三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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米屋戦が短いなぁ。
けど、槍対刀とか思いつくネタがないよぉ。


SE修【天眼】攻撃手②VS米屋編

 剣道三倍段と言う言葉がある。

 槍術の使い手と戦う時、剣術で立ち向かうには3倍の技量が必要になる、と言う意味だ。

 

 

「どうしたどうした、メガネボーイ! 守ってばかりじゃ俺に勝てないぜ」

 

 

 数多の流星を解き放つ米屋の攻撃に修はレイガストで防ぐので精一杯であった。米屋の攻撃に突き飛ばされない様に力一杯踏ん張るのだが、そのせいで動きを止めざるを得なくなってしまった。結果、米屋の的になっている始末だ。

 このままではジリ貧と思ってテレポーターで離脱し、強襲するのだが、移動した直後に槍先が飛んで来る。これでは襲撃する余裕がない。何とかレイガストで槍型弧月を防ぐが、これではさっきと全く同じである。

 

 

「(なんでだ。テレポーターが見破られている。米屋先輩はなんで僕の移動先を正確に把握しているんだ)」

 

 

 普通のテレポーターの使い手ならば視線の先、かつ距離は数十メートル以内という制限がある。それならば熟練者ならば使用した途端に移動先を割り出す事が可能だろう。

 けど、修のテレポーターは複眼が絡んでくる。全方位を見渡す事が可能な能力を有している修に“視線の先”と言う制限がなくなる。その制限がなくなるだけで、テレポーターの機能がどれほど厄介な効果をもたらすか想像がつくだろうか。それでも、米屋は確実に修の居場所を把握して迎撃を図ってくる。

 

 

「(何か理由があるはずだ)」

 

 

 ためしにもう一度だけテレポーターを起動させる。

 今度は米屋の後ろに回り込む様に設定。次の突きが届く瞬間に実行に移したのだった。

 

 

「(……ん?)」

 

 

 ほんのわずかな瞬間であったが、米屋の動きが――正確には彼の視線が動いたのだった。あまりにも一瞬の出来事だったので、天眼の強化視覚がなかったら見逃していた事であろう。

 米屋は移動する前に修の膝を見ていた。それで何が分かるのかと思うものもいるだろうが、太刀川戦を観戦していた米屋はあの一戦で気づいてしまったのだ。修がテレポーターを発動する際に癖が出てしまう事に。

 

 

「(膝が動かなかった。と言う事は、俺の直線上か!)」

 

 

 修の癖から米屋は移動してくる先を正面・頭上・背後の三か所まで割り出す事が出来た。しかし、それだけではまだまだ対処する事は不可能なのだが、直線状ならば話は早い。

 

 

「せやっ!!」

 

 

 正面に向けて一突き。修が現れないと分かるとそのまま体を捻って扇を描くように振り上げて、背後に向けて振り下ろす。

 弧月が描く軌道の延長線上に修が出現する。絶妙なタイミングで現れた修の右肩に米屋の弧月が喰い込み、右腕を刈り取っていく。

 

 

「くっ!」

 

 

 右腕を庇いながらテレポーターを起動して、戦線を離脱。トリオン量が少しでも漏れるのを抑えた修は離脱前に米屋が同じ様に膝を見ていたのを見逃さなかった。

 

 

「まさか……」

 

「おっ。その様子は気づいてしまったか。メガネボーイ、テレポーターを使うならもっとさりげなく使えよ。重心が僅かだが行きたい方へ傾く癖がある。それじゃあテレフォンパンチ同然だ。……ま、使い慣れていないトリガーを使っているから、仕方がないかも知れないがな」

 

 

 米屋が視ていたのは膝から下の傾き具合であった。修が前方へ移動する際には僅かながら前のめり、膝から下が若干であるが後ろへ引かれているのを米屋は見逃さなかったのだ。

 それが修のテレポーターが通用しなかった理由だ。けど、理由が分かったとは言え、解決できる問題ではない。人の癖とは早々簡単に治るものではない。意識して動けばその分だけ反応速度が遅くなる。修にとって反応速度が遅くなるのは死活問題である。

 なら、癖が分かっても対応が出来ない奇策と奇襲を図るしか方法がない、と修は考え付くのだった。

 

 

『ねぇ、修。あんたなら、この漫画みたいな事が出来るんじゃないの?』

 

 

