三雲修改造計画【SE】ver   作:alche777

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どもども、明け前しておめでとうございます。

……遅いって? しかも本編じゃないだと?

ほ、ほら。ネタがある時に書くのが私流と言うか。
いやね。これを本編にしてもよかったけど……うん。言い訳になるからやめておこう。


SE修【天眼】結成、三雲隊

「ちょっと傾いているわよ。もう少し、とりまるの方をあげなさいよ」

 

 

 自作の横断幕を部屋に飾り始めている迅と烏丸に指示を出す小南。それに従い烏丸は「烏丸、了解」と簡潔に答えて修正を試みる。自分としては問題ないだろうと思っていたのだが、小南は満足いかなかった様子。

 

 

「それだと上げ過ぎよ。あと数ミリ下げなさいよ」

 

「……小南先輩、少し細かすぎです」

 

「仕方がないよ、京介。可愛い可愛い弟子の昇級祝いなんだから。小南が張り切るのも無理はないさ」

 

 

 空閑遊真・雨取千佳、B級昇格おめでとう。

 迅と烏丸が設置していたそれは、二人の昇級を祝う横断幕であった。

 小南にとって初めての弟子の昇級祝いだ。熱が入るのも無理はない。

 それは烏丸も理解してはいるが……。

 

 

「それなら、小南先輩も手伝ってくださいよ。小南先輩だけですよ。何もしていないの」

 

 

 師である木崎は二人の為に「これでもかっ!」と思うほどに腕に縒りを掛けて料理を作り始めている。今いるメンバー全員では食べきれない程の料理を出しているにも関わらず、パーフェクトキン肉マンは二人の為にケーキを一から作り始めている。どこまでパーフェクトを目指せば気が済むのか、と一度ツッコミを入れたい所である。

 

 

「私はいいのよ。こうして横断幕を作ったんだから。二人は用意すら何もしていなかったでしょ!?」

 

「そいつは心外だな、小南。俺と京介はちゃんと二人の為にプレゼントを用意したんだぞ。なぁ、京介」

 

「えぇ。修に手伝って貰いましたが」

 

 

 その言葉に驚きの声をあげる小南。祝いの準備はしていたが、プレゼントなど全く用意もしていなかった。そもそも、そんな気の利いたモノをこの二人が用意していること自体が信じられなかった。

 

 

「あれ? 小南先輩。まさかと思いますが、何も用意していなかったんですか?」

 

「おっと、そいつは大変だな。小南だけだぜ、プレゼントを用意していないの」

 

「……そ、そんな訳ないじゃない。ちゃんと用意したわよ! ほ、本当よ」

 

 

 動揺する小南の姿を見て、それが直ぐに嘘である事を二人は見抜く。そもそも、小南の嘘など玉狛支部の人間でなくても直ぐに看破出来てしまう。

 

 

「ち、ちなみに二人は何をあげるつもりなのよ?」

 

「それは秘密です」

 

「そうそう、それを言ったら面白くないだろ?」

 

 

 うぐぅ、と言葉をつまらせる。

 二人のプレゼントを参考にこれから購入を考えていた小南としては痛かった。

 プレゼントを考える時間を考慮すると、どう考えても今から買いに行っては時間的に間に合わない。

 

 

「こうなったら……。修っ!」

 

「……はい? なんです?」

 

 

 そこで小南は強行手段に出る事にした。

 後ろで木崎の料理を並べている修に向けて、小南は告げる。

 

 

「時間を稼ぎなさい。具体的には遊真と模擬戦をしてきなさい」

 

「……僕、小南先輩が何を言っているか分からないんですが」

 

 

 大丈夫。それは俺達も同じ気持ちだから、と同意する迅と烏丸であったが、決してそれらを口にする事はなかった。だって、言ったら巻き込まれる事は必須であるから。

 

 

 

 ***

 

 

 

「オサムからお誘いがあるとは思わなかったぞ」

 

 

 B級昇格の報告を本部から受け、報告を終えた空閑は玉狛支部から戻るなりに修から模擬戦のお誘いを受けた事に感嘆な声をあげる。

 思えば、修と模擬戦をするときはいつも自分からであった。相棒の副作用(サイドエフェクト)と戦う事で得る事は多い。

 宇佐美の協力の元、修視点で戦いを録画できる事になったおかげで自分の戦い方を分析・解析する事が容易に出来る様になった。最もこの機能は玉狛支部だけしか使用できないので、中々活用できる機会は少なかったが。

