん。メガネくん達の邪魔をしないでください! 誰か、ヘルプ! ヘルプミー!! この太刀川さんを誰か止めて!!」

 

 

 熱の籠った実況の脇で醜い争いを続けている太刀川と出水の争いに風間は深いため息を吐く。このままでは太刀川は出水の制止を振り払って戦いに参加してしまうだろう。

 

 

「……あいつ、レポートは終わらせたんだろうな」

 

 

 もちろん、終わっていません。

 死刑を告げる風間の足が太刀川へ向けられる。数十秒後、太刀川は風間の顔を視て某アニメのポーズ「シェー」を披露するのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 気が付けば残りは佐鳥一人であった。

 

 

『信じられない。A級の狙撃手をあっという間に……』

 

 

 綾辻がそんな感想を抱くのは仕方がない。彼女は奈良坂、古寺、当真の実力を重々承知している。そんな実力者をあっという間に緊急脱出へ貶めたのだ。いくら、ベテランの狙撃手東の力を借りても、こんな結果に至らないだろう。

 

 

「はは」

 

 

 佐鳥は思わず笑ってしまう。本来ならば驚き、戦慄するところであるが、それ以上に凄過ぎて笑わずにはいられなかった。

 

 

「……やっぱ、すげぇわ」

 

 

 自身が極めた狙撃の奥義、ツインスナイプを軽々とやった時から修の凄さを感じさせられたが、彼の真価を目の当たりにして――気おくれするよりも、やる気が一気に増したのであった。

 

 

「(やべぇ。もしかして、いま俺はめっちゃ興奮している?)」

 

 

 気持ちの昂ぶりが抑えきれなかった。

 今の佐鳥は目の前に立つ敵、修にどうやって狙撃を当てるか何度も頭の中でシュミレートしている最中であった。

 

 

「(当てられないとは考えない。必ず当てて見せる。俺のツインスナイプで)」

 

 

 修が再び起動させていたバッグワームを解除する。もはや敵は目の前の佐鳥ただ一人。バッグワームを使っても意味がないと思ったのだろうか。代わりにライトニングを生み出し、ツイン狙撃の体勢に入る。

 

 

「(わかっているじゃないか、三雲くん。ツインスナイプ対決。この戦いに終止符を打つのはこれしかない)」

 

 

 と、思っている佐鳥に綾辻の叫び声が耳をつんざく。

 

 

『避けて、佐鳥くん! 狙撃が――東さんの狙撃が来る!!』

 

「なっ!?」

 

 

 それは一瞬の出来事であった。修の後方で構えていた東がアイビスを構えて、佐鳥に標準を合わせていたのだ。佐鳥もバカではない。東から狙撃を受けないように周囲を警戒していた。しかし、見落としていた。それはなぜか……。

 修の首が左に傾く。動いた分のスペースからアイビスの弾丸が走り、通過していったのだ。普通ならばフレンドリーファイヤー、つまり修自身に被弾するのだが天眼は既に東の弾道を示していたので、躱すのはそれほど難しくなかった。なにせ、内部通信で東が撃つタイミングを教えていたのだから。

 

 

「(俺の注意を引いて、東さんに狙撃してもらう。射線上に立ったのも俺に不意打ちをするためかよ)」

 

 

 アイビスの弾丸が飛来する。イーグレットを捨てて集中シールドを張った所で防ぎきることはできない。狙撃銃の中でも最高威力を誇る銃弾に対処する方法は避けるのみだ。

 

 

「まにあえっ!」

 

 

 東のアイビスを避ける為にビルから飛び降りる。弾丸は佐鳥の右足を捉え破壊する。完全に避け切ることはできなかったが、右足だけならばまだ戦える。視線を修に向け、銃口を合わせると――修も同様に佐鳥へ銃口を向けていた。

 

 

「いくぜ、三雲くん。勝負っ!!」

 

 

 

 ――アクロバット・ツインスナイプ

 ――ツインスナイプ

 

 

 

 4挺の狙撃銃が火を噴く。互いの弾丸はすれ違うように飛び交い、互いの頭部と腹部に命中した。

 

 

「はは、相打ちか。けど、楽しかったな」

 

 

 満足気な表情を浮かべて、佐鳥の戦闘体は粉砕される。

 同様に修の戦闘体も佐鳥の弾丸によって破壊され、二人同時に緊急脱出されるのであった。




なかなか難産でした。
あと、1話を書いたら狙撃編は終了となります。

次はシューター編かアタッカー編にしましょうかね。
さて、だれがいいですかね(チラ
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