三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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今回(攻撃手編)の修のトリガー構成は以下の通りです。

メイン:レイガスト
    スラスター
    グラスホッパー

サブ :テレポーター
    弧月
    旋空

シールド? そんなもの、我らがOSAMUに必要ありますか?


SE修【天眼】攻撃手①VS太刀川編

 相棒の空閑遊真は三雲修の相棒である。同時に近界民である。

 正確には近界で生まれた玄界の血を引く少年が正しいが。修とは色々とあって同じ支部の玉狛に所属しており、いずれは小隊を組む約束を交わしている仲であった。

 空閑はA級に匹敵する実力を持っている。そんな彼に並みのC級隊員が勝てるはずがない。ランク戦が始まっては一瞬で勝負が決まり、その繰り返しなのだから。

 たまに緑川が顔を出して空閑と戦うのだが、結果は7・3が最高である。勿論、空閑が7で緑川が3である。

 今日も迅から「本部で揉まれて来い」と言われた修は相棒の空閑の戦いぶりを見て他人事のように「凄いな」と感嘆する。近くで修の呟きを聞いていた他の隊員は「お前がそれを言うのか!?」と言いたげな表情で見ていたが、今の修はメガネをかけているので彼ら彼女らの視線に気づく事はなかった。

 そんな修に話しかけるものがいた。この瞬間を待ち遠しく思っていた弾バカ事、出水公平である。

 

 

「よぉ。メガネくん」

 

 

 呼ばれた修は相手が出水であると知ると慌てて立ち上がり、

 

 

「出水先輩、先日はありがとうございました。その、お礼も満足に言えなくて――」

 

 

 すみません、と言うよりも先に出水が言葉を遮る。こんな大衆で時の人である修に謝られたら好奇の目が集まる事は言うまでもないだろう。その好奇な視線を向けて来る輩の中に厄介な敵がいたら折角のビッグチャンスが台無しになってしまう。

 

 

「――いいのいいの。気にしないで、メガネくん。そんな事なんか気にしていないから。今日は一人なの?」

 

「いえ。空閑と一緒に来たのですが……」

 

 

 表示されているモニターに視線を走らせる修の後に続き、彼が何を言いたいのか出水は納得した。いま、モニターでは空閑と緑川がランク戦の様子が映し出されていた。

 

 

「へぇ。初めて見たが、アイツもやるんだな。緑川に圧勝したって噂は嘘じゃなかったんだな」

 

 

 空閑の凄さは専門外な出水でも見て分かる。緑川の動きも光るものがあるが、彼の動きは素直すぎる。ジャンプ台トリガーのグラスホッパーを使えば直線的な動きしか出来ないのは致し方がないのだが、最短ルートばかり選んでいるのがいけなかった。移動ルートを読まれた緑川は頭上から降下してくる空閑の一撃を受け、強制離脱される。

 経験の差が両者の動きに影響を与えているのは言うまでもない。緑川が空閑に一矢報いる瞬間が訪れるのはまだまだ先の事であろう。

 

 

「くっそぉぉ。また負けちゃったか。なんか回数を重ねる毎に遊真先輩に勝てなくなっている気がするな」

 

 

 戦績的には徐々に勝率を増やしているのだが、実感する事が出来なかった。その理由は回数を重ねる度に空閑もまた動きの鋭さが増している為である。慣れない玄界のトリガーを使っている空閑はC級の間に今使用中のトリガーを慣らす必要がある。

 緑川が空閑の動きの凄みが増したと感じるのは、それだけ空閑が玄界のトリガーに慣れて来た証拠である。

 

 

「まだまだだな、ミドリカワ」

 

 

 未熟であることは自覚しているが、空閑に言われると悔しさが込み上がってきたのだろう。緑川はその場で地団太を踏んで大層悔しげな表情を浮かばせていた。

 

 

「……おっ、オサムの横にいるのはイズミ先輩ではありませんか。どもども」

 

「よっ、空閑。中々の活躍ぶりじゃないか。緑川に圧勝するなんてお前は凄いな。これでまだC級とか反則にも程があるぜ」

 

 

