三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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……おや?

気が付いたらいつもの倍近くになっているぞ。


SE修【天眼】VSVSVS④

 二宮と修が行方を眩ませたのを機に三人――太刀川と米屋、加古――は展開していたトリガー類を一旦解除する。本来ならば戦場で武器を解除する事は自殺行為なのだが、あの二人が直ぐに行動を起こすとは思っていないのだろう。次に二人が動くときは何やら策を練って立ち向かって来るはず。ならば、こちらもそれ相応に対抗策を練る必要がある。

 

 

「さて、二人とも。二宮君と三雲君はどう来ると思う?」

 

 

 加古は自分の意見を述べる前に、二人の意見を聞く事にした。元チームメイトの二宮の事ならば大方想像つくが、修と戦った事は皆無。それに対して太刀川と米屋は修と一度だけ戦っている。ならば、多少なりとも戦い方を知っていると思って問うてみたのだ。

 

 

「そうっすね。メガネボーイの事ですから、きっと不意打ち、騙し討ちの類の戦略を練ると思うんっすよ」

 

 

 最初に返したのは米屋であった。自身と戦った時は攻撃手(アタッカー)メインのトリガー構成であったが、弧月を蹴ったり、それを囮にして後ろに回り込んだりと真正面から戦う事を嫌っている節がある。ならば、今回も同様な戦い方をするだろうと自分の意見を述べるのだった。

 米屋の推測に「そうね」と同意を示す。模擬戦をチェックした印象として、修は王道よりも邪道を好む傾向が強い。勝利を得る為に創意工夫を重ねた結果と言えよう。真面に戦えば勝てないと考えた故の不意打ち、騙し討ち。ならば、今回のトリガー構成を考慮して戦術を読み取ると――。

 

 

「――んなこと、別にいいじゃねえか」

 

 

 思考を纏めている途中で、太刀川から呆れた口調が飛んで来る。

 

 

「要はアイツらの奇策妙策を真正面から切り捨てればいいだけの話しだろ。何をそんなに考える必要がある」

 

「太刀川君、あなたは……」

 

 

 らしいと言えばらしい発言であるが、それでどうやってA級一位部隊の隊長になれたのか甚だ疑問である。きっと彼の部下である出水は苦労した事であろう。仮に太刀川の戦闘力を最大限に生かせるような参謀役が部隊に入ったら、手の付け所がなくなるかも知れないと考えるとゾッとしてしまう。

 

 

「ハハ。太刀川さんらしいと言えばらしいっすが、今回のメガネボーイのトリガー構成は恐らく木虎と緑川の二人と戦った時のトリガー構成と一緒っすよ。前の様に不慣れなトリガー構成じゃないっすから、きっと俺達が想像する斜め上の戦い方で来るかもしれないっすね」

 

 

 数々の修の戦いを観戦していた米屋だから言えることであった。それに「なんだと?」と反応した太刀川は不敵な意味を浮かべて、弧月を抜き放つ。

 

 

「それは良い事を聞いた。迅の予知もある」

 

「……予知? なにそれ?」

 

 

 首を傾げる加古。ここで何故に迅の予知なんて言葉が出るのだろう。

 

 

「今回、俺達がこの模擬戦に乱入したのは、ただの気紛れじゃないってことっすよ」

 

「えっ!? そうだったの!!」

 

 

 驚愕な事実発覚。てっきり太刀川と米屋の事だから、戦闘狂が患って二宮と修のランク戦に乱入したのだと思っていた。それに便乗して乱入した加古からしてみれば聞きたくない真実である。

 

 

「あぁ、そうだ。あの野郎、二宮と三雲がランク戦をしていると教えて来るなり「戦うなら気を付けた方が良いよ。次は太刀川が撃たれる番だから。俺の副作用(サイドエフェクト)がそう言ってる」なんて言いやがった」

 

「それって……」

 

 

 単なる挑発の類じゃないのかしら、と思えて仕方がなかった。

 迅がそんな挑発染みた発言をする事に疑問を感じずにいられなかったが、そんな安っぽい挑発に乗ってしまう太刀川に苦笑いを禁じ得なかった。

 

 

