7戦中全敗。その結果は香取にとっては想像すら出来なかった結果であった。
2戦目。
開始早々に修はトリオンキューブをばら撒き、レイガストを用いて特攻する。
1戦目と同様にスパイダーをばら撒き、タイミングを見計らって自分の身動きを封じようと画策したと香取は予測した。
下手に動いては修のスパイダーの餌食になる。それを嫌った香取はグラスホッパーを用いて空中戦で挑むつもりで跳躍する。だが、そのトリオンキューブは修の一言によって全トリオンキューブが上昇したのだった。
修がばら撒いたトリオンキューブはスパイダーに在らず。
3戦目。
置き弾戦法をさせたら不利になると悟ったのだろう。香取は
だが、修には天眼の効力の一つ鷹の眼がある。連射機能の高い
もちろん、この程度で修を落とせるとは香取も思ってはいない。修が弾丸をぶん殴る瞬間を見計らってグラスホッパーで距離を詰め、スコーピオン・
しかし、刈り取れたのは、首は首でも足首であった。いち早く香取の狙いに気付いた修はグラスホッパーを起動して頭上へ回避。直ぐにスラスターを併用して香取目掛けて降下し、レイガストの刃で一刀両断。
4戦目。
今度は戦法を変えて
修の基本スタイルを何となくだが学習した香取が考えた対抗策。奇襲、騙し討ちを得意とする事は前の3戦で学習済み。ならば相手が裁き切れない程の弾丸を撃ち続け、相手のミスを誘うのが狙いであった。後は置き弾戦法を注意すれば怖いものはないはず。
けれども、スラスターとスパイダーの組み合わせ技、連結槍によって悉く弾丸を落とされてしまう。一定に保っていた距離では修にダメージを与えられないと思い、僅かながら距離を詰めて着弾時間を狭めようと一歩踏み込んだ時、修の連結槍が香取の右腕をもぎ取っていく。修も全身にダメージを負うリスクを負ったが、相手の攻撃手段を排除する事を優先したのだろう。一挺の
5戦目。
思えばこれほど必死に戦いに打ちこんだのはいつ以来であろう、と戦いの最中にも関わらず香取はふと思ってしまう。
その一瞬の隙を突かれてしまい、上空からの
6戦目。
6戦もすれば修のトリガー構成や戦いの癖が徐々に視えて来たのだろう。
スパイダーのマキビシをシールドで撃ちこまれる前に防ぎ、独特の攻撃の軌道を見せる連結槍の弱点も見え始める。
修の戦い方はレイガストを主軸にしている。天眼と言う反則染みた力のおかげで、僅かな隙を見計らって置き弾や死角から弾丸を放り込む戦い方はいやらしいの一言。
ならば、攻撃の主軸となる弾丸を封じ込めればどうだろう、と考察を繰り返して実行。
レイガストを持たない側に回り込み、
頭に血が上っていて気付かなかったが、修はこれまでの戦いで一度もシールドを使っていない。つまり、修はレイガストのシールドモード以外の防御手段を持ち合わせていないと言う事だ。
だったら、と閃いた策を披露しようとした矢先に、修はバカの一つ覚えとも言えなくないトリオンキューブをばらま――いたと思ったトリオンキューブが一斉に香取目掛けて飛んで行く。置き弾と思わせての
悔しいが策の巡らし方は修の方が上手だと認めざるを得ないだろう。だが、自分もプライドがある。早々何度も倒される訳にはいかない。弾道を見極め、致命的なダメージ以外のダメージは受けるつもりで修へ突貫。
だが、その戦法は修も予測済みだったのだろうか。レイガストをシールドモードに変形させて香取目掛けてシールドチャージを敢行してきた。
相手も突貫してくるとは予想外であった。このままぶつかり合っても――と考え、ここでグラスホッパーを使用して逃げたら何のためにダメージを負ったのか分からないと考え直し、修のレイガストに
数発お見舞いすると、修のレイガストに亀裂が生じる。
香取の射撃技術は隊員の中でも高い方である。幾ら頑丈なレイガストでも同じ個所を数発続けて撃たれたら罅割れが発生するのも無理はない。