 それは修と緑川も同意であった。早くポイントをためてB級に昇格すればいいのだが、緑川と戦ってからと言うもの中々ポイントが溜らなくなってしまったのだ。大半のC級隊員が恐れをなして、誰も空閑と戦おうとしないのだから……。

 

 

「……ま、焦る必要はないだろう。千佳もB級に上がるのに少し時間がかかるようだから」

 

 

 もう一人の仲間になる雨取千佳の成績は悪くないが、B級に昇格するには空閑より少しばかり時間がかかる計算になっている。

 今季のランク戦に間に合ってくれたら御の字だが、最悪の場合は修とオペレーターになってくれた宇佐美の二人組で挑まないといけない事も考慮に入れるべきだろう。ちなみに、迅が修の許可もなく勝手に三雲隊発足の申請書が出されたのは言うまでもないだろう。

 その後、玉狛第一の全員によって粛正されたのも想像出来たことであろう。

 

 

「そうだ、空閑。悪いんだけど、ちょっとメガネくんを貸してくれないか?」

 

「ん? オサムが良いならば、俺は構わないけど……。けど、何で?」

 

「この前の緑川&木虎戦で他の射手から紹介しろって言われたんだよ。前々から声を掛けようと思っていたんだが、みんなが集まれた日はメガネくん、狙撃戦をしていたしな。で、どうかな?」

 

 

 ちなみに、その後に射手全員にラインで連絡を取ったら、それはもうクレームの嵐であった。非難轟々、罵詈雑言と言った四字熟語が似合う状況とだけ言っておこう。

 特に二宮の返し文句が酷かった。使えない、とかならまだしも「だから、お前に彼女は出来ないんだ」は大きなお世話であった。自分だってホスト紛いな格好をしているのに、と返信を送ったら鬼の形相を浮かべた二宮とリアル鬼ごっこをするはめになってしまったのは秘密である。

 仮に今回も修を連れてこられなかったら、出水の運命は絶望の淵へ立たされることになるだろう。それだけは何としても避けなくてはいけない。もし、今回もダメなら二宮から「加古のチャーハンを食わす」とまで言われている。真っ白に燃え尽きて倒れ伏す堤を見た事がある身としては何としても避けなくてはいけない。

 

 

「その……。大変魅力的なお誘いなのですが、生憎先約がありまして」

 

 

 

 ――ピキ

 

 

 

 気のせいか、出水の体の一部にヒビが生じた気がする。トリオン体に換装していないはずなのだが。

 

 

「……ま、まぁ。急に誘った俺も悪いとは思うが、ちなみになんで?」

 

「えっと、この後は……」

 

 

 この後の予定を告げようとした時、修の待ち人が現れる。出水公平が所属している部隊の小隊長、太刀川慶であった。

 

 

「よっ。待たせたな、三雲」

 

「いえ。わざわざ時間を割いていただき、ありがとうございます」

 

 

 気軽に手を挙げる太刀川に対し、修は深々とお辞儀をしてお礼を述べる。そんな二人の会話を唖然と見ていた出水が割って入るのだった。

 

 

「ちょっ! 太刀川さん、これはどう言う事ですか?」

 

「なんだ、出水。いきなり怒鳴りだしてよ。俺は迅に頼まれて三雲と一戦する予定だ」

 

「はぁ!? 迅さんが?」

 

 

 どう言う事だ、と修の方へ視線を向ける。その眼が「説明を求める!」と言いたげに物語っていたので、事の経緯を出水に説明し始めるのだった。

 

 

「迅さんが「メガネくんのそれは物凄い力だけど、まだまだ持て余し気味だよね? だったら、慣れるまでとことん実力者と戦って戦って、戦うべきだよ」なんて言い出して、太刀川さんを初めとした攻撃手の実力者に声をかけてくれたんです」

 

 

 それを聞いた出水は頭を抱える事になる。

 

 

「(なんでこんなタイミングで……。しかも、何で攻撃手なんだよ。恨みますよ、迅さん)」

 

 

 この瞬間、出水は加古のロシアンルーレット式のチャーハンを食すことが決定したのだった。確率的に二割の計算だが、もしその二割のチャーハンを食す事になったら堤の様に三途の川を見学する事は間違いないだろう。この未来を既に視ていた迅が合掌したのは言うまでもない。

 

 