 先日、小南が何気なく見せたマンガの内容を思い出す。それはとあるマフィアの剣士が使っていた剣士にあるまじき戦法の一つだった。

 鞘から弧月を抜き、無造作に放り投げ――弧月の柄を思いっきり蹴り付ける。

 

 

「……は?」

 

 

 弾丸の様に弧月が飛来してくる。米屋もまさか修が弧月をサッカーの要領で蹴り出して、自身へ放つとは思ってもみなかったのだろう。驚いたのが素直な感想であるが、それだけである。

 

 

「甘いぜ、メガネボーイ」

 

 

 弾丸と言っても出水のアステロイドと比べるとそれほど速くはない。驚愕して反応が遅れたと言っても十分対処できるだけの距離はあった。

 向かって来る弧月を薙ぎ払ってもよかったが、その直後に懐へ飛びこまれる可能性もある。奇襲騙し討ちが得意な事は今までの戦いで確認済みだ。なら、米屋が取る行動は向かって来る弧月を躱して修に突撃あるのみ。

 飛来する弧月の軌道は米屋の額へ注がれている。体を左へ沈ませて躱した米屋は修へ突撃を図るのだが、既に修の姿はその場になかった。

 

 

「(どこへ消え……っ!?)」

 

 

 背中から僅かながら違和感を覚えた。それは米屋が培った攻撃手としての危機的能力だったのかもしれない。既に突撃せんと全体重を傾けていて振り向く事は出来ないでいる。

 米屋は自分の勘を信じて、そのまま前転跳びをする要領でその場から離脱。その直後に修の弧月が閃くのだった。

 

 

「……マジか。蹴った弧月をテレポーターで回り込んで、空中で掴んでそのまま斬り付けるとか。無茶苦茶もいい所だろ、メガネボーイ」

 

「はい。僕もそう思います。けど、これぐらいしないと米屋先輩には勝てそうにもなさそうなので」

 

「言ってくれるじゃないか、メガネボーイ。なら、遠慮なくかかって来い」

 

「はい!」

 

 

 再び二人の弧月が激突する。奇襲と正道の戦いは米屋の闘争心に焔を燃え上がらせるのに十分であった。

 

 

 

***

 

 

 

「……なぁ。メガネくんのあれは絶対に誰かの入れ知恵だろ。弧月を蹴るとか、絶対にメガネくんの発想じゃないよな」

 

 

 対米屋の戦いを見守っていた出水は隣で「今度、俺とも戦ってくれない?」と太刀川にランク戦を申し込んでいる空閑に訊ねる。

 

 

「うーん。アレについては俺も分からない。けど、何かこなみ先輩やしおりちゃんに色々と見せられていたなぁ。マンガ? がどうのこうのって」

 

「分かった。犯人が誰かわかったから、もういいや」

 

 

 胸中で「何をしているんだ、あの二人は」と悪態つく。あんな姿を見せられたら――。

 

 

「マジか。三雲のやつ、俺の時はあんな戦い方をしてくれなかったぞ。よし、米屋の次は俺が――」

 

「ダメです。今日は色んな隊員と戦わせるって迅さんから言われたんでしょ! 太刀川さんの役目はもう終わりました! 大人しく餅でも食っていてください」

 

 

 ――目を輝かせて子供の様に騒ぎ立てる太刀川を制さないといけなくなる。

 

 

「けどよ、出水。まだ誰も来ないんだからいいじゃないか。折角、三雲もいい感じに温まって来た事だし、誰も来ないなら――」

 

「残念でした。どうやら来たみたいですよ」

 

「え?」

 

 

 出水が指差した方向から、修の次の相手と思われる人物達が現れる。

 先日、迅に騙されて問題を起こした東隊の攻撃手二人、奥寺常幸と小荒井登だ。

 

 

「これはこれは、おくでら先輩とこあらい先輩。二人もオサムの相手をしてくれるの?」

 

 

 自分達へ近寄る奥寺と小荒井に手を振り、挨拶を交わす空閑に二人は「そうだよ」と「この前のお詫びも兼ねてね」と返すのだった。

 二人は狙撃戦の翌日、玉狛支部に来て修に謝罪とお詫びの印である焼き肉店の御食事券を贈って和解済みだ。元々、迅の暗躍から起こった事件だから修はまったく気にしていなかったが。

 

 

「なに? 次はお前達二人とやるの? 2対1なら――」

 