 

 

「……まぁね。遅くなったけど、B級昇格おめでとう、空閑」

 

「ありがとうございます。けど、それはチカもそうだぞ」

 

 

 後ろでアイビスを抱えている雨取を指差して「チカにも言ったらどうだ」と促す。

 

 

「そうだね。おめでとう、千佳。これで一歩、目標に近づいたね」

 

「うん、ありがとう。修くん」

 

 

 雨取のB級昇格は修にとっては予想外もいい所であった。幾ら攻撃手(アタッカー)狙撃手(スナイパー)で昇級条件が違うとはいえ、ここまで早く雨取がB級に昇級するとは思ってもみなかった。それだけ彼女が努力と研鑽を積み重ねて来たのか物語っている。

 

 

「けど、修くん。私も参加しないとダメかな?」

 

「別に俺はいいぞ。てか、チカは修と組んだ方が良いんじゃないか?」

 

 

 実力差から考えたら、雨取は修と組んだ方が良い勝負が出来ると考えている。人を撃てないと修と空閑は知ってはいるが、それでも膨大なトリオンによる弾幕は厄介極まりない。

 雨取の砲撃と修の索敵能力が合わされば、空閑ともいい勝負が出来ると考えている。

 だが、今回の模擬戦はタダの模擬戦ではない。これは修にとっても大事な実験なのだ。

 

 

「いや、千佳には空閑と組んでもらいたい。僕のこれが上手く機能するか試したいんだ」

 

 

 取り出したのは一つのトリガーである。

 

 

「ほぉ。では、それが」

 

 

 トリガーを見て、直ぐに空閑はピンと来たようだ。対して雨取は首を傾げる。修の近状は知ってはいるが、彼がトリガーを取り出した理由までは聞いてはいなかったのである。

 

 

「そうだ。僕の専用トリガーだ」

 

 

 修専用の玉狛トリガー。ランク戦などでは使用できないが、万が一に備えて玉狛支部が用意した修の為だけに用意された予備トリガーである。

 本来ならば、B級の戦闘員に支給される事は認められてはいない。しかし、林道が修の副作用(サイドエフェクト)の有用性を説き、ランク戦などで使用しない事を条件に、修に専用トリガーを持たせる事を認めさせたのだ。

 

 

「なるほど。それなら納得ですな」

 

 

 修専用のトリガーの機能を知る空閑は、自然と笑みを浮かばせる。もしも、その機能が充分に発揮出来たならば、修の性能は格段に上がる事を知っているからだ。

 

 

「……チカ。一緒にオサムをアッと言わそう」

 

 

 修がどれほど知っているか知らないが、雨取が陰で必死になって技術を磨いていた事は知っている。人が撃てなくても雨取の戦力はそこら辺のB級狙撃手(スナイパー)を軽く凌駕している事は承知済みだ。

 

 

「うん、わかった。私も修くんに見てもらいたいから」

 

 

 数多くの実績を積んできた修に、今の自分の実力を見てもらう良い機会であると雨取も判断する。今まではただ背中を見守るしか出来なかったが、これからは違うと言う事を修に見せつけるチャンスだ。

 

 

『話しはついたかな?』

 

 

 戦う意思が定まったのを見計らって、宇佐美が話しかける。

 

 

「はい。お願いします、宇佐美先輩」

 

『オーケー、三人とも頑張ってね』

 

 

 彼女の言葉を合図に、トレーニングルームは戦場と化す。

 

 

 

 ***

 

 

 

 戦闘開始と同時に、三人の位置がランダムで転送される。現在地を確認するなり、空閑は修がいるであろう方角に向けて全速力で駆け抜けながら、雨取へ通信を行う。

 

 

「チカ、速攻で行くぞ。オサムに時間を与えるのは危険だ」

 

『例の修くん専用のトリガーだね。あれって、どんなモノなの?』

 

「俺も詳しくは知らないけど、エンザン機能を玉狛支部とレンドウするとか、何とか」

 

「演算機能を玉狛支部と連動?」

 

「要するに、今の修は……。っ!?」

 

 

 突如、トリオンキューブが襲い掛かってくる。即座にグラスホッパーを起動させ、進行方向を無理矢理変更して跳んで何とか躱す。

 

 

「……なるほど。オサムも同じ考えをしていたと言う事か」

 

 

