ザッパーン!
ラフォート研究所に続く橋の脇――
俺とミラは激流に流されるままに、ここにたどり着いた。泳げないミラを背中に負って岸に上がると、すぐにジュードが流されてきたので手を貸す。
「ほら、掴まれ」
「あ、ありがとう。そっちは大丈夫?」
「おう、まあな」
「ゲホッ、シンがいてくれたからな、問題ない。しかし、ウンディーネがいてくれれば苦しい思いをせずに済んだのだが……」
「やっぱり、四大精霊の力がなくなったんだ……」
先程の状況とミラの様子を見て、ジュードは何が起きたのか察したようだ。それを心配してか、俺たちにこれからどうするのかと尋ねた。
「そうだな、まずはこの街から出るのが最善だろう」
「シン、お前の剣でどうにかならないか?」
ミラの言葉に一瞬思案してみるが、すぐに首を振る。
「単純に破壊するだけなら問題ない。だが、今回は、四大が囚われているからな……。ただ破壊するだけではだめだろう」
「そうなると四大の力をどうにかして取り戻すしかない、か……。二・アケリアに戻ればあるいは……」
ミラは二・アケリアに戻ることを決めると、ジュードに礼を言って先に行ってしまった。
「あ……」
「じゃあなジュード、ホント助かったぜ」
ジュードに別れを告げてミラを追うと、ちょうど警備兵の一人と闘おうとしているところだった。
……イヤイヤミラ様?ちょっと待とうぜ?何いきなりバトろうとしてんの?面倒なことせずにさっさと行きゃあいいのに……。
「貴様、侵入者だな!」
「違う、と言ったら通してもらえるだろうか?」
……イヤな?ミラ様、それ完全に『はい、そうです』って言っているようなもんなんですけど?まあ、実際侵入者だからしょうがないけどな!
「ミラ!」
「不用意だなジュード、無関係を装えばよいものを」
「貴様も仲間か!」
警備兵が後から追いかけてきたジュードに気付いた隙を狙い切り付けるが、自分の力のみで振るった彼女の剣は大きく空振りしてしまった。
「ちょ!ミラって、剣使ったことないの!?」
「ったく……!少しくらいは慣れといたほうがいい、って言ったんだがな!」
ミラは今まで自分の力で剣を振るっていたのではなく、四代精霊の助力を頼りに振るっていたのだ。それを知っていた俺はある時、指摘したのだがーーーー
「ならば、その状況に陥らなければいい話だろう?」
と、取り合われなかった。その後も何度か忠告したのだが、結局ミラの考えが変わることはなかった。
「あいつらの力がないとこうも違うとは……。これならシンの言う通りにするべきだったか」
「覚悟しろ!」
警備兵がミラを捕縛するべく動き始めたところで、俺は瞬時に抜刀し、武身技を発動させる。
「シッ!」
「ぐおぉ!?」
俺の放った武身技は警備兵の胴を捉え、警備兵は倒れこんだ。
「こ、殺しちゃった……の?」
ジュードが恐る恐る聞いてきたので答える。
「まさか。俺は無駄な殺しはしない主義なんでね」
ジュードは倒れた警備兵を見ると確かに血は出ていなかった。代わりに攻撃を受けた鎧は、一部がベッコリとへこんでいた。俺が使った武身技は、『不殺ノ太刀』。刀を斬ることではなく、打つことに専念させて攻撃する技だ。基本的に俺は人に対してはこの技を使っている。理由は前述の通りである。
「すまないシン。助かったよ」
「やれやれ。しばらく苦労しそうだ」
刀を収めるとジュードが話しかけてきた。
「イル・ファンから離れるなら急いだ方がいいと思うよ」
「そうしよう。ではな」
「街の入り口は、警備兵がチェックしていることが多いんだ。海停の方が安全だと思うよ」
「む、そうか」
ジュードに言われた通りに海停に向かおうと周囲を見渡した後に俺とミラは、そろって首を傾げた。
「……海停、知らないんだね」
ジュードが呆れたようにこちらの考えを察した。ゲームとは違いリアルだとマップ間の空白にも道が存在しており、俺の覚えているマップはほとんど役に立たないのだ。
俺とミラは、ジュードの案内で海停に向かうことになった。
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海停に到着すると、ちょうど一隻、船があった。今は積荷を積んでいるところで、近いうちに出航するようだ。しかし、広場まで歩いたところで俺達は呼び止められた。
「そこの三人、待て!」
「え……何!?」
複数人の警備に囲まれたことで、周りに野次馬が集まってきた。すると、囲んだ警備員の一人がジュードを見て、呆然としたように呟いた。どうやらジュードの知り合いらしい。
「先生?タリム医院のジュード先生?」
「あなた……エデさん?何がどうなっているんですか?」
「先生が要逮捕者だなんて……」
エデと呼ばれた男は、軽く目を閉じると決意を固めたように口を開いた。
「……ジュード・マティス。逮捕状が出ている。そっちの二人もだ」
エデの言葉を聞いてジュードは、愕然とした表情になった。