イケると思ったが、修のレイガストが粉砕するよりも早くシールドチャージが香取に命中する方が早かった。そのまま壁際まで押し込まれる。背中に強い衝撃を感じるが、トリオン体に物理的なダメージは無意味。直ぐに反撃を敢行しようと画策するも、自身を包み込む様にレイガストが香取を閉じ込めたのだ。
直後、一部だけレイガストの結界を開けた隙間に修のゼロ距離
7戦目。
攻略の糸口は見え始めて来た。修の戦い方もこの6戦で大方学習する事が出来た。
後はどのような戦術を駆使して、戦いを挑むべきかと考え始める。
しかし、既存の戦術では修の眼を欺くのは難しいと考える。戦闘技能の高さは修に負けないと自負しているが、あの忌まわしい
そこで、香取は一つの奇襲を思いつく。自身のトリガー構成ならば可能であろう。しかし、その攻撃手段は完全にパクリであり、プライドの高い香取が使うのは憚られていた。
だが、そんなつまらない事を考えている余裕はない。このまま行けば、修に7戦連続の敗北を受けてしまう。今は涼しい顔をして置き弾を設置している修に何としても一勝をもぎ取るのが先決だ。
――マンティス。
スコーピオンを連結して、無理やり攻撃の間合いを伸ばす蛇腹剣。
修もここで新しい攻撃手段に転じられるとは思ってもみなかったはず。マンティスの軌道は強化視覚で捕捉されても鷹の眼の様に予測する事は出来なかった。故に反応が僅かながら遅れ、修の左腕はマンティスによって食い千切られてしまう。
ここに来て初めての致命的なダメージに胸中でガッツポーズを見せる香取。これでこの戦いは有利に運ぶ……と思いきや、自身の右足がいつの間にか破損している事に気付く。
マンティスが放たれると同時に修は回避できないと判断して、那須戦で学んだ地を這う
右足を失い機動力が一気に激減する。しかし、その対策はスコーピオンを起動する事で解決出来た。足ブレード。損失した脚部にスコーピオンを義足代わりに用いて戦う戦法。
これも木虎がよく使う戦法として、あまり真似をしたくはなかったが四の五の言ってはいられない。何としても修を倒す。その思いが香取の思考を加速させる。
そこからは
このまま勝負は長引くかと思いきや、今度は修の方が勝負を仕掛けてきた。グラスホッパーで距離を詰め、スラスターによる一撃を香取へ放つ。しかし、そんな単調な一撃など香取に通じるはずがない。グラスホッパーで加速して修の一撃を躱し、すれ違い様に
それが勝負の決め手であった。直ぐにグラスホッパーを使って仕切り直しを図らんとするが、それよりも早く修のスラスター斬撃が発動し、香取の胴体を真っ二つに斬り裂いたのであった。
***
7戦目が終わった直後、香取は崩れ落ちる。自身の戦術がここまで通用しなかった事は今まであったであろうか。
記憶が正しければ、ここまで惨敗したのは初めてかもしれない。
「香取先輩、今日はありがとうございました」
メガネを装着した修が香取へ歩み寄る。
「そ、その……。色々と生意気言って、本当にすみません」
深々と頭を下げて謝罪を述べる修であったが、香取はそれどころではなかった。
惨敗の二文字が頭にこびり付いて消えない。こんな冴えない後輩にここまで無残に負けた事で香取のガラスのハードが完全にブレイクしたのだ。
「あんた……。つい最近、B級に上がったばっかりなんでしょ!? どうして、そこまで戦い方に幅が出る様になったのよ」
これまでの7戦全て、似た様な戦術はなかった。置き弾を主体とした罠にそれを囮とした
「そう、ですね……。ひとえに、みなさんが協力してくれたおかげでしょうか。今までの戦い方は色んな人から学び、盗み、自身の戦い方へ昇華したにすぎません。僕一人ではとてもなし得なかった戦法ばかりでしょう」
「それも、天眼ってチート能力があったからでしょ!? その能力がなければ、アンタ程度の雑魚メガネがあんな風に戦えるはずがないわ」
