「……自爆した?」
流石にあのタイミングでどうにかできるとは到底思えないが、だからと言って
『いえ、まだレーダーに反応があります。三雲君は健在です』
しかし、その考えを志岐が否定する。
終始、戦闘中の全員の行動を見守っている志岐はレーダーによって健在か離脱したのか直ぐに判別できる。3対1でも厳しい条件なのに、オペレーターのサポート無しで戦うなど無謀もいいところだ。
「茜ちゃん。姿が見えたら、狙撃をお願い」
『はい、わかりました。……けど、いくら三雲君が凄くてもアレを受けたら戦い続けるのは難しいのでは?』
「油断は禁物。もし、三雲君がそっちに向かったら
「はいっ!」
その時、足に違和感を覚える。ゆっくりと違和感を得た足元を見ると、自身のトリオン体に穴が開き、トリオンが漏れだしているじゃないか。
「こ、これは……?」
「い、何時の間に!?」
熊谷からも驚愕の声が上がる。彼女も両足からも少量のトリオン量が漏れだしているじゃないか。
「小夜ちゃん!?」
『レーダーは動いていませんっ!! 三雲君はそこにいますっ!!』
なら、どうして自分達は知らぬ間に被弾したのであろうか。考え、那須は一つの仮定に至った。
「(まさか……)」
――
黒煙から無数のトリオンキューブが放たれる。
「玲っ!!」
――
熊谷の言葉に応じ、直ぐに迎撃の
けれど、それは悪手であった。那須の
「……ど、どうやって?」
――トリオン供給機関、破壊。熊谷、訓練停止。
熊谷のトリオン体が戦場から強制的に退出させられる。今回は那須隊の訓練室で行っている故に、
「くまちゃん!?」
親友の退場に動揺を隠せずにいた。しかし、慌てふためく訳にはいかない。既に修から奇襲が放たれているのだから。
「(やはり、これは……)」
知らぬ間に被弾した足。
――
背後に回り込んでいた修の
寸前の所でシールドを張って事なきを得たが、修の
「(やはり、この弾道軌道は、私の……)」
地を這う
放たれた弾丸の数は少ないが、四方から取り囲む弾道の軌道は那須の十八番である鳥籠に近しいものがある。
「(シールドで……。いや、三雲君ならっ!!)」
シールドで防御する事を初めに考え付くのだが、直ぐに思い直す。過去の対戦ログを見たおかげで修が次に行う行動が少なからず分かっていたのだ。
防御したら、スラスターで突貫してくる修の攻撃を受け止めきれない。ならば、リスクを承知でこの場から離れるのみ。
だが、その選択肢は
「えっ!?」
予想の上回る行動に、那須の思考が一瞬だが止まる。そしてその思考停止はたとえコンマ数秒だとしても命とりだ。
「
射程を犠牲に威力と弾速に
「っ!?
僅かながら対応が遅れた那須も
咄嗟の弾道軌道であったが、那須の
対して、自身に向かって飛んで来る那須の
「(あの攻撃を最小限のダメージで防ぎ切った? どうやって……)」
疑問は当然の問題であるが、戦闘中にする事ではない。ある意味、
修の身体が急激に降下する。グラスホッパーで自身を無理矢理下へ飛ばし、那須の
この動きも那須は視た事がある。劣化版とはいえ、A級の緑川が得意とするグラスホッパーの連続技の
「(この子は……)」
過去の対戦ログ以上の実力を持っていた。過去の対戦相手の動きを
「(だからと言って!!)」
ボーダーの先輩として、
直ぐに
「バ、
「すみません。那須先輩の弾道を
地を這う
那須のトリオン体が戦場から消え去る。
「あとはっ!!」
那須と熊谷の撃沈。その情報は日浦の思考を絶望に陥れる。
「(どど、どうする? どうすればいいの!?)」
自身の狙撃の腕ではレイガストのスラスターとグラスホッパーを連続使用して急接近してくる修を当てる事は難しいと判断する。
「(べ、
その選択は決して間違いではない。逃げる事も戦略の一つ。しかし、逃げた所でその先の選択肢は皆無。どんな奇策妙策があった所で、結局のところは実力が伴わなければ意味をなさない。
『落ち着いて、茜。相手は一人。いま、三雲君の動きを予測する。前もって用意した
混乱しそうになった日浦にフォローを入れる志岐。その言葉が効いたのであろうか。
日浦はアイビスのスコープに目をやり、修の挙動を捕捉する。
「(そ、そうよ。わたしだって、わたしだって――)」
引鉄を絞る手に力が入る。それでは奈良坂に「当たる狙撃も当らない」と窘められてしまうだろう。
思考が徐々にヒートアップする。相手は自分と同い年。加えて射程と言うアドバンテージを受けている身だ。例え勝てなくても一矢報わなければ、この先やってなどいけない。
「(よく狙って、よく狙ってっ!!)」
まだ、距離は充分ある。ここは様子見しつつ、既に用意した
しかし、高揚している日浦の頭からそんな考えは消え失せていた。狙撃手にあるまじき失敗だ。
「(狙ってっ!!)」
引鉄を絞り、アイビスの銃口からトリオンが放出される。
工夫も何もない狙撃など、修の天眼を前にしては何の脅威にもならない。特に
「……はぇ?」
まさかの的中に、一番信じられないと驚愕したのは日浦自身であった。
誰だ!? アイビスでヘッドショットを食らわせろ、なんて言った奴は!?
本当になってしまったじゃないですかっ!!爆笑
OSAMUも完全機能なんて無茶な真似をしなければ、日浦からヘッドショットなんかされなかっただろうに……。