女装男子とボーイッシュな女の子のカップリングっていいと思うんだ。
「ミウラさん、初めて見たときからあなたのことが好きでした!」
愛の告白。まさに青天の
彼女は自己評価が低く、まさか自分が告白を受けるなど考えてもいなかった。
それゆえに戸惑い、上手く返事を返すことができない。
「あの……返事の前に一つだけ」
だが、そんな戸惑いすらなくしてしまう疑問を、目の前で返事を待つ子に抱いた。
それは―――
「えっと、その…ボク…
告白してきた子がどう見ても―――同年代の
手入れが行き届いていると分かる長い金髪に、整ったまつ毛、そして輝くアメジストの瞳。
さらにはフリフリのスカート。ザ・女の子な特徴を、目の前の子は全て備えていた。
そのため、偶に男の子と間違われるミウラは、この子も自分の性別を間違えたのだろうと思う。
だが、しかし。
「大丈夫、ワタシ―――男の子だから!」
「へ…?」
帰ってきた返事は、彼女の予想の斜め80°上を行くものであった。
「あの…本当に…?」
「本当です」
「変身魔法とかじゃなくて?」
「変身魔法なんて邪道です! それでも納得がいかないのなら、はい、これワタシの身分証です」
そう言って提示されたのは本物の“男”と記入された身分証明書。
丁寧に写真付きであるために、同姓同名の人物という線も捨てられた。
正直に言ってミウラは訳が分からなかった。
「え、えっと…じゃあ、どうして女の子の服を?」
もしかすると、学校で聞いた性同一性障害なるものかもしれない。
そう脳の片隅に押し込まれた知識で考えるが、現実とは常に予想を上回るものである。
「趣味です」
時が止まる。実際にはそんなことはないがミウラにはそう感じられた。
しかし、やはり信じられないのでもう一度尋ねる。
「ええと、つまり……」
「女装してるだけで、ワタシ自身も男だってちゃんと認識できてるから、何も問題ないです!」
真顔で言い切る彼に、ミウラは目まいを起こしてしまいそうになる。
もう一度言おう。どこからどう見ても女の子、それも美少女の外見なのだ。
「え、えーと……そのぉ……」
「あ、自己紹介もしてなかったね。ワタシはキング・アームストロングって言います!」
「ミ、ミウラ・リナルディです」
戸惑う彼女に自己紹介をするキング。
どう考えても女の子につける名前ではない。
アーサー王だって女体化する時は名前を変えるのにこれはない。
「あの、キング…くん…さんは、どうして男の子なのにそんな服を選んでるんですか?」
人の趣味に口出しするなど失礼かもしれないと思うが、気になるものは気になる。
なにより、相手は自分に告白してきたのだ。知って損はない。
「だって可愛いじゃない!」
「あ、はい。そうですね……可愛いですね」
「ワタシがおかしいのは分かってる。でも、可愛いものを身につけたいって気持ちは隠せない」
熱心に自らのこだわりを説明していくキング。
ミウラはそれに素直に頷いてしまうが、彼女は悪くはない。
確かに彼は可愛いし、自分の気持ちを隠さないのは良いことだ。
だというのに、女装というだけで全てがおかしく見えてしまう。
「つまり……本当に趣味ってだけなんですか?」
「もちろん。むしろ趣味以外に女装をする理由ってなんでしょうか?」
キングには女装をして、女子高に潜り込めというミッションが課せられたわけでもない。
女性にしか跡を継げない家に生まれたという設定もない。
どこまでも己の欲望に忠実に従っているだけだ。
彼にとって女装とはのび太にとっての昼寝で、カツオにとっての野球のようなものなのだ。
「確かに、ワタシは性別を偽ってるのかもしれない。でも、ミウラさんへの気持ちに嘘はない。
女の子としてミウラさんが好きです。ワタシと真剣に付き合ってください!」
「ふ、ふぇ…っ」
がっしりと手を握られて、真っすぐな瞳を向けられる。
それだけでキングの純粋な気持ちが分かる。
ついでに、綺麗にネイルを塗られた爪から女装に対する熱意も。
「す、少し時間をください。ごめんなさい、初めてのことで頭が混乱して……」
故にミウラはここで答えを返すことができなかった。
相手が真剣なのに、しっかりと芯のある答えを返せないのは不誠実だと思ったから。