「俺は「炸裂弾(メテオラ)に気を付けろ」って言われたっすね」

 

 

 けれど米屋も似た様な事を言われたと聞いて考えを改める必要があった。幾らおつむが弱いと言われている二人であっても似た様な事を言われたと聞いたら疑問に思う事であろう。自分達は迅に良い様に使われたと。

 

 

「(なら、この戦いは彼が狙って仕組んだ事になるわね。……黒江の時といい何を考えているのかしら)」

 

 

 未来視なんて副作用(サイドエフェクト)を持つ迅だからこそ、見えている世界がある事は理解できる。だがしかし、その力を使って後輩たる修を成長させようとしている事に疑問を抱かずにいられなかった。

 今までの修の戦歴を調べて思った事が、戦った相手のほぼ全てがA級の実力者のみ。

 これを知った時、違和感を抱かずにいられなかった。格上と戦って得るものは少なからずある。けれど、普通は同程度の実力者と戦って己の腕を磨き、自分の戦闘スタイルを確立させていくのだ。修のような常に格上と戦うなんて真似は決してしないだろう。

 

 

「(もしかして、私も彼の掌で踊らされているのかしらね)」

 

 

 出水と模擬戦をしている事は耳に入っていたが、二宮とランク戦などをしている事は聞く由もなかった。男同士気兼ねなく話しかけられる事は理解出来ても、自分に声が掛からない事は面白くないと感じた加古である。……最も、出水は半ば押しかけられた形で戦っただけであり、二宮に関しては待ち伏せされて出水と戦った事をあれこれ聞かれた流れでなし崩しであった。修が自分から進んで申し出た訳ではない。ないのだが、加古はそんな真実を知る由もない。

 ちなみに、この事を迅が聞けば「いやいや、違うから。加古さんが参加するなんて未来は見えなかったから」と全力で否定する事であろう。事実、迅が見た未来(ヴィジョン)には加古の姿はなかったし。

 

 

「ま、迅がああ言うならば、覆してなんぼだ。何時までもアイツの副作用(サイドエフェクト)通りの顛末になるのは癪だからな」

 

「そうっすね。それに弾バカを早々に脱落させましたので、こっちが優勢なのは変わりないっすし。何なら太刀川さん。どっちがメガネボーイを早く倒せるか競争しません?」

 

「おっいいねぇ。お前が負けたらレポー……とはいいや。缶ジュース一本奢れ」

 

 

 レポートと言い掛けた太刀川の心情を察した加古が苦笑いする。大方、賭けに勝ったら課題のレポートを手伝えと言いたかったのだろう。相手が米屋と気づいて撤回した事は彼の名誉の為に言わないでおこう。

 

 

「いいっすよ。なら、俺が勝ったら同じようにお願いっすね」

 

 

 商談成立。俄然やる気が出た米屋は再び弧月を展開させて、今か今かと二人が襲撃してくる瞬間に胸を膨らませる。

 

 

「(この二人は……)」

 

 

 猪突猛進の考え振りに呆れつつ、自身もスコーピオンを展開。時間から考えてそろそろ策を巡らしてもいい時間と考え――その考えが正しかった事を知る。

 

 

「遅かったじゃねえか、三雲」

 

 

 最初に気付いたのは太刀川であった。彼の視線上には修がトリオンキューブを二つ生成した状態でゆっくりと自分達の方へ歩み寄って来ている。

 

 

「おいおい、メガネボーイ一人か? 二宮さんはどうしたんだよ」

 

 

 米屋の指摘通り、修の近くに二宮の姿は見られない。緊急脱出(ベイルアウト)した様子はなかったから、未だに二宮が戦場にいるのは容易に想像できる。なら、修が一人だけで姿を現した理由は一つ。自身を囮に二宮が射撃で落とす作戦だろう。

 

 

「…………」

 

 

 修は二人の問い掛けに応えない。代わりに片腕を突出し――。

 

 

 

 ――変化弾(バイパー)

 

 

 

 数発の変化弾(バイパー)を射出。

 問答無用の姿勢に二人は迎撃態勢を取るが、修の放った変化弾(バイパー)は二人の斬撃、刺突の間合いに入る前に百八十度方向転換を行う。

 迎撃する気満々であった二人はこれに肩透かしをくらう。だが、既に修は次なる行動を始めていた。残っていたトリオンキューブを向かって来る変化弾(バイパー)に向けて射出。

