仮面ライダーレーザー外伝 ~天地を駆る王者達~ 作:たんぺい
~サジタリアーク船内~
「ナリア!ナリアァ!」
そこは、地上を見上げる天空よりも遥か上。透き通る様な漆黒の宇宙にて。
その宇宙から地球を見渡せる、そんな位置に…宇宙船サジタリアークと言う、天秤の様な形をした方舟が浮かんでいる。
その船内で、そんな響く渋い声を上げる、青黒い六面体…キューブブロックを固めた様な姿の化け物が苛ついた様にウロウロしている。
彼の名前は『アザルド』。
チームアザルドと言う、無法者『デスガリアン』達を束ねるチームリーダーの一人であり、サジタリアークの食客の様な男でもある。
そして、アザルドが何度も名を叫んでいる『ナリア』と言う者はどんな存在かと言うと。
この宇宙船のオーナー…つまり所有者であり、デスガリアン達が執り行う『ブラッドゲーム』と名付けた破壊や虐殺を主とした最低最悪のゲームを観測する主催者の男の秘書の女性でもある。
緑と黒を基調とした身体の美しく冷徹な女性である彼女は、ブラッドゲームの参加者にコンティニューなどの幾つかのサポートをオーナーから任されているが故に、或いはチームリーダーよりもブラッドゲームについての知識を得たりしている。
その為に、ブラッドゲーム中のトラブルに対しての対応も任されている様なものであった。
しかし…そんなナリアが見当たらない。
アザルドは、常駐している筈のナリアが居ない事と、ブラッドゲームが始まらない事の両方に腹立てていたと言う訳であった。
そんな苛ついたアザルドの前に、威圧感たっぷりに、白亜と金の姿をしたこの宇宙船のオーナーが現れる。
彼の名前は『ジニス』。
デスガリアン達を束ね、宇宙の99の星をも遊び半分の感覚で次々壊滅させた最低の悪党。
そもそも、ブラッドゲーム自体が、ジニスの酒のアテを兼ねた暇潰しの玩具遊びと言う、宇宙史上でも浅くろくでもない理由で始まったものでもある。
その為に、ブラッドゲームの最中に星ごと一族を滅ぼしたせいで、本来手下の様なブラッドゲームの参加者のチームリーダー『クバル』の反乱すら起こす羽目にもなったが…そんな事すら、まるで羽虫を弄び握り潰すかのような感覚で返り討ちにして、恐怖で屈服させるぐらいの実力を誇る悪の天才だ。
そんな彼は、甘く囁く様にアザルドに問いかける。
どうしたんだい、アザルド?と。
そんなジニスの疑問に対して、アザルドはこう答えるのであった。
「オーナーか…実はな、ブラッドゲームに参加するハズのウチの『エキデイン』が、地球で行方を眩ませちまった。ブラッドゲームがいつまで経っても始まらねえんだ!!」
そう言って、更に苛つくアザルドに、ジニスは妖しく問いただす。
エキデイン…どんなゲームをするつもりだったんだい?と。
「おお、アイツはな、どんなガキでもジジイでもまるで一流のマラソンランナーの様に走らせる力が有る。そう、筋力も体力も関係無くな。どこまでもどこまでも、休み無く終わりなきマラソンに強制参加させちまうんだわ。つまり…」
「…つまり、エキデインの力に嵌まった参加者は、疲労困憊で意識不明にでもなってショックで死ぬか、物理的に足でも引きちぎれて死ぬか、どちらかがゴールの死のゲームと言う訳か。中々、面白そうなゲームだな」
ジニスの相槌に、だろう?と得意気に返すアザルドだったが、しかし…直ぐに、無表情なハズの表情を曇らせる。
その肝心要のエキデインの姿が居なくてゲームが始まらない事にゃどうしようもねー、と告げて。
しかし、対するジニスはと言うと…得心がいったとばかりにカンラカンラ笑いながら、アザルドにこう返したのであった。
「ナリアがさっき『失礼します』なんて慌てて私に告げて地球に向かったのは、プレイヤーが行方知れずになって探しに行ったせいなのか。クバルの事も有って神経質にでもなってるんだろうなぁ…あれはあれで面白かったけど、ナリアは真面目だからね。まあ、そう言う訳だから、アザルド…君が慌てる必要は無いよ」
そう言って、フフフと笑うジニスに対し、アザルドはなんだよと、安心するのであった…
~同時刻、某所、路地裏~
「心が、踊るなぁ…!!」
パーマネントをかけたような髪型の、漆黒の服を着た優男風の青年が、芝居がかった口調で歓びの声を上げる。
彼の名前は、『パラド』。
そのパラドと言う男が、歓びを分かち合おうと近くにいたスーツのピッチリした髪型の青年に対して声をかけている最中だった、と言う訳だ。
「君はいつもそればかりだな…」
そう言って、パラドの口癖に対して軽口を叩きながら呆れる青年…『檀黎斗』と言う、幻夢コーポレーションと言うゲーム会社の社長は、更にこう続ける。
しかし…良い披検体を良く見付けてくれたね、パラド、と。
その黎斗の視線の先には…件の行方不明と化したエキデインと言うブラッドゲームのプレイヤーだった異聖人が、ぐるぐる巻きにワイヤーで縛られ、そして、その身体は消えかけている。
離せだのなんだのと呻くエキデインを、革靴で黎斗は踏みつけて黙らせながら、彼はこう締めた。
「…エイリアンのゲーム病、面白そうなデータだ。これは究極のゲームを完成させるには、充分なデータの一端になるかも知れない」
そう言って、黎斗とパラドはエキデインにはまるで目もくれず、己のノートパソコンの画面へと視線を同時に向ける。
『KAMEN RIDER CHRONICLE』
そう、鈍く銀色に耀く文字の『究極のゲーム』。
その誰にも…パラドはおろか、黎斗ですらまるで完成した暁の姿の予想がつかないだろうゲームの未来予想図に、パラドの口癖の如く、二人は心を踊らせるのであった…