 トリオンキューブ、恐らく通常弾(アステロイド)が飛んで来た方角に視線を向けると、そこには修の姿があった。

 左手にトリオンキューブ。右手にレイガスト。C級を連想させる白い隊服を身に纏った修は真直ぐと空閑を見据え、告げる。

 

 

「……行くよ、空閑」

 

「オーケー。来いよ、相棒」

 

 

 空閑も両手にスコーピオンを生成させて、戦いに挑むのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「どうだい、メガネくんのトリガーは?」

 

 

 準備を済ませ、小南がプレゼントを買いに行ったのを機に抜け出した迅は、三人の模擬戦の様子を見に来るなり、宇佐美に向けて問い掛ける。

 宇佐美は振り向く事無く、淀みないタイピングをし続けたまま、迅の問いに答える。

 

 

「今の所、連動率は35%と言った所でしょうか。天眼の処理能力の速さが異常で、CPUの性能が追い付いていないのが現状です」

 

「マジ? 宇佐美が使っているそれもそこそこカスタマイズした事で、そこそこ処理能力は早いんだが……。やはり、無理があったか?」

 

「けど、着眼点はいいと思いますよ。修くんの完全機能(パーフェクト・ファンクション)は、あまりにも負担が大きすぎます。……初めは、未来が視えると聞いて驚きましたが」

 

「まぁね。まさか、二宮さんの一言で、天眼をそんな風に成長させるなんて思ってもみなかったよ」

 

 

 完全機能(パーフェクト・ファンクション)に目覚めた翌日、修は詳細を支部長の林道に報告したのが始まりであった。天眼の能力に変化があったら逐一報告する様に命令したとはいえ、まさか林道も数秒先の未来が視えましたなんて報告を受ける事になるとは思ってもみなかったであろう。

 迅の助言もあり、林道は宇佐美に修の完全機能(パーフェクト・ファンクション)について調べる様に伝えたのが、今回の修専用のトリガーを製作する切欠となったのだ。

 修の専用トリガーは、現存の玉狛製のトリガーと違って特殊な武器が備わっている訳ではない。天眼で見た光景をモニターに連動させ、予測の機能をCPに演算させる事で、修にかかる脳内負担を軽くさせる事が目的であった。

 最も天眼の能力があまりにも異常な為、完全にフォローする事は今の段階では出来ずにいたが。

 

 

「処理速度の問題は、CPを増やす事で解決できるか?」

 

「どうでしょうか。そこは試してみないと分かりませんが。……正直、この機能はあまり使って欲しくはないかな。人の限界を軽く超えているから」

 

「……そうだね。俺もそう思うよ」

 

 

 自身の可愛い後輩に無理をさせたくはない気持ちは迅も同じである。

 提案した自身では説得力はないかも知れないが、危険を冒す様な力を使う機会がない事を祈るばかりであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 空閑の戦い方は機動力を軸にした、高機動を主とした戦い方である。緑川から教わったグラスホッパーのおかげで更に磨きかかった機動性は並大抵のB級では捉える事は難しい。

 だが、天眼を備えもっている修にグラスホッパーによる強襲は通用しない。

 

 

「ふむ。これじゃ、オサムに通用しないか」

 

 

 グラスホッパーによる乱軌道(ピンボール)で撹乱し、死角から一撃を放っては見たものの、修はすぐさまに体の軸を回転させて空閑のスコーピオンをレイガストで防ぐ。通じないと初めから分かってはいたものの、自身の攻撃を防ぐ動き方が堂に入り始めてきている。数多くの模擬戦で体の動きを覚え始めて来たのであろう。

 

 

「その動きは緑川で学習済みだ、空閑」

 

「みたいだなっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 片手のスコーピオンを解除して、直ぐ様にグラスホッパーを起動。修を強制的に突飛ばし、自身もグラスホッパーで追撃を図る。

 宙に飛ばされ、体勢を崩された事で空閑の一撃を躱す事が不可能と判断した修は吹き飛ばされたまま、左手のトリオンキューブを宙に放って弾幕を張る。

 トリオンキューブによる弾幕に突っ込む事を嫌った空閑は、再度グラスホッパーを起動させて進行方向を変える。その隙に修は体を捻らせて着地して体勢を整える。

 

 

「チカっ!」

 

『うんっ!』

 

 

 追撃が無理と察し、空閑は雨取に合図を送る。

 刹那、二人の間に膨大なトリオンの雨が降り注ぐ。

 

 

