白糸台高校麻雀部の合宿も終了し、GWも残すところ二日。
あっと言う間に終わった合宿であったが、思い返すと合宿で一番頑張っていたのは、淡であろうか。
三日間での淡いの口癖は「う~ん」、「あ~、もう」、「うにゃ~」と言った擬音ばかり。
そんな淡の様子は、端から見ていると、常に頭から白い煙が昇っているようであった。
「う~、キョータロ~、頑張ったワタシを労って~」
合宿からの帰りのバスの中で、疲弊した淡からの京太郎へのお願い。
「アワイハ、ガンバッタ、ガンバッタ」
眠いこともあり、そのお願いに対して機械的に返事をする京太郎。
「う~、違うよキョータロ!そんな投げやりじゃなくて、もっとワタシを労わるんだよ~。あ、そうだ!明日はお休みだしデートしよ!デート!」
「デートって何するんだよ」
「キョータロとデート!なんでもいいの!明日の10時に、いつもの場所で待ち合わせね」
言うだけ言って「明日は楽しみだな~」と、淡は寝てしまった。
いつものことなので、特に追及することなく「まぁいいか」と思いつつ、自分も寝ようと思っていた京太郎であったが、聞き耳を立てていた照と咲が寝かせない。
「明日が淡ちゃんだったら、明後日は私達とデートだね、京ちゃん」と笑顔の咲。
「あ、あぁ、そうだな・・・」と押し切られる京太郎。
「楽しみだね、お姉ちゃん」
「そうだね、咲」
GWの残りの二日間の過ごし方が決まった瞬間であった。
翌日。
淡との待ち合わせは、10時に須賀家の玄関前。
折角に休みなのでゆっくり寝たかったが、約束は約束なので、しっかりと準備をし淡を待つ。
しかし約束の10時になっても、一向に淡が現れない。
「淡の奴は、また寝坊か」
その後、10分が経過したが、まだ淡いは現れない。
「まぁ昨日はやたら疲れていたし仕方ないか・・・」と呟きながら、仕方なく京太郎は大星家に淡を起こしに行く。
「あら京ちゃん、どうしたの?」
大星家の呼び鈴を鳴らすと、淡の母親が出迎えてくれた。
「10時に淡と約束しているですが」
「あらあら、ごめんなさいね京ちゃん。まだあの子ったら寝てる思うから、起こしてあげてくれる」
「分かりました」と答えつつ、京太郎はいつも通り2階に上がり、淡の部屋に向かう。
小さい頃から何度も出入りしている家なので、我が家のごとく迷う事はない。
「あの子ったら、折角京ちゃんが相手してくれるって言うのに・・・」
去り際に呟かれた淡の母親の言葉は、京太郎の耳には届かない。
「淡、入るぞ」
幼馴染ではあるが、礼儀としてノックは忘れない。
しかし、一向に淡からの返事がない為、京太郎は遠慮なく淡の部屋に入る。
普段の慌ただしい様子から一転して、綺麗に片付いている淡いの部屋。
洒落た小物なども置かれており、淡のセンスも伺える。
高校生の部屋と言うよりか、どちらかと言うと落ち着いた女子大生っぽい部屋だ。
女の子の部屋に初めて入る男子高校生ならドキドキであろうが、普段から入りなれている京太郎は、何も思うところなく淡の元へ向かった。
「起きろ淡、もう10時15分だぞ」
「うにゃ、キョータロ?あと5分寝かせて??」
寝ぼけた淡は、すんなり起きないことを京太郎は熟知している。
「起きないなら、今日は中止だ。早く起きろ!」
「きょう・・・ちゅうし・・・、うにゃ!!」
京太郎の脅し文句に反応し、淡は謎の掛け声と共に飛び起きた。
「キョータロ!オハヨ!今何時!!?」
「もう、10時半前だ。淡が待ち合わせに来ないから迎えに来たぞ」
「ゴメン、キョータロ!すぐに準備するから待ってて!!」と言いながら、淡は服を脱ぎ始める。
京太郎の前であることは、特に気にしていない。
「おい、淡。いつも言ってるが、人が見ている前で着替えるな」
「え?でもキョータロだよ?ワタシのセクシーな姿見られて、キョータロもうれしいでしょ??」
下着姿で慌ただしく着替える淡からは、セクシーさのかけらも感じられない。
「そういうセリフは、もっとおもちがでかくなってから言え。1階で待ってるから早く準備しろよ」
照や咲に比べてスタイルが良い事は、京太郎も認めている。
しかし、付き合いの長い淡にだからこそ、平然と言い放つ。
「む~」と言う淡の声が聞こえてきたが、京太郎は気にせず部屋から出ていった。
子供の頃からベッタリなので、初心な高校生のような恥じらいは二人の間にはない。
淡の母親が用意してくれたお茶を飲みながら、ニコニコ顔の淡の母親と雑談をしながら淡を待つ京太郎。
「京ちゃん達は今日は何処に行くのかしら?」
「特に決めてはないですが、淡のストレス解消に駅前にでも行こうかなと思っていますよ」
「あら、そうなの??それなら、淡の下着を選んであげて??また胸が大きくなったって言ってたから」
先ほどの会話が聞こえていたのだろうか、さりげなく娘のセクシーさをアピールする母親。
運動神経も良く頭も良い為、京太郎がモテるという事は、淡の母親も知っている。
幼馴染というアドバンテージはあるものの、幼馴染は照と咲もいる為、京太郎を射止めるのは容易ではないことも知っている。
それが故の娘へのアシスト。
「そういうのは、おばさんが選んで下さい」
いつものやり取りなので、京太郎は考える間もなくニコニコ顔で即答する。
淡の母親も京太郎の性格を知っているので、深追いはしない。
「ゴメーン、お待たせキョータロ!早くいこ!」
「早くってお前・・・。それじゃおばさん行ってきます」
京太郎の腕を引っ張っていく娘の姿を見送りながら、「頑張りなさいね淡」と呟く淡の母親であった。