その後、高渕スカウトと握手を交わすと上坂監督(先生)と練習に戻った。
上坂「なあ、和也」
新堂「はい」
上坂「進路は自分の決めることやから、俺から志願届を出せと言えない。だが、甲子園に行けなかったことの責任や自分に実力がないからと思ってるならそれは間違いやぞ」
新堂「でも、現に黒刃には叶わなかった」
上坂「これは余談だがな和也。もしお前が大学に進学したとして活躍は恐らくできるやろう。だが、プロというキャリアの差という物は4年の間に出てしまうんじゃないのか?」
新堂「そうかもしれませんが」
上坂「まあ、あと3日後悔しないようじっくり考えろ」
新堂「はい」
その日の練習に参加した僕は、黙々と木製バットでティーバッティングを行った。プロに行こうが大学に行こうが木製を使うことに変わりはない。とにかく今は慣れることが肝心だ。
「和也」
フェンス越しに一人の可憐な女子が僕のことを見ていた。
和也「麗奈。吹奏楽は今終わったのか?」
麗奈「うん」
彼女の名前は朝霧麗奈。僕の同級生でクラスメイトで吹奏楽部に所属する。吹奏楽ではピアノを担当しており、その才能はピカイチ。学業も優秀ですでに名門・星桜学院大学への推薦入学が決まっている。彼女は、部活終わりまでまってくれ、帰りは一緒に帰った。彼女とは、家も近所なのだ。
麗奈「噂で聞いたんだけど、プロのスカウトが来たって本当?」
和也「もう耳に入ってるのか?」
麗奈「ごめんね。たまたま部員が話してるのを聞いちゃって」
和也「別に怒ってないから」
彼女はとても優しく礼儀正しい。ただ、すぐ相手に気を使ってしまうので下手に出る部分が目立つ。
麗奈「行くのプロ」
和也「まだ悩んでる」
麗奈「どこの球団が来たの?」
和也「東京の名門球団さ。でも自信が持てないんだ。やっていける自信が」
そんな彼に麗奈は両手を取り、優しい口調で言った。
麗奈「和也は、大丈夫だと思う。だってどんな時も前を向いて歩き続けたじゃない。今までのあなたはそういう姿じゃなかった」
和也「麗奈・・・」
「ピリリリリ・ピリリリリ」
和也の携帯の着信がなる。表示を見ると彼の名が出てきた。黒刃健一、僕の生涯のライバルとなる男からだ。
麗奈「誰から?」
和也「他校の野球仲間だ。俺ちょっと行くよ」
麗奈「うん。分かった」
僕は、急ぎ駅前のバーガーショップへと向かった。そこでは僕のライバルが大きなハンバーガーにかぶりつき、チューっとシェイクをすすっていた。
黒刃「よう、高校全日本以来だな」
新堂「いきなりなんだよ?」
黒刃「言わなくても分かってんだろ。俺が知らないとでも思ったか?」
新堂「ジャイアンツの件か?」
黒刃「まさか、俺の意中の球団がお前を1位指名をするとはな」
新堂「まだ決まったわけじゃない。俺は、まだ志願届出してねえし」
黒刃「てめえ、俺に喧嘩売ってんのか?」
新堂「別に」
黒刃「俺はな、巨人が俺よりもお前を選んだことが理不尽でしょうがねえんだよ」
黒刃は、僕の胸倉を掴み怒鳴った。
黒刃「俺はプロに行く。そして巨人に俺の存在を思い知らせてやる。てめーも逃げんじゃねえぞ」