「これは……追尾弾(ハウンド)!?」

 

 

 天眼で雨取が放った弾丸の軌道を読んだのだろう。一度、大きく上昇した弾丸の雨は、獲物を見つけた鷹の如く一気に降下し、二人がいた空間を覆い隠したのである。

 

 

「なんで、千佳が追尾弾(ハウンド)を!?」

 

 

 修が驚くのも無理はない。

 雨取のポジションは狙撃手(スナイパー)だ。それは初めに玉狛支部に来た時に全員で決めた事である。サブトリガーに入れる事は不可能ではないが、彼女がB級に昇級したのはつい最近なのだ。射手(シューター)用のトリガーを練習している時間はなかったはず。

 

 

「オサムを驚かす為に、チカもがんばった結果だ」

 

 

 追尾弾(ハウンド)に気を取られてしまったせいか、空閑に背後を取られてしまう。

 雨取が追尾弾(ハウンド)を撃った理由は空閑の姿を一瞬でも覆い隠す為の牽制の一撃であった。

 振り向いてから対処しては間に合わない。裏拳の要領でレイガストを横一閃に薙ぎ払うのだが、その先に空閑の姿はなかった。

 

 

「なっ!?」

 

「こっちだ、オサム」

 

 

 またもや背後から空閑の声が木霊する。

 直ぐに対処しようと行動に移すが、空閑の攻撃の方が早かった。

 

 

 

 ――グラスホッパー

 

 

 

 修が以前に使っていたグラスホッパーによる吹き飛ばし。

 スコーピオンで切裂く絶好の機会にも関わらず、空閑はダメージを与えるよりも修の態勢を崩す事を選択する。

 その選択はある意味正解であった。スコーピオンが腕から伸びる時間とトリオンキューブが射出されるラグは大差ない。攻撃する動作も含めればややスコーピオンの方が不利になるかも知れない。それならば、ノーモーションで放てるグラスホッパーで修の態勢を崩す事の方がノーリスクと考えた結果であろう。

 

 

「チカ。もう一丁っ!」

 

『うん。行くよ、遊真くん』

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 戦場が暴風によって蹂躙されていく。

 かつて経験した事もないほどの突風と言う名の衝撃が襲い掛かり、修の身体は宙を舞う。

 グラスホッパーで体勢を崩され、炸裂弾(メテオラ)の衝撃波によって、身体の自由を奪われた修を倒す絶好の機会を空閑が逃す訳がない。

 

 

 

 ――テレポーター

 

 

 

 瞬時に修の頭上へと瞬間移動を行い、渾身の一撃を叩きつける。

 勝った、と勝利を確信した空閑の攻撃は空を切る。ギリギリのところで修はレイガストのオプショントリガー、スラスターを起動。スラスターによって得た推進力を得て体躯を捻らせて空閑の一撃を躱す。

 

 

「やるな、オサムっ!」

 

 

 相棒の驚くべき成長振りに称賛の声を上げながらも、空閑は更なる追撃を図る。足元にグラスホッパーを展開させ、修の方へ跳ぶ。空中戦は戦闘慣れしている空閑に分があった。グラスホッパーによって肉薄している空閑をレイガストのシールドモードで阻もうと試みるも、それより早く空閑が修の腰に抱きつき、更にグラスホッパーを使用して地面に叩きつけるのだった。

 

 

「がっ!!」

 

 

 トリオン体であるために痛みは感じなくても、衝撃は感じる。背中から勢いよく地面に叩きつけられたせいでレイガストを手放してしまう。このまま空閑がスコーピオンを身体のどこからか出現させて修のトリオン体を傷付けてしまえば勝利は決まる。

 

 

「(これで……っ!?)」

 

 

 しかし、空閑は攻撃を行わずにテレポーターで一時撤退を行ったのだった。あのまま攻撃すれば間違いなく倒せた、と誰もがそう思っていただろう。空閑が先ほどまでいた空間に無数のトリオンキューブが飛んで来るまでは。

 

 

「……気づかれていたか」

 

「アブナイ、アブナイ。自分を囮に罠を張る。オサムの得意戦法だもんな」

 

 

 修がレイガストのスラスターで空閑の攻撃を躱すと同時に、トリオンキューブを宙に放り込んで自身に戻る様に弾丸をセットしていたのであった。普通ならばそんな先の行動を読む事など不可能。

 

 

「どうやら使ったみたいだな、オサム」

 

「……行くよ、空閑」

 

