正直、今後の展開に悩んでいたらこんなに時間が開いてしまいました(泣
天眼の新たなる可能性に修は僅かながら興奮を隠せないでいた。二宮から助言を授かり、全ての能力をフル稼働した時、今までにない世界を目の当たりにしていたのだ。
「(まさか、全ての動きが少しだけ早く視えるなんて)」
三秒後の世界を見ろ、と言われた時は流石に自身の
「っ!?」
けれど、全ての機能をフル稼働すると言う事は、修にかかる負荷も大きくなる。僅か一戦しかしていないと言うのに、今までに感じた事のない頭痛が襲い掛かってくる。
「……
戦いの総称を述べる二宮の言葉が頭に入って来ない。言葉に棘はあるが、適切な助言である故に集中して聞いておきたい所であるが、
「……
二宮は三雲が苦悶の表情を浮かばせている事に気づく。
「だ、大丈夫です。これぐらい――っ!?」
平気ですと続けようとするのだが、視界にノイズが走る。
初めて見る現象に言葉を止めざるを得なかった。
「どうした?」
「へ、平気です」
「頭を抑えて平気と言われても信じられると思うか?」
「す、すみ――」
――トリオン体状態維持不可能、
突然、
三雲の姿は光の粒子となって、戦場から強制退出させられたのであった。
***
「な、なんで?」
個人ランク戦ブースに設置されているベッドに着地した修は、いったい何が起こったのか理解出来ずにいた。
ゆっくりと上半身を起こして――視界が歪む。
「っ!?。また……」
一瞬であるが、目の前の光景が全て二重に視えてしまった。目の異常の一つ、複視と呼ばれる症状に近い見え方に似ている。
直ぐに症状は治まったが、こんな風になる原因など一つしか考えられない。
「これが
天眼のフル稼働は諸刃の剣。内包されていた全てのトリオンを使い切ったせいか、視力に異常が出たと考えるのが自然だろう。本来ならば詳しく調べる必要性があるのだが、こんな欠点を知られる訳にはいかない。
「もし、それが本当ならば――」
推測が正しいならば報告するべきことだ。
仮にこれが防衛戦や遠征で起こったら大問題に繋がる。
「言うべきなんだろうけど……。けど」
報告を躊躇う。この事象を報告して、遠征部隊に選ばれないと理由づけられる可能性も否定できない。そうなってしまえば、空閑と千佳に合わせる顔がない。自身の問題のせいで目標を見失う事だけは避けないといけない。
「使い熟して見せる、必ず」
故に、誰にも気づかれる訳にはいかない。
気付かれる前に、天眼を完全に自分のものへ昇華させられるように鍛錬を続けようと一人胸に秘める修であった。
それまで人前での
***
「す、すみません。二宮さん」
ランクブースから出た修は、真っ先に二宮の元へ歩み寄って深々と頭を下げる。
「天眼の
「……はい、そうみたいです。僕のトリオンが底を突いたのだと思います。だから……」
「なるほどな。先の戦いから顧みると精々使えるのは20秒弱と言った所か。今後は使い所を考えるべきだな」
燃費の悪い能力である事は事前に聞いている故に納得する。思えば自分もかなり無茶な注文を投げつけたものだ、と今更ながら考える。
しかし、天眼は常人では考えられない程の情報量を取得出来る。ならば、その情報を元に二手三手先を予測出来ると考えたのだが、それを意図も容易く実行に移した事は驚愕に値する。
まさか、全ての効力をフル稼働させて本当に数秒先の未来を視ようと考えるとは思ってもみなかったが。
と、しみじみと思い思いふけっていると――。
「みーくーもぉぉぉぉっ!!」
聞き慣れた声が耳を劈く。誰か容易に想像できた二宮はしかめっ面で声がした方角に視線を向けると、喜色満面な表情を浮かばせた太刀川が猛ダッシュでこちらへ近づいてきているじゃないか。
「……三雲、今日の訓練はここまでだ。お前はさっさと休め」
「た、たはは。あ、ありがとうございます」
途中で出水に通せんぼされている太刀川に視線を向け、冷や汗を流しつつ苦笑いする。
深々とお辞儀をしてお礼の言葉を述べた三雲は二宮の言葉に甘えて早々とランク戦ブースから離れる事にしたのだった。
***
「驚いたわ。どう言う手品を仕掛けた訳?」
三雲と入れ違いに加古が二宮の傍に歩み寄って尋ねてくる。
「何のことだ?」