 自身の変化弾(バイパー)とトリオンキューブは衝突し、爆発を起こす。修が放ったもう一方のトリオンキューブは炸裂弾(メテオラ)であったのだ。

 

 

「ちっ。また、それかよ。同じ手が通じると思うかっ!!」

 

 

 白煙に包まれ、再び修の姿が消されてしまう。逃がすまいとグラスホッパーで追撃を行おうとする太刀川に、加古は注意を促す。

 

 

「二人とも! 上から来るわっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 

 ――両追尾弾(フルアタック・ハウンド)

 

 

 

 煙幕を穿つ弾丸の雨。修が放った広域の炸裂弾(メテオラ)煙幕は二宮の追尾弾(ハウンド)の軌道を覆い隠す為のようだった。

 太刀川、米屋両名は修の追撃を諦めて両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の迎撃を行う。奇をてらった攻撃故に対応は遅かったが、それでもA級隊員。迫り来る凶弾の雨を持ち前の反射神経で斬り捨てていく。

 

 

「(芸がないわね。この程度では二人を倒す事なんて出来ないわ。他に何か手だてが――)」

 

 

 その時、今までの弾丸とは桁外れの何かが白煙を吹き飛ばしながら飛来してくる。

 

 

「メガネボーイのレイガストかっ!?」

 

 

 修得意の飛槍。最速を誇る攻撃で一人落そうと考えたのだろう。この攻撃は三人とも見覚えがある。何せ、修の戦い方は事細かくチェックしている身だ。米屋へ飛んで来るそれが何かなど直ぐに判別出来た。

 

 

「はっ。この程度――」

 

「――躱せっ!!」

 

 

 いくら今までの弾丸よりも速度が速いとはいえ、見切れない速度ではない。米屋は弧月を振り上げて叩き落さんとする横で太刀川が声を荒げる。

 太刀川は見えていたのだ。飛来するレイガストにトリオンキューブが付着していたのを。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 米屋がレイガストを叩きつける前にレイガストが爆散する。ここ最近、攻撃手段として増やした修が得意とする飛爆槍。虚を突かれた爆風に米屋の態勢が崩れる。その隙を突いたように二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)が再び三人に襲い掛かる。

 

 

「ちっ。二宮の野郎。トリオンを全て使い切る心算かよっ!!」

 

 

 これほどの追尾弾(ハウンド)を放てばいずれ二宮のトリオンも底をつくだろう。まるでトリオン残量など全く考えていない大盤振る舞いに太刀川は身動きが取れないでいた。それは加古も同じだ。これほどの弾丸の雨をシールド一枚で防ぎ切る事は難しい。二枚のシールドを集中させないと二宮の凶弾を受け切る事は出来ない。

 しかし、米屋は別だ。修の不意打ちによって体勢を崩された事により二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の対処に遅れてしまったのだ。どうにか致命傷を避ける事は出来たが、それでも数発の弾丸を両足に浴びてしまったのだ。その瞬間を修は見逃さなかった。

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)を縫う様に新たなる弾丸が米屋に真直ぐ飛んで行く。標的は米屋である。その米屋は二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)をシールドで防ぐので手一杯であった。

 

 

「米屋君っ!!」

 

 

 加古が呼びかけるが時既に遅し。完全に意識外の弾丸を被弾した米屋のトリオン体は維持する事が出来ず、この戦場から姿を消すことになってしまう。

 

 

 

***

 

 

 

 米屋の脱落に会場はどよめく。何せ、米屋を蹴落とした人物は無名のB級である三雲修であったのだ。動揺するなと言う方が無理であろう。

 

 

「で、電光石火の騙し討ちっ!! 炸裂弾(メテオラ)で姿を眩まし、二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)で身動きを封じる。その隙を突いたレイガストの爆撃と疑似十字砲火(クロスファイア)!! あの短い間にこれほどまでの作戦を思いついたのか!?」

 