 

 

 ――先視眼(プレコグ・アイ)、起動

 

 

 

 完全機能(パーフェクト・ファンクション)を限定的に発動させると同時に、支部の演算機能の恩恵を得るトリガーを既に発動させていた。

 

 

 

 ――残り、14秒

 

 

 

 先視眼(プレコグ・アイ)は師が使うガイストと同様に限界時間が設けられている。ただし、ガイストと違って時間が過ぎても強制的に緊急脱出(ベイルアウト)は発動しない。

 そもそも、今の修のトリガーに緊急脱出(ベイルアウト)の機能は設けられていないので決して発動する事はないのだが。

 宇佐美と色々と試した結果、完全機能(パーフェクト・ファンクション)の持続時間は20秒が限界である事が分かっている。それ以上過ぎてしまうと、トリオン体は強制的に解除され、天眼の能力ばかりか視力すらも低下してしまう。一日ほど時間が置けば回復するが、はっきりと言って使い物にならない。故に考えた結果、完全機能(パーフェクト・ファンクション)に時間制限を設けたのである。制限時間は18秒。18秒過ぎると、修の完全機能(パーフェクト・ファンクション)が自動的に切れる様にトリオン体に細工を施している。

 

 

 

 ***

 

 

 

「いやはや、うちの後輩達は凄いね。小南が見たら「私も混ぜなさい」って飛び込むんじゃないか?」

 

「はは。簡単に想像できますね」

 

 

 激戦を繰り広げている己の弟子達の戦いぶりを見て素直に感想を述べる。これでB級に上がり立てと言うのだから驚きものだ。

 修が数多くの強敵と戦い実力を伸ばした事は勿論であるが、空閑と雨取両名の実力も目に見張るものがある。

 

 

「空閑の実力もさることながら、千佳のあれは脅威ですね」

 

「だな。まさか、この短時間に追尾弾(ハウンド)炸裂弾(メテオラ)、そしてアレを使い熟すまでに成長するなんてな。これもレイジさんの教育の賜物かな」

 

 

 レイジと密かに特訓していた事は知ってはいたが、まさか狙撃手(スナイパー)以外のトリガーの訓練もしていたとは思ってもみなかった。基礎固めの為に幅広く指導するやり方はレイジらしくはないが、それでも完璧に指導をやり遂げた彼はまさしくパーフェクト超人と言っても差支えないだろう。

 

 

「空閑の機動力に千佳の火力。それに加えて修の索敵能力が合わされば、怖いもの知らずですね。正直、あまり相手にしたくない部隊ですよ」

 

 

 今はまだまだ課題が多い三人であるが、それでも贔屓目なしに見てもA級に充分届く実力は備わっていると思われる。後は連携に磨きをかけ、経験を重ねて行けばA級に上がるのも夢ではないだろう。

 

 

「そう言う意味では小南先輩の気紛れはいい機会でしたね。互いに戦えば、お互いの癖や戦い方が把握できる。……まさか、これも迅先輩の差し金と言いませんよね?」

 

「おいおい、京介。俺のことどう思っているんだよ」

 

「趣味が暗躍のぼんち揚げ卿でしょ? コソコソ、レイジさんと話している事も知らないとお思いですか?」

 

「さて、何のことだ?」

 

「……二人でラーメンを食べに行くときは、必ずと言っていいほど未来絡みって事は知っています。近い将来、何かあるんっすよね」

 

 

 重要な未来がある時に限って、この二人は自分達に知られないようにコソコソと密会を重ねる傾向がある。自分達を心配させない配慮かどうか定かでないが、蚊帳の外扱いされるのは面白くない。

 

 

「別にないよ。未来は無限に広がっているさ」

 

「また、そんな適当な事を……。なんか、俺にアドバイスとかないんですか?」

 

 

 やれやれ、と迅はため息を一つして。

 

 

「大規模侵攻時、やばいやつが来そうだから、レイジさんに時間稼ぎを頼んだんだよ。その場にいる大勢の隊員を逃がすようにな。……全滅したら困るし」

 

「……どう言う意味っすか」

 

「今度の戦い、どこかでメガネくんと千佳ちゃんがピンチになる。でも、その時にお前はいない。あの二人の未来を変えるポジションに、京介。お前はいないんだ」

 

 

 恐らく、お前は誰かに負けるんだろう。と続けられて、京介は思わず拳を握りしめる。

 

 