「決まっているじゃない。さっきの戦いの事よ」
まるで狐に化かされた気分であった。
戦線離脱して僅かの間に、加古と太刀川、そして米屋は一方的にやられてしまったのだ。
「そんな事か」
二宮は戦略的撤退後の作戦会議の内容を加古に話す。
「
「奴の天眼の能力ならば可能だと考えた故だ。最も、俺は予測しろと言ったがアイツは視ようとしたみたいだがな」
「それで、あれなのね。二宮君が後方支援に徹した理由もそれなのかしら?」
「それはアイツの作戦だ。数的不利を不意打ちの弾幕で補い、自分は囮と奇襲要因に徹すると言ってきやがった。機を見て合成弾でぶっ放せと言ってきたが……あそこまで、上手く不意を突けるとは思ってもみなかった」
修が考えた作戦は単純であった。複数的不利な状況でしかも相手が強敵ばかり。戦略的撤退が不可能な状況で現状を打開するには奇襲に次ぐ奇襲を繰り返して、相手の虚を突き続けると言うものであった。聞いた時は何を言っているんだこのバカは、と思ったのであった。
しかし、二宮自身を視えない砲台にする事で常に上空を意識させる事でチャンスを狙うと聞いて渋々了承したのである。死角を持たない修だからこそ出来る考え方である。
「そうね。二宮君が合成弾を使うこと事態が稀だから、使って来ないと思い込んでいたのがいけなかったわね。私も少しは考えを改める必要があるわね」
戦いは何が起こるか分からない。幾ら勝手知ったる隊員とはいえ、経験則だけで選択肢を自ら狭めてしまうのは危険だと思い知らされた。
「……あ、そうだ。今度、今回の戦いについてみんなで反省会でもしない?
「今回のあれは、あまり参考にならないと思うが?」
「あら、いいじゃないの。那須ちゃんにも見せてあげたいし、何より新星
「そんな事より、あれをどうにかしろ。見ていて痛々しい」
出水にしがみ付かれながらも三雲の元へ駆け出そうとする太刀川を見やる。
「あぁ、大丈夫よ。だって――」
言うよりも早く、太刀川達の状況が動く。いつの間にか近づいていた風間が太刀川の片耳を掴んで彼の暴走を諌めたのである。
「ちょっ!? か、風間さん。何をするんですか!!」
「黙れ。仮にもA級の隊長とあろう者が公衆の面前で醜態を晒すな。下の者に示しがつかんだろうが。それに、忍田本部長から連絡が来たぞ。お前、またレポートをほったらかしにしているそうだな」
「げっ!? な、何でそれを」
「今日という今日は許さないとのお達しだ。レポートが終わるまでランク戦はさせん。非常事態以外のトリガー使用も禁止も考えるとのことだ」
「ちょっ、ちょっと待って風間さん! それはあんまりにも――」
「――問答無用だ。いいからさっさと課題を終わらせて来い、バカ者めが」
ドナドナと強制連行される太刀川。そんな二人のやり取りを見て、加古は「ね」と二宮に告げる。あれが同学年と思うと頭痛を覚える二宮であるが、先ほどの顛末は綺麗さっぱりと忘れて、話しを続ける事にした。
「
諸々の資料を用意しろ、と言おうとする二宮達に近づく者達がいた。
「か、加古さん!!」
「……双葉? どうしたの、そんなに慌てて」
加古隊の隊員、双葉黒江であった。その後ろには緑川駿の姿も見える。学生服姿から察するに二人は今さっきボーダーに来たのであろう。
「か、加古さんが三雲先輩と戦っていると聞いて」
「あぁ、なるほど。それで急いで来たのね。けど残念ね。今さっき終わったばっかりなのよ」
「そうみたいですね。そ、それで結果は?」
まだ先の戦いの詳細を聞いていなかったらしい。加古は苦笑いを浮かべて「負けちゃったわ」と軽い口調で結果を告げる。
「えっ!? 加古さんが負けたって事は、三雲先輩が勝ったの!? 確か太刀川さんやよねやん先輩も一緒だったって聞いたけど」
「そうなのよ、緑川くん。正直、想像以上だったわ。あれでまだB級とか信じられないのよね。……いっそのこと、うちの隊に引き入れようかしら」
「三雲の頭文字はMだぞ。そんな事も分からなくなったのか、お前は」
加古のこだわりらしく、加古隊は頭文字Kの隊員で揃えている。
「そんなの将来うちの隊の誰かと一緒になったら、問題ないわよ」
「奴が結婚するまで、お前が現役でいるとは到底思えないがな」
「それ、どう言う意味かしら二宮君」
