……てか、何気に50話じゃない?
よく続いたなぁ、これ。
「……で、何のつもり麓郎。隊に関係のないメガネを連れてきて」
その噂のメガネこと三雲修が何の前触れもなく自身の隊室にいる。隊長の自分に何の断りもなく招き入れた事に香取の機嫌は一気に悪くなる。
「えっと。初めまして、僕は――」
「――あんたは黙っててくれない。アタシはそっちのメガネに聞いているのよ」
自己紹介をしようとしていた修を一蹴し、自分を睨み付ける麓郎へ問い詰める。
「お前の不真面目さにはいい加減、頭に来るんだよ」
「質問の答えになっていないわ。あたしは、どうして関係のないメガネがいるのって聞いているの。日本語も分からなくなったのかしら?」
麓郎の額に青筋が浮かび上がる。重苦しい空気がより一層に重くなり、二人の様子を見守っていた修と三浦雄太の額に冷汗が流れ始める。
三雲修の話しは三浦雄太も耳にしている。しかし、なぜそんな人物が自分の隊室に来たのかは流石に分からない。しかも同じチームメイトのろっくんに連れられる形でなんて。
まずは、こんな状況に発展した事情を知っている人物へ話しかけて情報収集を図る事にした三浦であった。
「(えっと、三雲修くんだよね)」
「(は、はい。初めまして)」
「(初めまして。オレは三浦雄太。……で、これってどういうこと?)」
「(えっと、それが――)」
事情を話そうとした矢先に、染井華が推論を述べ始めるのであった。
「(葉子の不真面目さを正そうと麓郎くんが巻き込んだんでしょ)」
「(……ろっくん、何しているの。先日、用事があるって隊室に来なかったのってもしかして)」
葉子の不真面目さに苛立っている事は三浦も知っていた。その為に色々と策を巡らせて彼女のやる気を上げようと試みた事もだ。
香取隊は彼女のモチベーションによって戦果が左右されるチームと言っていい。彼女がどれだけ活躍できるかによってランク戦の結果が掛かっている。仲間として彼女に頼り切りになっている事に幾許か情けなさを感じなくもないが、それだけ彼女のポテンシャルが大きいと言っていい。それだけにろっくんこと麓郎は歯痒さを感じていたのであろう。彼女にやる気があればA級へ登り詰める事だって可能だと評価していた。それにも関わらず、鍛錬を疎かにしている彼女に苛立ちを感じ続けていたのだ。
だからと言って、全く関係のない人間を巻き込むのはどうかと思う。香取隊の問題は同じ香取隊の自分達がどうにかするべきじゃないのかと。
「俺は三雲君とタッグを組んでお前達に挑む。俺達が勝ったら、真面目に訓練をするって誓え」
「……なによそれ? 自分一人ではあたしに勝てないからって、そこのメガネに頼るってそう言う訳?」
「何とでも言え。それでやるのか、やらないのか?」
「やる訳ないでしょ。あんた、バカじゃないの。そいつとやって、何のメリットがあるっていうのよ」
三雲修の実力は知らないが、たかが同じB級。噂では
「こんな雑魚メガネと戦った所で時間の無駄だわ」
「なら、試してみますか?」
小馬鹿にした――実際にバカにしたのだが――自分に対して挑発染みた言葉が返ってくる。返した人物はさっきまで話しを黙って聞いていた修であった。
「ちょうど、トリガーを調整したばかりなんです。実験台になってくれる人を探していたんですよ」
「実験台? 実験台ですって。アンタ、後輩の癖にいい度胸してるじゃないのよ」
「僕は若村先輩にどうしてもって懇願されてここに来ただけです。あなた程の実力者に新しいトリガーを試せればちょうどいいと思ったんですが……」
修はあからさまに肩を竦めて「やれやれ」と首を横に振る。
「若村先輩。やっぱ、香取先輩では力不足かも知れません」
「――ムカつくわね、アンタ」
「気に障ったのだったら謝ります。けど、事実だから仕方がありません」
