白糸台高校麻雀部の合宿二日目。
今回の合宿は3日間で、ゴールデンウィークの前半を利用している。
今年のゴールデンウィークは、祝日がうまく繋がり5連休。
「合宿が終わった後の2日は何をしようかな」
そう考えながら、京太郎はランニングに勤しむ。
京太郎の朝は早い。普段と変わらず朝5時に起床。
昨夜の照、咲、淡との夜更かしお菓子パーティーの影響で、やや胃もたれがしているものの、普段通りランニングを行う。
一線を退いている為、運動部に所属している訳ではないが、「何事にも体が資本」という信念の下、雨が降らない限りは毎朝続けている習慣。
それは当然、合宿だからと言って変えることはない。
逆に見慣れない土地を走るのは、京太郎にとっては新鮮であった。
合宿地は、都心から少し離れた自然豊かな土地。
初夏に差し掛かろうとしている程よい気候も、京太郎には心地よいものであった。
ランニングを終え、シャワーを浴び合宿所の中を歩いていると、照と淡を除くレギュラー陣が既に練習場で打ち合わせをしているのが見えた。
今の時間は6時半。照と淡はまだ寝ているのだろう。
幼馴染として、京太郎は断言した。
当然、咲も寝ていると思うが、部員ではないので目を瞑ろう。
打ち合わせをしている白糸台高校麻雀部のレギュラーの3人のうちの2人。
亦野誠子と渋谷尭深。
京太郎にとって、この2人との麻雀は昨日が初戦。
照と淡の繋がりで、顔見知りではあったものの卓を囲むのは初めて。
2人とも強豪校である白糸台高校のレギュラーであり、一定以上の力量があることは分かっていたが、どんな麻雀を打つのか、京太郎は楽しみであった。
結果から言えば、京太郎の勝利。
ただ2人の麻雀は京太郎にとって興味深いものであった。
「最終局に今までの局の初手で捨てた牌が集まると」いう不思議な能力と、「3副露した後、5巡以内に和了ることが出来る」能力。
事前に淡から二人の能力については聞いていたが、実際に体験してみると中々面白い。
特に尭深の能力は、上手く使えれば物凄い脅威となると実感していた。
持ち点が少ない個人戦では使い辛い能力であるが、団体戦では有効な能力。
先鋒で照が点を荒稼ぎし、次鋒で菫が更に点数を積み上げる。
そして中堅でこの能力が使われる訳だから、白糸台のオーダーは合理的と言うか、驚異的であると京太郎は考える。
上手く誰かを連荘させることが出来れば、天和も可能となる能力。
天和を和了されたら手も足も出ない。
仮に逃れられたとしても、副将に誠子、大将に淡がいるのでは、かなり辛い戦いとなる。
京太郎自信、5人に勝つことは出来るが、「団体戦で勝てる高校生の面子を集めろ」と言われると少々厳しい。
京太郎と咲で蹂躙すれば勝てるかもしれないが、やはり二人だけは団体戦を勝ち抜くのは難しい。
「尭深さんの最終局は一体どうなっているんですか??」
京太郎は素朴な疑問をぶつけてみた。
「私は収穫の時期(ハーベストタイム)と呼んでいます。地にまいた種が木々になって実る感じです」
尭深の話を聞いても良く分からない。
尭深の説明が分からないというか、能力者の説明は良く分からない。
「なんで淡は、そんなにダブリーが出来るのさ?」
「え、なんでって?何となく?「良い配牌来い」って思っているとできるよ。凄いでしょ」
・・・そんなんで良い配牌が来たら苦労はしない。
「なんで咲は、そんなに嶺上開花で和了できるのさ?」
「え、だって京ちゃんも何となく嶺上牌がなんだか判るでしょ?」
・・・そんなの判る訳ない。
それが出来たら「俺の暗刻はそこにある」と言う名シーンを再現するわ。
「なんで照ちゃんは、和了する度に点数が上がっていくのさ?」
「それは私が頑張っているから。京、褒めて」
・・・頑張りは認めるけど、それじゃ説明になっていない。
周りにいる能力者の説明は、こんなのばかりである。分かる訳がない。
ただ、そんな意味の解らない能力を打ち破ってこそ、麻雀は面白い。
「どんな能力者でも必ず弱点がある。絶対に勝てる」
そう京太郎は考えている。
照達のような特殊能力を持たない京太郎であるが、取り組んでいることが一つある。
それは能力者に能力を発動させない特訓。
能力が発動されない麻雀。つまりは完全な平場を実現させる特訓である。
平場こそ麻雀の真の実力が試される場。
「麻雀好きなら自力の勝負が醍醐味だ」と、考えているからこその発想である。
ちなみに京太郎は、現時点で照、淡、咲の能力封じには成功したことがある。
京太郎の技術で3人を抑えているということもあるが、京太郎自身の特殊能力が発現し始めているのかも知れない。
ただ、発動条件等、京太郎自身も判っていないため、能力と言えない状況である。
しかし、これが本当に能力であった場合、誰かにとって有利に働くモノではないが、能力を前提とした麻雀では、驚異的なモノとなる可能性がある。
能力が発動している時の咲や淡は驚異的な強さであるが、能力が使えなくなった場合も、驚異的かと言うとそうではない。
そこそこは闘えるであろうが、全国区では生き残れない。
帰宅部の咲には影響はないが、麻雀部のレギュラーである淡にとって、自力の弱さは致命的。
今回の合宿が「戦力の底上げ」を目的としているならば、淡の「自力」を鍛えるのはマストであろう。
練習場で打ち合わせをしている3人に、京太郎は挨拶した後に問いかける。
「3人とも早いですね。今日は何の練習をするんですか?」
「ちょうど今日はどうするか話し合っていてな。須賀はどうするべきだと思う?」
「基本に立ち返って、麻雀の自力を鍛える特訓なんかどうですか?能力に頼ってばかりでは、よくないと思いますし」
京太郎からの提案に、「なるほど」と菫が頷く。
そんな打ち合わせをしているところに、寝ぼけまなこの淡がやってきた。
「淡にしては早起きだな。」
「むー、キョータロ、おはよー。私は何時だって早起だよー」
「ほら、早く起きろ。今日は大変だぞ。頑張れよ」
「むー、100年生に不可能はなーい」
目を覚まさせるために、淡のほっぺたをムニムニしながら、今日、一番苦労するであろう淡に対し、エールを送る京太郎であった。