「事実を言ったまでだ」
修は十五歳。仮に最短で結婚したとしても三年後。その時の加古の年齢とトリオン機関の現状を考えるとA級として現役でいるかどうか微妙なところである。
だけど、二宮は分かっていなかった。女性に年齢の事を話す時は慎重に展開を予測しないといけない事を。
「二宮君。わたし、ちょっと物足りないから久々にランク戦でもしないかしら?」
「構わないが、目が据わっているぞ」
「誰のせいだと思っているのかしら」
この後、二宮は加古となぜか一緒について来た黒江と緑川の変則模擬戦をさせられる羽目になったのであった。
***
視界が歪む。まるで高熱を帯びた時の様に視界がゆらゆら揺れ続ける。それだけならまだよかったものの、時折であるが色彩を認識しない症状すら出始めているのであった。
「(思った以上にひどいな、これは)」
「(空閑と千佳には悪いけど、先に帰らせてもらおうかな)」
二人とも合同訓練の為に本部に来ている。修は待ち時間を利用して二宮とランク戦形式の鍛錬をお願いしていたのである。本当ならば二人が終わるのを待ってあげたい所であるが、この状態で二人が終わるのを待つのは中々しんどい。携帯電話を取り出して、先に帰る旨をメールに書き始める。
「……お、そこにいるのは三雲君か?」
ふと、声を掛けられて振り向くとそこには――。
「こんにちは、嵐山さん」
嵐山隊の隊長である嵐山准であった。嵐山は修を見るなり満面な笑みを浮かばせながら近づいてくる。
「こんにちは、三雲君。聞いたよ。太刀川さんと加古さん相手に勝ったんだって?」
修達の戦いは本部中に広まっているようだ。
「二宮さんの御力添えがあったからです。僕一人ではとてもあの三人と戦い抜く事なんて出来なかったですよ」
「謙遜する事はないよ。それだけキミは凄い事をやり抜いたって事なんだから。もっと胸を張るべきだよ」
「ありがとうございます」
「三雲君程の弟子を持った烏丸も鼻が高いだろうね。桐絵が気に掛けるだけあるよ」
小南越しから嵐山は修の近状を色々と聞かされている。双子の姉弟を救ってくれた恩人の話しゆえに大変興味があったが、仕事の事情から中々本人とこうして話す機会がなかった。
「今度、うちの隊に遊びに来てくれよ。木虎も喜ぶからさ」
「あの木虎がですか?」
軽く想像してみるが、どう考えても歓迎してくれるとは思えない。第一声に「私は忙しいのよ」と言われて門前払いを喰らうイメージしかわかない。
そんな修の心情も知らずに、嵐山は話しを続ける。
「ここだけの話し、木虎は時間が空く度に三雲君の模擬戦のデータを見ているんだよ」
「そ、そうだったんですか? よっぽど悔しかったんでしょうか?」
木虎はエリート思考が強い。よっぽどB級の自分に勝ち越せなかった事が悔しかったのだろうか、と口にすると嵐山は目を点にして修が言った言葉を脳内で反芻し、彼が勘違いしている事に気付く。
「そうかもね。なら、今度でも良いからもう一度木虎の相手をしてあげてよ。木虎も喜ぶからね」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いいたします」
「おっと、ごめんな。これから報告書を纏めないといけないんだ。また今度、ゆっくりと話そう。今のキミの状態も含めてね」
「っ!? ……はい」
なるべく表情に出さないように試みていたが、嵐山には簡単に見破られてしまったようだ。胸中で「敵わないな」とぼやく。
「じゃあ、今日は早く帰ってゆっくりと休みなよ」
軽く頭を下げて嵐山と別れる。
「……もっと、しっかりとしないとな」
こうも易々と自身の体調不良を見破られてしまったら意味がない。
修も今後も精進する事を胸に秘めつつ、空閑と千佳に「今日は用事が出来たから先に帰る」とメールを送るのであった。
さて、今後はどうしましょうかね。
まず、那須さんを出したいけど……。これ射手編終わっているんじゃね? と思っていたり。
仕方がない。那須編を始めるか(マテ
あと、他のメンバーも出したいけど、大規模侵攻編もやりたいしなぁ。
……執筆速度をトランザム化しないと無理か。エグザムでもいいから、脳内妄想展開が加速化しないと追いつかないですね、これ苦笑