「軍特法により応戦許可も出ている。抵抗しないでほしい」
「ま、待ってください!た、確かに、迷惑かけるようなことはしたけど、それだけで重罪だなんて……!」
ジュードは、必死に弁明を試みるが、相手は応戦の構えをとるだけだった。
「問答無用ということのようだ」
「エデさんっ!」
「悪いが。それが俺の仕事だ」
「仕事……か。なら、しょうがないな。やらなきゃ自分が被害被るわけだからな」
「そういうことだ。だから――」
「なら、俺も自分の仕事をするとしよう。やらなきゃ最悪あいつらに殺されかねないからな」
そう言ってミラにアイコンタクトを図ると、ミラはすぐに頷き返した。
「……ジュード、私たちは捕まるわけにはいかない。すまないが抵抗するぞ」
言い終わると同時に抜刀した。
「……抵抗意思を確認。応戦しろ!」
エデの言葉と同時に俺たちに向けて、火の精霊術が放たれる。俺は、一歩前に出ると放たれた精霊術を刀の一振りで打ち消した。
「なに!?」
目の前で起きたことが信じられず、思わず放った当人は硬直した。周りで一連の騒動を見ていた野次馬たちもまた驚いていたが、すぐに危険を察知し、その場から一目散に逃げていった。その直後、船が汽笛を鳴らして出航し始めていた。
「さらばだジュード。本当に迷惑をかけた」
「ジュード!捕まりたくないなら、早く船に!」
ジュードに声をかけると、俺たちは船へと駆ける。船に飛び乗り振り返ると、一人の男がジュードを担いで駆けてくるのが見えた。次の瞬間、彼は見事な大ジャンプを決め、船に飛び乗った。豪快な着地を決めた男は軽い調子で言った。
「まったく参ったよ。なんか重罪人を軍が追ってるようでさ」
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俺たちが、船に乗り込んで数時間がたった。急に乗り込んだ俺たちを待っていたのは船長の尋問だった。それはそうだ。港の騒ぎの中船に飛び乗ってきた奴らなんて怪しい以外のなにものでもない。船長の尋問をのらりくらりと受け流し丸め込むのに思った以上の時間がかかった。
「見ろよ。イル・ファンの霊勢がおわるぞ」
ジュードを抱え、船に乗り込んだ男ーアルヴィンが言い終わると、星が輝いていた夜空から澄み渡る青空に変わった。彼の言う通り夜域をぬけたのだろう。
「にしても、医学生だったとはね。ちょっと驚いたよ」
「ねえ、聞いていい?どうして助けてくれたの?あの状況じゃ、普通助けないよ」
「金になるから」
ジュードの質問にアルヴィンはさも当然のように答えた。
「私たちを助けることが、なぜそうなるのだ?」
「簡単な話だよ、俺たちみたいに軍から追われるようなヤツは、何かしらの機密を握っている可能性がある。そこをうまく助ければ金をせびれる、そういうことだろ?」
ミラの疑問を代わりに答えると、アルヴィンは「ご明察」と肯定した。
「でも、僕、お金ほとんどもってないよ」
「生憎、私もだ」
「俺も持ち合わせはないな」
「まじか……。それじゃ、値打もんがあれば、それでも受け付けるぞ?」
こっちに金がないとわかると、アルヴィンは妥協案を提示してきた。
「ないよ。あんな状況だったんだ」
「高く取引されそうなものなどないだろうな」
「あるとすれば刀くらいだが、これは手放せないしな……。後払いでもいいなら俺の住んでいるところまでいけば何とかなるかもしれないが」
俺がそう言うと、ミラは意外な表情をしていた。
「意外だな、シン。お前はてっきりお金を持ってないものかと」
「心外だな。俺が普段何をしているのか知っているだろう?」
それを聞いてミラは思い出したようだった。
「そうか、武器か!」
「その通り。俺が今まで作った武器を売ればそれなりの金になるだろう。それにさっきもう一つ思いついた」
俺はアルヴィンに思いついたことを話す。
「俺達の目的地までの間によるだろう村とかで依頼を受けて、その成功報酬をお前にやる。だから、俺と一緒にミラに剣の使い方を教えてやってくれないか?報酬は弾むぜ?」
俺の提案にアルヴィンはいい表情をする。
「その名案、乗ったぜ!確かに、依頼で魔物退治とかがあれば嬢ちゃんの剣の使い方を覚えられて、実践を行えるな……。一石二鳥ってやつだな。それでいいぜ」
「交渉成立だな。よろしく頼む」
俺達は交渉成立の握手をする。
その後、ジュードがアルヴィンが何者なのかを聞いて傭兵について説明したりした。『金はいただくが、人助けをする素晴らしい仕事』とは本人の談。……それって金さえもらえれば「なんでも」する、言ってるようなもんだが少なくともきっちりと報酬を用意しておけば良好な関係を築けるだろう。そんなことを考えていると船は無事にア・ジュールのイラート海停に到着した。
いかがだったでしょうか。相変わらず亀更新の駄文ですが楽しんでいただけたなら幸いです。では、次の話でお会いしましょう。
See you next time