「オサム。今回は攻撃手メインのトリガー構成なんだろ? 玉狛に帰ったら、俺ともやろうぜ」

 

 

 空閑の言うとおり、今回のトリガー構成はなぜか近接系のみの構成となっている。

 これも迅が色々と暗躍した結果であり、いつも使っていたトリガーは宇佐美に没収されていたのだ。

 それを聞いた出水は吠えた。それはもう、魂の叫びが木霊するほどに。

 

 

「はぁ!? なんでそうなる訳!! メガネくんは絶対に射手の方が合っているはずだよ。なのに、何で攻撃手メインのトリガー構成なんだよ!!」

 

「お、落ち着いてください、出水先輩。僕も色々と納得がいっていませんでしたが「全てのトリガーを使って天眼の可能性を模索せよ」言われた時、迅さんは僕の事を色々と考えてくれていたんだな、と痛感したんです。迅さんの期待に応えたい。ですから……」

 

 

 いま抱いている感情を伝えたかったのだが、上手く言葉にする事が出来ない様であった。徐々に尻すぼみになる修を見て、まるで自分が苛めている様な錯覚を覚えた出水は後ろ首をガシガシ掻いて後に「分かった。分かったよ」と声を上げる。

 

 

「悪かったよ、メガネくん。本当は射手会に誘おうと思ったんだが、先約があるならば仕方がない。けど、次は俺と一緒に参加してくれよ」

 

「はい。勿論です!」

 

 

 出水の申し出は有り難かった。修自身はもう少し弾丸トリガーの使い方を勉強したいと思っていたところ。天眼を有意に扱うため、自身の実力を伸ばす為にも必要な課題であると思っていたからだ。

 

 

「話は終わった? じゃ、早速やろうぜ」

 

 

 待ちきれなかったのだろうか。会話の区切りを見越して、太刀川は修の襟首を掴んだかと思うと、そのままずるずるとブースの方へ連れて行く。

 

 

「ちょっ。た、太刀川さん!? どこにも逃げませんから、離してください」

 

 

 抗議の声が上がるが、太刀川は聞く耳を持つ事はなかった。これから始まる戦いを想像してにやける事で思考が一杯なのだから。

 

 

 

***

 

 

 

 攻撃手用の修のトリガー構成は迅と宇佐美、修の師匠である烏丸の3名によるディスカッションによって決められた。その場にいた修は「無理です、無理です。無理ですから!」と何度も抵抗を見せたのだが、誰も修の言葉に耳を傾けてはくれなかった。

 3人の白熱したディスカッションの末に決められた構成はガチガチの近接戦闘用である。攻撃手だから当たり前だ、とツッコミをするものもいるであろうが、修のトリガー構成は一言で例えると“零距離戦闘術”であった。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 銀閃が宙を駆け巡る。太刀川慶が繰り出した弧月のオプショントリガー、旋空による現象だ。旋空によって伸びたブレードは真直ぐと修の体躯を両断せんと襲い掛かるが、旋空が到達するよりも早く修の姿はその場から消え去るのだった。

 

 

「おっ?」

 

 

 予想外の動きに一瞬だけ太刀川の動きが鈍る。旋空が虚空を断ち効力が消えると同時に太刀川の目と鼻の先に修の姿が突然現れたのだった。

 

 

「テレポーターかっ!?」

 

 

 出現すると同時に生み出したレイガストを振り上げて渾身の一撃を放つ。

 テレポーター。文字通り瞬時に移動して、敵の意表を突く瞬間移動トリガーだ。修の姿が一瞬にして姿が消えたのはオプショントリガーのテレポーターによる効力のせいだ。

 意表を突いた修の攻撃は誰もが命中すると思った。しかし、弧月を使わせたら№1の太刀川にとって修の斬撃は遅すぎた。

 二刀の弧月を交差して修のレイガストを受け止める。完全な不意打にも関わらず通らなかった事に舌打ちする修であったが、対する太刀川は満面の笑みを浮かべて告げる。

 

 

「いいね、お前。今の一撃は中々面白かった。だが、スラスターなしの攻撃なんて……」

 

 