「二宮隊長らしからぬ作戦ですね。これの作戦を考えたのは三雲隊員でしょう。炸裂弾(メテオラ)で視覚を封じ、二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)で身動きと思考の自由を封じ、一瞬の隙を突いてきましたね。ここで米屋隊員を落とせたのは大きいですよ」

 

「しかし、まるで次の行動が分かっているかのような的確な攻撃でしたね。二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)と同タイミングで通常弾(アステロイド)を放ったように見えましたが、これも打合せ通りの動きなんでしょうか!?」

 

「それは分かりませんが、恐らく二宮隊長は遠距離から放っていると思いますね。姿を隠すことで数的不利を不意打ちの弾幕で補う。恐らく最初の炸裂弾(メテオラ)は自身の姿と弾道を覆い隠す以外に戦場の位置を知らせる意味も含んでいたと思いますね」

 

「つまり、全てアドリブですと? あのぉ……。確認なんですが、本当に三雲隊員はB級隊員なんですか? なんか、ここまで来ると成り立てB級隊員と言っても誰も信じてくれないと思いますよ」

 

「あはは。それは仕方がないでしょうね。何せ、ここ最近の三雲隊員はあらゆるA級隊員によってしごかれ……もとい、鍛えられていたんですから。気付かぬうちに地力が上がったと言う事でしょう」

 

「はぁ……。っと、そうこう言っている内に、三雲隊員が再びレイガストで特攻をかける! 二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の雨を的確に躱しつつ……って、あんな動きがルーキーB級に出来るかっ!!」

 

「(あっ。ついにキレちゃったよ)」

 

 

 それも仕方がない話だろう。戦場は休む間もなく追尾弾(ハウンド)の雨が降り注いでいる。太刀川と加古は両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の弾雨の対処で動きが鈍くなっているにも関わらず、修はスラスターとグラスホッパーを併用しているとはいえ、二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)などものともせずに自在に動き回っている。

 

 

 

***

 

 

 

「動きのキレが更に増したな」

 

 

 戦いを静観し続けていた風間は迅を見やる。迅の予知した通り、再び太刀川達と相見えた時から修の動きが数段よくなっている。

 

 

「驚くのはまだだよ、風間さん。もっと面白い事が起こるから」

 

 

 楽しげに呟く迅の言葉に怪訝する風間。これだけでも充分驚愕に値すると言うのに、これ以上の何かが起こるらしい。

 

 

「……ところで、迅。烏丸に三雲を寄越すように言ったのだが、未だに俺の下へ来る気配がない。何か知っているか?」

 

「…………」

 

「なぜ顔を背ける。あと、吹けないのに口笛をする真似をするな」

 

「(メ、メガネくん。逃げて、ちょー逃げて。これ死亡フラグだから)」

 

 

 迅の副作用(サイドエフェクト)が全力で言っている。この風間をどうにかしない限り、自身の可愛い後輩は風間隊と戦わされる羽目になると。

 必死に戦場を駆け抜けている修は、戦いが終わった後も決戦が待ち構えている何て思ってもみなかったであろう。

 ちなみに、この未来ルートに突入してしまうと迅は太刀川と百連戦させられる羽目となる。

 

 

 

***

 

 

 

 修は自分自身が弱い事を知っている。

 トリオン量はボーダー隊員の中でも一・二を争うほど少ないし、運動神経も優れているとは決して言えない。天眼と呼ばれている特殊な眼があろうとも強者から勝利をもぎ取る事は難しいと思っていた。

 

 

「(けど、それは間違っていた)」

 

 

 今までの戦いは視る事に特化していた力に頼り切り、全てを視ようとしていた。視れば対処法は容易に想像つくし、一方的に負ける事はないと踏んでいた。相手の不意を突いて攻撃を与えれば勝てる可能性もあると踏んでいた。

 けど、視るだけではダメだと二宮から教わった。本来培われるはずの戦闘予測と言う名のスキルを磨く機会を自ら放棄していたのだ。

 

 

「(予測する、か。……それが、僕に足りないもの。なら!)」

 

 

 千里眼を。浄天眼を。複眼を。強化視覚を。鷹の眼を。天眼の全ての効力をフル稼働させる。

 修は自身が弱い事を知っている。故に天眼に備わった全ての効力をフル稼働しなければ、二宮の課題をクリアできないと悟っている。持っている全ての力を出し切らない限り、太刀川と加古を倒す事など不可能と言う事も。

