「中ドラ1、2000点です」
京太郎の掛け声と共に、白糸台高校麻雀部の合宿の初戦にして、最大の目玉試合が終了。
終了と共に湧き上がる歓声。
驚く声、称賛する声、溜息交じりの声など様々な声が入り混じる。
驚く声の主は、2軍・3軍の部員たち。
「み、宮永先輩が負けるところ、初めて見ました。勝てる人がいるなんて・・・」
「弘世先輩と宮永先輩、淡ちゃんのレギュラー三人が、男子に負けるなんて・・・」
称賛する声の主は、試合に参加しなかった1軍レギュラー陣と咲。
「このメンバーでの試合を見るのは初めてではないですが、須賀君流石ですね。皆さんお疲れでしょうから、お茶でも入れてきましょうか」
「さっすが京ちゃん、今日もいつも通り隙が無いね。あ、疲れたでしょ?おやつ食べよ?」
悩む声の主は、白糸台高校麻雀部の顧問の先生。
「全国区の宮永を軽々と破るとは・・・。男子部を盛り上げる為にも、須賀には入部して欲しいものだが・・・」
京太郎自身「麻雀部に入る気はない」と明言している為、是が非でも欲しい原石を目の前にして、手に入れることが出来ない顧問の先生にとっては、溜息ものであった。
試合の結果は、1位が京太郎、2位が照、3位が淡で4位が菫。
点数的には大差がついた試合ではないが、終始京太郎が場を支配し、三人を封殺する光景を部員たちは目の当たりにした。
菫の発案で実施された合宿初日からの大試合。
照、菫、淡のレギュラー陣三人VS京太郎。
高校麻雀のファンであったらば、是が非でも見たくなる面子の試合だ。
しかし、この試合は当初、菫ではなく咲が面子に入る予定であった。
「麻雀部の合宿なんですから、菫さんが入ってください。私が入ると、面子的にいつもの家族麻雀になっちゃうので。他の部員の方々にとっても、菫さんが入った方が勉強になると思いますよ?」
という、咲の提案により、菫自身が面子に加わったのである。
菫自身は京太郎の打牌を見て参考にしようと考えていたが、他の部員への影響も鑑みて、咲の提案を受け入れた。
「う~、キョータロは容赦なさすぎー。ワタシに対する思いやりが足りないよ」
「また京に勝てなかったけど、次こそは勝つ。取りあえず、おやつを食べて休憩。咲、今日のおやつは何?」
「分かってはいたが、やはり勝てなかったか・・・。おい、照。お菓子はあとにしろ。これから講評だ」
マイペースな二人に対して、部長らしい態度の菫。
今日は合宿であるため、試合をするだけが目的ではない。
試合をし、何が良くてダメだったのかを検討することも、強くなる為には重要である。
主な講評は京太郎が行い、それに試合に参加した三人や、咲、レギュラー陣がコメントする形で行われた。
京太郎の説明は、非常に解り易く、他の部員たちにも好評であった。
そんな京太郎の姿を見て、「どうにかして入部されられないものか・・・」と、顧問の先生の溜息は深まるばかりであった。
「どうして須賀さんはそんなに強いんですか?」
3軍の1年生部員から、無邪気な質問が寄せられる。
そんな質問に対して、京太郎は無邪気に答える。
「経験と勝ちに対する拘りかな。俺だって、気を抜けばすぐに負けちゃうよ」
京太郎には、特殊能力と言った物はない。
嶺上開花でたくさん和了ったり、ダブルリーチをかけまくったり、和了を重ねるごとに点が高くなると言ったような不思議なことはない。
ただ、教科書的な綺麗な打牌を見せたと思えば、悪待ちがあったり、意図的に振り込んだりと、掴み処がないのが京太郎の麻雀である。良く言えば臨機応変な麻雀だ。
そんな京太郎は、観察眼が非常に優れている。
特に相手の癖を見抜く力と、場の流れを読む力は群を抜いている
幼少期から照、咲、淡と麻雀を打ち続けてきた京太郎。
京太郎も幼馴染三人に対して、ずっと勝ち続きてきた訳ではない。
むしろ初めの頃は、負けた回数が多かったぐらいだ。
様々な能力が入り混じる卓の上で、常に勝つのは正直容易ではない。
容易ではないが、京太郎は勝つことへの意欲は人一倍であった。
初めは「強い方がカッコいい」とか、「三人より強くなりたい」とか、単純な動機だったかも知れない。
しかし、その意欲が京太郎を強くし、今の姿に至らしめている。
麻雀を打つ上で、京太郎が一番重要視しているのはスピードだ。
ダブルリーチを掛けられた場合、振らなくても自模られれば負ける。
そして平然とダブルリーチを掛けてくる幼馴染。
どんなに勝っていても、高得点で何度も和了されれば逆転される。
そして和了る度に、平然と点数を跳ね上げて来る幼馴染
カンでドラを重ねられた場合、ドラ爆で一撃で逆転される
そして平然と嶺上開花で和了ってくる幼馴染。
これらに勝つためには、スピードが必要であった。
京太郎は鳴きの麻雀に肯定的だ。
鳴くことで他者が一回自模るまでに、何度も手を進めることが出来る。
場合によっては、強敵に対して一度も自模らせずに勝つことも可能となる。
場の流れによって打ち方を変える柔軟性、相手の癖を即座に見抜き打ち進める論理性、そして理不尽な幼馴染達や他の強者との闘牌による経験が、今の京太郎の強さを作り上げている。
講評が終わると、時計は3時を回ったところであった。
「さぁ、照ちゃんおやつを食べに行こうか。今日のおやつは俺が選んだ逸品だぞ」
「京が選んだ逸品。それは楽しみ」
おやつをお預けされた照の機嫌が若干悪くなってきているのを見て、京太郎は照の手を引きながら、休憩所へと向かう。
その姿を見た咲と淡は、二人を追いかけるように後を付いていく。
三人を引き連れていく京太郎の姿は、白糸台高校麻雀部の部員にとって、先ほどとは違った意味で印象的であった。