いえね、これも閃の軌跡Ⅲやら色々とやりたいものが出たのが悪いんですよ。
……すみません。まだまだ、このVSVSVSは続いちゃいます。
たぶん、次ぐらいで終わるかなぁ?
出水の戦線離脱は勝利が決まったと言ってもいいほどの大打撃であった。相手はA級連合軍。ただでさえ戦力差があったにも関わらず、今では数的不利に加えて五体満足なのはB級の修のみ。普通に考えれば模擬戦の中断を選択するべきなのだが、二宮のプライドがそれを邪魔していた。
「(ここで模擬戦から降りたらアイツらから何を言われるか分かったものではないしな)」
元チームメイトの加古からの嫌味ならば耐性もある故に問題ないのだが、太刀川から嫌味など耳にしたら我慢できる自信がない。きっと
「(だからと言って、このまま模擬戦を続けても――)」
勝てる要素は限りなく少ない。今は修がどうにか踏ん張って太刀川と米屋を抑えているが、そんなに長続きはしないだろう。今もこうして均衡を保っているだけでも上出来だとしか言えないのだ。
「あらあら、二宮君。どうしたの? 随分と大人しいじゃないの」
フフと不敵な笑みを浮かべながら
「(こいつが邪魔だ)」
この戦闘で勝利を掴むためにはいち早く加古を倒さないといけない。けれど、相手はA級であり、尚且つ元チームメイト。互いの癖を知り尽くしている仲だ。易々と倒す事が困難な敵だ。
「それにしても、彼も中々やるわね。太刀川君と米屋君の攻撃を一人で防ぎ切っているのだから」
視線の先には二人の猛攻を辛うじて防いでいる修の姿があった。
「おらおら、三雲! さっきの勢いはどうした!? 手数が少なくなっているぞ」
一閃、二閃、三閃。縦横無尽に空を裂く斬撃が容赦なく修に襲い掛かる。どうにか天眼をフル稼働して斬撃を躱してはいるが、少しずつ太刀川の剣戟が修の四肢を捉えようとしている。幾ら視覚強化の
「こっちも忘れてもらったら困るな、メガネボーイ」
敵は太刀川だけではない。太刀川の隙を窺って、まるで獲物を横取りせんと言わんばかりに攻撃の合間から刺突が襲い掛かってくる。どうにかレイガストの打突で跳ね返してはいるが、二人の猛攻に何時までも堪え切れる筈がない。それは遠くから見ていた二宮も同じ考えであった。
「ちっ」
これ以上無暗に闘いを続けた所で敗北は必須。ならば、いま打つ手は一つしかない。
「
「あら、珍しい手を使うじゃない。けど、させないわ!」
二宮にしては珍しく合成弾を生み出す動きを見せた事に、加古は先手を打つ。素早くテレポーターを使用して距離を詰め寄って、スコーピオンで二宮を斬りにかかったのだ。
けれど、それは予想済み。二宮は加古が飛んだ瞬間に右方へ大きく跳躍して、加古の飛ぶ軌道上から逃れていたのだ。
――
加古が現れると同時に無数の
「二宮君の
狙いは定かではないが、不慣れな合成弾を使ったのには必ず理由があるはず。あの二宮が苦し紛れに解き放つ訳がない。
駆け上がっていた
「三雲、撤退だ! 一旦戦線を離脱する」
「っ!? りょ、了解です!!」
二宮の指示に従い、咄嗟にトリオンキューブを生成。
――
米屋と太刀川の攻撃の隙を突いて
「させるかよっ!」
当然、太刀川と米屋は修を逃がさんと追撃を図るのだが、そのすぐ後に二宮が放った
「……あらあら、随分とらしくない事をしてくれたものね、二宮君。けど、状況は貴方たちが圧倒的に不利よ。さて、どうするのかしらね」
同様に二宮を逃がした加古はスコーピオンを解き、二人の追撃をする事はなかった。ここで無理して追撃しなくても、必ず向こうから仕掛けてくるはず。模擬戦を中断する事など決してしないであろうと確信しているからこその落着き振りであった。