三度の挑発の言葉に香取の沸点が一気にオーバーフローする。怒髪天を突く勢いで怒り出す姿を目の当たりにした修は若村の傍に近寄る。
「(若村先輩。無理です、もう無理です。やっぱやめましょうよ。こんな芝居を続けたら身が持ちませんって)」
「(がまんしてくれ、三雲くん。てか、烏丸の奴。なんて内容の台本を三雲くんに持たせたんだよ)」
修らしからぬ発言の数々は当然の如く本心で言ったものではなかった。香取と戦うには策の一つや二つ巡らさないと実現できないと若村が言ったせいで、修のトリガーを考えてテンションが異常に高くなってしまっていた二人の先輩がついでに考えた結果がこれである。本人としてはただの悪ふざけの延長上で考案した作戦のメモ用紙を渡しただけなのだが、その効果は抜群に発揮する事になるなど考えもしなかったのかも知れない。
「いいわ、やってやろうじゃない。あたしに楯突いた事を後悔しなさい」
修の首根っこを掴み、自隊のトレーニングルームに強制連行させる。
「……ろっくん。幾らなんでもやりすぎじゃない?」
「かもな。けど、アイツには上級者の壁とやらを超えてもらわないと困る。てか、一度痛い目に合って貰った方がアイツの為だろう」
「それは分からなくもないけど……」
「いいんじゃないかしら。噂の三雲君の戦いを分析する事が出来る。今後のランク戦を考えると十分すぎるほど私達もメリットのある話しだわ」
染井華の冷静過ぎる発言に三浦は言い返す事が出来ず、ただただ何事もなく終わる事を祈るしかなかった。
***
戦いが始まるなり、香取は両手に
――雑魚メガネなら、この程度で落ちるでしょ!
仮に何かしらのトリガーで回避しても、自身にはグラスホッパーがある。回避した直後にグラスホッパーで急接近し、スコーピオンで一気にあの生意気な後輩の首を刈り取ろうと算段していた。
だが、香取の
「……は?」
驚くのも無理はない。幾らトリオン体で身体機能が強化されているとはいえ、弾丸を正確に殴り付けるなんて芸当は出来る筈がない。それに加え――。
――スラスター・
本命の
「……す、少しはやるみたいわね。なら、これはどうよっ!!」
先の攻撃は少しばかり単調過ぎたと反省。次はグラスホッパーを起動して撹乱しながら、
が、次の瞬間、修に襲い掛かった無数の
「な、何なのよそれ!? チートよ、チート。どこぞの黒の剣士か、アンタっ!!」
「黒の剣士? なんですか、それ?」
アニメなどのサブカルチャーに疎い修は香取の発言に首を傾げる。
修が香取の
スラスターの効力が切れたレイガストをスパイダーで自身に戻る様に引っ張って手元に戻す。
「次は僕から行きます!」
言うや修は
「こんな攻撃っ!!」
――当たる訳ないでしょ、と言うよりも早く三度、修のレイガストが先に放たれた
しかし、面積を狭めて防御力を高めたシールドでは遅れて飛来してくる修の
「っ!?」
右肩から漏れ出すトリオンの粒子。咄嗟に右方へ跳躍して躱すが完全に回避する事が出来なかったようだ。
「やってくれたわねっ!!」
格下と思っていた相手に先制を受けた事に香取の自尊心に傷がついた様子。グラスホッパーで一気に距離を詰めて、修に接近戦を挑むのであった。
***
「あんな動きが出来るならA級の人達と対等に渡り合えたと言う噂も嘘ではなさそうね」
香取と修の戦いを隊室で見守っていた染井は修の戦いを冷静に分析する。
「あれで俺達と同じB級か。これはとんでもない新人が現れたね」
その脇で見守っていた三浦も染井の言葉に同意を示す。簡単そうに香取の弾丸を殴ったり斬ったりしていたが、あんな芸当を戦闘中に行う技術と度胸は自分にはない。仮に自分が同じ立場にあったらシールドで確実に防御していたであろう。
「まだまだあんなもんじゃないさ、三雲君は」
メガネ同盟の同胞の一人、若村は知っている。戦闘開始と同時にメガネを投げ捨てた修の実力はまだまだこんなもんではないと。
