三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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とりあえず、これで狙撃編は終了です。
ちょっと無理やり感があるかな?


SE修【天眼】A級狙撃小隊⑤

 狙撃合戦の戦績は三雲・東コンビが1でA級狙撃小隊が2と言う結果に終わった。

 普通の勝負ならばA級狙撃小隊の勝利になるのだが、今回のA級狙撃小隊の勝利条件は3勝連取だ。よって、今回の勝負は三雲・東コンビの勝利となる。

 佐鳥は清々しい表情で修と東に近寄り、勢い良く頭を下げて告げる。

 

 

「すみませんでした、三雲くん。東さん」

 

「や、止めてください、佐鳥先輩」

 

「そうだぞ、佐鳥。理由は綾辻から聞いた。お前なりに色々と悩んでいたんだろ。今回の件は水に流してやる」

 

 

 公衆の面前で先輩に頭を下げられて平常心を保てるほど修の面は厚くない。それに、今回の事の原因はブースを出る前に人見を通じて綾辻から聞かされていた。巻き込まれた二人からしてみればいい迷惑でしかないが、狙撃手の未来を真剣に考えていた佐鳥を怒るに怒れないでいた。

 

 

「……三雲くん。東さん」

 

「ただ――」

 

 

 感涙する佐鳥の後ろに控える奈良坂と古寺に視線を向け――。

 

 

「この二人については説明してもらうぞ」

 

 

 ――予想外の増援を要請したであろう佐鳥に問い質す事にした。

 

 

「それは……」

 

 

 東から視線を反らす。

 黒幕迅に「俺がやったって事は内緒だよ」と釘を刺されていたのだった。約束を守る必要はどこにもないが、迅は自隊の隊長の友人である。部下として、後輩として、自隊の隊長の友人である迅を裏切るのはいかがなものか、と悩んでいる間に――。

 

 

「――それについては俺が説明してやろう」

 

 

 黒幕を尋問した風間が仲介役を買って出てくれたのだった。

 

 

「風間さん?」

 

「調子が良さそうだな、三雲。だが、まだまだ動きが硬いな。サイドエフェクトに頼り切りな戦い方ではいずれ痛い目に合う事を忘れるな」

 

「はいっ!」

 

 

 風間の指摘はもっともであった。それは修自身も痛感していた。特に最後の狙撃は相討ちで終わらせてはいけなかったのだ。けれど、修は佐鳥のツイン狙撃をまともに受けてしまった。

 あの時、ライトニングを構えるだけで精一杯だった。悟られない様に平然を装ってはいたが、佐鳥の狙撃を避ける素振りも見せなかったのが何よりの証拠である。

 サイドエフェクトに頼り切りでは肝心な時に使い物にならなくなるかもしれない。そうならない様にもっと鍛錬を積む必要がある。新たな課題が浮き出した事は歓迎するべきことだ。そう言う意味では今回の戦いは決して無駄でないと言えよう。

 

 

「で、風間。さっきの言葉は――。その前に、そろそろ太刀川を解放したらどうだ?」

 

 

 事の真意よりも襟首を掴んで引き摺る太刀川の姿の方が気になったのだろう。正直、見飽きた光景であるが、いざ目の当りにすると気になって仕方がないから不思議である。

 

 

「「「(またレポートをすっぽかしたのか、この人は)」」」

 

 

 修を除いた後輩達は同じ感想を抱く。もはや太刀川の今の姿は恒例と化している。初めはA級1位のあられもない姿に困惑したものであるが、今ではすっかり慣れてしまっている。

 

 

「いま、三上に頼んで忍田さんを呼ばせましたので、それまで辛抱してください」

 

「そ、そうか……。まぁ、自業自得だからな」

 

「はい。自業自得です」

 

 

 風間の脇で「ちょっと東さん!」と救援要請を送る太刀川であるが、関わったら面倒に巻き込まれてしまう。過去に経験済みであるが為に太刀川の救援信号を受信する訳にはいかないのだ。常に着信拒否及び通信否定。レポートが絡んだ太刀川の相手は彼の師である忍田に任せるのが一番である。