***
一方、この模擬戦を見守っている隊員達は固唾を呑みながら見守っていた。これほどまでの高ランク隊員が一度に模擬戦をする事など早々お目にかかれない事案だ。少しでも彼らの技術を盗まんとC級隊員達は射抜かんと言わんばかりに彼らの一挙一挙を注視している。
「さて、二宮隊長の機転で圧倒的に不利な状況から脱出しましたが、解説の東さん。二人のこの状況を打開するためには、まず何を考えるのが一番よいでしょうか?」
話しを振られた東は「そうですね」と腕を組んで自分の考えを話し始める。
「まず、出水隊員が開始早々に失ったのが大きいですね。彼が健在であるならば、物量戦で攻める戦術も可能でしたが。それに加えて五体満足なのは三雲隊員のみ。まずは数的不利な状況を覆す為に一人倒したい所ですね」
「では、二人が最初に狙う標的は誰になると思いますか?」
「現状ですと片腕を失った米屋隊員ですかね。彼の弧月では無数の弾丸を相手にするには少々分が悪いと思います。けれど、それは太刀川隊長や加古隊長も重々承知しているはず。早々簡単に倒せるとは思えないでしょうね」
「なるほど! さぁ、ここで注目したいのはやはりメガネ、もとい三雲隊員の機転でしょう! 今回は何をやらかしてくれるのか、大いに期待をしたい所です!」
武富の言葉に「おいおい」とツッコミを入れる東であったが、内心では彼も何を見せてくれるのか少しばかり期待を膨らませていた。
「(それに……)」
これはあくまで想像の域を超えていないが、この状況を作り出した黒幕が必ずいるはず。そうじゃなければ、こんなお祭り騒ぎになる事などなかったであろう。最も黒幕の正体など容易に想像が出来てしまうが。
「(これも、お前が作った試練なのか迅)」
***
「おっ、やってるやってる」
今後起こりうる大規模侵攻の防衛に関して打合せをしていた迅は、個人ランク戦ブースが賑わっているのを見て笑みを零す。
見る限り、自分の後輩である修は善戦しているようだ。二宮の援護があるとはいえ、A級三人と戦えつつある事は大きな成果と言えよう。
「これもお前の仕業か、迅」
同行していた風間もこの状況を見やり、ほくそ笑む迅に向けて問い掛ける。風間に追従していた風間隊の三人は「何のことだ?」と互いに見やるのだが、迅はそれを無視して応える。
「まぁね。ここいらで今までの集大成をメガネくんに見せてもらいたくってね。まぁ、加古さんも参加したのはちょっと予想外だったけど」
「だからと言ってやり過ぎだ。あの状況で三雲が出来る手段など数える程ない。出水が墜ちた事で、二人の勝敗は見えたも当然だ」
いくら二宮の戦闘能力と指揮能力が高いとはいえ、痛手を負った状況に加えて圧倒的な戦況を覆す事など難しい。仮にあの場に自身がいた所でひっくり返す事は叶わないだろう。
「あれ? 風間さんともあろう人が弱気だね。何なら、どっちが勝つか賭ける? 勿論、俺はメガネくんが勝つのにぼんち揚げ一年分賭けるけどね」
「……なに?」
迅がここまで強気な発言をすると言う事は、既に
「何を見た、迅」
「まあ見ていてよ、風間さん。メガネくんはこっからが怖いんだからね」
***
戦線から離脱した二人はとある団地に身を隠し、一息を入れる。
「三雲、奴らは追って来ているか?」
「……いえ、追って来ていません。どうやら僕達を待ち構える様子です」
千里眼と浄天眼の二つを活用して、加古達の動向を見た修は答える。それを聞いた二宮は「そうか」と言って、今後の事に思考を移すのであった。
「(さて……。この状況を打開するとなると、どうしても加古が邪魔だ。アイツを先に倒せれば戦況が大きく変わるが――)」
