まあ、色々とあって今まで放置しておりました。
『三雲ダウン』
これで何度目になるであろうか。
修は容赦なく襲い掛かる弾丸の嵐を避けつつ、自分の不甲斐なさに悔恨を感じずにいられなかった。
「その程度か、貴様の実力は。避けてばかりじゃ勝てる戦いも勝てないぞ」
防戦一方の修に更なる
二宮が放った
しかし、修には弾丸の軌道を可視化する事が出来る鷹の眼がある。二宮の
弾丸の軌道が分かれば躱す事は容易い――と、思いきや襲い掛かる二宮の
「
――
更なる
「くっ!」
回避の選択が無理なら、残されているのは防御のみ。レイガストを前に突き出して、弾丸を防ごうと動く修のレイガストに
『三雲ダウン』
「強化視覚と言うサイドエフェクトがあると言うのに余裕がなさ過ぎる。圧倒的な物量戦で来られただけで困惑している程度じゃ、この先やった所で時間の無駄だ」
「……もう一戦、お願いします」
「なら、守り一辺倒ではなく少しは攻撃に転じて見ろ。次、こんな不甲斐ない戦いぶりを見せたら終わりにするからな」
「はい! よろしくお願いします!」
負傷したトリオン体が回復したのを確認し、修は再びレイガストを生み出す。
***
出水との訓練の後、修は過去の模擬戦を確認しながら反省点を洗い出す。
「……やはり、これと言った武器がないのがいけないんでしょうか」
「天眼以外と言う意味ではそうかもしれないな。けど、修の真価はチーム戦にある。そこまで深く考える必要はないと思うがな」
隣で見ていた烏丸が応える。
一方的に蹂躙された事に気落ちしている弟子を気にしてか、空気を読まない先輩を蹴り飛ばして一緒に過去の戦いを見ていたのであった。
「……いえ。ランク戦は常に空閑や千佳と一緒とは限りません。特に合流する前に遭遇してしまったら、負ける確率が高いと言えます。……僕に空閑や千佳の様な武器があればいいんですが」
チームメイトになってくれる空閑と雨取は他の隊員には真似できない武器がある。
空閑は機動力と今まで培った戦闘経験がある。並大抵の隊員に後れを取る事など想像すら難しい。
雨取は圧倒的なトリオン量がある。アイビスから放たれる一撃は砲撃と呼ばれる程の威力を誇る。
二人とも単独でも生き残るだけの武器が備わっている。それに加えて修の能力は索敵に特化された力である。使い方次第では多大な恩恵を与えてくれるが、そのデメリットとして自身のトリオンを注ぎ続けなければならない。そのせいで他の隊員と比べてやれる事が少ない。今までは初見と言う事もあってどうにかなったかも知れないが、これからは相手も自身を調べつくすことであろう。そうなってしまえば、修程度の実力で生き残る事は難しくなる。
「けど、修には圧倒的な回避能力があるじゃない。それに加えて
思考が後ろ向きになりつつある修にフォローをいれたのは小南であった。
彼女が言った言葉は本心である。確かに修にとっての強みは単独にないかもしれないが、それは“今の修”と言う意味だ。
修はまだ若い。色んな意味で成長が楽しみな逸材だ。今すぐに結果を求める必要はないと考えている。
「小南先輩の言うとおりだ。……もし、何か変化を付けたいのなら、いっそのことレイガストを外したらどうだ?」
「レイガストを、ですか?」
「そうだ。これまでの戦いに必ずと言っていいほどレイガストを入れていたのは修なりに考えがあったのだろうが、レイガストは修の戦いに不向きなトリガーだと俺は思う。確かにスラスターを併用した戦術は騙し討ちに向いているかも知れないが、それならばスコーピオンやらオプショントリガーを併用して戦った方が修には適していると思う」
仮にレイガストとスラスターを抜けば、烏丸としてはスコーピオンとテレポーターかカメレオンを勧めた事だろう。
トリオン量の問題はあるが、それでもやり方次第では戦い方に変化を与える事が出来る。メテオラで姿を眩ませてカメレオンなんて戦い方も可能だろう。
「けど、それじゃあ
「別に
「そうね。修の天眼があれば――」
「――いや、それではダメだ」
烏丸の考察に納得しそうになった小南の言葉を遮ったのは、今の今まで静観を決めていた木崎レイジであった。
「レイジさん?」
「珍しいわね、レイジさんが意見を挟むなんて」
「本当ならば静観を決め込むつもりだったんだがな……。京介、修を少し借りるぞ」
突然のレイジの誘いに修の眼が点になる。
「それは構いませんが、何をするんです?」
「レイガストの使い方を少し教えるだけだ」
***
――
様子見の意味で二宮は
しかし、弾丸の軌道は前の戦いと同じ様に単純な軌道だ。躱す事は容易であろう。けれど、二宮の狙いはその後だ。大きく回避行動を取った後に――
修の天眼の一つ、鷹の眼もそれは捉えている。普通ならば回避行動か防御の二択しかないのだが、修は第三の選択を選ぶ。
――スラスター・オン
一閃。
弾丸の軌道にレイガストの斬撃の軌道が交差するタイミングを合わせて、被弾するであろう
「ほぉ」
――
お返しと言わんばかりに修も
設定を全く加えていない、いたって普通の
「
修の
シールドを使って防御する事も可能であったが、修の弾丸の軌道は天眼がなくても見極める事は容易。
トリオン量で勝っている二宮の弾幕に修の
が、修の弾丸が二宮の弾丸に触れた瞬間、小規模の爆音と爆風が発生したのであった。
「(
――スラスター・オン
煙幕を突き破る飛来物が二宮を襲う。
「(やはり、レイガストか)」
過去の戦いから修がレイガストを投擲する癖は研究済みであった。姿を眩まし、強襲するにはスラスターを利用したレイガストの投擲は修の攻撃の中で最速の攻撃手段である。
――シールド×2
敵の攻撃手段が分かっているならば慌てる必要はない。
いくら速度の高い攻撃と言っても軌道は容易に見切る事が出来る。二宮程のトリオン量ならばシールドの面積を限りなく小さくしてフルガードをすれば、レイガストの攻撃であっても容易く防ぐことが可能だ。
事実、修のレイガストは二宮のシールドに阻まれて明後日の方角に跳ね返され――爆発する。
「っ!?」
予想もしなかった現象に二宮は顔を初めて表情を崩すことになる。
「(レイガストに
その予想は正しかった。修はレイガストを投擲する前に
「
二宮がレイガストに意識を奪われている間に、修は必殺の一撃を造り出す。
相手がB級一位の部隊である隊長であろうとこの一撃を真面に受ければタダでは済まないはず。
レイガストによる強襲はこの一撃を生み出すための布石にしか過ぎなかった。
――
修の最大火力が解き放たれる。四方に散開した
「ちっ!」
――
最大火力には最大火力。
二宮も出遅れながらも
けれど、八割方は無力化する事は出来たが、それでも数発は迎撃する事が出来なかった。
――シールド
だからと言って、慌てる必要はない。数が減った弾丸など冷静に対処すれば何の問題もない。
シールドで丁寧に受け止めた二宮は次の一手を打つ――前に修がトリオンキューブを握りしめながら突貫してくるじゃないか。
「(バカの一つ覚えだ)」
強襲の一手としては悪くない。けれど、それを可能にするには上位
故に修の吶喊など――。
――
冷静に対処すれば簡単に無力化出来る。
『三雲、ダウン』
実は
弾丸を飛ぶ表現って難しいですよね。
特に修みたいなトリオン量が少ない