 

 

「それで、風間。話は元に戻すのだが――」

 

「――その前に、先に風間隊の隊室へ向っていただけませんか理由はそこにいますので」

 

 

 東の言葉を遮って風間は口にする。事の真意を知らない修と東は風間が口にした“います”と言う言葉に首を傾げるのだが、それ以上の説明を風間はしてくれなかった。

 疑問符がまったく消えない事態に戸惑う修と東であったが、話はどんどん先へ進んで行く。

 

 

「奈良坂、古寺。お前らもついて行け。お前らだって巻き込まれた被害者だ。話を聞く権利がある。佐鳥は……好きにしろ」

 

「ちょっ、風間さん。それはないんじゃないですか!? 俺の扱いだけ酷過ぎませんか!」

 

「好きにしろと言っただろ。興味があるなら、4人に着いて行け。止めはしない」

 

「そうします」

 

 

 もはや話の流れを修正する事は出来なさそうだ。諦めた修と東は風間の言うとおり、風間隊へ向かう事にしたのだった。

 

 

「……と、言う事だお前ら。今回のバカ騒ぎはこれまでにしろ。いつかアイツらを脅かす隊員になってみせろ。その気があるなら鍛錬に励む事だな」

 野次馬と化していた他の隊員に向けて檄を飛ばす。修達の戦いにあてられて隊員達は風間の言葉に従って鍛錬を再開させるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 迅悠一は未来視のサイドエフェクトを持つ。迅の眼は修が視る事の出来ない未来の可能性を覗き込む事が可能だ。しかし、迅だって人の子だ。当然に見逃して予知を外す事も稀にある。読み間違えていなければ、菊地原と歌川に尋問されているはずがない。

 

 

「さぁ、迅さん。いい加減に答えてくださいよ。ネタは上がっているんですよ」

 

「だから、言っているでしょ。全部、俺のサイドエフェクトが言っているの。それだけで納得しない!? ね、ねぇ!!」

 

 

 何故か部屋全体を暗くして、中央に机が一つあるのみ。迅と対立する様に座った歌川はいつの間にか持っていたカツ丼を差し出す。

 

 

「……ぇ、なにこれ? いまどうやってカツ丼を出したの?」

 

「迅さん。些細な問題なんて気にしている余裕はないはずですよ」

 

「些細なこと!? 今の絶対に些細な事じゃないよね。歌川のどっかにリアル四次元ポケットでも装備されているの?」

 

「そんな物があるわけないですよ。四次元袖ならありますが」

 

「そっち!? まさかのアチョー版!? 物凄く気になるんだが、見せてくれない」

 

「……迅さん。そろそろふざけるのも止めましょうね」

 

「あ、はい。すみません」

 

 

 相手が歌川と言う事もあって迅も悪ふざけが過ぎたのだろう。まったく反省していない迅に流石の歌川も我慢しきれなかった様子。なぜに歌川がそこまで激昂するのか不思議だったが、彼の言葉から紡ぎだされる言葉によって知る事になった。

 

 

「迅さん。幾らあなたでも宇佐美先輩の裸云々なんて嘘をつくのはいかがなものかと思います」

 

「……ぇ。そっち? ちょっと待って、三上。そんな汚物を視る様な目で俺を見ないで! 誤解だから。誤解だから!」

 

「ここは1階です!」

 

「誰がお約束のボケをしろと言った菊地原! 誤解だ誤解。古寺を動かすのにそれ以外の言葉が思いつかなかったんだよ!!」

 

「そもそも、何であの二人を巻き込む必要があったのですか。あんな直ぐにばれるようなウソまでついて」

 

 

 ウソではない、と迅は問い詰めてくる歌川に物申したいのだが、それを口にすることは許されない。何せ後輩の名誉がかかっているのだから。この場に修がいたならば自分から交渉の材料にしたのによく言う、とつっこまれる事だろう。