「俺も参加するって言うのはなしですからね。メガネくんは木虎と緑川のタッグでも充分に戦えるって証明されているんですから」

 

「なにそれ!? 俺、そんな面白い話を逃したの!?」

 

 

 知らない所でそんな楽しそうな事をしていた事に悔しがる太刀川を放って、先ほどから落着きなく観戦している緑川の方へ視線を向ける。

 

 

「いいないいな。俺も頼んだらまた戦ってくれるかな。どう思います、遊真先輩」

 

「なら、この後に玉狛に来るか? それで俺とタッグを組んで修とやろうぜ」

 

「なにそれ!? 超楽しそう。やるやる! 玉狛に行けば迅さんにも会えるし、断る理由なんてないですよ!!」

 

「なら、決まりですな」

 

「みなぎって来たぁあ!! よーし。次は負けないぞ!!」

 

 

 期待していなかった再戦が叶いそうになった緑川は子供の様に燥ぎまわる。体全体で喜びを体現した彼に冷たい視線を送る者がいた。

 

 

「駿。なにバカ騒ぎしているの? みっともないからやめなさい」

 

「……なんだ、双葉か。せっかくいい気分になっていたのに色々と台無しだよ。てか、何の用? 俺、三雲先輩の攻略法を探すのに忙しいんだけど」

 

 

 緑川を諌めたのは同じA級隊員の黒江双葉であった。彼女がランクブースで話しかけるのは珍しい。と言うか、自隊の隊長である加古と離れて単独で動いていること自体が珍しかった。

 

 

「その三雲先輩の相手を頼まれたの」

 

「……は? 誰に??」

 

「迅さんからよ。うちのメガネくんに韋駄天は通用しないよ。何せ、全部見えるんだから。って言われた。それが本当かどうか確かめに来た」

 

「なにそれ!? 俺、頼まれていないんだけど。なんでだよ迅さん! 俺だって三雲先輩の相手に相応しいはずだよ!!」

 

 

 明後日の方角に向かって吼える。そんな緑川など放って、空閑にお辞儀したのだった。

 

 

「初めまして、黒江双葉です。空閑先輩ですね? お噂は迅さんから聞きました」

 

「ほぉほぉ、これはご丁寧に。俺は空閑遊真。オサムの相棒になる男だ。よろしく」

 

「噂は本当だったんですね。私達歴代の討伐記録を塗り替えた人がパンドラと小隊を組むって……」

 

 

 ちなみに黒江が言うパンドラとは修の別名と言うか二つ名と言うか、忌み名と言った方が正しいか。何をしでかすか分からない吃驚箱と言う意味を込めてC級隊員達に言われるようになっていた。

 

 

「ほぉほぉ。そんな噂話が流れていたとは。流石はオサムだ。噂の絶えない男ですな」

 

 

 その噂の大半の原因は空閑にあるのだが、それを言った所で何も始まらない。黒江は米屋と刃を交わす修達の戦いぶりを見やる。

 

 

「米屋先輩に随分と苦戦していますね」

 

 

 お世辞にも強い印象は感じられなかった。あんな人が自分の韋駄天を防げるのか、と疑問に思っている時、出水が横から解説しだす。

 

 

「ま、今のトリガーは本来のメガネくんのトリガーじゃないからな。慣れないのもあって、動きが硬いのは仕方がない。けど、徐々に槍バカの軌道を読んでいるぞ」

 

「そうですか? 米屋先輩には幻踊弧月があります。あれでは……。あ、ほら。言った傍から、首を両断されてしまいました」

 

 

 黒江の言うとおり、紙一重で弧月の矛先を避けようとした途端に修の首は体と離ればなれにされてしまっていた。矛先の形状を変化させるオプショントリガー幻踊弧月を使って米屋が騙し討ちで葬ったのであった。

 

 

「あの人、本当に強いんですか?」

 

「ま、視ていなよ。メガネくんは戦いを増す毎にイヤらしく、強くなるんだから」

 

 

 出水の言葉の真意は次の奥寺と小荒井戦によって証明されるのだった。




……うん。刀を蹴りだした技はもうお気づきですよね。
云々炎とか出しませんからね。ほ、本当だよ。

あと、お気づきかもしれませんが、感想で何気なくつぶやいた案が採用されていたりします。
そう! あなたの感想で話が変わる(チガウ

すみません、調子にのりました。

次は奥寺&小荒井戦となります。その次は韋駄天黒江さんです。……たぶん。

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