「……はい。待っています。ミウラさんが答えてくれるその日まで、ずっと」
「すみません。あ、あの、これボクの連絡先です」
「いいんですか? ワタシに教えて」
「まだ、答えは出せませんけど……キングさんとは友達になれそうなので」
そう言ってハニかむミウラ。
キングは一瞬見惚れたように、頬を染めてから頷く。
「わかりました。それじゃあ、今日はここで」
「はい。必ず返事をします」
名残惜しそうに長い髪を揺らし、背を向けるキングをミウラは見つめる。
そして、彼の姿が見えなくなったところでポツリと呟く。
「やっぱり男の子に見えないです。正直、ボクより綺麗で可愛い気が……」
あまり色気づいていない彼女であったが、流石に男の子に負けるのは複雑な気分であった。
困ったときは、ドラえもんにように信頼できる人間に相談するべきである。
それを理解していたミウラはある人物を頼った。
「ほほう、あのミウラが恋愛相談とは意外やなぁ」
「か、からかわないでくださいよ、はやてさん」
八神はやて、ミウラが通う八神道場の館長のような人である。
と言っても、指導のほとんどは彼女の家族である、ヴィータやザフィーラが担当している。
そのため、ミウラにとってはやては信頼できるお姉さんのようなものなのだ。
「ふふ、ごめんなぁ。そんで、どんな相談なんや? 好きな子でもできたんか?」
「あの……告白されて」
「おお! なんや、ミウラも隅に置けん子やな。それでどんな子なんや?」
「……ボクより可愛い女装が趣味な人です」
「そっか、そっか、女装が趣味な……ん?」
自分が聞き間違えたのかと、首を捻るはやて。
本の中から騎士達が飛び出てきたり、いつの間にか世界の命運を背負っていたりと、様々な経験を積んできた彼女であるが、流石にこれには経験がなかった。
「はい。女装が趣味なんです……初見で絶対に見抜けないレベルで」
「ちょーと待ってな。お互いに少し落ち着こうや。ほら、ジュース飲み」
「いただきます」
想定外の相談に、コップのお茶を生ビールのようにあおるはやて。
時間が経ち大分落ち着いたのか、冷静にちびりとジュースを飲むミウラ。
互いにコップを机に置き一息つく。
「ふぅ……つまり、男の娘に告白されたんやな?」
「男の子…? はい、そうですけど」
「その子は、ミウラのことをちゃんと女の子と思っとるん?」
「ボクのことを女の子として好きって言ってくれました。服装はともかく心は男の子らしいです」
「それは良かったなぁ。てっきり、男に間違われたんかと。で、容姿はどんな感じなん?」
顔が見たいと言われて、あれからメールなどで交流して送ってもらった写真を見せる。
キング曰く渾身の一枚のようで、完璧な美少女がそこには映っていた。
耳が聞こえないと言っていた作曲家もビックリな詐欺具合である。
「これは……紛うことなき美少女やな。性別間違えとるやろ」
「話すと何となく男の子だって分かるんです。
でも、見た目は正直ボクよりも女の子らしくて……ちょっと心が折れそうでした」
「心配せんでええよ。ミウラにはミウラの可愛さがあるんやから」
色々な意味で落ち込んでいるミウラを慰めながら、はやては思う。
友人であるユーノを子ども時代に本気で女装させたら、こんな感じになったのではないのかと。
別に今度やってみてもらおうとか考えたわけではない、はず。
「まあ、とにかくや。ミウラは告白の返事に困っとるわけやな?」
「はい。あの……ボク今まで恋愛とか全然興味もなくて」
「そうやなー。色気より食い気って感じやったしな」
元々、引っ込み思案だったミウラにそういう経験があるはずもない。
そう納得し、はやてはうんうんと頷く。
「告白されたのも初めてで。はやてさんは……ありますか?」
「ぐはぁっ!」
「はやてさん!?」
そして、自分がミウラに先を越されたという事実に気づき、大ダメージを受ける。
行き遅れという名の刃が突き刺さった胸を押さえながら、なんとか復活を果たす。
だが、心は既に満身創痍であった。年齢=彼氏いない歴、正直そろそろ焦ってくる年頃だ。
「はぁ…はぁ…ごめんな、ミウラ。私はもうついていけそうにないわ」
「え、え?」