 

 

「……メガネくんに実戦経験を積ませたかったんだよ」

 

「メガネ……? もしかして、いま噂になっている三雲くんのことですか?」

 

 

 そうそう、と何度も頷く様子を見て嘘は言っていないと判断する歌川であったが、だからと言ってこんな事をする理由にはならないはず。

 確かに玉狛支部のB級メガネこと三雲修はちょっとした時の人である事は否定しない。なにせ、自身の隊長から勝利をもぎ取った男だ。本部で噂にならない訳がない。

 だからと言って、今回の騒ぎを助長させるような行為をする必要はあったのだろうか。

 考えた末、出た結論はNOのはず。常識人の歌川は迅の言いたい事が全く以って理解出来なかった。

 

 

「それで、三雲くんに実戦経験を積ませてどうしたかった訳ですか? 強くさせたいのなら、わざわざあんな事をさせなくてもよかったじゃないですか」

 

「……黙秘権を使います」

 

「知っていましたか、迅さん。ボーダーに自己負罪拒否特権は通用しません」

 

「いやいや。黙秘権と自己拒否負罪特権は違うからね。詳しくは知らないけど、ウィキさんが言っていたよ!」

 

「マジですか」

 

 

 格好つけて言ったのに、別物と指摘を受けた事に歌川の顔が紅潮する。まさかの知ったか発言を聞いた菊地原「ぷっ」と隠す事無く吹き出すのだった。

 キッとバカにした菊地原を睨むが、この程度で縮こまる彼ではない。それは歌川も承知済みだったので、直ぐに迅へ振り向き直して尋問を続けることにする。戦闘体に換装した後で。

 

 

「……それで、三雲くんに実戦経験を詰ませてどうしたかった訳ですか?」

 

「待て待て! なんでトリオン体に換装する必要がある。暴力に訴える気か!? バカにされただけで御冠になるのはお兄さん、ちょっといただけないと思うな。冷静になろう。話せば分かる、きっと!」

 

「ならキリキリ吐いてくれますよね」

 

 

 

***

 

 

 

 入室するなり、迅と風間隊のコントを見せられた修と狙撃手の5人は唖然とするしかなかった。

 

 

「えっと……。なにこれ?」

 

 

 最初に会話を切り出したのは当真であった。けど、その質問に答えられる人物はこの場にいない。そもそも、なぜに迅が事情聴取紛いな事をされているのか皆目見当もつかなかったのだ。全員が唖然としている最中、太刀川を保護者に放り投げた風間が入室して来た。

 

 

「見て分かる様に全ての黒幕はアイツだ」

 

 

 入るなりの第一声がそれであった。

 修と東は「何故に迅(さん)が?」首を傾げる。

 同様に佐鳥と当真も「なんで?」と首を傾げた。

 対して奈良坂と古寺は「まさか、俺達は――」と自分達が騙されていた事に気付くのであった。

 

 

「あの騒ぎをサイドエフェクトで視ていたのだろう。何を考えて奈良坂と古寺を巻き込んだのかは知らないが、今回の件を利用して三雲に実戦経験を詰ませたかったようだ」

 

「それでは、三雲がキノコ派でタケノコ派をバカにした事も――」

 

「宇佐美先輩の裸を覗き見した事も――」

 

「「全部ウソだったのですか!?」」

 

「……お前達。それを聞いて直ぐに嘘と気づかないのもどうかと思うぞ」

 

 

 まさか、そんな虚言を聞かされて本気にしたとは思ってもみなかった風間は呆れるしかなかった。けど、待ってほしい。

 

 

「(いえ、ごめんなさい風間さん。一つは嘘じゃないんです)」

 

 