「もちろん、お前がいてくれたおかげで助かる人間もたくさんいるだろう。だから、なるべく生き残って欲しいんだ」

 

「…………」

 

「……テンション下がった? 予知なんて聞くもんじゃないだろう?」

 

「……いえ、聞いてよかったです」

 

 

 テンションが下がった? その逆である。太刀川の台詞ではないが、その未来を覆したくなったと、久方振りに闘争心が芽生えたのであった。

 京介は自身のトリガーがある事を確認し、その場から立ち去ろうとする。

 

 

「……どこに行くんだ、京介?」

 

「ちょっと、久方振りに弟子と戦いたくなってしまいました。……迅さんもどうです?」

 

「……は? ちょ、ちょっと京介!?」

 

 

 静止の声を掛けるも京介は止まる事無く、その場から立ち去る。京介が立ち去るのを見送った迅は「あちゃー」と顔を覆い隠す。未来視なんか見なくても容易に想像出来てしまう。これから起こる未来の顛末の全てを。

 

 

 

 ***

 

 

 

 空閑の一つ一つの攻撃は的確に自身の急所を捉えている。天眼がなければ、あっと言う間に胴体と首が真っ二つにされていた事であろう。

 

 

「(やはり、空閑は強い)」

 

 

 幼い頃から戦場へ立ち、数多くの死線を潜り抜けて来たのだ。受け止めるのが精一杯で、反撃をする隙が見つからない。

 

 

「(マジか。攻撃が当たる気がしないな、コレ)」

 

 

 自身が押していると自負はしているが、致命傷を当てる事が出来ない。手数はこちらの方が多いのに、必ずと言っていいほどレイガストで防がれてしまう。

 

 

「(けど――)」

 

「(だからと言って――)」

 

 

 

 ――負ける訳にはいかない。

 

 

 

 二人の思いは重なる。

 これ以上、相棒の空閑の強さに甘える訳にはいかない。相棒に相応しい実力を得て、共に肩を並べて戦えないで何が相棒か。

 空閑も似た様な感情を抱いている。少し前まで自分の方が圧倒的に強いと思っていたのに、副作用(サイドエフェクト)がある事が発覚してからと言うもの、修の飛躍はめざましいの一言。これ以上、相棒に後れを取る訳にはいかない。

 スコーピオンとレイガストの閃光が交差する。意地の張り合いか、一歩も引かずに攻撃を繰り返していく。互いに他のトリガーを使えば虚を突けるはずなのに、スコーピオンとレイガストの斬り合うのみ。

 

 

『(遊真くん)』

 

「(チカ、悪いな。オサムとは俺が決着をつける)」

 

 

 どっち道、人を撃てない故に修との決着は自身で付けないといけないのは分かっているが、ここで雨取の援護を貰う訳にはいかないと考えたのだろう。真正面から修一人勝てないで、並み居る強豪達を倒す事は出来ない。

 何より、空閑は思ってしまったのだ。今の修に真正面から勝ちたいと。

 

 

「勝つのは俺だ、オサムっ!!」

 

 

 手数を更に増やす為に、もう片手からスコーピオンの刃を出現させる。

 

 

「っ!?」

 

 

 二つに増えた刃が容赦なく修の身体に襲い掛かってくる。

 

 

 

 ――残り、5秒。

 

 

 

「(マズイ)」

 

 

 先視眼(プレコグ・アイ)の効果が切れる。アドバンテージがある現状で倒せなければ、勝利は得られない。

 なら、賭けになるが勝負に出るしかない。

 

 

「それは、ぼくの台詞だ、空閑っ!!」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 空閑の一撃に合わせて、トリオンキューブ――判明したトリガー名は通常弾(アステロイド)であった――をスコーピオンの腹にぶつける。

 横の衝撃に弱いスコーピオンの弱点を突かれ、自身のスコーピオンが破壊された空閑は思わず笑みを零す。

 

 

「もういっちょっ!!」

 

 

 空閑のスコーピオンは二振りある。一振り破壊され様が、まだ攻撃する手段はあるのだ。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

 

 けど、唐突に広がるレイガストのシールドによって阻まれ、強制的に修と距離を空けられてしまう。不利と感じ、シールドモードに変化させてスラスターを使って無理矢理、突き放したのであった。

 しかし、それは空閑も予測済み。突飛ばされると同時に、テレポーターを起動して修の背後に回る。

 

 

「これで」

 

 