 と、自分で言ってから疑問が過った。レイガストは他のブレードトリガーと比べて重量物である。それ故に応用性の利くこのトリガーの人気度は低いとされている。

 レイガストで攻撃を行う場合はスラスターと併用して攻撃をするのが定石だ。しかし、今回の修はそれをしなかった。なぜか……。その答えは次の瞬間に知らされる事になる。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 ここでスラスターが起動される。今のレイガストは太刀川の二振りの弧月に阻まれている状態だ。そこにスラスターの推進力が加わると言う事は……。修の狙いは刃を交えたまま、強引に太刀川を叩き伏せるつもりだ。

 太刀川の顔から余裕の笑みが消える。スラスターによって加わった力によって刃を抑えつけられなくなっているのだ。このまま下手をしたら、そのまま修のレイガストの餌食になってしまう。

 

 

「そうは、いくかよっ!!」

 

 

 受け止めきれないと判断し、修のレイガストを受け流す事にしたようだ。強引に体を捻ってレイガストの軌道をずらした太刀川は、そのまま回転して二刀の弧月で薙ぎ払う。

 しかし、そこに修の姿は既になかった。レイガストを受け流されたと同時にテレポーターでその場から離脱し、次なる強襲を図ったのだ。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 太刀川の頭上に移動した修のレイガストが空を裂きながら振り降ろされる。まさか、テレポーターで自分の真上に移動したなんて思わなかった太刀川は跳びはねる様にその場から離脱し、辛うじて避ける事に成功する。

 

 

「うはっ! マジか、お前」

 

 

 太刀川の機嫌が更に上昇する。まさか、B級の隊員に苦戦する日が来るとは思ってもみなかったのだろう。

 

 

「お前みたいなやつがまだいるなんてな……。だからこそ、戦いはやめられないっ!!」

 

 

 一瞬にして太刀川のギアがトップへシフトされる。初めは興味本心に請け負った頼みごとであったが、今は目の前の敵と切り結びたくて仕方がなかった。

 

 

 

 ――グラスホッパー

 

 

 

 ジャンプ台トリガー、グラスホッパーを起動させて一気に修へ詰め寄る。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 だが、それに合わせて修はレイガストを投擲したのだった。同時のタイミングでレイガストが真直ぐ飛来してくる事に驚きはしたものの、弧月で薙ぎ払って事なきを得る。

 けど、修の狙いは太刀川の意識を一瞬でも自分から外す事であった。レイガストを投擲して放ったのも次なるブレードトリガーを生み出す為に必要な手段であったのだ。

 

 

「旋空――弧月っ!!」

 

 

 居合の要領で抜き放つと同時に刃が太刀川の首目掛けて伸びていく。しかし、修の旋空弧月は他の攻撃手と比べて遅すぎた。この程度の旋空弧月など太刀川は目を瞑っても避ける事が出来る。

 

 

「甘いな、三雲っ!!」

 

 

 間合いを詰め寄る事が出来た太刀川は容赦なく修へ必殺の一撃を叩き込んでいく。

 

 

「くっ」

 

「ほらほら、どうした三雲。それがお前の実力かよ」

 

 

 縦横無尽に空を断つ太刀川の弧月を強化視覚をフル稼働させて弧月で防いでいく。だが、修の剣術は素人に毛が生えた程度。受け流す技術を持っていない修にとって、一太刀受ける度に腕が痺れていくのだった。

 このままではジリ貧と考えた修は更なる強襲を図る。二刀の弧月を振り上げると同時に最短の攻撃、突き技でカウンターを試みたのだ。予備動作のない突きは太刀川の喉を確実に捉えると思ったが、太刀川の一撃はそれ以上の速さで修の身体を切り裂くのだった。

 

 

 

 ――戦闘体活動限界。三雲、緊急脱出。

 

 

 

「悪くない動きだったが、まだまだだな」

 

 

 初戦は太刀川の勝利で終わる。だが、修の戦いはこれからだ。

 二人の戦いを見守っていた米屋が次に控えていたのだ。




はい、今回は攻撃手編です。

射手編を期待していた方には申し訳ありませんが、メインは最後の最後まで取っておくことにしました。

ちなみに、一戦一戦、戦う相手を変えていこうと思います。
つまり、アニメでやっていた100連模擬戦……。え、そんなのなかった?

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