「まだ大丈夫、まだ時間はある。そう思っとったら、いつの間にか仕事が恋人や。
ミウラ、あんたはこうなったらあかんよ」
「は、はい。わかりました」
どこか光を失った瞳で忠告するはやて。
それはまるで、底なし沼にはまった者が、近づく者達に警告するかのような形相だった。
「とにかく、しっかり考えて答えるんや。私にはそれしか言えん」
「それは……分かってるんですけど。まだ、キングさんがどんな人かが分かっていなくて」
見た目の詐欺具合とは違い、彼は誠実な人間だとミウラは思っている。
しかし、それは一度会っただけの感想だ。
もう少し、いや、もう一度だけでいいので彼の人柄について詳しく知りたい。
そう思うのも無理はない。
「ほんなら、デートでもしたらどうや?」
「デ、デートですか!?」
そこへ、はやてから有効なアドバイスが入る。
実践経験はなくとも、女性として人の恋話を聞いてきた経験はあるのだ。
実践経験はない、繰り返すが。
「一緒に遊んで気が合うかどうかでも調べたらええわ。このリア充が!」
「はやてさん……泣いてるんですか?」
「ザフィーラ! ミウラを家まで送ったってーや!」
自分の人生が急に悲しくなり涙を流しながら、必死に逃げていくはやて。
非リア充にはリア充の幸せは眩しすぎるのである。
そう、虫眼鏡で太陽を見る程には眩しいのだ。
「でも、デートですか……うぅ、今から緊張してきました」
そしてリア充にとっては、非リア充の苦しみなど考えている暇はないのだ。
待ち合わせ場所であるファーストフード店の前で深呼吸をする。
ミウラにとって、ここから先は戦場のようなものだ。
何が待ち受けているか分からず、命が危険にさらされているような緊張感。
インターミドルの初戦以上に緊張しているのではないかと思わせる。
しかし、このまま突っ立っているわけにもいかないので、店の中に入っていく。
「あ、ミウラさん! こっちです」
「こ、こんにちは」
まるで尻尾を振る子犬のように、手を振ってくるキング。
以前会った時よりも丁寧に、めかし込んでいる姿にミウラは自信を失う。
(ボ、ボクより女の子っぽい……)
キングは小物やアクセサリーに至るまで、高い女子力を感じさせる姿なのだ。
いつも通りに、動きやすい服装で来た自分では釣り合わないと無意識に感じてしまう。
もっとも、おかしいのは彼の方だと見落としているように、ミウラも大分毒されているのだが。
「ジュースでも頼みます? 少しここでお話ししましょう」
「は、はい。それじゃあ、メロンソーダで」
ジュースを頼み、席に座るミウラ。
ニコニコと笑いながら、それを見つめるキング。
「すごく嬉しそうですね。何かいいことでもあったんですか?」
その顔にミウラは、思わずどうしてそんなに嬉しそうなのかと尋ねてしまう。
「え? 今まさに大好きな人と一緒に居られるからですよ」
「ほえっ!?」
そして見事にストレートのカウンターを食らい、思わず変な声をこぼしてしまう。
何度も言うがミウラはこういったことに耐性がない。
ちょっとしたことでもドギマギしてしまう。例え相手が、見た目
「ミウラさんに誘ってもらったとき、すっごく嬉しかったんですよ!
今日のために服も新しいものを見繕ってきましたし。
髪も美容室に行って整えてもらってきました!」
「確かに、すごく似合ってますよ」
ミウラがそう告げると、キングは恋する乙女のように頬を染める。
傍から見ると完全に、ミウラが彼氏でキングが彼女である。
「特に髪なんか輝いていて……ボクは伸ばしたことがないから、よく分からないんですけど」
「ありがとうございます!
髪の毛は本当に
シャンプーにも気を使っていますし」
褒められたことがよほど嬉しいのか、細かく説明までしてくれるキング。
そこから彼女が如何に髪の毛を大切に扱っているかが伝わる。
髪は女の命とよく言ったものだ。
「はえぇ……ボクなんかよりもよっぽど可愛いですね」
「そんなことないですよ!」
完全に女子力で負けたと呟くミウラ。
しかし、キングにはそれが不服らしく、彼女の手をがっしりと掴み力説を始める。
「ショートの髪は可愛い人じゃないと似合いませんし、ちょっとくせ毛な所もキュートです!
