ロングホームルームが終わりみんなは続々と席を発っていく。そんな中、僕はプロ志望届をじっと眺めていた。
麗奈「和也?」
和也「麗奈?」
麗奈「ねえ、今日も部活?」
和也「いや、俺たちは自由参加だから特に強制ではない。どうかしたか?」
麗奈「うん。私って運動音痴じゃない。だから・・・その・・・朝ちょっと走りこんで足腰鍛えようかなって思って」
和也「お前、吹奏楽部だろ」
麗奈「そうだけど、やっぱり社会人になった時のために体力つけなきゃっておも・・・」
和也「何年後の話だよ。まあいいけど、それで」
麗奈「スポーツショップでシューズ選び手伝ってほしくて」
和也「いいよ」
この時、僕は彼女といれば一時的でも志望届の悩みは忘れられると思った。元々、買い物は好きだし、スポーツショップへは一人でも通ったものだ。新品の商品をするとアスリート魂が疼く。
和也「デザインとかこだわりはあるのか?」
麗奈「私、シューズのことはあまり分からないんだ」
和也「まあ、単純に足に合った奴を選べばいいし。あとは好みの色やジャージの色に合わせたりするとおしゃれに見えるぞ」
彼女には、僕の進めたシューズをいろいろ履かせて、彼女に一番合う物を選んであげた。彼女は真っ白にミンクのライン線の入った比較的かわいらしいミズノ靴を選んだ。値段はなかなかの価格だが、彼女はお嬢様ゆえお財布の心配はさしてなかった。
麗奈「ありがとね」
和也「今度からは、自分で選べるようになれよ」
麗奈「ねえ、お礼にケーキとお茶でもごちそうするよ」
普段は、部活の関係で食事管理は徹底している。とはいえ、あくまでも自己管理の領域だし、たまには甘いものを食べるのも悪くないと思い。近くの喫茶店に入り甘いケーキとカフェオレをご馳走してもらった。
和也「なんか悪いな」
僕がお礼を言うと、彼女は優しく微笑んだ。
麗奈「やっと笑ったね」
和也「えっ?」
麗奈「志望届見ながら、今日はずっと表情硬かったよ」
和也「見てたのかよ」
麗奈「うん」
しばらく二人は沈黙した。しかし、いつもおとなしい彼女が今日は積極的にぐいぐい来る。
麗奈「和也、私なんかじゃ野球のことは分からないからあまり真に受けなくていいんだけど、私は和也はプロに行くべきだと思う」
和也「どうしたんだよお前、今日なんか積極的だな」
麗奈「それは、あなたも以前そうだったでしょ」
和也「俺が?」
麗奈「私が志望校で悩んでた時に「やりたいことがあるならそれにあった場所を選ぶべきなんじゃないのか?」ってね」
和也「そんなこと言ったっけか?」
彼女はこくりとうなずいたてから僕に言った。
麗奈「私、和也がプロの世界で羽ばたく姿をすぐにでも見たい。私の背中を押してくれた人がこんなすごい世界で戦ってるんだっていうのを実感させてほしい」
和也「麗奈?」
麗奈「不安がない人なんて誰もいない。でも、あなたはそれをはねのけることを楽しめる人じゃないのかな?」
その時は僕は、ハッと原点に戻った。甲子園の強者たちと戦いたい、そして勝ちたいという強い想いをもったかつての自分に。
和也「俺は、大切なモノを見失ってたんだな。ありがとう麗奈。俺、プロに行くよ。そして自分の可能性をもう一度試してみるよ」
麗奈「がんばってね」
次の日、僕は職員室で監督の印鑑を志望届に押してもらった。
上坂「これでよしと」
新堂「すみません。ぎりぎりになってしまって」
上坂「お前が納得して出した答えなら謝る必要はないさ」
新堂「ありがとうございます」
上坂「高渕さんには俺から連絡しようか?」
新堂「いえ、僕の口から言わせてください」
【巨人軍・球団事務所】
ピルルル・ピルルル
高渕「はい、高渕です」
和也「あ、もしもし高渕さんですか?」
高渕「その声は新堂君だね」
和也「はい」
高渕「結論は出たのかな?」
和也「はい。志願届を提出します。ご縁があったあかつきにはよろしくお願いします」
高渕「いえ、こちらこそよろしく」
遂に決断した新堂。次回、ついに運命のドラフト会議。