 

 

 

 ――副作用(サイドエフェクト)完全機能(パーフェクト・ファンクション)

 

 

 

 千里眼と複眼で半径五メートル以内の視覚情報を読み取る。建物や障害物で死角となっている個所は浄天眼で無効化させる。二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の弾道を鷹の眼で視覚化し、強化視覚でトレースする。

 最近になって判明した事であるが、鷹の眼で可視化した弾道の筋は到達してから二秒後に着弾する。到達時間が分かれば二宮の弾道の雨もスラスターとグラスホッパーを用いれば、被弾する事なく太刀川達へ突っ込む事も不可能ではない。

 

 

「(緑川のこれが役に立った)」

 

 

 元ネタは緑川、木虎両名と戦ったときに見せたグラスホッパーの変速走法。雷の如くジグザグに走るそれを(ライトニング)走法と名付けたのは相応しいかも知れない。ちょっと中二病が混ざって気恥ずかしいものがあるが、その効力は絶大であった。

 

 

「っ!? さっきと動きが段違いじゃないっ!!」

 

 

 修のA級すら吃驚する身軽な動きに加古はシールドを一枚減らして、追尾弾(ハウンド)で牽制を図る。

 

 

 

 ――斬

 

 

 

 一閃。

 ブレードモードに形状変化したレイガストが加古の追尾弾(ハウンド)を両断する。

 まるで追尾弾(ハウンド)の軌道が初めから分かっていたかのように自然な動作に目を疑いたくなるが、加古の狙いは別にある。

 

 

「(これで体勢を崩せたはず。二宮君の追尾弾(ハウンド)の餌食になりなさい)」

 

 

 追尾弾(ハウンド)を斬った事により、修の身体が泳ぐ。加古の狙いは一秒でも修の動きを妨げて、未だに上空から降り注がれる二宮の弾丸を浴びさせる為であった。事実、修の上空から数発の弾丸が迫りつつある。加古の狙いは的中した――と思ったのだが、天眼を完全機能(パーフェクト・ファンクション)している修が見逃すはずがない。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 自身の頭上に向けて炸裂弾(メテオラ)を放つ。狙いは二宮が放った追尾弾(ハウンド)の数発。全く見向きもせず解き放った炸裂弾(メテオラ)追尾弾(ハウンド)に命中し、再び修の姿を覆い隠してしまうのだった。

 

 

「これでもダメなの!?」

 

 

 見て多少は理解していたが、実際に戦ってみると驚愕の連続ばかり。距離を空けた射撃戦では埒が明かないと理解しているが、二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)がそれを阻み続ける。

 

 

「……くっ。くく」

 

 

 ふと、くぐもった笑い声が耳に届く。この場で笑い声を出す人物など一人しかいない。

 

 

「は、はははっ!! なんだよ、三雲。面白すぎだろ、それ。それが迅の言っていた三雲タイムかよ」

 

 

 なにが三雲タイムだ、とツッコミを入れたい所であるが、一人で悦に浸っている太刀川のテンションは一気に最高潮へ膨れ上がっていた。

 

 

「喜ぶのはいいけど、また上から来るわよ太刀川君」

 

「あん?」

 

 

 加古の指摘した通り、トリオンキューブの雨が降り注がれる。

 

 

「はっ。そう何度も同じ手が通じるかよ」

 

 

 

 ――斬

 

 

 

 弧月を抜き放ち、抜刀の如く切り裂く太刀川の真正面に修のレイガストが飛び込んでくる。

 

 

「っ!?」

 

 

 

 ――両防御(フルガード)

 

 

 

 完全に虚を突いた修のレイガストは太刀川の腹部を抉る寸前で加古のシールドによって防がれてしまう。

 

 

「あっぶねぇ。サンキュー、加古」

 

「ったく。気を付けなさいよね、太刀川君。さっきの三雲君より数倍も戦い方がイヤらしいわ。考えなしに突っ込んだら、餌食になるわよ」

 

 