「否定はしません。この力がなければB級に上がれなかったかも知れません。僕は香取先輩の様な才能はおろか、身体能力はダメダメですし保有トリオン量も少ないですしね。ですから、香取先輩が羨ましいです」
「なによ、それ。嫌味なつもり!?」
「い、嫌味とはとんでもありません。僕は純粋にそう思っています。戦いが重なるにつれて、動きのキレが増すし、マンティスや足ブレードなんて多彩な技も披露したじゃないですか。戦い方の選択肢が多いのは香取先輩も同じことですよ」
マンティスや足ブレードは修に負けたくないが故に一心に行った技術。不慣れな戦い方故に思う様に動けなかったが、思えばそこまでがむしゃらに戦った事があったであろうか。
香取は自分に才能がある事を自覚している。何をやってもそつなく熟す事が出来た為に、何かをなす為に熱を込める事はしてこなかった。それ故に努力の仕方が分からないでいた。
「(……ふん)」
頭で分かっても認める訳にはいかなかった。後輩への対抗心によって、努力の二文字を知る事になったとは口が裂けても言えない。そんな事が知られたら、この先ずっとこの事でからかい続けられるだろう。
「……あんた、連絡先を教えなさい」
「はい?」
「まさか、勝ち逃げできると思っているの! そんなの許さないから! あたしがこてんぱんに伸すまで、アンタには徹底的に相手にしてもらうわよ」
「えーと、香取先輩?」
なんでそんな話しに発展したのか、当の本人である修は考えもつかなかった。
これで全てが解決するとは到底思ってもいなかったが、連絡先を交換するという突拍子もない事態になると誰が想像出来た事であろう。
「いいから教えなさい!」
このまま渋ったら噛みつかれると思って、修は渋々と言った形で香取に連絡先を教える事になった。
***
修が去った後、香取は鍛錬を続けていた。修の動きを思い浮かびながらあの手この手と戦法を変えながら体を動かし続ける。
「……惨敗だったな、葉子」
咄嗟に体を捻らせて
「うわっ!?」
まさか、唐突に攻撃をされるとは思ってもみなかったのだろう。咄嗟にシールドを張って何とか防ぐ事が出来たが、後一秒遅ければ脳天を撃ち抜かれた事であろう。
声を掛けた人物が自隊の仲間、若村麓郎である事に気付いた香取はあからさまに不機嫌な表情を見せて言い放つ。
「なによ」
「三雲君は強かっただろ」
「ふん、あんなの直ぐに追いついて見せるわよ。あんな雑魚メガネにいい顔なんてさせるつもりはないから」
「……だな。お前が本気になれば、きっと三雲君にだって負けないと思う」
「そんな事を言いに、態々来た訳? そんな暇があったら、アンタも努力したらどうなのよ」
「言われなくてもそうするつもりだ。俺も、三雲君の様に強くなりたいからな」
そう言って、若村は
「なに? どう言うつもりなのよ?」
「一人で練習しても身が入らないだろ? 俺が相手役になってやるよ」
「……ふん。あんたでは力不足よ!」
言うと同時に
香取葉子……。いや、香取隊の真の戦いはこれから始まったと言えなくもなかった。
……さて、香取編も終わりましたのでいよいよやっちゃいますか、みなさん?
次は大規模侵攻編を始めたいと思います。
と、その前に外伝を一つ入れるかもしれませんが苦笑
香取編を無理やり入れた理由が、何気に次の外伝を見たいただければご理解いただけ……ればいいなー。
ちょっとやりたい、合成弾もあるんですよね。オリジナル要素入れないと言ったけど、今更かなぁ。
この場をお借りして、誤字の修正やご感想をいただいた方々にお礼を申し上げます。
いつもありがとうございます。
皆様のおかげで、地味にランキングにも乗らせていただいておりますので、ちまちま頑張りたいと思います(オイ
……いよいよ、最後の力も目覚めるかもしれませんよ?(ェ