ラスト・ザク 暗礁空域の暴霊 ~機動戦士ガンダム サイドストーリー~ 作:legna1113
手早く準備を済ませ、シャトルの搭乗口に向かうと、既に中佐が待っていた。
「早かったな。」
どうやら、事前に用意を済ませていたらしい。早速とばかりに中佐は言った。
「手続きは全て済ませてある。詳しいことは中で話そう。乗ってくれ。」
促されるまま、シャトルへと乗った。
シャトルは、普段俺が社用で乗るものとは、内装からして違っていた。
「軍の高官を接待するのと、同じ仕様でな、無駄に豪華なんだよ。」
物珍しそうに見ていたのがわかったのか、中佐がシャトルについて説明してくれた。
「華美なのも過ぎるのはあまり好かないが、悪いことばかりでもない。」
中佐はそういうと、手元のスイッチを押した。
すると、座席の後ろから壁が立ち上がり、簡易的な密室になった。
「例えば、機密性の高い話題を話すこの設備もそうだ。」
なるほどと言った顔で、壁を見渡していると、中佐は意を決したような真剣な眼差しで俺を見据えながら、話し始めた。
「これは、命令ではない。君の意志を聞きたい。」
前置きをすると、中佐は話を続けた。
「これから向かう試験場で、実はある事件がおきる。試作機の強奪に見せかけた、残党軍への譲渡だ。」
いまいち話が飲み込めないが、今聞いた話はかなりやばい内容なのはわかる。
聞いてよかったのか、この話。
「しかし、あれは実験機だからな。初見で扱うのは難しい。整備も勝手が違うしな。」
状況が飲み込めずにいる俺をよそに、中佐は話を続けた。
「そこで、君に彼らの同行を頼みたい。整備はもちろん、何度か調整で乗った記録を見たが、君はパイロットの適正もある。」
ここまで言われて、ようやく状況を飲み込めた。
つまり、俺に残党軍の手伝いをしてこいという話だ。
まさかこんなアグレッシブな出向を命じられるとは。いや、命令じゃないらしいが。
「あのザクは、私の今までの研究成果なのだ。特別なんだよ。君もそうだろう?」
「初めは私が行くつもりだった。だがそれでは目立ちすぎる。奴らも奪還に部隊を編成するかもしれん。そこで、君だ。モビルスーツ一機と研究者が一名浚われただけなら、対応もあまいだろう。」
「たった一機のモビルスーツに、歴史を変える力はない。それは私もわかっている。ただ、この機体の戦場で戦う勇姿が見たい、そう、これは私の我が儘だ。」
よく考えてみれば…いや、よく考えなくてもこれはかなり滅茶苦茶な話だ。
のはずなんだが、なんだろう。迷いのない人間の言葉とは、こんなに強いものなんだろうか?
俺は考えるよりも、先に心を刺激され、それを抑える事ができなかった。
「わかりました。俺も一研究者として、この機体を戦場に送り出したいと思っていました。やってみます。」
こうして、俺の特別任務は始まった。