 このまま戦いが長引けばジリ貧もいいところ。何とかして突破口を作りたい所であるが、いやらしい事に現段階で火力を有する二宮が姿を消して遠距離から暴風雨の如く追尾弾(ハウンド)をぶっ放し続けている。これだけでも充分厄介であるのに、そんな中を掻い潜って向かって来る尖兵がいる。その尖兵は鬼掛かった才気を爆発させてA級隊長両名を脅かし続けている。

 

 

「(二宮君を見つければどうにかなるけど、彼の事だから易々と姿を現すとは思わないわね。と、なると――)」

 

 

 こちらから動く必要がある。それは重々承知しているが、一歩足を踏み出した瞬間にトリオンキューブが自身へ襲い掛かってくる。

 

 

「っ!?」

 

 

 まるで自分の動きを見抜いているかのように先回りして弾丸が飛んで来る。それだけならまだしも、数発の弾丸を囮に本命の弾丸は意識の外から自分の脳天を撃抜かんと飛んで来るから下手に修から視線を外す訳にもいかない。

 修が加古に対して変化弾(バイパー)を放ったのを機に、太刀川は迫り来る二宮の追尾弾(ハウンド)を叩き落しながら修へ特攻を仕掛ける。これ以上続ければ、いずれは被弾する。ならば一か八かの大勝負に仕掛ける事にしたのだろう。

 

 

「旋空――」

 

 

 弧月のオプショントリガー旋空を発動させる瞬間、修の近くに転がっていた瓦礫が太刀川に向けてぶっ放される。グラスホッパーの効力を利用した投石だ。

 

 

「はっ。その程度!!」

 

 

 その程度の牽制など太刀川には通用しない。勢いよく飛んで来る瓦礫ごと旋空弧月で真っ二つに斬り裂き、修のトリオン体を両断せんと行動を続ける。

 もちろん、修もこの程度の牽制で太刀川の行動を止められるなど思ってはいない。瓦礫の投石はあくまで本命を隠す見せ球にしか過ぎない。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 旋空が発動され、太刀川の弧月は瓦礫を両断して修へと襲い掛かる。だが、それを引鉄に円状に弾丸が分散され、弧月を振り終えた太刀川へ一斉に軌道を変えて駆け抜けていく。

 修の左手をぶっ放した事で気が緩んでしまったのか、隠し玉の存在に気付くのが遅れてしまう。

 

 

 

 ――両防御(フルガード)

 

 

 

 けれど、修の変化弾(バイパー)は太刀川に届く事はなかった。加古がテレポートを発動し、両防御(フルガード)で太刀川を護ったのだ。

 

 

「わりぃ、加古」

 

「お礼は後! 次が来るわ!!」

 

 

 加古が太刀川に接近したのを見計らい、二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)が降り注がれる。二人が接近した事により、弾幕の厚さが今までよりも多く張り巡らされている。回避しても間に合わないと踏んで、二人は両防御(フルガード)を重ねて四重のシールドで乗り切る選択肢を取る。

 しかし、その選択は間違っていたと先に言っておこう。二人のシールドがトリオンキューブに触れた瞬間、盛大な爆発が生じたのだ。両追尾弾(フルアタック・ハウンド)と思っていたそれは二宮の合成弾、誘導炸裂弾(サラマンダ-)だったのだ。

 二宮程のトリオン量を有した誘導炸裂弾(サラマンダー)を真面に受けた二人のシールドは少しずつひび割れし、最後の一発が触れると同時に木端微塵に爆散する。

 

 

「があっ!?」

 

「っぁ!!」

 

 

 小さな悲鳴を上げながら爆風によって吹き飛ばされた二人を追い掛ける様にトリオンキューブが飛来する。

 まるでどの様に吹き飛ばされるのか分かっていたかのように、トリオンキューブは進路方向を変え、二人のトリオン供給機関を貫いていく。

 

 

 

***

 

 

 

「………………は?」

 

 

 太刀川、加古の両名が緊急脱出(ベイルアウト)してしまった。

 一度、自身の目をごしごしと拭いて再びモニターを見やるが、どうやら見間違いではなかったようだ。三雲・二宮WINとでかでかと表示されており、二宮と合流した修が安堵の溜息をしているのを見れば、嫌でも理解させられてしまう。