それにミウラさんはすっごく可愛い女の子です。ワタシが保証します!」
「は、はい……」
頭が沸騰したのではないかと思うほどに熱い。
情熱的な愛の言葉に、ミウラの思考はグラーフアイゼンに叩かれたように砕けてしまう。
それに気づいたキングが、驚かせてしまったと思い、慌てて手を離して謝る。
「す、すみません。いきなり女の子の手を掴むなんて、デリカシーがないですよね」
告白したときに続き、またしてもやってしまったと反省するキング。
彼は見た目はともかく、精神は普通の男の子なのだ。
その点が話をややこしくしているのだが。
「いえ、そんなことないです。ボクも…その……嬉しかったですので」
「ミウラさん……」
恥ずかしそうに目を逸らしながら呟くミウラに、キングは心を奪われる。
それきり、二人は無言になり甘酸っぱい空気だけが流れていく。
「あー……」
「えっと……」
デートをしていると言っても、お互いに経験の少ない子ども。
居心地が悪いわけではないが、ここからどうすれば分かない。
熱っぽい視線でチラチラと見つめ合うことしかできない。
「そ、そうだ。せっかく遊ぶんですから、別の場所にでも行ってみましょう!」
「は、はい、分かりました。それでどこに行くんですか?」
なんとか、キングの提案で固まった空気を動かす二人。
「そうですね……では、ゲームセンターにでも行ってみましょうか」
そして二人は仲良くゲームセンターへと向かうのだった。
「もう少し右です! そう、そこでボタンを押してください!」
「え、えーと、ボタンを……あぁッ!」
「ちょっと遅れてしまいましたね。ぬいぐるみの横に逸れました」
仲良くユーフォーキャッチャーを行う、キングとミウラ。
周りから見れば、仲の良い女友達にしか見えないだろう。
だが、これはデートである。
「ごめんなさい。ボク、不器用だから……」
「いえいえ、謝ることなんてないですよ。一緒に楽しめればいいんですから」
「でも、あのぬいぐるみを取れませんでしたし」
「ワタシはミウラさんと一緒に遊べるだけで楽しいんです。だから、笑ってください」
「キングさん……」
はやてが泣きかねない程度には、良い雰囲気が出来上がっているのだ。
キングは女装好きという特徴の他に、幼さからくる天然という特徴も持っている。
故に意図せずして口説き文句を口走るのだ。
そのため、ミウラは彼の顔が女にしか見えなくともドキドキしてしまう。
「次は他のゲームでもやってみましょう。何か希望はありますか?」
「それじゃあ……あれをやってみたいです」
何か自分にできそうなものはないかと、辺りを見回した結果。
ミウラはあるものを指差す。
「キックマシーンですか。そうですね、ミウラさんの得意分野ですもんね!」
「あははは……頑張ります」
自分の得意なものを選んだはいいが、期待の籠った目で見られると緊張する。
上手くいくだろうかと少し不安になりながら、ミウラはキックマシーンの下に行く。
「ふう……」
マシーンにお金を入れ、深呼吸を一つする。
動きやすいトレーニング服ではないが、問題はない。
全身の脱力による溜め。そして、一点に込められた力を放出すべく、撃鉄を打ち落とす。
「抜剣――飛燕!」
抜き放たれた刀が空間を一閃する。
見事にサンドバッグの芯を捉えたその蹴りは、凄まじい衝撃音を残し突き刺さる。
「……す、すごいです。やっぱりすごいです!」
「そ、そうですか?」
「はい! 何度も映像で見てきましたけど、間近で見るとこんなにすごいんですね!!」
興奮を隠し切れず、目を輝かせながら喜ぶキング。
その姿に自分も嬉しくなり、ミウラは照れた笑顔を見せる。
「そうだ、キングさんもやってみますか……って、あれ?」
どうせなら、一緒にやろうと思いマシーンを振り返るミウラ。
しかし、何故かマシーンは反対側に倒れたまま煙を上げている。
その姿はさながら年末の
「……もしかして、壊しちゃった?」
「あ、あわ、あわわ……どうしましょう」
「と、取り敢えず、店員さんに報告しましょうか。ワタシも一緒に謝りますから」
そう言って、先頭に立ちミウラを庇うように店員の下に歩いていくキング。
だが、素直な彼女は叱られるのは、自分だけで十分だと彼を止める。
「待ってください。やっぱりボクだけで…!」
「大丈夫ですよ。ただ……好きな女の子前でカッコをつけたいだけですから」