 宇佐美の件については全てがウソではない。正確には“覗き見した”ではなく“視えてしまった”であるが、視た事には違いない。

 天眼の効力の一つ、浄天眼は透視の力を有している。集中すればトリオンの流れも見ることが可能なこの力で無意識的に生身の人間を視ると文字通り全てを視てしまう。簡単に言うと真っ裸状態で映るのだ。不幸中の幸いか相手が戦闘体の状態である時はそんな事にならない様なので真面に相手を視る事が出来るのだが、相手が生身の時に関しては非常事態以外を除いてメガネを取らない事にしている。

 

 

「……なるほど。全ては迅が仕組んだことだったのだな」

 

「その通りです、東さん。あのバカは俺から注意しますので――」

 

「分かった。そう言う事なら納得してやるよ。他に別の理由がありそうだがな」

 

 

 さり気無い言葉に瞼がピクリと反応したが、直ぐにポーカーフェイスを決め込み「何の事だか」と白を切る。東もそれ以上追及するつもりはなかったのだろう。この話しは終わりだと言いたげに話題を変えるのだった。

 

 

「……よし。事情は大体わかった。今日の所はこれぐらいにして、お前達。この後、時間はあるか? 折角だから焼肉でも食べて今回の反省会を開こう。勿論、俺のおごりだ。手伝ってくれたオペレーターの二人にも声を掛けないといけないよな」

 

「えっと……。東さん? 迅さんの事は」

 

「気にするな、三雲くん。迅のあれは趣味の暗躍が過ぎた事だ。風間にきついほどお灸をすえてもらって反省させておけばいいさ。それより飯だ。お前達も一緒に来るだろ?」

 

 

 まだ納得のいっていない4人であったが、年長者の東からそう言われると反論する訳にはいかなかった。それに東が奢って貰う焼肉の件は大変魅力的であった。

 

 

「マジっすか。ごちそう様です、東さん」

 

 

 最初に反応したのは当真である。それに習って、佐鳥と奈良坂、古寺も「ありがとうございます」と礼を言って賛同する。

 

 

「なら行くか。佐鳥、綾辻を誘って来い。俺は人見を誘って来るから。……では、二十分後に再度ブースに集合だ。解散」

 

 

 東の指示に従い、修を初めとした隊員はその場から去って行く。対して東は全員が風間隊から去って行ったのを見て風間に問い掛ける。

 

 

 これでいいのだろう、と。

 

 

「流石です、東さん。……迅、歌川。もう茶番はいいぞ。あいつらは出て行ったから」

 

 

 風間の合図で二人は「ぷはー」と大袈裟に息を吐いて脱力する。迅の拷問は既に終わっていたのであった。無理矢理吐かせた内容を聞いた風間は、まず今回の騒ぎを収める為に動いたのである。もっとも東にはお見通しであったようだが。

 

 

「さて、聞かせてもらおうか迅、風間。今回の騒ぎの発端は佐鳥の暴走であるが、それを助長したのは迅、お前なんだろ」

 

「なはは。その通りです、東さん。ちょうど、メガネくんの未来に関係する人間が近くにいたので、今回の騒ぎをちょっと利用させてもらいました」

 

「……未来視か。今回でお前が避けたかった未来は回避できたのか?」

 

 

 迅が意味もない行動をしない事はこの場にいる全員がよく知っている。ただ、それを良しとするかしないかの問題ではあるが。

 

 

「流石ですね、東さん。……まだ、9・1と言った所でしょうか。正直に言って全然足りません。メガネくんにはもっと精進してもらわないと……」

 

「なぜ、そこまで三雲くんを窮地に陥れようとする。彼はお前の後輩のはずだ」

 

「だからこそです、東さん。メガネくんは俺の可愛い後輩だ。だから、今のままではダメなんだ。このままでは――」

 

 

 

 

 

 ――メガネくんは確実に死んでしまうんだから。

 

 

 

 

 

 衝撃的な言葉に東、風間隊の全員は言葉を失う事になる。




この迅さんが妙にギャグキャラと化しているのは、私の気のせいでしょうか。
それに巻き込まれた歌川が不憫で仕方がない。

あ、出水さんを書くの忘れていた。
……ま、いっか。

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