「葉子の方は冷静さが欠けているわね。あんな弾丸トリガーの対処をされたら無理はないでしょうけど」
「でも凄いよ。葉子ちゃんのスコーピオンをレイガストで確実に受けきっている。何よりブレードモードとシールドモードに変形させる判断が良いのかな。基本姿勢がボクシングスタイルなのが驚きだけど」
香取の猛攻をレイガスト一本で立ち回っている修の戦い方は今までに見た事のない戦闘スタイルであった。レイガストは形状を変形させる事が出来る武器であるが、シールドの面積を最小限にして拳で戦うやり方など三浦は視た事がない。しかも、あれで香取の疾風怒濤の斬撃を悉く弾いているのだから恐れ入る。
「アイツ、三雲君に悉く攻撃を弾かれているからと言って戦い方が単調になり過ぎているぞ。あれでは――」
と、言葉を続けようとした矢先に香取の動きが不自然に止まった様に視えた。何が起こったのだろう、と様子を窺うよりも早く修が腕を突出して
両腕に生やしたスコーピオン、
この瞬間、香取葉子は修に一敗を喫する事になってしまった。本人がなんで負けたのかも知らぬ間に。
***
「な、何なのよ! いま、何をしたのよアンタっ!!」
「ちょっ。か、香取先輩。勝負は終わったんですから……」
「そんな事より、いいから吐きなさい。あんた、どんな手を使った訳?」
「お、置き弾ですっ!」
「はぁ? 置き弾!?」
置き弾と聞いて香取は素っ頓狂な声を上げる。香取の知る置き弾は
「は、はい! スパイダーをこう、地面にばら撒いて後はタイミングを見計らって」
口で説明するよりも見せた方が早いと判断したのだろう。修はスパイダーを地面に撒き散らす。スパイダーを起動するとキューブの両端に角の様な突起物が生える。修は突起物を上向きにする様にばら撒き、忍者などがよく使うマキビシみたいに使用したのだ。
「あとは、香取先輩が足を踏みそうになるのを見計らってスパイダーを起動。一瞬ですが、あのように身動きを封じる事が出来るって訳です」
おどおどしながらも説明を続ける修の言葉に香取は唖然とするしかなかった。スパイダーを前後左右に使うのではなく、上下方向に使おうと考える事は勿論のこと、タイミングを見計らってスパイダーを起動させて相手の身動きを封じようなど考え付く訳もない。
「そんな芸当、普通は思いついても出来ないわよ。何をどうしたらそんな事が出来るのよ」
「どうしたらって、僕にはサイドエフェクトがあるので……」
「サイドエフェクトですって!?」
「は、はい。僕の
三雲修は
修から聞いて
「なによそれ!? 本当にチートじゃない」
「チートって言われましても……」
なにも良い事尽くしではない。副作用と言う名前だけあってデメリットもちゃんとある。それを説明しても香取は全く以って納得してくれなかったようで、ますます機嫌が悪くなっていった様子。
突き放すように修の襟首を離し、新たにスコーピオンを生み出して戦闘態勢に入る。
「次は負けない」
「あ、あの……。香取先輩?」
「いいから構えなさい、メガネ」
「えっと、勝負はついたはずなんですが?」
「あんなの無効よ無効。練習はここまで、本番はこれからよ」
「そ、それはちょっと無理があるような……」
「問答無用っ!!」
修の言葉など無視して、香取は斬りかかる。
その後、7戦ほど模擬戦を繰り返す羽目になってしまったが、新しく入れたスパイダーのおかげで修は全勝をもぎ取る事が出来たのであった。
ボコボコにはできませんでした、香取戦。
……本当にボコボコにしたら涙目になって「やめるー」とかそんな風な流れになってしまいそうでしたので。
とりあえず、今の修のトリガー構成を書いてみました。
メイン
レイガスト・スラスター
サブ
アステロイド・バイパー・スパイダー・グラスホッパー
……うん。レイガストにこだわらない方がいいかなぁ、と今更ながら思っていたりします。
けど、自分の中では修=レイガストなんですよねぇ。