照れながらであるが、男前なセリフを言うキングにミウラは反論することができない。
顔を赤くしながらどうしたものかと考えるが、電車内での突然の腹痛の如く逃げ道はなかった。
「わ、わかりました……」
「はい、それでは行きましょうか」
諦めて、正直に自首しに行く二人。
結局、素直に報告したのと、間違った使い方をしてなかったのもあり、注意だけで終われた。
そのことに胸を撫で下ろすミウラだったが、心にはやはり迷惑をかけたという罪悪感は残る。
「あうぅ……すみません、ボクのせいで」
「謝らないで、ワタシとしてはすっごいものが見られて楽しかったですし」
「……キングさんは優しいですね」
「そうですか?」
ミウラは、照れくさそうに頬を掻くキングを見つめる。
まだ少しの時間しか触れ合えていないが、彼の人柄は大体わかってきた。
彼は優しくて、
「あの……行きたいところがあるんですけど、ついてきてくれますか?」
「はい、喜んで」
そんな彼だから、ミウラは真剣に自分のことを話そうと決めたのだった。
潮風が吹き抜ける砂浜。
八神道場が練習に使うことも多い場所だ。
そこにキングとミウラは来ていた。
「いつも、ここで練習しているんですよ」
「ミウラさんは、ストライクアーツがお上手ですもんね」
「そんなことないですよ。だから、毎日練習して少しでも強くなりたくて……」
師匠のザフィーラとヴィータが立ててくれた、サンドバッグを軽く叩きながらミウラは語る。
何に対しても自信を持てなかった頃の自分のことを。
「ボク、ストライクアーツを始めるまで、何をやってもダメな人だったんです」
「…………」
思い出すのは、何をやっても失敗を繰り返していたあの頃。
不器用で、自信なんて欠片もなく、褒められたことなんか無かった過去。
「何もないところでこけたり、荷物を落として壊したり。
他にも上手くしゃべれなくて、仲良くなりたいのに話しかけられなかったり。
本当に恥ずかしいことばかりで、ますます自分の殻の中に閉じこもってました。
でも……ストライクアーツと会えて変われたんです」
不器用な彼女には隠された才能があった。
大の大人すら圧倒してしまうほどのパワー、
「やっと、こんな自分でも胸を張れることがあるんだってわかって……嬉しかったな。
だから、どんなに大変な練習も頑張れた。嫌いな自分を変えられるんだって。
そうして、毎日を過ごしていったら……初めて自分を好きになれたんです」
今のミウラを作り上げたのは、ストライクアーツとこの場所。
そして、頼れる師匠達と優しい仲間達。
だからこそ、ミウラはこの場所で尋ねたかった。
「キングさんは、どうしてボクのことを……す、好きになってくれたんですか?」
―――彼が自分のことを好きになってくれた理由を。
「……初めてミウラさんを見たのはインターミドルの大会でした」
「はい」
「その時に、どんなに不利でも諦めずに戦うミウラさんを見て……カッコイイって思いました。
あ、女の子にカッコイイってのはダメですよね!」
「いえ、そう言われると凄く嬉しいです」
慌てて訂正しようとするキングに、ミウラは嬉しそうに微笑む。
自分の戦いが誰かに認めてもらえる。誰かに感動を与えられる。
それは彼女にとって心の底から喜べることであった。
「それで、そこからどんな人なんだろうって、夢中になって他の試合も調べて。
でも、それだけじゃ満足できなくて、どんな人なんだろうって夜も眠れないぐらい考えて。
気づいたら……ミウラさんのことが好きになっていたんです」
少年は、まるで恋する乙女のように想いを告げる。
それをミウラは真剣に聞き入る。今では恥ずかしさよりも、嬉しさの方が上回っていた。
「……それが、ボクのことを好きになってくれた理由なんですね」
「はい。―――でも、今は他にも理由ができました」
まるで、試合に挑む選手のような真剣な瞳がミウラを射抜く。
初めは憧れだった。だが、今はそれだけではない。
一緒に過ごして分かったことがある。
「一緒に過ごしたミウラさんは、すっごく可愛くて。
不器用で、ちょっと失敗することもあるけど……そういう所も含めて魅力的でした」
「あ、ありがとうございます」
まさか、不器用な所も魅力的だと言われると思っておらずに、頬を染めるミウラ。
そして、キングは改めて言葉にする。彼女への溢れんばかりの想いを。
「好きです。あなたのことが大好きです。……それしか言えません」