 

 

「は、はぁ!? まさかの下剋上だ!! B級ルーキーの三雲隊員がやらかしてくれたぞ! 二宮隊長の力添えがあったとはいえ、誰がこの展開を想像していましたでしょうか」

 

「二宮隊長の誘導炸裂弾(サラマンダー)が効きましたね。何度も何度も両追尾弾(フルアタック・ハウンド)で援護射撃した故に、太刀川隊長と加古隊長も誘導炸裂弾(サラマンダー)が来るとは思ってもみなかったのでしょう。その絶好な隙を突いた三雲隊員も見事の一言でしたね。二宮隊長をあくまで追尾弾(ハウンド)による援護射撃に拘らせたのは、この誘導炸裂弾(サラマンダー)を撃ちこむチャンスを窺っていたのでしょう」

 

「つまり、ここまでが作戦の一環であったと? なにそれ、ちょー怖いんですけど。それじゃあ、太刀川隊長と加古隊長は三雲隊員の掌で踊っていた事になりますよ。なんて恐ろしいメガネなんでしょう」

 

 

 

***

 

 

 

「はぁ!? マジかよ。太刀川さんと加古さんが負けるなんて……」

 

 

 四つん這いになって意気消沈していた出水の横で戦いの結末を見守っていた米屋は、まさかの結果に笑うしかなかった。まさかの敗北。しかも、メガネボーイによって二人が止めを刺されてしまう。これを笑う以外にどう反応すればいいのだろう。いや、ない(反語)。

 

 

「……う? ……う、ううぉぉぉおおっ! メガネくん!! バンザーイ、バンザーイ!!」

 

 

 真先に脱落した出水がここで復活を遂げる。予想外の勝利に出水は号泣しながら、二人の勝利を大いに喜ぶ。隣で米屋がドン引きしている事などお構いなく。

 

 

 

***

 

 

 

「……ほら、言ったでしょ」

 

 

 満足の行く結果が見られた事に満面な笑みを浮かばせた迅は、懐からぼんち揚げを取り出してがぶりと口に頬張る。後輩の勝利がスパイスになったせいか、今日のぼんち揚げは格別に美味いと感じ仕方がない。

 

 

「……ただのマグレでしょ。二宮さんの力があったからこその奇跡だって、あれ」

 

「だが、相手は太刀川さんと加古さんだ。幾ら二宮さんの力添えがあったからといって、マグレの一言で片づけて良いとは思わないな」

 

 

 悪態つく菊地原にそれを諌める歌川。

 

 

「歌川の言うとおりだ。マグレで勝てる程、あの二人は甘く無い。……迅、これがお前の答えか?」

 

 

 以前、迅は言っていた。このまま行けば三雲修は大規模侵攻時に命を落としてしまうと。それを阻止する為に暗躍をし続けていた。簀巻きになろうが、太刀川と百連戦させられようが、後輩の命を護る為に抗い続けたのだ。

 自身の副作用(サイドエフェクト)は言っていた。修を生かすには天眼の何かしらの効力を使わないといけない。けれど、それが今まで見て来たどの効力とも違っていた。つまり、修の天眼には本人も知らない未知な能力を有していると推測し、開眼させる機会を与え続けた。

 

 

「……それは俺にも分からないですね」

 

 

 風間からの問い掛けは苦笑いして言葉を濁すのみ。そうであって欲しいと思っていたが、それでも修が生き残る未来が確定されない。まだ何かが足りないらしい。

 

 

「動き出しが常軌を逸していた。まるで未来を視ていたかのように、二人の一手……いや、二手先まで回り込んでいた印象がある。三雲の天眼は未来すらも視る力があるのか?」

 

 

「それはメガネくん本人から聞いてよ。今さら何が見えたと言われても大して驚かないけどね」

 

 

 この時、迅は知る由もなかった。

 今後の修が見る対象に目玉が飛出すほど驚きの声を挙げる事に。

 




これが三雲タイムの力か!?

ここまで常軌を逸するつもりはなかったのに、スーパー三雲タイムのせいで、もはやお前誰だよ!! と全力で声を荒げたいほどチーターになってもうた。

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