考え、直ぐに自分の考えを否定する。
「(だが、それには二手……。いや、三手足りない。ちっ。出水のバカが墜ちなければ、作戦の一つも考えられたんだが)」
この場に出水がいれば、修の天眼を使って狙撃も難しくないだろう。しかし、それだけではあの三人を仕留める事は難しい。出水がいれば弾幕に混じらせて必殺の一撃を与える事が可能だったが、真っ先に落されてしまった。
「(なら、まずは――)」
本当ならばあまり言うつもりではなかったが、状況が状況だ。
二宮は隣で警戒している三雲に助言を与える事にした。
「三雲、よく聞け」
「はい。なんでしょうか、二宮さん」
「お前には他の隊員と比べて圧倒的に足りない部分がある」
「足りない部分、でしょうか?」
修自身、他の隊員と比べると足りない部分など数え切れないほどあると自覚している。なぜ、今そんな事を言うのだろうかと不思議に思っていると――。
「それは天眼なんて
「……え?」
告げられる言葉は修にとって意外な指摘であった。まさか、天眼がある故に足りないものがあるなんて言われたのは初めてだからだ。
「それはなんですか!?」
「本来ならば自分で気づかせるつもりだったが、事が事だ。あいつ等をどうにかする為に、お前にはその足りない部分を自覚してもらう。お前は敵の動きを見てから動く癖があるな」
それは事実であった。なまじ、強化視覚なんてものがあるから相手が動いてから自身が動いても容易に対応出来ていた。他の隊員と戦った時もこの能力があったからこそ対等に渡り合えたと自負している。
「並大抵の敵ならばそれでもかまわないが、太刀川や加古、米屋の様な強敵と戦う場合はそれでは足りない。お前の身体能力が高ければ、それでも充分対処出来るかも知れないが、今のお前ではそれでは遅い」
今までの修は常に後の先を取っていた。圧倒的な対応能力の高さから敵の攻撃を躱し、いなし、手の虚を突いて勝利をもぎ取る事で勝利を収めていた。
しかし、後の先だけでは強敵と対等に渡り合えることは困難だ。今までの戦いから感じた自身の考えを告げると、修は「ならどうすればいいんですか?」と二宮に訊ねるのだった。
「少しは自分で考えろ……。と、言いたい所だが、今回は特別に教えてやる。お前に足りないのは“想像”だ。相手の動きを予測し、想像して、先手に立ち回って見せろ。常に三秒先の未来を想像して見せろ」
「三秒先の未来ですか」
「他の隊員も無意識にやっている事だ。最も他のやつは勘を働かせているにすぎないがな」
脳天を殴られた気分であった。思えば常に対処する事で頭が一杯で、その先の行動を予測した事があったであろうか。自身の
「初見の加古はともかく、太刀川と米屋は一度戦った相手だ。なら、お前の天眼があれば、挙動から動きを予測できるはずだ」
「挙動から動きを予測……」
無茶苦茶な指摘であったが、なぜか説得力があった。自身にそんな離れ業が出来るのか甚だ不思議に思う所であるが、二宮が無責任な事を言うような人ではない事は数少ない模擬戦で何となく理解していた。
ならば、修が取る行動は一つだけだ。自分の様な人物にアドバイスをしてくれた師に報いる必要がある。
「……二宮さん、一つ考えがあるんですが」
「ほぉ……。聞かせて見ろ」
作戦を修から聞いた二宮は一瞬だけ目を細めるのだが――。
「いいだろう。好きに動いて見せろ」
修の作戦とも言えない作戦に乗る事にしたのだった。
まさかの迅さん、またアンタですか!?
……ぇ、知っていた。でしょうね!
今回は天眼の力のフラグですかね、これ。
まぁ、今後どうなるかは私自身わからないんですが(マテ