 ――終わりだ、と思った瞬間。修の掌が突き出される。

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 ――エスクード

 

 

 

 通常弾(アステロイド)が空閑の身体を辿りつく前に、地面からバリケードが飛出す。

 間一髪難を逃れた空閑は、直ぐにグラスホッパーを使って距離を空ける。

 

 

「……チカ」

 

『ごめん、遊真くん。けど――』

 

「いや、助かった。サンキューなチカ」

 

 

 致命傷にならなくても、今の一撃を受けたら間違いなく状況が不利になるのは容易に想像できる。雨取の援護に文句を言える立場ではない。むしろ感謝するべきだ。

 

 

「……まさか、千佳がエスクードまで使うなんて」

 

 

 

 ――残り0秒。先視眼(プレコグ・アイ)、強制終了。

 

 

 

 今の一撃が最後のチャンスであった。

 強制的に先視眼(プレコグ・アイ)が解かれたいま、修の天眼は未来を予測する事は出来ない。しかし、そのおかげで以前の様に視力障害が起こる事がない。

 先視眼(プレコグ・アイ)がなくても、まだ修は闘えるのだ。

 

 

「さて、第二ラウンドといこうか、オサム」

 

「あぁ。負けないぞ、空閑」

 

 

 再び、距離を詰めて一撃を放たんとする二人に、電光石火の如く詰め寄って一撃を放った者がいた。

 

 

「おっ!?」

 

「……烏丸先輩?」

 

 

 慌ててその者の一撃を躱した二人は、突然の襲撃の正体を見て目を丸くさせる。

 

 

「悪いな、二人とも。俺も混ぜてもらうぞ」

 

 

 何時にもましてやる気のある師の様子に訳が分からず「待って」と呼びかけるものの、師の京介は聞く耳持たず。

 

 

 

 ――ガイスト起動。白兵戦特化(ブレードシフト)

 

 

 

「っ!? く、空閑っ!! 迎え撃つぞ。烏丸先輩の姿を見失うな。千佳っ! エスクードで進行を防げっ!!」

 

 

 咄嗟に二人へ迎撃の命を下す。千佳は状況に困惑し、空閑は「面白くなったな」と破顔して、修の言うとおりに迎撃の態勢に入る。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……なに、これ?」

 

 

 ようやくプレゼントを選び終え、急いで帰って来た小南が見た光景は、可愛い後輩達と戦っている京介と迅。そして何故だか木崎まで参戦していた。

 

 

「あ、こなみお帰りー」

 

「ちょっ、栞っ!! これってどうなっているのよ。なんで、とりまるや、迅。挙句にはレイジさんまで参戦している訳っ!?」

 

「いやー、それが……」

 

 

 栞が言うには、京介が参戦した直後に迅まで参戦し、様子を見に来た木崎が止めに入ったのだが、二人に説得されたのか渋々と言う形で参戦したらしい。

 

 

「なに、大人気ない事をしているのよ!! とりまるはともかく、レイジさんなんてフルアームズを使っているじゃないっ!!」

 

 

 木崎レイジの玉狛式トリガー、フルアームズは文字通り全てのトリガーを一気に出現させる反則めいたトリガーである。膨大なトリオンがあるからこそ出来る芸当であるが、あのトリガーを後輩たちに使うのは大人気なさ過ぎる。

 

 

「いやー。それが……。未だに勝負がついていないんだよな、これ」

 

 

 あっけなく勝負が決まると思っていた栞からしてみれば、未だに粘っている三人の健闘ぶりに驚きを隠せない。玉狛の精鋭達に後輩三人は未だに脱落する事無く戦い続けているのは驚愕の一言だ。

 

 

「当たり前よ。誰の弟子だと思っているのよ」

 

 

 さも当然と言いたげに、小南は胸を張って言う。

 

 

「あ、こうしちゃいられないわ。決着がつく前に――」

 

「ちょっ、こなみ!? こなみさーん。あんたまで言ったら、それこそ大人気な……」

 

 

 呼び止めたが、小南はさっさとその場から消えて戦場へ赴く。

 その数秒後、拮抗が崩れた三雲隊達は小南の戦斧によって一刀両断される事になる。




ちょっと、空閑と千佳のB級に昇級するタイミングとか、色々と弄りました。

玉狛式トリガーがあるんだから、これもありでしょ? ……なし?
それなら、このトリガーはお蔵入りになりますね。……そもそも、こんなトリガーとか実現できるのか?

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