もっと、綺麗で上手な言葉で言いたかった。
でも、まだ幼い彼にはこれが限界であった。
しかし、シンプルゆえに彼の言葉は彼女の心にクリーンヒットする。
「ワタシと付き合ってください!」
「キングさん……」
間違いなく人生最高のドキドキが、ミウラの胸に到来する。
女装をしている相手であっても関係ない。
彼女の心はyesの方に大きく傾いている。
だが、あと少しのところで、ある疑問が邪魔をしていた。
「あの……ボクと女装だったらどっちの方が好きですか?」
「え…ッ!?」
色恋ごとに疎いとはいえ、ミウラも立派な女の子なのだ。
他の何よりも自分を大切にして欲しいという独占欲がある。
それゆえに、少しだけ意地悪な質問をしてしまう。
「それは…その……う…っ」
しかし彼女意図とは違い、質問に絶望的な表情を浮かべて悩むキング。
その姿はさながら世界とヒロイン、どちらか1つを選べと迫られた主人公。
キング・アームストロングは人生最大の選択の時を迎えていた。
女装とミウラどちらを取るかで。
「あ、その、今のは冗談みたいなものなんで……」
「いえ、良くわかりました。確かに今のままだと誠実じゃない」
「え、いや。そこまで悩まなくても」
あまりの悩み様に凄まじい罪悪感を覚えながら、ミウラは止めようとする。
しかし、その手をキングは止める。
「大丈夫です。見ていてください、ワタシの覚悟を…!」
「え、え? あの、そのハサミは一体…?」
ポーチからハサミを取り出すキングに、ミウラは訳が分からずに戸惑う。
だから、止めることができなかった。
「これが! ワタシの! ミウラさんへの想いです!!」
「――あ」
バッサリと長い金色の髪が断ち切られる。
驚き口を開けるミウラをよそに、キングは切り進めていく。
重力に従い落ちていく美しく長い髪。
「な、なにしてるんですか!? 髪の毛は凄く大切にしているって…!」
「髪の毛よりミウラさんの方が
キングは髪を切っても女の子っぽい顔立ちだ。
だが、それでも。ミウラには白馬の王子様のように格好良く見えた。
「ワタシは本気です! ミウラさんがやめて欲しいって言うのなら女装もやめます!
頑張ってミウラさんの隣に居られるような、カッコイイ男の子になります!!
………で、でも、爪のお手入れぐらいはさせて欲しいです」
最後の最後で、若干ひよって女装の欲望に負けたが、男はみせた。
自分の本当に大切なものを捨ててなお、彼女を選んでみせた。
「キングさん……ありがとうございます」
その覚悟にミウラも完全に負けを認めた。
これだけ想われているのだ。無下に断る理由などない。
「恋愛とかまだよくわかりませんけど……ボクもキングさんが好きです」
告白の答えはyesだ。
ハニかんだ笑みを浮かべ、ミウラは手を差し出す。
これからパートナーとなる、少し変わった少年に。
「ほ、ホント…ですか…?」
信じられないのか、キングはミウラの顔と手を交互に見つめる。
「こんなことで嘘をついたりはしませんよ。あと、女装も別に禁止とか言いませんから」
「ホントですか!?」
餌を垂らされた
やはり彼にとって、女装のウェイトは軽いものではないらしい。
「あ…コホン。でも、ミウラさんに相応しい人にならないといけないから……うーん」
「と、とにかく、そういったこともこれから話していきましょう。
ボクもあんまり実感が湧かないですし。それに……時間はたっぷりあります」
「そうですね……」
そう時間はあるのだ。
まだ幼い二人には多くの時間が残されている。
例え、未来に二人の歩む道が別れるのだとしても、それは今ではない。
きっと、ずっと後のことだ。
「では、これからお願いしますね! ミウラさん」
「はい、よろしくお願いします。キングさん」
少年と少女の手が近づいていく。
お互いにおっかなびっくりに、互いの温もりを確かめ合うように。
―――小さな手を握りしめ合う。
「えっと、ワタシ頑張ってミウラさんを幸せにしますね!」
それは気が早い言葉だなと思いながらも、ミウラは笑う。
この自分よりも女らしい男の子は、変に男らしいなと。
八神道場で、ミウラに“彼女な彼氏”ができたという噂が瞬く間に広まるのは、少し後の話だ。
主人公の髪が赤色だったら名前はルークだった。
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